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頼姫の「ざまぁ」道  作者: 相川イナホ
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悪意ある噂は千里を走る

 月出の国は、陽立国を傘下に収めた後、それまでの不戦の姿勢を翻し、その周囲の小国群を呑み込んでいった。

 噂では年若い側室、つまり私を娶ってから権欲に溺れた事となっているらしい。


 尾崎殿が私のところに通ったのはほんの数回。それもすべて公家社会との繋ぎをとるためのあれやこれやの打ち合わせの為だけであり、入道殿にとっては孫に近しい年齢の私に食指は動かぬとみえ、綺麗な関係のままである。


「世間様は好きなように言うてくれるが、しかしこのままは不味いのぅ」


 祖国、陽立では私が人身御供を買ってまで戦禍から守ったというのに、いつの間にか悪いのは私になっていた。


 私と元婿殿と妹との三角関係から始まった事なのである意味は正解なのだが、わたし自身は被害者だと思っていた。

 だが世間はそうは見ないようだ。


「子でも産まぬ限り、この国での立場は悪くなりそうだの」


「お子を成したら成したで別の心配がありますでしょう」


現在、私の話相手になってくれているのは本国から付き従ってくれた乳母や数人の侍女、それに城の留守居をまかされ、最終的に月出に下る判断を受け入れた責任をとらされて、というか国にいられなくなって私の婚礼にそのまま家臣として付き従ってきた狭山俊景と恩川壬生之丞である。


狭山はともかく恩川は完全なる妬みからの処遇である。

戦時は武功をたてることが出来ない留守居をまかされ、月出の元に下ってからは戦で亡くなった各家の長やその跡取りのいる家から、出陣せずに家中に戦死者が出なかった事を妬まれる。


彼もまた難儀な立場の星の元にいる青年のようである。


「おまんの方とは良好な関係を築けているとおもうが」


 尾崎入道殿の正室のおまんの方は「ぽややん」とした気のよい方であり、私の公家風のあれこれに娘のように目を輝かし興味をもって接してくれている。


「しかし、お袖の方は腹になにかあるようにお見受けいたしましたが」


「うむ。あのような態度ではな。良く思われていない事は誰の目にも明らかであるな」


お袖の方は月出の現当主であられる忠直殿の正室である。

まぁ気が強いのが顔に出ておられる方で、ここ月出の国での女社会での頂点にいる方ともいえる。


そのお袖の方に、私は小さな嫌がらせを受け続けている。

公家風をあげつらわれ、月出の国の家風に添わないといった事を事あるごとに引きあいに出される。


このお袖の方がいるからこそ、私は忠直殿を避け、入道殿の側室という道を選んだのではあるが。


 「忠直殿は実直な人柄ゆえ、嫌いではないのだが。その奥方がなぁ」


それゆえに、元陽立の国での家臣筋の狭山と恩川が私付きにそのままスライド採用されたのだ。

入道殿は私の身に何かあっては困ると考えてはくれたらしい。


 「お袖殿は忠直殿の側室達になかなか苛烈な仕打ちをしたと聞いておる」


自分と同じ小物を持っていた事が気に食わずその実家に圧力をかけただとか、忠直殿の目にとまった侍女を裸にして水をかけたりだとか、まぁやりたい放題である。


「これがなかなか、月出の国の中では重要な家の出身にて入道殿も扱いに困っておったわ。強欲で商家のものに賄賂を要求しているようだとも聞くな」


「嫁選びは誠に失敗であった」


 入道殿がうっかり私なぞにこぼしてしまうほどの出来らしい。


「嫁御について忠直殿がどう思われているかは伝わってはこぬが、やりたい放題を放ってあるあたり察しがつくわいの」


 忠直殿は実直そうではあった。

 おそらく嫁の所業については匙を投げているのであろう。


 そのお袖の方がどうやら私にライバル心を抱いているようだ。


「入道殿には壮健で居続けてもらわぬと、早々とこちらでも詰むであろうなぁ」


「詰む?」


 打つ手がなくなって追い詰められる的な意味じゃ。」


「頼姫様は面白い言い回しをなさいますなぁ」


 聞いているのか聞いていないのかわからない狭山俊景68歳は私と壬生之丞との会話をニコニコとして聞いている。


「恩川殿と頼姫様は本当に気が御合いになりますな。本当にお似合いの夫婦であらせられる」


「狭山殿・・・」

「俊景・・・」


私と壬生之丞は同時に脱力して声を出した。


「何回ただせばそのおつむに正しく理解してもらえるのか」


「陽立にいる頃から言動が怪しうございましたが、このところひどうございますな」


その時の私は、狭山の言った事が月出の国では噂になっているとは知らなかった。


そう忠直の正室、お袖の方にねつ造されて悪意ある噂を、知らぬうちにバラまかれていたのである。

 







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