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頼姫の「ざまぁ」道  作者: 相川イナホ
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次の手までは考えていませんでした。つまりは行き当たりばったりのツケが来る

とりあえずの危機は去った。

だがしかし、次の事を考えてなかったよ。

私の頭はポンコツなので仕方がない。

あとは頼んだ!頭のいい人!!


陽立の国はなくなり、月出の国の外様家臣となり、婿様には旭をおしつけてやった。

敵国に嫁ぐ旭よ。多分周囲の人間すべてが敵でやすまれる事などない事と思う。

だが、それがお前さんの選んだ道。

家よりも恋を選んだのだから。


それとも、したたかに四面楚歌位何よ!恋のスパイスよ!とばかりに張り切るかもしれない。そうであって欲しいな。


私のことを非道と非難してくれても構わない。

だが、私も30近くも年上の領主に嫁ぐのだ。

まだ恋した相手に嫁げるだけ幸せではないか?妹よ。

フィフティフィフティとは言えなくもないだろう。

どちらがより幸せなのかはそれぞれの判断により意見が別れるとは思うが。


月出の国へ嫁いだ私の待遇は悪くはなかったよ。

滅びたとはいえ隣国の元領主の娘だ。

身分でいえば尾崎入道殿の正室のおまんの方よりずっと高いのだから。


入道殿には母の実家を通して公家社会にツテも用意してやったさ。

今さらながら我が親父殿はどうしてこのラインを重視して活用していなかったのか不思議でならない。

高額な付届けを要求されるからだろうとは想像はつくのだが。


何故公家ゆかりの妻を娶ろうと思ったのか。

乳母がいうには親父殿の一目ぼれだったらしいのだが、眉唾ものである。

公家の姫などそうそう簡単にお目にかかれるものではないからね。


さて、入道殿はそのツテと付届けで、都からこの地方の正式な統治官であるとのお墨付きをもらったようで、ちょっかいを出してくる遠縁どもを黙らせたようである。

月出の国は一度正統派血族が死に絶えてしまったため、親戚筋からその後釜を据えたという曰くがあるらしく、未だに難癖をつけられていたらしい。

まぁその家々に入ればその家ならではの問題とかあるわな。


放蕩ものの長男がいるとか、ギャンブル狂の父親がいるとかな。


…前世の私の家の事だけどな!


借金とりや怪しげなその筋の人から逃れるために、知り合いや友人を頼ってプチ家出を繰り返し、野宿すらしたさ。公園のくっさいトイレで寝るのもなかなか危険だった。

以外と不審者っているもんなんだぜ。

でも屋根とか壁があるだけでもありがたかったさ。水、飲み放題だし!

そういう意味だって、元の世界でもなかなか生きにくい世の中だった。


命を取られる訳でもないし。

ただの側室さんだよ。よゆーよゆー。



相手が社会的に成功した(引退して家督を譲っていたから)落ち着いたオッサンというのもポイント高かった。

今度こそ、静かで平和な生活を送れるものだと喜んですらいた。

…私がポンコツなのは自分で分かっている事だけど、自分の考えなしのポンコツぶりに頭が痛くなったよ。


入道殿は身内のゴタゴタが収まったと思ったら、速攻月出の国の両隣のうち元陽立の国側とは反対の国に攻め入ったのである。

どこが戦嫌いの平和主義者だ?


単に身内の中のゴタゴタを収めるためにそう装っていただけのようだ。


まったく!


この時代の男どもは!!


口を開けばすぐに天下統一だの諸国制定だの言いよる!


戦闘民族かっ!!


そのうち国を通り越して世界とか宇宙まで征服とか言いだすんだぜ。

まったくもって迷惑な。



「と言う訳で先鋒を任されたので逝ってくる。」


叔父が私に出陣の挨拶をしに来たのを遠い目をして受け答えをする。


「臣下に下った者への当然の采配でしょうが、頼への遠慮などまるでのうございますね」


「頼様は大事にされていらっしゃいますよ。ただ我が方には陽勝丸様がおいでになりますから」


そうなのだ。

私の一番下の弟の陽勝丸とそのとりまきには、今だ陽立国再建悲願を叫ぶ輩が多く、ありていにいえば月出の臣下に下る判断を下した私は宿敵扱い。

叔父上は私の行動を理解してくれているが、だいたいあの局面では一族総討ち死にの未来しかなかったのだぞ?生き残ったらそんな事はあずかり知らぬとばかりに陽立再興をと気炎をあげているらしいのだ。


人の気もしらないで。

大人しく強いものに下っておればよいものを。


叔父上ではなく、そのような妄想に浸っている者達こそ、他国遠征に出て欲しいものなのだが、自分達は安全圏にのうのうとしていながら好き放題言ってくれる。

言うだけなら易いのだよ。

行動してから物を言えってな。


「叔父上にも苦労をおかけする」


「もともと、諦めておりましたので。これからが余生かと思い夢は見ぬようにいたしておるだけですよ」


 シュッとした顔をわずかに綻ばせて笑うその姿には諦念が見え隠れする。


シュッとした容貌は気苦労から太れないせいなのだと私もようやく理解した。


父が生きている内は、父の座を狙っていると邪推され、今度は陽勝丸の座を狙っていると警戒されている。つねに下剋上疑惑をつきつけられている苦労人。

かわいそう。


なまじ優秀すぎるのがいけないのだろうが、叔父とてふりかかる火の粉は払わらずはおれず、そうして対処して生き残れば残るほどに、自分の身が危うくなるという不幸体質のようだ。


「あの時城とともに命を散らしていたと思えば、また新しい経験ができることは至高の至り」


加えて相当ポジティブのようだ。


「良い知らせを待っておる」


「頼様に誇れる武功をお持ち帰りいたしましょうぞ」


生き残ってくれ。もうこれ以上の人死には見たくないのだ。


「入道め。とんだなまぐさであったわ」



そんな野望をずっと胸に秘めていたとは気が付かなかったわ。


「男とはそのような生き物でございますよ。頼様」


叔父上が一国の領主であったのならば、もっと国は平和でいただろうか。

その身にあった身分相応で満足できる権力者が世の中に何人いるだろう。


「叔父上も諸国を統一してみたいだと思われるか」


「わたくしなどにそのような野心はございませんよ。日々恙なく釣りなどして過ごせましたなら最高でしょうなぁ。こんな風だから兄上には少々疎まれはいたしましたが」


わたしの父は呆れていたと叔父は笑う。けっして兄弟仲は悪くなかったと。


「まぁ周囲が悪いから仕方ない面もあるのだけど」


だが陽勝丸はまだ幼い。

いいように操って下剋上を企むけしからん奴もいるわけで。

叔父は常に自分に叛意がないことを証明し続けなければいけない訳で。

太れないよなぁ、そんな環境じゃ。



もう陽立の国に私の居場所もないと考えた方がいいかもしれない。

陽勝丸を担ぎださんとする一派には叔父上も私も目の上のたんこぶであろう。


「離縁されて戻る事など一考も出来ぬ事態ではあるのぅ」


現生、前世ともつくづく家庭に恵まれないものだ。


「どこぞに、二回の離縁経験のあるおなごをもらってくれるような真に平和主義者の国はないかのぅ」


叔父はそのような国主がいたら、私もお仕えしたいものですと笑った。

そしてその手で胃のあたりをさすっていた。


長生きしてくだされ。

叔父上。


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