表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五万回転じて生きた猫  作者: 黒丞紅星
2/2

うごめく和室と多忙な猫


「にゃるほど」


 一息溶かした息が余りなく満ちていく。

 

「綺麗にゃ」


 六畳の和室だ。

 ササクレが寄せては返す。波。

 ぼくは音を消して、まだどこか温かい、ふすまを引いた手応えを舐めながら、しみじみ麦の辛さに痺れていった。

 

「にゃ?」


 桜、否、掛け軸が、住み慣れた様子で、あった。悲しく、けれど、色っぽく、あくまでも気品なのか、とんでもなく彼方に控えているはずなのに、幹。幹から、女性の、香りがした。ぼくは、時の渦に落ちてしまった気がした。


「まちわびた!っ…じゃにゃいにゃい」


 あぶにゃい、盗まれちまう、と窒息するくらいの不安がしたけれど、ぼくは、舌を上顎に刺し、心眼、二つの眼に、米色の茶の器を、波立たせる。それはショック療法みたいに。

 どんっ。

 床で仮面が剥がれた。

 鳥肌が猫なのにぞわわっと、


「にゃ、に?」


 わさびとともに、羽ばたいた。


「いただきまーす!!!がぶ」


 ぼくは言った。

 喜び勇んで行った。

 ないまぜになったぼく。一個の情動、誕生。ほぼぼくとはいえないそれ、ひたすらな、注釈すれば歓喜に凶器を持たせてはいけない。いけなかった。


「切る、斬る、伐る…」


 畳にはナイフが刺さっていた。ぼくが壊した器の残骸だった。ぼくは刀身を咥える。ぶおん、と羽音が空を切る。そして、掛け軸が地に落ちる。


「KILL!!!くはははっ!!!」


 女の子が、笑った。

 しかし、どうにも遠くの声だ。距離があった。

 硬度でいうとカッターくらい、メンヘラ感な声は、でも。


「百目鬼斬美」


「キル?」


「ぼくから、消え、て」


「くはっ」


 ぼくから響いていた。和室。六畳。まったく遠近感も明らかで、ぼくのオクターブはこんなにいつも高くない。

 すると、つまり。

 不思議にも、ああ、不覚にも。


「うふふ久しぶり、元気かい?」


 いろはにぼくから言葉は散って。


「化け物みてえに、シャバはうめえ!」


「あぶー」


 ほへと、ぼくは口を開く。


「待ちわびていたぞ、この運命を!」


「兄ちゃんドライアイスってアイスじゃないの!?」


「弟ありゃあ擬態動物だよ」


 誰が何なのか。


「くはははははははははははははは!」

 

 こういえば端的だ。


「にゃああああ!」


 ぼくは多重人格猫。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ