荒れた世界
荒れに荒れて、果てた終末にも肉は香り華やぐ。
下水の代わりにネズミが流れていた。
先頭の一匹が、ふと、方向転換し、残り二匹は水道の屋根を嗅ぐ。
二匹のネズミは親と子だった。
大きく空いた穴から歯車が煙を動かすのが見える。
都心の高級レストランの底でカロリーな生活をしていた親子はここらの領主だと自称するどぶねずみに言われるがまま、ここまで来た。
たくましいどぶねずみだった。
息子の方は一切目線を合わせようとはしなかったが、母の方は毛並み正しい町のネズミたちよりも、よっぽどおいしそうなどぶねずみにまんざらでもない様子だった。
彼は一体どこに?探す母。だが、どうしてだろう。歯車に見惚れていたい衝動。息子も同じようだった。
がきん。
歯車が止まった。
どぶねずみはとぼとぼ歩きつつ、悔いる。
交尾を目論んでいた。
轟音が聞こえる。
やせほそっていて雑食のメスは食べ飽きていた。久々に惚れていた。
どぶねずみは空を仰いだ。
そして、再び前を向いて後悔する。
段々と速度からは逸れていく。
侵入のタイミングを誤った。
「ちゅう」
ごめんよ。
どぶねずみの真後ろで、ビルが藻屑になった。