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姿の見えない襲撃者

2016/10/21

「迷宮に取り憑かれた者たち」にアドミラが人形を操っているシーンを追加。

「再会と不可解な気持ち」にユキが洞窟の奥から嫌な気配を感じたという描写を追加。

「状態異常『混乱』」にユキがミツキの匂いをくんかくんかしたいとのたまうシーンの追加。

「違和感と二人目」に、以前に持ち物を確認した際には瓶の中身までは確かめていなかったという描写を追加。したがって、ユキは瓶の中身が減ったタイミングを特定できていません。


その他、分からずらい言い回しをいくつか修正。主語が抜けてる描写が多すぎ……。

 暗い。自分がどこにいるのか分からない。

 けれども、どこからともなく声が聞こえてきた……気がする。

 気のせいかもしれない。ただの思い違いかもしれない。現状に対する不安が生んだ幻聴だったのかもしれない。

 それでもボクは声の聞こえた方向に向かって手を伸ばした。……本当にボクは手を伸ばすことが出来ているのだろうか? それすらも定かではなかった。

 自我が崩れていく恐怖に叫び声を上げそうになる。けれども枯れた喉からは音が出ることはない。空気が抜ける音が虚しく響くだけだった。


 その時、声が聞こえた。

 今度は気のせいではない。確実に聞こえたっ! ボクは声の聞こえた方向にかけだそうとして――




 ――

 ――――


「……キっ! お……よっ! ユキヤっ!」

「……う、うーん?」


 色を失っていた目に、徐々に光が戻る。

 視界にかかった真っ白なモヤがゆっくりと晴れていく。ボクは目に入ってきた光に慣れようとパチパチと瞼を動かした。


「あっ……。め、目が覚めたのか……? よかったっ! ユキっ!」


 目を開けて最初に認識したのは泣きそうな顔でボクを見下ろすミツキの顔だった。

 ボクが「どうしたの?」と尋ねる前に力いっぱい抱きしめられた。その力強い抱擁に耐えられず、苦悶の声が漏れた。


「むぐっ!?」


 ボクはたまらず脱出しようと体を動かした。

 しかし、ミツキを引き剝がそうと腕に力を込めようとした時、彼の体が震えているのに気が付いて抵抗を止めた。


「ミ、ミツキ?」

「よかった……。本当に良かった……! 今度はユキが死ぬかもしれないと思うと、いても立ってもいられなかったっ! 怖かったっ!」


 死ぬかもしれなかった……?

 ボクはミツキの独白に現実味を感じることが出来なかった。それでも手を彼の背中に回して、しっかりと抱きしめる。久しぶりの彼の温もりを噛みしめてボクは安堵の息を吐いた。


「大丈夫だよ。ボクは生きてる。ちゃんと生きてるよ」

「ああ……、本当に良かった……」


 彼に触れるのは本当に久しぶりな気がする。

 元の世界では抱き合うという事はなかったが、それでもパーソナルエリアはかなり狭かったと思う。

 けれど、この世界に来てからはなんとなく遠慮があった気がする。ミツキはいつもシュリやリュシくんとつるんでいたし、女性の体になったボクとの接触は意図的に避けられていたのかもしれない。

 いつの間にか離れてしまっていた距離感が元に戻ってきている。

 それは嬉しいことではあるのだが……。


「ミツキ、ミツキ、そろそろ離してくれないかな……」


 アディンさんとミツキがこちらを見ている。人に見られていると思うと気恥ずかしい。

 特にシュリはボクの体調を心配する雰囲気を纏いながらも、ニヤニヤとした笑みを隠そうともしない。それを見ていると羞恥心が吹き出してくるのだ。


「ああ、悪い……」


 ミツキは照れくさそうにしながらボクから離れた。

 ボクはといえば、赤くなった顔を隠すようにしてそっぽを向いた。ついでに周囲を見渡して現状を確認していく。

 現在ボク達が留まっているのは迷宮の安全地帯だ。結界が張られており、外部からの襲撃の心配は”おそらく”ないだろう。

 床に砂除けのマントを敷き、ボクはその上に寝かされていたようだ。床やマントには血を拭ったような跡が残っていた。隅に置かれているタオルは真っ赤に染まっており、おびただしい量の血が流れた事は想像に難くない。


「これは……、けほっ……」


 現状をもっと詳しく確かめようとして口を開くと喉に違和感があった。ボクは無理やり喋るのは止めてひとまず黙る。

 ボクが喉を痛めている事に気が付いたアディンさんが湯気の立っているコップを渡してくれた。ボクは彼の気遣いに感謝してお礼を言い、ありがたく受け取った。コップを傾けてゆっくりと喉を潤していく

 ……お茶だ。よくこんなものを探索に持ち込もうと思ったな。


「さて、飲みながらでいいから聞いてくれ。ユキ君の喉は酷く傷ついていた。眠っている間にポーションを飲んでもらったが、完治しているのか分からん。違和感が残っていたら言ってくれ」


 ボクは頷き、受け取ったコップを空にした。

 中身を喉に通すたびに少しずつ違和感が無くなっていくのが分かった。眠っている間の治療では塞ぎきれなかった傷が徐々に塞がっているのだろう。どうやら、この飲み物にもポーションが入っていたようだ。

 ボクは喉の痛みが完全に無くなったことを確認して一息ついた。


「あ、あー。うん、大丈夫。ちゃんと声は出るよ。助かりました」

「そうか。……ひとまず、二人目の犠牲者が出るのは防げたな」


 犠牲者。犠牲者か……。

 まさか自分が死にかけるとは思っていなかった。いや、次の襲撃が起こりうると頭では理解していても、実感がわかなかったといった方が正しいか。

 お茶を飲んで落ち着くと、気を失う前に何が起こったのかをようやく思い出してきた。

 今更ながらに恐怖を感じてふるりと体が震えた。


「……ユキ君に盛られていた毒だが、体内を傷つけるタイプの毒だな。血を吐いたのは胃が傷ついていたからだろう。治療が遅れれば胃に穴が開きかねなかった。最悪の場合は死んでいただろう」

「うっ……」


 ボクは口元を抑えた。

 内臓が傷つく光景を想像して気分が悪くなってしまった。アディンさんはボクが気分を持ち直すのを待って続きを話した。


「問題はこの毒が迷宮内で見つかる植物から取り出せることだ。臭いが薄く、即効性もある。知能の高い魔物が狩りに使った例もあるらしい」

「ええ、確かにそんな毒があるって聞いたことがあるわ。でも、それの何が問題なの?」


 シュリが不思議そうに首を傾げている。ボクも何が問題点か理解できずに、彼女に続いて首を傾げた。

 アディンさんは一つ頷いて淡々と意見を述べた。


「毒の入手経路が分からない。ゆえに、魔物が毒を盛った可能性もあれば、人間の犯行という可能性もある。犯人が絞り込めない」

「あぁ……」


 シュリは理解を示して頷いた。

 毒の入手経路から犯人を特定が不可能だとすると……。あとは、どうやって毒を盛ったのかだ。その方法が分かれば犯人が絞り込めるかもしれない。


「ユキ、水筒から目を離したことはあるか? いつ毒を混入されたか分かるかもしれない」


 ミツキも同じ事を思ったのか、ボクに向き直って真剣な声色で尋ねた。よく響く低めの声で囁かれるとゾクゾクしてくる。

 ボクは内心を表に出さずに真面目に答えた。


「手放してないよ。中身を飲むときと水を汲むとき以外はポーチに入れてた。だから、毒が混入するような隙は無かったと思うんだけど……」


 ボクはこれまでの迷宮での行動を思い出しながら言った。

 迷宮内の水源から何度か水を汲んでいるが、この時に毒が混じっていた訳ではないと思う。

 なぜなら、最後に水を汲んでから毒を混入されて倒れるまでの間に、何度か水分補給のために口を付けているからだ。水を汲んだ時点で毒が混ざっていたのならば、とっくの昔に倒れている。

 ゆえに、最後に水を汲んでから見張りを始めるまでの間に毒を盛られているはずなのだが……。


「……ここいる全員が、ボクのポーチに触ってない。それに、人の水筒に毒を盛るなんて怪しい行動をしていたら、ボクが気付かなくても他の誰かが気付くでしょう?」

「そうだな……」


 ボクの呟きにアディンさんが重々しく頷いた。シュリは困惑に表情を曇らせ、ミツキは口元に手を当てながら何事かを考えているようだ。

 しばらくして、ミツキが口を開いた。


「別に水筒の中に毒を入れなくてもいいんじゃ? ユキ自身の手や、食事に混入させる。食器に毒を塗っておく。ポーチの中に毒を流し込む……。混入方法はいくらでもあると思う」


 ミツキは思いつく限りの方法を口にした。

 毒を使った殺人というのは、ミステリーにおいて度々取り上げられる題材だ。趣味で推理小説を読んだことがあるミツキが間接的な方法で毒を盛ったと疑うのは当然の事と言ってもいい。

 しかし、アディンさんはその中の案を否定した。


「ユキ君の症状の重さを考えると、かなりの量の毒を口にしているはずだ。指に着いた程度の量ではここまで重症にはならない。食事に盛ったというのもナシだ。食事をとってから症状が現れるまで随分と時間がたっている。方法はどうあれ、水筒の中に毒を入れたと考えるのが自然だろう。……一応言っておくが、オレは刻印を使ってないぞ?」

「……分かっていますよ」


 アディンさんが差した釘にミツキはバツが悪そうに頷いた。

 ボクの症状は重く、多量の毒を摂取しなければこうはならない。ゆえに毒は水筒の中に混入されたとみていいだろう。

 しかし、アディンさんの刻印を使えば少量の毒でも同じだけの効果を引き出せる。その能力を使えば、毒の混入経路は飛躍的に広げる事ができてしまう。ミツキが一瞬でもアディンさんを疑うのは仕方がない事だと思う。


「確かに、アディンが毒を盛ったとは考えにくいわね。アディン以外は毒の知識がほとんどなくて、いい加減な知識を語られても分からないもの。アディンが犯人なら自分が疑われないような性質を好き勝手にでっち上げると思うわ」

「それもそうだな……」


 シュリが見解を口にし、ミツキが頷いた。

 ……。確かにシュリのいう事も尤もだ。けれど、自身を疑わしく思わせることで逆に容疑者から外すって考えはどうだろうだろうか?

 今回使われた毒は知恵のある魔物も使ったというエピソードと共に存在が知られている。毒に詳しくなくても効能を知っている人がいるかもしれない。そんな状況で効能を黙っていれば、毒に関する知識を持っているアディンさんは怪しまれる可能性がある。ゆえに、自身の立場が危うくなろうとも毒の知識を公開しざるを得なかった。


 ……。それはないな。

 ボクはそこまで考えて自らの仮説を破棄した。


 もしもアディンさんが犯人ならば、もっとマイナーな毒を使って外部からの攻撃に偽装できたはずだ。彼に疑いが向くことすらなく犯行を終えることが出来る。

 だから、アディンさんが毒を混入させた可能性は低いとみていいはずだ。


「そういえば、この世界にはカプセル剤ってあるの? 粉末の薬がケースの中に入れられていて、胃の中でケースが溶けて中身がでてくるってやつ」

「……聞いたことがない。しかし、そのカプセルを別の物で代用できるとしても、考えにくいだろうな。ユキが摂取した毒の量を考えると、カプセルは相当大きなものとなる。そうなれば食事中に気が付くだろう」


 アディンさんはボクの思いつきに含まれていたカプセルという単語に目を輝かせたが、ひとまずはそれを犯行に利用できるかどうかの検証を進めたようだ。

 ここまでの結論をまとめると、毒は水筒に仕込まれていたと考えるのが自然だろうか……?


「水筒の中に多量の毒が盛られたって仮定して話を続けるよ? だとしたら、どうやって水筒の中に毒を入れたんだろう? ボクは誰にも水筒を触らせていないし、みんなも怪しい動きをした人は見なかったんだよね? この状態で毒を盛る方法はあるのかな?」

「……いくつか、思いつくことはある」


 ボクの疑問にアディンさんが答えた。ボク達の視線が彼に集まった。


「ユキが毒を飲んだのは結界の中だが、結界の外ならばいくらでも毒を入れる方法はあるだろう。例えば、アドミラ君と同じ系列の魔法使いならば、小型の人形をバックパックに忍びこませて毒を盛る事もできる」

「待ってくれ。毒なんて持っている人形がいるのなら、俺の刻印が情報を拾えなかったのはおかしい。毒を持っていると分からなくても、人形の存在くらいには気が付くはずだ」

「だが、現に毒は盛られてしまった。その能力には何か抜け穴があるのではないか? 人形の見た目が石や飢え蜘蛛に偽装されていたとか、自分以外への危険には反応しないだとか」

「うっ……。それは……」


 ミツキの刻印は細部の能力の検証が足りないため、確かにアディンさんの言うような欠点があるのかもしれない。それが分かっているからこそ、ミツキは力強く反論することが出来なかった。

 そして、ここまでほとんど話に入ってこなかったシュリが話を纏めるように言った。


「つまり、毒を混入したのは知恵のある魔物って可能性が高いって事よね? アタシたちの中にそれが出来そうな能力を持っている人はいないんだし、唯一、毒を入れられる可能性のあるアディンは自分で毒を入れて自分で治療する意味がないってことで除外できると思うから」

「まぁ、そうなるだろうね……」


 ボクは彼女の意見に歯切れ悪く頷いた。

 心の底から同意できなかったのは、ボクの中にどうにも釈然としない思いがあったからだ。

 確かにシュリやアディンさんの話を聞いている限り、知恵のある魔物ならば今回の事件を引き起こすことが出来るだろう。

 しかし、ボクはその”知恵のある魔物”を見た事がない。さらに言えば、事件が起こるたびに存在が示唆されるだけで、この迷宮に生息しているという痕跡は一切見つからないのだ。

 ボクは証拠のない推論だけで話が進んでいく事に、足元がおぼつかないような不安を感じていた。


遅れてごめんなさい……。

遊戯王の大会出るために県外遠征するってことで調整してました。あと、二日分の作業データが飛んだりとか。

大会結果? 零勝四敗って書くとカッコよくないですか? 四文字熟語みたいで。


おそらく、あと1、2話で出題編は終わるはず……。

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