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外部犯の可能性

「……そうか。オレが嘘をついていない事を証明してくれないのは非常に残念だが……。だが、これで外部犯の可能性が高くなったか……? そうだとすると、どうやってこの結界を破った? 何か見落としは……?」

「う、うーん? それってどういう事……?」


 アディンさんは口元に手を当てて思考を口にした。

 ボクがその意図を読み切れないでいると、彼は疑問の眼差しに気が付いて口を開いた。


「いいか? シュリとユキ君が嘘を吐いていないと確定され、犯人である確率が減った。では、疑わしくなるのはオレとミツキだろう? だが、オレは『オレ自身が犯人ではない』と知っている。すると、オレは『ミツキ君がオレを犯人に仕立て上げようとしている』と考えるだろう……。だが、もしもミツキ君が犯人だとしたら、オレに自身が犯人ですと教えるような発言をする必要はあるか?」

「んっ、確かに……」


 そうか。

 ここにいるメンバーの数は四人で、自分が犯人ではないという認識を持っていれば容疑者は三人に絞ることが出来る。そんな状況で二人を容疑者から外すような発言をすれば、『犯人以外の容疑者から外されなかった人間』には誰が犯人か分かってしまう。犯人がそんな発言をするはずがない。

 ……この推論は『犯人以外の容疑者から外されなかった人間』が『犯人ではない』という確証がなければ使えない。つまり、ボクやシュリから見れば二人のうちどちらが怪しいかは結局分からないのだけれど……。

 シュリはよく話を理解できなかったのか首を傾げていた。


「よく分かんなかったけど、アディンは外部犯を疑ってるのね?」

「……そうだな」

「じゃあ、外部犯の可能性を考えてみましょうよ。さっきからの『この中に犯人がいるっ!』みたいな空気には嫌気が差してたの」


 シュリの発言にボク達は顔を見合わせて同意した。

 誰が怪しいだとか誰が怪しくないだとかを話し合っても、この中に犯人がいるのならば『どうやってクロスボウをこの部屋に持ち込んだのか?』という疑問が解かれない限り話にならない。

 現状ではこの謎が解けそうにないので、ひとまず別の可能性を探るのも悪くないはずだ。

 ミツキは自分で納得できる意見が出てこないのか、うんうんと唸って弱音を吐いた。


「とは言ってもな……。外部犯なら今度は『結界をどうやって超えたのか?』って謎が分からねぇ……。アディンさんの言う『遠景に潜む影』と違って結界が張られる前に中に入る訳にはいかねぇし」

「そうよね……。その方法だとクロスボウを中に持ち込めないもの……」


 自身の姿は隠せても、巨大なクロスボウは隠せない。

 それがミツキとシュリの認識であった。アディンさんも反論しないのでクロスボウを含めて隠蔽するのは出来ないと考えてもいいだろう。

 ボクもどうにかして結界の外から中に入れないかを頭を捻って考える。

 ……そもそも『外からは絶対に結界を破れない』んでしょう? どうやって外から侵入するんだ。破れないと結論が出ているモノを破ろうと考えても時間の無駄じゃないか。

 そんな愚痴を漏らしながらでも、しばらく頭を捻っているとふと思いつくことがあった。


 外からは絶対に破れなくても『内から』ならば簡単に破れるじゃないか。


「……あらかじめ小型の魔物をこの結界の中に忍び込ませていたんじゃないかな? ボク達が寝静まった頃に、中に侵入していた魔物がリュシくんを襲って気絶させ、結界を破った。その後で外に待機していた犯人がクロスボウでリュシくんを射抜いた。……これでどうかな?」


 これならクロスボウを結界の中に持ち込まなくても、結界を中から壊すことが出来る。

 閃光弾やミツキの刻印で結界内の異物に気が付かなかったのは、その魔物には危険がほとんどなくて、荷物にでも紛れ込みやすい小型の生き物だったからと考えれば辻褄が合う。

 しかし、ミツキは難しい顔で疑問の声を上げた。


「そんな綿密に動ける小型の魔物なんているのかよ? 知能の高い魔物は大体人型だぜ?」

「うっ……。そ、それじゃあ、魔物の代わりに人形を忍び込ませたんだ。人形を使役する魔法はあるんだよね? 他にもボク達の中の誰かに呪いをかけて、結界を解くように仕向けたのかもしれない」


 アドミラが酒場で人形を操る魔法でピティの語りに臨場感を出しているのを見たことがある。他にもカーティが呪いでエクエスの行動(飲酒)を縛っていた。これらの魔法ならば先ほどの魔物の代わりとして運用することが出来るんじゃないか?

 ボクは期待をもってアディンさんを見つめたが、彼は無常にも首を横に振った。


「それは無理だな。術者と人形の間に結界を挟むと魔法が解ける。呪いも同じだ。術者と呪いの対象の間に結界を挟めば呪いが解けてしまう。結界の外から中の物を遠隔操作する事は出来ないと考えていい」


 ……くそぅ。なかなかいい案だと思ったんだけどな。結界が防ぐモノが想像以上に多い。

 しかし、ボクの発言からヒントを得たようで、ミツキが次の可能性を組み立てた。


「憑依して意識を乗っ取る魔物や、人に寄生する魔物はいるのか? 俺たちの誰かを操って結界を解かせれば、ユキの意見と同じことが出来る」


 ……想像しただけで気分が悪くなってきた。

 憑依についてはひとまず置いといて、生き物に寄生するような魔物ってどうせ気持ち悪い見た目なんでしょ? そんな魔物いないよね? いないでくれ。

 しかし、ボクの偏見と嫌悪に満ちた願いは虚しく打ち砕かれた。


「人に取り憑く魔物や寄生する魔物はいる。それでパーティが瓦解した事例もいくつか報告されている」


 いるんだ……。やっぱり迷宮に潜るのはやめた方がいいと思うんだけど。少なくともボクは今の話で迷宮に潜りたくない気持ちが強くなった。


「それじゃあ……」

「だが、不可能だ。人が魔物に憑依されていれば一目で分かる。寄生型の魔物もいるが、こちらは自在に人を操れない。せいぜい危機感を奪って死にやすくしたり、理性を外して特定の感情を増幅させたりくらいだ」


 ……寄生型の魔物こえーよ。

 迷宮探索でストレスが溜まっているときにイライラを増幅させられた日には、殺し合いが勃発しそうだ。

 やっぱり、脱出したら迷宮に潜らないようにミツキをもう一度説得しないと……。いや、一度といわずに何度でもだ。

 ボクが内心で決意を固めている間、ミツキ達は他の可能性がないか頭を働かせていた。しかし、やはり他の意見が出て来る事はなかった。




 ――

 ――――

 それから安全地帯で他の結界を破る方法を話し合ったが、現実的な案は出なかった。

 出てきたものといえば、到底受け入れられない物ばかりであった。

 例えば、矢を放ってから一定時間後に攻撃される魔法を使っただとか、完全な隠蔽を行う魔法を使っただとか……。シュリやアディンさんの常識では考えられない未知の魔法を使った方法しか出てこなかった。

 常識的ではない高度な魔法を前提に考えるのは推理とは言わない。その可能性を考慮するのは、常識的な可能性を全て検討し終わってからだ。


 ボク達は納得できる回答を出すことが出来なかった。

 しかし、このまま安全地帯に留まっている訳にもいかず、朝食を兼ねた昼食を食べ終えてからは迷宮探索に戻る事になる。

 これからの見張りを二人にし、これまで以上に周囲を警戒する。そういう根本的な解決にはならない方針を決めて、ボク達は探索の準備を整えた


 ボク達はリュシくんの荷物を全員で分配し、彼の遺髪を回収した。

 遺体を持ち帰る余裕はないので、彼の体はこの迷宮に放置するしかなかった。


 すぐに準備が整い、ボク達は再び迷宮に向かう。

 安全地帯を出る前にシュリが一瞬足を止め、彼の骸を一瞥した。最後に小声で何かを呟いていたが、呟きが小さすぎてボクには聞き取れなかった。

 けれど、分かれの言葉だとは理解できた。


 ほとんど話す機会を得られなかった仲間であり、これから友人になれたかもしれない彼の冥福を祈ってボクは黙祷を捧げた。

 仲間を一人失ったボク達は、再び迷宮探索に乗り出した。


 アドミラが人形使いだという情報は登場人物紹介に書いてあるけど、本編に出したのは今回が初めてなような……。

 唐突に感じるので後で直すかもしれません。

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