表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
頼姫の「ざまぁ」道  作者: 相川イナホ
3/10

恨み節、申し上げます

 たっぷりと時間をとって早替えならぬ遅替えを披露した私は元の婿様と向き合っていた。

 

 「まさか初夜の閨で婿様のものではない物に刺し貫かれるとは思いませんでしたわ」


 まずは、私からの先行、軽いジャブのつもり。


婿殿の目つきがきつくなる。大方、下品な物言いに思う事があるのだろう。

 以前の私は深窓の姫であったし、公家流を気取ってお高くとまっていた。

 雛様のように飾りたてられて御簾の向こうにいる私しか彼は知らないだろうからさぞかし驚いた事だろう。


 「このような所まで…恨み言を言いにまいったのか」


 低い声で問われる。こんな戦場に嫁になるはずだった女がでしゃばって、しゃしゃり出てきた事に困惑しているようだ。


 「私が好みでないならないと、そう伝えて下さればよかったのに。頼は喜んで妹と役目を交代いたしましたものを」


 「「…」」


 婿殿を取り囲む武将達も困惑気にこちらを見ている。


 「痛うございました。5日も目覚めませんでしたわ。傷もこのように残り、もう頼は嫁の貰い手どころか子を成すことも出来なくなったかもしれませぬ」


 着物の刺された脇腹の切れ目を開いて見せる。

 まぁこの距離からは見えないのかもしれないけど。

 一部前のめりに見てる人がいますね。男の性でしょうか。


 鎧兜のむっさい野郎ばかりの中に紅一点。

 まぁ目は奪われましょうが。

 非日常の中の非日常。

 同じ武人ならば体よく追い払う事もできましょうが、見るからに公家家風の身分ある女子の出現に

 どのようにあしらっていいのかわからないのでしょう。

 

 

 


 「責任を取っていただきとうございます」


 「そなたを害したのは妹御であろう…このような場に女がいるものではない。城へ戻られよ」


 「貴方様は、関係ないとおっしゃるのですね?

そして、また私から逃げるのですね」


 きびすを返そうとした婿殿を制して私は不機嫌な声をあげる。


 「私から逃げ、妹を捨て、それで正しい行いをしたと胸を張られる気か!」


 婿殿はいらいらとした様子を見せ始めた。


 「戦場に女子ごときが!この戦はそのような名分で起こったのではない!」


 「女子の私には殿方の大義名分などわかりませぬ。ただ、女子の立場からしたら婿殿の所業は筋が通ったものとは思えませぬ。男ならしっかりと責任をおとりなさいませ!」


 すっかり私のペースになってきている。よしよし良い調子。

 私は秘かにほくそえんだ。


 「あくまで、貴女を害したのは妹御であられる。いわば姉妹喧嘩だ。そちらの事情など我には関係なきこと。らちもない事を言ってないでもどられよ」


 頑是ない子どもに言い含めるような言い方で婿殿は私に言い、そのまま下がろうとした。

 婿殿の軍からはざわざわとしたざわめきが起こっている。

 婿殿がどうやってわが国から隙をついて逃げ出したのか皆は知らないのであろう。

 私はここで特大の爆弾を落としてやった。


「妹は、旭は、貴方様の御子を身ごもっております。貴方こそ旭を連れて自国へ戻られたらいかがです?」


 妹の月のものが止まっているとの報告を懐柔した侍女から私は受けていた。

 まだ本当に妊娠しているのかストレスから来るものかわかりかねるが。


 「!!」


 婿殿が固まった。

 まぁ心当たりがあるようだ。

 うん。狙い通り。


 「我が国からは妹を嫁にだす。それで手打ちにいたしましょう?」


 にっこりと笑って言ってやる。

 

 敵軍のざわめきはさらに大きくなってきている。

戦上手な武将達も、突然始まった修羅場についてこれないようだ。


 「…そのような段階では、もうないと知っているはずだ」


 今更逆人質あげるって言ってもなー。目の前の今にもおちそうな城を尻目に、鉾をおさめて帰ってくれないよね。


 私は幸永様の近くにいる壮年の武将に問いかけた。


 「そこな武将殿。娘御はおられるか? いかが思われるか?もしそちの子である姉妹を同じ男が両天秤にかけて弄んだとしたら?」


「私の子はまだ幼きに由。そもそも婚姻前の身でふしだらな事である。失礼だがその姉妹にも落ち度があるかと思われる。」


 それは確かにそのような事になれば腹を立てるであろうが、と問われた男は口の中でもごもごと付け足して言う。


 「そもそも、このような世相を読めずして家のため国のためにわが身を役に立てんとせずに武家の娘が勤まろうか。…そもそもそなたは公家の血を尊んでおったな」


 主従して私をディスる気のようだ。

 この時代の女の地位なんて男の添え物以下だ。


 




 

 だけど十分に時間は稼げたようだ。



 「幸永殿が逃げ出してまでいらぬと申されたとの、そこな娘、我が貰い受けよう」


 入道殿が間一髪で間に合った。

 まさか自ら馬を駆って来られるとは思わなんだ。


 「さて、そうなると陽立の国とわが月出の国は姻戚関係となるのう。我が月出の国とも戦をなさるおつもりか?幸永殿」


 陽立の国は入道殿の月出の国に吸収される。

 婿殿の軍勢に蹂躙されるよりはましであろう。


 入道殿に比べたら私達などまだひよこ。

 せいぜいいいように踊る事としよう。


 



 


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ