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状態異常『混乱』

今回のユキの台詞はクソ長いですが、台詞の中に推理に必要な情報はないです。ないです。

 ミツキ達が戻った翌日。ボクは昨日よりも調子よく酒場の給仕を行っていた。

 昨日の傷は薬効を増したアディンさんの薬を使えばすぐに良くなった。言いつけを破った事を怒られた事以外は問題なかった。

 業務のピークを終えて客がまばらになってきた頃、たびたび訪れてくれる呪い師の少女カーティと彼女の相方である騎士エクエスの二人組と雑談に花を咲かせていたのだが……。


「あはは、あはははははっ! これ、なんだろーっ? ふわふわしてるー! あはははは」


 突然、視界がぼんやりしてきた。カーティもー、エクエスもー、みんなみんな二人に見えるー。

 ふふっ……、アディンさんもぉー、二人になってるー。ふふ、ふふふっ。


「おい、誰だ。こいつ(ユキ)に酒を飲ませたのは」

「……コレ」


 アディンさんが冷えるように鋭い目をこちらに向けた。

 ケラケラと笑いながらジョッキに酒を注ぐエクエスをカーティが指指した。指を指されたエクエスの顔は真っ赤で完全に酔っぱらっている。

 コレって言うのは酷いんじゃないかなー。コレは人間だよー? ほとんど酒を煽るだけの肉人形だけど、それでも人間だよー?


「いーじゃん、いーじゃん。一口だけしか飲ませてないんだしー。ねー? ユキちゃん」

「ねー?」

「エクエス。ジョッキ一杯は一口とは言わない」


 カーティは黙々と焼き鳥を口に含みながら頷いた。

 もー、カッちんは細かいなー? 一口もジョッキ一杯も一樽も全部誤差じゃないかー。そんなんじゃモテないぞー?


「もー。カッちんてばー。そんなんじゃモテないぞー?」

「うっさいエクエス。その酒臭い口を閉じろ」


 きゃははっ! エクセスのやつ怒られてやんのー。くすくすくすっ! 思った事ぉー、すーぐ口に出すからいけないんだぞー? ボクみたいにー、口が堅くないとー、怒られちゃうぞっ!

 アディンさんは深々とため息をついてカーティに話しかけた。


「もう客は来ない時間だからオレ一人でも何とかなるが……。カーティ。こいつら二人が暴走しないように見張っとけ。オレは厨房に戻る」

「おい、店主。それは薄情。一人はそっちで何とかして」

「……じゃあな」


 アディンさんはカーティの抗議を無視してそそくさと厨房の奥に戻っていった。カーティは頭が痛そうにこめかみを押さえている。いったい何が彼女を悩ませているのだろうか?


「あははー。そんなんじゃ、顔にしわが出来るわよ?」

「わよー?」

「お前らそんなに呪われたいのか? 後で覚えとけよ?」


 エクエスが「きゃーこわーい」と言いながらケラケラ笑った所でカーティが壮絶な笑みでエクエスに杖を向けた。

 酔っていても流石に危機感は残っていたのか、そそくさとボクの後ろに隠れて盾にしやがった。ひどいや。でも、ふくよかな胸元が押し付けられているので許す。役得、役得。

 流石に身内以外に杖を向けるのはまずいと思ったのか、カーティは杖を下ろした。


「……ちっ」

「カッちんてば短気ー。ねぇねぇ、ユキちゃん、ユキちゃん。根暗で短気なカッちんと違って、ユキちゃんなら浮いた話の一つや二つあるでしょー? あと好きな人とかいない?」

「おい、私の事をそんな風に見ていたのか? 呪うぞ」


 うーん。浮いた話ねぇ……。

 ボクの体をまさぐりながるエクエスの問いに首を傾ける。ぼんやりと思い出そうとするが、彼女の手つきがくすぐったくて思い出せそうで思い出せない。それに、服の中にエクエスの手が入りそうになるごとに飛んでくるカーティの杖に気を取られて記憶が飛んでいく。

 最近、何かあったような気がするんだけど……。


「あっ」


 しばらく考え込んでいると、唐突に記憶が戻った。と同時に、急速に自分が赤面していくのが分かった。

 そうだ、そうだ。後ろから餓え蜘蛛の奇襲を受けた時にミツキに助けられておんぶされたんだった。首に顔をうずめた時の匂いがまた格別で……。できる事ならもう一度、いや、何度でも、はすはすくんかくんかしたい。


「お、その反応はなんかあったな? お姉ちゃんにー。全部ぶちまけちゃえ!」

「ふふー、昨日ミツキにおんぶしてもらったのです。でも、ボクがミツキに抱く感情はただの友情なんです」

「ほぅほぅ……続けて?」


 エクエスの催促に従ってボクは会話を続けた。カーティもこれまでのように話をさえぎろうとせずに興味深そうにこちらを覗っている。


「ボクはミツキの事を友達だと思っていたんだけど、餓え蜘蛛に不意打ちを受けた時にミツキに助けられてからはミツキと顔を合わせるだけでドキドキするんです。けど、恐ろしい目にあった時の生理的興奮を恋心と間違えた可能性も高いじゃないですか。だから、友情と恋愛の違いを考えてボクの思いがどちらに属するのかを導き出そうとしたんだー。けど、ボク自身は友情論、恋愛論を持っているれど、この考えを話して万人が納得できるか? と問われれば、出来ないと答えるしかないと思うんですよ。だからまず、一目で分かる客観的な違い……友人関係の行きつく先と恋人関係の行きつく先の違いは何かを考えようと思いました。その結果、友情は関係が深まると親友になり、友情がさらに深まるだけです。……でも、愛情が深まると夫婦になるよね? じゃあ、友人と夫婦では何が違うんだろう? ぱっと思いつくのは同居している事と、子供がいる事かな? でも友人同士で同居することも出来なくないし、不妊の病を抱えてる人とか同性愛者とかも考慮すると、同居している事と子供がいる事は夫婦の条件にはならないはずだよね? 他に友情と愛情とで違うところと言えば……、その……、子孫を残す残さないを度外視してする……え、えっちな事とかかな? 夫婦間なら子供が出来ない体でも、それこそ同性同士でもヤれるけど、友人同士だとまずヤらない。けど、よくよく考えると、友人同士でも出来るっちゃできるような気もするよね。二人とも性に関して軽い考えだった場合だけだけど。そうやって条件を上げて否定するのを繰り返していくと、ボクが思いつくものは全部、友情でも愛情でも成立してしまってさ……。どうしたものかと……。そうしていろいろ考えているうちに気が付いたんだけど、友"情”とか愛"情”ってどっちも情って言葉が含まれてるって。つまり、友情も愛情も物理的な関係は一切関係なくて、心理的な関係の事を指す言葉だって事に気が付いたんだ。つまり、初めのアプローチ『一目で分かる客観的な違い』っていうところから間違えてたんじゃないかって。人の気持ちなんて客観的に判断できないんだから」


 ボクがのどを潤すために言葉を切ると、カーティは顔を引き攣らせているような気がした。

 一方で、話を振ったエクエスはいつの間にか机に突っ伏して夢の中だ。解せぬ。でも、聴衆が一人でもいる限り話を続けようと思う。


「でね、物理的な違いからアプローチを避けて次は心理的な違いからアプローチをかけていくんだけど――」

「まって! 分かった! 分かったから! ユキがミツキの事を大好きって言うのはよく分かったから、もう止まって!」

「えぇ……分かってないよ。ボクはミツキの事を友人としては見てるけど愛情は持ってないはずなんだから、それで、次のアプローチなんだけど――」

「止まらない! 店主! 店主っ! 私だけじゃ手に負えないっ! 助けて!」


 カーティが手を上げて何かを主張しようとしている。でも、人の話はちゃんと最後まで効かなきゃ。

 ボクはカーティの腕に絡みついて拘束し、自分の感情が友情であるという結論を出すために通った筋道を語る。


「でね、友情と恋愛の違いはボク達人間の感情だとすると、その違いは何だろうってことになるんだけど、友情は自分と似ているだとか、一緒にいて楽しいだとか、信頼してるだとか相手を尊敬してるだとか……って事だと思うんだよ。じゃあ、恋愛はなんだろうって考えると、相手がいないと安心するけどいないと辛いだとか、相手を手助けしたいだとか、相手を独占したいと思ったり、子供が欲しいって思う事だと思う。ボクはそこまでミツキに依存している訳でも、独占したい訳でも、奉仕したい訳でもないと思うんだんだ。確かにちょっとミツキがかっこいいとは感じたよ? でもそれだけじゃ全然足りない。だから、ボクがミツキに抱く感情のほとんどは友情に分類されるんだ。したがって、ボクがミツキに抱く感情は友情だね。……でもこの分け方にも問題はあるんだ。友情を感じている相手を手助けしてあげたいとは思わない、恋愛感情を持っている相手と一緒にいると楽しくない、……なんて事はないと思うんだよねぇ。でもボクは今まで生きてきた経験から友情に属する感情と愛情に属する感情に、なんとなくだけど振り分けたんだ。ボクはどうしてこういう風に振り分けたんだろう? 他の人はもっと別の振り分け方をするかもしれないし……。それで、どうしてこういう風に振り分けたかって考えると、多分、恋愛に振り分けた感情は夫婦になるために必要なエネルギーを多く含んでいるものだって気が付いたんだ。『一緒にいて楽しい』って思うのと『この人の子供が欲しい』って思うのじゃ、夫婦になりやすいのは明らかに後者だもん。このエネルギーの差でボクは感情を二つに分類したんだ。そう考えると、愛情に分類される感情をあまり抱いていないボクは、やっぱりミツキの事を友達だって思っているはずで、昨日感じた胸の高鳴りは、餓え蜘蛛に襲われた緊張感がもたらした生理的な興奮だったと言えると思う。……言えるったら言える。言えるもん。だってそうじゃないとおかしい。でないと今までボクを作ってきた価値観が崩れちゃう。ミツキに対して恋する訳ない。好きになる訳ない。好きになれる訳ない。好きになれない。そんな事いったら関係が変わっちゃうかもしれない。それが怖い、怖い怖い……ひっぐ、うぅうぅ……、うぅうぅ……」

「な、泣きやんで……。そ、そうだ。彼がそんなことでユキを嫌うような人だと思う?」


 カーティに涙を拭われながらボクは目の前にあったジョッキを手にして、中身を煽った。そして、寝てしまったエクエスの下から抜け出してカーティの腕をつかんだ。


「そんなこ言って! 相談したら誰だって同じこと言うもん! 信じられないもん! カッちんはめんどくさくなって話を打ち切ろうとしてるだけでしょう!? 酷い! 人でなし!」

「ああああああっ! 本当にめんどくさいっ! 店主っ! もう無理っ! そろそろ助けてっ!」


 それからボクの絡み酒はアディンさんに薬で眠らされるまで続いたらしい。

 しかも、連日の薬の服用で耐性がついていたのか簡単には眠らなかったらしく、騒ぎはなかなか収束しなかったという。迷惑をかけたカーティやアディンさんには耐性がつくのが早すぎると盛大に呆れられた。

 酒を飲んでからの記憶が一切残ってないので首をかしげざるを得ないが、ボクに禁酒令を出されることになった。

 ……酒を口にしたのは事故だし、そこまで好きな訳じゃないし問題ないかな。


 ……。

 けれど後日、酒が飲めなくなる呪いをかけられた騎士が呪い師に土下座をする姿が酒場で見られた。

 二度と忘れないほどに、素晴らしくきれいな土下座だったと思う。


ユキの長台詞だけで1802文字。半分近くがユキの台詞なんだよなぁ。

恋愛観は個人個人が好きに持っていれいいと思います。

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