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冤罪

「さて、リュシアンが殺された状況をよく思い出して欲しい。眠気に負けたオレとシュリが初めに眠り、残りの三人は見張りの順番を決めて、ユキとアディンさんが眠ることになった。次に見張りに立つユキが起こされなかった事から、犯行のタイミングは俺たちが眠ってからすぐだと考えられる。では、犯人は俺たちの中にいたのか? それとも俺たちが迷宮に入るのを待ち伏せしていたのか? その二つの可能性を考える事にする」


 ミツキの宣言にボク達三人は、異論はないという意思を見せるために頷いた。


「まず、待ち伏せの可能性を考えよう。洞窟内で待ち伏せて俺たちを昏倒させ、ここを活性迷宮と誤認させる。そして、俺たちの後を付けて安全地帯で見張りをしていたリュシアンを殺害した……と仮定する。だが、ここにはいくつか無理が生じる」

「……リュシアン君の刻印と、結界を内から開けてもらわなければならない点だな」

「はい。その通りです」


 ミツキはアディンさんの指摘に頷いて肯定し、人差し指を立てた。


「一つ目、リュシアンの刻印は『認識できなかった攻撃を一度だけ無効にする』という代物だ。つまり、俺たち全員を魔法で昏倒させようとしても、リュシアンだけは昏倒しない。それを防ぐには事前に彼に攻撃を仕掛けておく必要がある訳だが……。そのためには彼の刻印の効果を知っている必要がある。……リュシアンが俺たち以外にも能力を話していたり、俺たちの会話が盗み聞ぎされていたりした可能性もあるにはあるが、まぁ低いだろうなぁ。基本的には自分の能力をペラペラと話したりはしない。つまり、待ち伏せで彼を昏倒させられる人間はいないだろうという事だ。ひとまず、これが一つ目の問題だ」


 そして、ミツキは二本目の指を立てた。


「二つ目は、結界を内から開けてもらう必要がある点だが……。馬鹿正直に結界を開けてくれと頼むのはなしだ。活性迷宮の中に二つのパーティが存在する事はない。普通に出て行ってはここが不活性迷宮だと見破られるだろうし、警戒される。迷宮内にそんな怪しい奴がいたらリュシアンは俺たちを起こして相談するだろう。つまり、彼が無警戒に結界を解く事はない。……事前に荷物を奪っておいて結界の外に放置し、結界を開けさせる……って方法も考えてみたが、誰かを起こされるだけで失敗だ。そんな不確定な計画は使わないだろうと思う」


 そして、ミツキは段々と険しくなっていくボク達の表情を見渡し、決定的な一言を放った。


「以上の事から、外部犯が俺たちを待ち伏せしていた線は薄いと考える」

「そう……。それじゃあ、犯人はこの中に……?」

「ああ、そう考えるのが自然だろう」


 シュリがボク達を警戒して見渡す中、ボクはおずおずと手を上げて発言の意思を示した。


「あの……」

「ん、どうした?」

「えっと、言いにくいんだけど、検証していない可能性があると思う……」

「……それはなんだ?」


 全員の視線がボクに集まるのを感じて尻込みしてしまう。ミツキはずっとこの空気に晒されていたのだろうか? それでも怖気ずに話を展開した彼に頼もしさを感じた。

 だから、ボクも怖気ずに気付いた可能性は潰していかなければならない。


「えっと、『リュシくんが自分で犯人を招き入れた』って可能性はまだ残っていると思う。何かボク達に内緒で行動しないといけなかった理由があったとか、そもそもリュシくんが犯人側で、本来のターゲットはボク達のうちの誰かだったとか……」


 ふと思いついた仮説を提示しているうちに気分が重くなる。ボクの発言は死者に疑いをかける発言だ。正直気分が重い。シュリも心なしかこちらを睨み付けているような気がする。

 一方、ミツキは機嫌がよさそうに頷いた。


「ああ、確かにその可能性もあるな……。その謎については結界の中に犯人がいたのかを考えれば解けると思う。ひとまずは、結界の外にいた人物だけでの犯行は難しかったとだけ理解してくれればいい」

「……うん」


 ボクが渋々と頷いたのに合わせてミツキは推理を先に進める事にしたようだ。


「では、次に犯人が結界の中にいた場合についてだが……。まぁ、誰でも実行できるだろうな。全員が眠ってしまった後にリュシアンを気絶させ、結界を解除して事前に迷宮内に隠しておいたクロスボウを回収する。そして、リュシアンを殺害し、肉を外に捨てて外部犯の仕業に見せかける。後は結界を張り直して何食わぬ顔で俺たちが目覚めるのを待つだけだ。ちなみに、ユキが言ったようにリュシアンが犯人側で、仲間割れが起こったという仮説も問題なく成立するだろう」

「……よくよく考えてみればおかしな話だ。誰かが物音で目を覚ましただけで、頓挫する杜撰(ずさん)な計画だ」

「ええ。だから、犯人は睡眠薬か何かを使って確実に犯行に移せる環境を作り上げたんだと思います」


 睡眠薬……?

 その単語を聞いた時にボクは彼がどのように推理を進めていくのか大体の予想がついてしまった。同時に、その推理が確実に間違っている(・・・・・・・・・)とも分かってしまう。

 しかし、ミツキの推理は続く。であれば、ボクは彼の推理を訂正するために思考を整理しなければならないだろう――


「睡眠薬が使われたと考える根拠は、安全地帯にたどり着いた俺たちが猛烈な眠気に襲われた事だ。今にして思えば、見張りの順番を取り決める前に寝てしまうほどの眠気はおかしいと思う」

「確かに……。あの時の眠気は体力の衰えから来るものだと考えたが、探索慣れしているミツキ君とシュリが眠ってしまうのはおかしい。ましてやこの迷宮にはそこまで疲労する要因はなかった……」


 ミツキの言葉にアディンさんが同意した。

 同時に、ボクにとってはあまり好ましくない流れだ。


「恐らく、夕食に睡眠薬を盛られていたんだ。そして睡眠薬に耐えられるのは刻印で攻撃を無力化してしまうリュシアンと、なんらかの手段で睡眠薬の接種を防いだ犯人だけだ。そして……、一人だけ睡眠薬が効かない人間がいる事はアディンさんから確認が取れている」


 推理を始める前にアディンさんに確認していたのはその事か。カーティとエクエスの二人と起こした珍事件で睡眠薬が効きずらい事は露見していたが、どの程度耐えられるのかを詳しく聞きたかったのだろう。

 でもそうか。そう結論を出してしまうか……。

 ミツキは唖然と立ち尽くすボク(・・)に向けて言い放った。


「つまり、睡眠薬に耐性があり、あの場で眠らなかったユキ。お前が一番怪しいという事になる」


 ここまで頑なに個人名を出すことを避けていたミツキが、初めて犯人を宣言する。

 アディンさんとシュリの鋭い視線に射抜かれ、降りかかる圧力に後ずさり、緊張感に耐えられずに青ざめた。

 こうなる事は薄々予想ができていた。けれども、実際に疑惑の目を向けられる事は心にくる。

 それでもボクは唇を舐めて、皆に向き直る。

 踏みとどまれ。恐れるな。ここで引くのは愚の骨頂。自らの潔白を示せるのはボクだけだ。


 今から彼らの追及を振り払い、ミツキの推理を訂正しなければならない。

 自分が犯人ではない事はボク自身がよく知っているのだから。


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