ゲノムβ
ゲノムβ
■2020年6月12日 北山順平の自宅(アパートの1室)
順平ベッドの中
朝目を覚ますと、死んだ様な静けさだった。
■都内私立S高校
北山、眠そうな目をこすりながら登校。
普段と変わらない風景ながら、何やら騒然としている。
全校アナウンス
「本日の全体朝礼は中止となりました。各自ホームルームに移って下さい。」
男子生徒A
「何だか、校長・教頭達が、揃って休みだってよう。」
北山順平、周りの騒ぎを無視して、教室へ。
田口(北山の友人・部活仲間)
「さっき、職員室の前を通ったら、大騒ぎになっていたぜ。年寄り連中が揃って休みらしいよ。」
副担任・杉本が入ってくる
(今年、入ったばかりのチョットオバカな、若い新任教師)
副担任・杉本
「エーッ、今日は担任の山田先生が、お休みですので、私がピンチヒッターとして・・・」
話してる途中から、生徒が騒ぎ出し、収拾がつかない。
副担任・杉本
「静かにっ!静かにっ!席に着いてっ!」
女子生徒A
「校長先生始め大勢の先生方が休みって、いったい何があったんですか?」
副担任・杉本
「うーん。ボクもハッキリとは判らないんだが、朝から職員室の電話が鳴りっぱなしで。」
「何でも、昨日の本校の創立記念パーティに出席された先生方が、体調不良で救急車で運ばれたとか、運ばれなかったとか..。」
男子生徒B
「はっきりしてよーっ。スギッチー!」(笑い)
副担任・杉本
「今、早急に対策会議をしてるから、追っ手指示があるまで、自習していて下さい。」
また、騒然とする中、副担任・杉本は、バタバタと教室を後にする。
と言う事で、その日は、午前中だけで、休校となった。
田口
「順。チョット寄ってく?」
北山
「行こうか。」
■T大付属病院
「ピーッ!」 フラットラインの音が病室に鳴り響く。
慌てる、看護士。
「大変です!今朝入院された301号室の、福田さんが!!」
「ピーッ!」 フラットラインの音が病室に鳴り響く。
病室に、慌てて走り込んでくる医師。
「ピーッ!」 フラットラインの音が病室に鳴り響く。
遠くで別の看護士の声
「410号室の〜」
先程までの、静けさとは打って変わって、戦場の様に騒然となる院内。
■TV
T大付属病院を背景に、群がる取材陣。
一人のレポーターのアップ。
「本日、午前10時過ぎ、都内T大付属病院に入院されていた、老人が次々と突然死をとげ・・・」
顔写真と氏名・年齢が、画面下に映し出されていく。
■渋谷警察署・刑事課
三村課長(刑事と言うよりは、年季の入った芸人といった風貌)
「今の段階では事件性には乏しいが、こんなに一度に突然死じゃ、誰も納得しないだろ。一応、調べてみてくれるか?」
朝見慎一郎(彫りが深く、長身の30前後の好青年)
「判りました、早速現場に行ってきます。」
走り出していく朝見。それを追うように慌てて走り出す里山健太(本庁から修行の名目で出向してきた若者)。
■T大付属病院前
パトカーで乗り付ける、朝見と里山。人ごみをかき分け、警官の上げたテープをくぐって院内へ。
■T大付属病院内
報道陣と野次馬で騒然とする病院前を尻目に、走り込んでいく二人。
手術台の前。ベッドには老人が横たわり。既に蝋人形のように蒼白の様相。
眼鏡をかけた医師が、経緯を説明している。
「..という訳で、容態に何の異常もみられないまま意識不明なので、精密検査するまで、病室で寝かせていた訳で。」
朝見
「何の異常も見当たらないまま、突然死?」
鈴木光男(先程の眼鏡の医師より若いが、コチラの方が如何にも優秀そうな医師)
「そうなんですよ。何時もは起こさなくても起きてくるのに、今朝に限って何時まで経っても起きてこないのを不信に思ったご家族が、起こしにいってみると、大いびきをかいたまま、起きない。それで、慌てて救急車を呼んで、うちに入院された。んですが、血液にも、内蔵にも、これと言って異常はないので、安静にと言う事で、病室に移した矢先なんです。」
朝見
「風邪とか食中毒って事もないんですね?」
鈴木
「うちに搬送された患者さんは、全員で12人なんですが、全員、至って健康体に見えましたね。」
里山
「えっ!12人もですか??」
木村茂(先程の薮とは言わないがウダツの上がらなそうな眼鏡医師)
「それも、皆さん60才以上にしては、肌つやも良くて。」
朝見
「60才以上で、肌つやが良くて、健康体の老人が12人、突然死と。所謂、ぽっくり病とか何とかありませんでしたか?」
鈴木
「昭和の遺物ですね。でもそれにも原因はありましたよ。今回のケースは、それすらない。お手上げです。ただ、共通点があるみたいで、全員が昨日SKホテルでの私立S高校の創立記念パーティーに出席しているんですよ。」
朝見
「何ですって。それじゃあ、事件性もあるって事ですか?」
鈴木
「体内から痕跡もなく消滅する、毒物・ウィルスがあればの話でしょうが。この後、科捜研の細菌関係のエキスパートが、いらっしゃって、検査する予定ではありますが。」
携帯の着信音
「はい、朝見です。えっ!他の病院でも突然死?!」
顔を見合わせる、里山と鈴木。
舌打ちして携帯を切る朝見。
■科捜研・バイオテロ対策本部
下倉信二(バイオテロ対策本部長)
「以上の、公安テロ特捜班からの情報で、現在までで確認された突然死の老人の数は、30人。渋谷区内のT大付属病院の12人が一番最初らしい。先程、T大付属へ協力を依頼しておいたよ。」
板倉泰三(お宅ポイ雰囲気の、生意気そうな若者)
「チーム工藤の出番ですね。」
工藤由美(いかにもキャリアウーマンと言った感じの才色兼備な女性)
「何時からチームになったのかしら?部長、それで、状況は?」
下倉部長
「ああ、先方の鈴木医師も細菌系じゃあ、結構な名医らしいが、今のところ全くダルマさん状態らしいよ。」
工藤
「・・・」
無言のまま、部屋を出て行く。
板倉、小太りの坂田次郎、眼鏡の木村海路等(通称余分3兄弟)、3人が後を追いかける。
■K大・細菌研究室
磯田俊介(細面のイケメン教授・性格的には若干難ありとの噂あり・異例の出世者で細菌研究の第一人者)
「何だ!騒がしな!」
研究室の奥からふらふら出て来た磯田。二日酔いらしくボサボサの髪を掻き揚げながら欠伸をしている。
金田京子(研究室の助手。女性ながら磯田の右腕と呼ばれている才女)
「はい、先生コーヒーです。また二日酔いですか?」
坂口稔(同じく研究室の助手。磯田に劣らぬ変人系男子学生)
「TV見て下さいよ!そこら中で大騒ぎですよ!!」
飯田勉(同じく研究室の助手。ごく平凡な男子学生)
「都内の至る所で、60才過ぎの老人達が原因不明の突然死をしているみたいですよ。」
磯田
「何か新型の感染症?それとも事件??」
坂口
「いえっ。今のところ事件性はないみたいですが...。」
飯田
「Yほーのニュースだと、原因は不明だけど、共通点があるそうですよ。」
磯田
「共通点??」
飯田
「全員、昨日の私立S高校の創立記念パーティー出席者らしいんです。」
磯田
「・・・」
■渋谷界隈のゲーセン
田口
「おい、順聞いたか?うちの学校の先生達が大勢死んだんだって。」
北山
「えっ。今日休んだ先生達か?」
清水光太郎(北山の学友・部活仲間)
「あぁ、ほぼ全員らしいぜ。うちのポンタ(通称ポンタ・本田金次郎、御歳62の強面体育教師。彼らの部活の監督&顧問)は無事らしいけどな。」
北山
「・・・」
■都内某所
日中なのにカーテンを閉め、暗闇にPCのディスプレイの光だけがヤケにまぶしい。
男
「いよいよ始まったな。これで住み易くなるな。」
■渋谷警察署・刑事課
三村課長
ブラインドを覗く仕草は、往年の刑事ドラマを彷彿させるが...。
「と言う事はだ、そのパーティーに出席したメンバーの中に、大量殺人の実行犯が紛れ込んでいたという可能性も浮上して来た訳だな。」
朝見
「いやっ、そう事は単純ではないんですよ。遺体を解剖した結果、全ての方が、どこにも異常が見当たらないんです。」
三村課長
「薬物も病原菌も何も見つからないとでも言うのか?」
里山
「その通りなんです。」
朝見
「名門私立の高校の創立記念パーティーなんで、地域も年齢もかなり広範囲となりますし、頭が切れると言う事は、怨恨でと言っても、それなりの計画をたてられる事も否めませんね。まあ、卒業生のボクが言うのも変ですが。」
三村課長と里山、目を見開いて顔を合わせて。
「えっ!卒業生??」
朝見
「ボクは一度も出席した事はないんですが、結構盛大らしいですよ。兎に角、この線しか、今回の事件に光明が見出せそうもないんで、あたってみますよ。」
三村課長
「判った。」
朝見
「まずは、SKホテルの水晶の間から。」
と言うと、大股でささっと部屋を出て行く朝見。
それを見て、慌てて後を追う里山。
「あっ!待って下さいよ!!」
■SKホテルの水晶の間
支配人
「ここが当日の会場です。」
里山
「当日のスタッフさん全員らしいです。」
朝見 厳しい目で里山を見据えながら。
「らしい??」
里山
「済みません!全員揃っています。」
朝見 フンっと鼻をならし。
「それでは、順番にお聞かせながいましょうか。」
朝見と同じくらいの長身の男性のシルエット。
男
「済みません。厨房も拝見させて頂いてもよろしいですか?」
朝見・里山 ビクッと後ろを振り返る。
朝見
「えっ!君は!!磯田じゃないか。」
磯田
「やぁ!朝見君久しぶりだね。常々ご活躍は耳にしてるよ。」(笑い)
朝見
「馬鹿野郎!俺なんかが世間一般に知れ渡る程、活躍していたら、日本は終わりだよ。」(笑い)
里山 話についていけず、おろおろしつつ。
「あ、朝見さん、こちらの方は?」
朝見
「あぁ、オレの悪友。高校・大学の腐れ縁ってやつだな。但し、オレと違って、天才先生様になってしまったがな!」
「ところで、その天才先生がどうしてここへ??」
磯田
「うん、科捜研のバイオテロ対策本部からのご指名でね。今回の事件?の調査に駆り出されたんだよ。」
朝見
「科捜研バイオテロ云々と言えば、確か由美ちゃんが...!」
磯田
「そうっ!その由美嬢からのご指名さ。」
朝見
「そうか!磯は細菌系の権威だったよな?」
磯田
「ははっ!まぁーそういう事になっているみたいだよ。」
■T大付属病院
朝見
「結局、空振りのまま、最初の被害者?の基へ戻ってきたか。」
磯田
「福田の奴、何時の間に校長になってたんだ?」
朝見
「結構、小狡い奴だったよな。」
里山
「えっ!朝見さん、お知り合いですか?」
朝見
「あぁ、ベテランの教務主任さんだったっけ?古文の先生だったよな?」
磯田
「あぁ...。」
人の気配に気付いた磯田が。
「あっ!由美ちゃん!!久しぶり!!!」
工藤
「ちゃんはないでしょ!アラサーのキャリアにむかって。」
朝見と里山に会釈しながら。
「久しぶり!先生方。」
朝見
「おいっ!オレは方かよ!!」憮然として笑う
工藤
「朝見君も見違えたわ!立派になったわね。」(笑い)
またまた、話についていけない里山はオロオロ。
■渋谷界隈のゲーセン
北山
「あぁっ!学校が休みは良いんだけど、部活までできないなんて!」
田口
「今年の春大会は絶望だな。」
清水
「しょうがないよ、あんなに大勢の先生が一度に亡くなっちゃったんだから。」
田口
「事件の噂もあるしな。」
北山
「まぁ、教師って結構恨まれる仕事だからな。」
清水
「でも、大概は逆恨みじゃないの。」
■都内某所
男
「始まりとしては、極めて順調だな。」(笑い)
■US厚木基地
コンコン ノックの音。
「入れ!」
兵隊A
「本日発送する予定の荷物が消えてしまいました。」
司令官
「何っ!いったい何が消えたと言うんだ?!」
兵隊A
「本国から昨日空輸されて来た荷物であります。」
司令官
「それは?」
兵隊A
「クラスAのセキュリティ対象であります。」
ファイルを手渡す。
司令官
「“ゲノムβ”?」
■首相官邸
一条粂雄(民政党総裁、自ら自転車で遊説し、選挙戦を勝ち抜いた好人物)
「塩田さん、いったい何が起きているんですか?
塩田道夫(官房長長官、一条の懐刀)
「申し訳御座いません。未だに状況がつかめておりません。」、と汗を拭く。
下川常次(警視庁総監)
「現在、第一被害者?犠牲者?と呼ぶのがふさわしいかも定かではありませんが、その所轄の刑事を中心に捜査中でして、本署からも大勢優秀な刑事を派遣していますが、一向にらちがあきません。」
下倉
「うちのエースがK大の天才教授と合同で、調査にあたっていますが、こちらも何ら進展がありません。」
■US厚木基地
司令官
「本国より、日米共同研究のため、極秘裏に空輸された。か?」
A.J.リチャードソン大尉(基地保安隊隊長)
「はい、細菌学の権威である、M大学のDr.ジェンキンスが、日本のK大学のDr.イソダとの共同研究のために、試薬を送ったとの事です。Dr.イソダが留学中に発見した試薬だそうで、今回、最終テストを行うため、わざわざ日本に送ったみたいですね。」
司令官
「生物兵器になりうるのかね?」
リチャードソン大尉
「いえ、人のDNAの螺旋にある、特定の因子にのみ反応する試薬との事で、人体にも他の生物にも無害との事です。」
司令官
「うん、そうか。小難しい事は、判らんが、私の基地内から紛失した事は、面白くないな。」
リチャードソン大尉
「私の旧友がM大学の上の方に、縁者がおりますので、それ経由で、もう一度、“何とかβ”を手に入れてもらうよう、手配してみましょう。」
司令官
「流石は、A.J。これで一件落着かな?」
リチャードソン大尉
「・・・」
■K大・細菌研究室
you got a mail
磯田
「うん、メールか?」
朝見
「どうかしたのか?」
磯田
「あぁ、今回の研究発表で、目玉としている試薬が、チョットした手違いで、到着が遅れるらしい。」
工藤
「何を発表する予定なの?」
磯田
「人のDNAに関する研究さ。」
工藤
「そういえば、学生時代からそんな事やってたね。」
朝見
「そうか、M大学にも留学していたな。」
磯田
「苦節10年ってところかな?まぁ、ライフワークみたいなものさ。」
「人のDNAの螺旋の中にある、特定の因子に反応させる事ができれば、それによってその人の特性を変化させる事が出来ないか?って言う奴なんだけど。」
朝見
「ほぅ?」
磯田
「ボクが留学している時に、偶然その因子を特定するための試薬を発見したんだが、それを変化・変容させる事には成功していないんだ。」
朝見
「お前、人を自由に操作するつもりか??」
磯田
「そんな、大層な話じゃないよ。悪人は悪人になるべくして生まれてきたのか?それとも後天的に何かのファクターでそうなるのかが知りたいんだ。」
工藤
「もし、その因子が悪から善へ変化すれば、悪人はいなくなるって事?」
朝見
「オレの商売上がったりになるな。」
■T大付属病院
鈴木
「やはり、何もでませんね。」落胆と憔悴。
院長・医療部長
「鈴木君が精査しても何もでないとは。」
■渋谷警察署・刑事課
三村課長
「本庁からのエリートさん達が大勢やって来て、捜査本部がうちに出来て1週間か。」
里山
「通称“急性眠り病”??食中毒でもない、ウィルス性の感染病でもない、怨恨による無差別殺人でもない、じゃーあっ!一体なんだって言うんだ。」
朝見
「初めて、老人が突然死してから、この1週間で、60才以上の老人が全国で1200人以上も亡くなっているんだ。」
三村課長 赤く印された日本地図を見ながら。
「私立S高校の創立記念パーティーが開催された、SKホテルから広がっているのは確かなんだがな。」
里山
「新型インフルエンザでもこんなに急速に蔓延する事はありあえないですよ。それに特A渡航禁止地区に指定されてるんですよ。わが日本国は。」
朝見
「今更、渡航禁止しても無駄かもしれないがな...。」
■TV
朝のニュースアナウンサー
「都内在住の私立S高校校長の突然死から始まった今回の原因不明の不可解な突然死は、日本全国に広まり、巷の60才以上のご老人を恐怖のるつぼに落としています。1週間たった今、全国で約1200人のご老人が亡くなり、その数は飛躍的に増えつつあります。今のところ政府関係・医療関係者からの予防策等は、全く・・・。あっ!臨時ニュースです!!」
一条首相アップ
「本日、我が日本政府は、今回の原因不明の突然死に関しまして、非常事態宣言を発令致します。既に各国からは、特A渡航禁止地区に指定されており、出国も入国もできない、いわゆる鎖国状態にあります。原因、感染経路等、未だに特定出来ていませんが、現在、日本国内の優秀な人材を総動員して解明を急いでおります。これ以上の蔓延を防ぐためにも、まずは、60才以上の方は、最寄りの医療機関での検診をお願いします。」
■街/電車
呆然と映し出される映像を見つめる、サラリーマン、学生。
■私立S高校前
男子学生A
「なんだよ、今日から無期限で休校?聞いてないよー!!」
北山
「帰って寝るか。」
■K大・細菌研究室
金田
「はい、受け取りですね。」
US兵士A
「OK!」
金田
「先生、お待ちかねのお荷物が届きました。」
磯田
「おう、ヤット届いたか。」
■都内某所
男 TVの臨時ニュースを見ながら高笑い。
「無駄無駄!そんな事では終わらないよ!これからが始まりなんだ!!」
■TV
昼のワイドショー
アシスタント
「今回、突然死で亡くなった、下沢さんのお宅から中継が入っています。」
レポーター
「亡くなった下沢山は、どういった方でしたか?」
男性
「近所付き合いは良かったですね。ただ、外面と内面は違っていたみたいで、お孫さんがおられるんですが、遊びにいった近所の子が、泣き帰ったとか。」
女性
「あまり悪口は言いたくないんだけど、ゴミ出しで嫌がらせを受けた事が。」
司会者
「うーん、あまり良い噂がないんですね。」
アシスタント
「そういえば、昨日のおばあちゃんもあまり良い評判ではなかった気がしますね。」
司会者
「一昔前の、“憎まれっ子世にはばかる”とは逆の状況ですか?」
■US厚木基地内グラウンド
清水
「やーっ、ポンタ様々だねー!」
田口
「本当!こんな人脈があったなんてな。」
本田
「おいっ!静かにしろ!!」
津村泰史(北山の先輩、部活のキャプテン)
「全員整列!」
士官風の男性と日本人の男性が並んで歩いてくる。
日本人男性
「やー!ポンタ、いやっ、本田監督!お久しぶりです。お元気そうで!」
本田
「愛等割らずだな!磯田!相棒はどうした?」
磯田
「あいつは、今大忙しです!因にボクもこの後合流して、捜査協力するんですが。」
本田 顔をシワクチャにして満面の笑みで。
「お前等、大先輩にご挨拶は?!」
部員一同
「チャース!!」
磯田
「おうっ!元気でやってるね!!今回は、春大会残念だったな。まあ、秋までにはなんとか世間も落ちつているだろう。」
隣の米軍士官に軽く会釈して。
「こちらが、今回君たちにこの素晴らしい環境を提供してくれた、リチャードソン大尉だ。」
リチャードソン大尉も部員一同に笑顔で挨拶。
「昔、この方々に非常にお世話になりました。その恩返しです。」たどたどしい、変な訛りの日本語で。
本田
「お前、確か日本生まれの日本育ちじゃなかったか?」
リチャードソン大尉
「済みません!難しい日本語判りません!」さらに変な日本語で。
磯田に小突かれるリチャードソン大尉と、それを見て更に満面の笑みとなる本田。
北山
「イヤーっ!1週間ぶりだぜ!」
津村
「こら2年!はしゃぐな!!」といいつつ、先頭を切って芝生に転がる。
もう、我慢出来ない状態の総勢50名の部員がフィールドになだれ込む。
と、倍以上の体格の若者達が、ニヤニヤとコチラを見つめている。
下平一樹(3年生のムードメーカー、エースRB)
「おい!あの厳つい奴らなんだ〜!」
磯田
「お前達、はしゃいでないで、練習相手にご挨拶しろ!」
その声に、慌てて整列し、挨拶に走る。
「宜しくお願いしまーす!!」
サム(厚木ジェッツ・バーシティチームのキャプテン)
津村と握手を交わしつつ。
「外は大変だね!今日はそんな下界の憂さは忘れて楽しんでいってくれ。」
生徒達の親睦を、嬉し気に眺める本田、磯田、リチャードソン。
磯田
「それじゃ、ボク急ぎますんで、後はこいつに任せます。」
本田
「忙しいのに、有難うな!」
磯田
「監督にお礼を言われるとなんか、むずがゆいな。」
そういうと、磯田は駐車場に向かって走っていった。
リチャードソン
「それでは、始めますか。」流暢な日本語に戻って。
本田
「おう!」
■K大・細菌研究室
朝見
「じゃあ、磯田は昼過ぎにならないと、こっちには来ないのか?」
坂口
「高校時代の恩師に会うっていってましたけど。」
金田
「変な外人も一緒だけどね。」
朝見
「変な外人??もしかして、見た目外人だけど日本人みたいな奴?」
金田
「そうそう!英語が片言で、日本語がバッチリていうイケメン軍人さん。」
うなずく朝見。
工藤
「エージの事ね。」
笑う朝見。
工藤
「相変わらず、変な外人のまま軍人さんか。」
朝見
「アメリカ人なのに、アメフトがからっきしだった奴だ。」
工藤
「でも、3年の時は、朝見君の右腕だったじゃない?磯田君が左腕で!」
朝見
「そうだな、エースWRとエースRBだったな。」
金田
「あっ!ここにある写真の人達だ!」
壁にかかっている数枚の写真を指差し。朝見と見比べる。
坂口達、他の助手達も物珍しそうに覗いている。
「アメフトのエースRBなんて、想像つかないね?」
工藤
「高校、大学と2回も日本一になったんだものね。7年間同じ釜の飯食って!」
朝見
「家族より長い間、一緒いたかもしれないね。辛い時も楽しい時も何時も一緒だった。」
■都内某所
男
「さて、次はどんな変容をするのかな?」
■内閣特別対策室
一条首相
「このリストがベストメンバーと言う訳ですね?」
下倉
「この場所が、実際に使われるとは、思っても見ませんでした。」
そこは、半蔵門線永田町駅の更に地下深くにある、シェルター型のスペースで、有事の時にのみ使用される、一般には知られる事の無い、日本最終防衛施設。
佐川卓也一佐(陸上自衛隊レンジャー隊長)
「生物兵器、核兵器など現時点で想定可能な全ての攻撃に耐えられる施設です。」
菊地遊馬(内閣特務調査室室長)
「さて、本題に入らせて頂きます。先日、US厚木基地内で、チョッとした問題が発生しております。」
下倉
「米軍が今回の問題に関与してるとでも?」
菊地
「いえ、そういう訳ではなく、ただ、ここにいらっしゃるメンバーの一人の名前があがっていましたので。」
笹山鉄太(公安対テロ対策部隊隊長)
「一体誰が??」
磯田
「あのぅ、もしかしたらわたしの名前ではないですか?」
一同、磯田を見る。
磯田
「先日、チョット私用で厚木基地を訪れた際に、保安隊長から、アメリカからの荷物が紛失した旨の情報をもらいました。わたしの学生時代からの共同研究者からの荷物が、搬送前に忽然と保管場所から消えたとの事で。」
笹山
「なぜ、そんな汚点とも言える不祥事を保安隊長が...。」
工藤
「その保安隊長は高校時代からの親友なんですよ。」「ねっ!」磯田を見て微笑む。
菊地
「でも、何故米軍経由で?」
磯田
「一応、バイオ関連の荷物ですので。」
一同、騒然となる。
工藤
「あっ、大丈夫ですよ!そういった類のものに転用する事できないものですので。」
磯田
「はい、そうです。所謂生物兵器や感染ウィルスには程遠いものです。単に人のDNAの螺旋にある、特定の因子に反応するだけの代物です。」
下倉
「日本いや世界を代表する天才科学者の先生が言うんだから間違いはないでしょう。」
どちらかと言うと犯罪者然とした菊地が更に憮然とした表情で睨み付ける中、一条首相が咳払いを。
一条
「そろそろ、本題に入りませんか?」
朝見
「あのぅ、その前に私のような一介の、所轄の刑事風情がこんな場所に、いてもよろしいものかと?」
下川
「まだそんな事言っているのか。君の敏腕ぶりは本庁まで響き渡っているんだがね。」
塩田
「そうだよ朝見君、そのこ里山君も君のお陰で、将来立派な管理職になれそうだと、お父上が喜んでおった。」
朝見
「はぁ。」
工藤
「強気のQBがなに弱気になってるの?らしくないわね!」
一条
「そうか、君達は、高校・大学と一緒だったんだね?」
朝見・磯田・工藤そろって
「はい、そうです!」
磯田
「あっ、そう言えば、ここには入れない我々の学友からのアドバイスですが。」
菊地
「えっ!」
朝見
「もう少し、自然に振舞わないと、自分がスパイしてますって言って歩いているみたいで、あまりにも気の毒になったよ。って言ってましたね。私もVに写っている菊地さんのところの方を見た時には、一昔前の安物の映画っぽくて、思わず噴出しそうになりました。失礼。」
菊地
「一応、トップクラスのエージェントを派遣したんですが...。」
下川
「世界とはレベルが違いすぎるって事かな?!」
磯田
「今度、ご紹介しますよ。」
菊地
「あっ、お気遣い痛み入ります。」
朝見
「それに、菊地さん。実は我々も磯田の事は、真っ先に疑っていたんですよ。」
今度は、磯田が驚いた顔で朝見を見つめる。
朝見
「どんなに優秀な医師達が寄ってたかっても、薬物も病原菌すらも見つからない。だけど、明らかに我等が母校の創立記念パーティー出席者が次から次へと亡くなって。その感染力?あくまでも仮定の世界ですが。驚異的なもの。出席者の帰路に接触した人達が次の被害者。となると、何か得体の知れない、細菌系かと、私のような素人でも考えざるを得ない。」
工藤
「流石、DFの裏の裏を読む名QB!これで、高校・大学と2度日本一に輝いたのね!!」
朝見
「おいっ!今そんな事関係ないだろ!」
「とにかく磯田の海外の友人・共同研究者、M大学のジェンキンスに問い合わせたところ、磯田が昔発見した試薬を米軍経由で送ったところ、チョットしたトラブルで紛失。その後、再送したってところまできた時、悲しいかな職業柄、昔からの大悪友を疑ってしまったのです。」
そういう事かと頷き苦笑する磯田。両手を挙げて負けたポーズ。
朝見
「そんなこんなで、厚木基地のもう一人の大悪友に連絡したところ、菊地さんがたどり着いた一件にたどり着いたと言うわけで。」
何故か得意げな里山と工藤。
それに反して、面目なさげに俯く菊地。
工藤
「それに、そのチョットした問題自体も、結局は..。」
磯田
「やらせだった!でしょ。」
朝見
「そうなんですね。実際は、アメリカから日本に空輸されていなかった。というか、日本には到着しなかった。が正しいですかね。」
下倉
「一体...??」
磯田
「ここからは、私に説明させて下さい。」
朝見と工藤がどうぞの仕草。
磯田
「まぁ、話は学生時代に戻るんですが、当時、篠田研究室にやっかいになっていたんですが、貧乏学生にとって、安く早く気持ちよく酔う。は、死活問題でした。そこで、研究室では何時も安酒に何かしら混ぜ物をして、上手くて気持ちよく酔える媒体を日夜研究していたのです。」
一同、呆れ顔で話に聞き入る。
磯田
「そんな風習のまま、アメリカに留学した訳ですが、洋の東西を問わず。」
里山
「学生は安酒を研究する。ですか?」
磯田
「その通り!話す言葉、生活習慣は違えども、同じなんです。私の留学先の研究室でも同じような事で、日夜頭を悩ませていた訳ですね。」
一条
「それで!!」
磯田
「ビーカーや試験管は腐るほどある訳で、ただ、日本人と違い、欧米の方々は大らかと言うか、大雑把と言うか。前の晩実験で。」
朝見小声で呆れたように。
「実験じゃないだろ!」
一同頷く。
磯田聞こえない風で。
「前の晩実験で使ったものを、次の日の実験でもそのまま使ってしまう。それで、いろんな偶然が重なり合った結果。」
工藤
「例の試薬が発見できた??」
磯田
「そうなんです!最初の試薬“ゲノムα”が発見できたのです。命名も夜の実験の時にふと浮かんだ名称なんですが。」
一同、益々呆れ顔で。
磯田
「帰国後、ドクタージェンキンスとやり取りしている内に、“ゲノムβ”が発見できました。ただ、最初は、コレを安酒に混ぜると、一級品に変わると言う類のものだったのですがね。」
磯田 得意げに一同を見回し、更に朝見にウィンク。
「敏腕刑事さんの実証と一点だけ違う部分があるんですよ。」
朝見 訝し気に磯田を見つめる。
「荷物自体は最初の便で、実際に厚木基地には到着していたんです。」
朝見、工藤首を傾げながらお互いの顔を見合わせる。
「今回のフォーラムでの研究発表は、その荷物自体ではなく、その荷物に付着させた代物なのです。」
一同、狐につままれた体で、磯田の話に耳を傾ける。
「実際に荷物、つまり試薬の入った瓶をいれたジュラルミンケースが、空輸され厚木基地に到着。クラスAのセキュリティがかかっているので、中を検査する事は出来ない。ただ、当然の事ながらスキャンして物を確認したところ、忽然と消えていた。という事になっているのですが、実際には、荷物は消えていなくてそこにあったんです。」
一条
「すまん!素人にも判り易く説明してくれんかね。」
磯田
「皆さんは、スティルスってご存知ですよね?」
一同、大きく頷く。
朝見
「じゃあ、その荷物がスティルスに??」
磯田
「流石に、勘が鋭い!その通りなんです、ここにあるスプレーを吹き付けると、その物体は簡単にスティルス効果を得られるんです。ただ、面白いのが、オンとオフをチョットした信号で実現出来る。」
菊池
「厚木から搬送される直前にオンする?」
磯田
「その通り!正解です。ただ、共犯者がいて。」
工藤
「保安隊長!!」
朝見
「全く、君たちの悪戯好きは変わらんね。」
磯田
「まあ、これで最終テストは成功して終了しましたので、無事にフォーラムで発表出来ます。それに、基地司令も共犯でして。」悪びれて頭を掻く。
朝見
「やはり天才にはかなわんな。でも、くそっ!嘘つきどもめ!」
何故か悪人風情を決め込んでいた菊池までもが大笑いしている。
工藤
「1件落着?したところで、そろそろ本題にはいりましょう。」
下倉
「うむ、そうだな。顔合わせの余興はこれくらいにして。」(笑い)
笹山
「この資料で良かったですか?」
里山
「あっ!すみません。私が配ります。」慌てて資料を皆に配る。
菊池
「えーっ、今回の不可思議な事件?事件と呼べるのかどうかも、現在のところ..事故なのか?災害なのか?発端は、やはり、名門私立S高校の創立記念パーティーに出席した方々、そしてパーティー出席後に接触、いわゆる電車に同乗したとか、同じ部屋にいたとかですが、何らかの接触があった方々、となり全国的に犠牲者?が拡大している訳です。」
「現時点で判明している共通点は、
1.名門私立S高校の創立記念パーティーに出席した
2.出席者の帰宅経路にたまたま遭遇した
3.60才以上の老人
そして、聞き込んでいくと面白いのが、4番目の共通点。
4.近所等での評判など、上辺は良さそうだが、本音を聞くとかなり評判が悪い」
一条
「どういう事かね?」
朝見
「表面面は良いが底意地が悪い!って感じですか?」
菊池
「まあ、死人にむち打つようで、嫌なんですが、利己主義、思いやりに欠ける、自分勝手、挙げたらきりがない。」
里山
「自分が聞き込んだ方々も同じでしたね。人のゴミを細かくチェックして、張り紙するとか。中には、猫が庭に遊びにくるのを、ご近所さんの見えるところでは笑顔で、その実、その通り道に毒団子を仕掛けて、殺してしまうとか。結構やりきれない!」
下川
「と言う事は、現在、亡くなっているご老人達は、皆...?」
菊池
「今日現在、確認出来ている方が1300名。先程の共通点、特に3と4は全員に当てはまります。」
一条 一同を見渡し、大きくため息。
朝見 里山に囁くくらいの声で
「とりあえず、地球が自然淘汰を始めたってか?」
園田庄次(防衛庁長官)
「えー、只今、米軍からの連絡がありまして、太平洋機動部隊が日本近海を、特に日本海側を防衛するためにハワイを出港した模様です。」
一条
「空自と海自のほうは?」
園田
「コンディションレッドで展開を終了しております。」
一条 ホットラインを手に。
「あっ、大統領!今回はお心遣い痛み入ります。」
■都内某所
男
「いよいよ第2ステージの幕開けですか!」
■鹿児島H医大
医師A
「先程、突然死された患者って、50代の男性だって?」
看護士A
「そうなんです、昨日死亡された、78才のおばあちゃんの息子さんです。」
■TV
夕方のニュースアナウンサー
「本日午後3時頃、鹿児島県のH医大で、亡くなったY.Kさんは、昨日、同病院で亡くなった78才のU.Kさんの息子さんで、最近の60才以上のご老人が突然死する不可解な現象では、初めての50代の方です。」
■都内某スナック
ママ
「60才以上の老人って事だったから安心していたけど、一体政府は何やってんだろ?!」
常連客A
「でも、ママまだアラフォーだろ?」
ママ
「馬鹿だね!そういう問題じゃぁないだろ。何時まで原因不明で人がコロコロ死んでいくんだよ。流行病なら何々病って何か対策対策!!」
常連客B
「原因も何も判らないまま、ここ10日位で、人が1300人以上も死んでいるんだものな。気味悪いや。本当!!」
ママ
「医者にも警察にも政府にも判らないって事、本当にあるのかね?結構判ってるのに黙ってるとか?!」
常連客A
「自分達だけが助かりゃいいってか?」
■国会議事堂前
騒然とした群衆が、国会議事度に向かってわめき散らしている。
「一条!出てこい!!ハッキリ説明しろ!」
「国民をなめるな!」
■TV
夜のニュースアナウンサー
国会議事堂前の騒乱を背景に。
「本日、午後4時過ぎ、国会議事堂前に約160人が詰めかけ、政府の説明をもとめ一時騒然となりましたが、機動隊により、30分後解散させられました。この事件で、詰めかけた6名の男性が軽い怪我をし、都内の病院に搬送されました。」
国会議事堂替えから中継です。
中継レポーター
「先程の騒動は治まり、議事堂前は静けさを取り戻しています。政府筋のコメントでは、今回の一連の突然死に関し、未だに原因不明との事で、また、年齢層が下へ広がった事にも、もっか原因、関連を調査中と言うに留まっています。」
「非常事態宣言から2日たった今日、先行きの不安と、情報の少なさから、今回の様な騒動が発生した模様ですが、警察、医療関係者、政府関係者等、一様に苛立ちを隠せない表情で、張りつめた空気が漂っています。」
「あっ!チョット待ってください。えっ!戦車??」
陸自の戦車、装甲車が進んでくる。
「日本では戒厳令は...」
■内閣特別対策室
一条 疲れきった表情で、TVを見据える。
磯田
「ブラフでも良いから、何か具体的な手を打つ必要がありそうですね。」
工藤
「プラシーボ効果?!」
朝見
「それはそうと、磯の試薬、エーッと。」
工藤
「“ゲノムα”と“ゲノムβ”でしょ!」
朝見
「そう、その“ゲノム何とか”。」
工藤に睨まれる。
朝見
「“ゲノムα”と“ゲノムβ”って、どう違うんだったっけ??」
磯田
「“ゲノムα”が、善意の因子で、“ゲノムβ”が...!!」
「そうか!!“ゲノムβ”で悪意の因子を特定して、それを抑え込む?変化させる?可能か??」
工藤
「ただ、年齢のファクターはどう考える?」
菊池 思わず両手を上げ、天を仰ぐ。
■都内某所
男
「そう!その調子だ!!まだまだむるいよ!!!」
■渋谷交差点
スクランブル交差点で、不安げなおばあさん。渡るか渡らないか迷っているみたい。
北山
「あっ、おばあさん、信号、渡れますよ。」
と言うが早いか、手を引いて渡りだす。
渡り終えたおばあさんが。
「有難うね。どっちの信号かわからんかったもので。」
と言うと、手を振って去っていく。
一緒にいた、田口と清水が。
「良く渡る方向が判ったな。」
北山
「だって、こっち側を見てたじゃないか。」
なるほどと頷く二人。
■TV臨時ニュース
一条総理
「国民の皆さん、人を思いやっていますか?あなたの周りの植物を、動物を愛しいと思っていますか?」
天を仰ぎ。
「悲しい事ですが、今回の出来事に対する確たる解決策、そして原因はまだ見つかっていません。」
深く頭を下げ、そして、毅然とした表情で。
「今もこの時に、原因も理由も判らないまま、亡くなってしまう方がいるかと思うと胸が張り裂けそうであります。」
少し間を空け。
「我々は、然し、手をこまねいて、死を待つつもりはありません。まだ、推論の域を出ていませんが、一縷の望みを、彼の試薬に託す事を決定致しました。磯田君!」
紹介された磯田のアップ、軽く会釈し。
「我々国家戦略タスクフォースが今回、たてた仮説により、現在の神、地球、そう我々では想像もつかない何か、大きな存在からのメッセージに対抗して、日本国民としてこの地球上に存続するために。」
小さくふぅと息を吐き。
「ある実験を実施したいと提案します。」
■該当のTVを見ている歩行者
首をかしげ、何を言っているのか判らない、訝しげな表情。
■食事中にTVを見ていた家族
父
「何寝ぼけた事言ってるんだ、こいつら?あまりのプレッシャーに頭でもおかしくなったんじゃないのか?」
きょとんとする子供。
母 知らん顔で食事を続ける。
■渋谷界隈のゲーセン
ゲーム中の田口がTVに気づき。
「おい、あれって大先輩の天才先生じゃないか?」
北山
「おう、そうだそうだ!実験って何だろう?」
■TV臨時ニュース
磯田
「私と私の友人である米国のドクター・ジェンキンスとの共同研究による試薬“ゲノムβ”を全国の医療機関に手配しました。この試薬を接種して頂き、検査結果ごとの処方に従って頂ければ、この未曾有の危機を回避できると確信しております。」
カメラがパンして下倉のアップ。
「原因不明の突然死、通称“急性眠り病”が発生して今日で12日となります。当初60才以上のご老人が、この被害にあわれておられましたが、1昨日から次第に年齢層が下降し、本日確認された被害者は、30代の女性となっております。そして、全国での被害者数が1500人を超える勢いとなりました。」
牛田粂雄(国立防疫センター長官)
「我々も、日本全国の各分野のエキスパートの総力を動員して、全国の医療機関に、磯田先生の“ゲノムβ”が、一刻も早く行き届くよう、量産体制を手配しております。」
下條にカメラ。
「国民の皆さん!我々を信じて下さい!!我々日本国民は、試されているんです。この未曾有の危機をねじ伏せる事が出来るのは、そう、誰でもありません。あなたなのですから!!」
「確かに、原因も未だに確定には至っておりませんが、手をこまねいていただけでは、黙って死を待つだけではないでしょうか?!」
「最後まで、あがいて、そして笑って生きて行きましょう!!」
「かく言う私も、これから、試薬を接種し検査に行ってきます。このまま死んでたまるかっ!!!」
■都内某所
TVを見ていた男
「さて、そんな事で、止められるかな?」
■港区Y内科病院
受付A
「来院された方から、順番にお呼びします。」
看護士B
「はい、順番に並んで下さいね。通常の診察と同じで、来院された順番にお呼びしますから。」
■北海道某所の病院
受付A
「大丈夫ですよ。譲り合いですよ。」
■名古屋の某大学病院
ガードマンA
「あっ、そこ、横は入りしたら駄目だがね!順番順番!ちゃんと守らんとね!」
■沖縄某所の診療所
医師A
「おバー!元気そうだなぁ。並んで。」
■昼のワイドショー
ベテラン司会者
「えーっ、全国の医療関係施設で、“ゲノムβ”の接種及び検査が開始された模様です。」
アシスタント女子アナを横目で見て。
ベテラン司会者
「因みに私も先程、接種してきました。検査結果は良性だそうで、安心しました。今だから言いますが、私もあの私立S高校出身で、話題の創立記念パーティーには出席していたんですよ。」
アシスタントの女子アナ
「そう言えば、Hさん62才でしたよね!」
女性ゲスト
「生きてる~?!」
ベテラン司会者
「そう!僕は生きているんです!!」
■内閣特別対策室
カップめんをすすりながら、TVを見ていた里山。
「本当に?!」
T大付属医師・鈴木 珍しそうに壁一面のディスプレイを眺めつつ。
「いやーっ、こんな場所が本当にあるとは!永田町の地下にはって都市伝説では耳にした事があるが。それにこの画面の多さは!!」
里山
「朝見さん、これがプラシーボ効果と言うやつなんですか??」
工藤が里山を覗き込んで。
「脳みそ筋肉の朝見君にそんな難しい単語、無・理・よ!」
鈴木の横で壁面ディスプレイを見渡していた朝見は、険しい顔をして。
「確かに上手くいきそうだ。特に狂信的要素を遺伝子に持つ日本国民は。」
磯田に向かって。
朝見
「なあ、磯。お前の“ゲノムβ”は確かに優秀だよ。悪人を特定してくれている。というか、悪人になる要素を持つ悪人予備軍をだな。」
また別の画面に目を移しつつ。
「これで、確信できたんだ。お前の“ゲノムβ”が有効って事は、今回の未曾有の災害は、災害じゃあないな、事件!バイオテロ!!だよ!天才科学者が、偶然とはいえ発見した試薬も人が生み出したもの。それで、この状況が好転したって事は、この状況を作り出したのは。」
磯田 声を荒げて。
「そうだっ!僕以上の天才科学者が介在しているって事だ!!」
一同の目が朝見と磯田に注がれる。
壁の隅で、板倉達通称余分さん兄弟が縮こまる。
「おやっ、ミスターイソダにしては、珍しい。声を荒げるなんて。」
一同、声の主を探して、入り口方向を振り返る。
「へい、イソダ。ここに君以上の天才科学者がいるじゃないか!」
声の主にいち早く気づいた磯田が、入り口に走り、そこに入ってきたドクタージェンキンスとハグを交わす。
工藤がハグを交わしながら。
「この国、渡航禁止じゃなかった?」
リチャードソン 無茶苦茶変なイントネーションで。
「我々米軍は全面的に日本をサポートします!」
■T大付属病院
鈴木
「本当に、面白いな!この赤く反転しているのが“β因子”いわゆる悪事の因子か?」
看護士B
「じゃあ、この木村さんは、“急性眠り病”で死ぬ可能性がある?」
鈴木
「最近の症例だとそう言う事になるのかな?」
志村恵子(T大付属病院名うてのカウンセラー)
「そして、私達の出番って訳ね?!」
鈴木
「そう!我々医師の出番はないんだよね。今回のケースでは。残念だけど。」
志村
「鈴木先生、何時も何時も自分達だけが医療最前線って頑張らなくてもいいんじゃない。」
鈴木
「ただ、今回のような未曾有の大災害に、何も出来ないなんて。今まで俺は何をしてきたんだろうってな。」
志村
「でも、心の病って結構奥深いんだよ。死に至る事もあるんだし。」
看護士B
「でも、本当にやりきれないですね。この病院が皮切りで、今回の“急性眠り病”が日本全国に蔓延して、2週間。既に2000人にも上る犠牲者が...。」
鈴木
「当初、60才以上の老人だけだったのが、10目位から日々下降して、今じゃ20才以上は、発症する可能性がある。」
志村
「とは言え、この“ゲノムβ”のお陰で、致死率は、70%に下がっているじゃない。」
■内閣特別対策室
一条
「“ゲノムβ”での封じ込め作戦のお陰で、発症率つまり致死率が70%にさがったか。」
ジェンキンス
「イソダ、“ゲノムβ”の最終形態に進化させないと、このままじゃ地球が滅びるよ。」
下倉
「最終形態?地球が滅びる??」
リチャードソン
「多分、軍隊を持たない日本人には判らないかも知れないが、マーシャルローいわゆる戒厳令が各国で敷かれています。」
一同 えっという表情で、リチャードソンを見る。
リチャードソン
「そう、“急性眠り病”は、日本だけには留まらなかった。」
菊地
「報道管制??」
リチャードソン
「本国からの極秘情報によると、世界中で犠牲者が既に1万人を超えている。」
工藤
「なぜ?日本だけが蚊帳の外なの?」
朝見
「それだけ、今のデジタル文明は脆いって事だな。」
里山
「バーチャルな現実?ですか?」
工藤
「私達がモルモットってわけじゃあないでしょうね?」
磯田とジェンキンスを睨み付ける。
磯田
「まあ、今までの経緯からすると、そう言われても仕方がないか。」
朝見
「流石に母校は名門校。世界に羽ばたくってやつか。」
リチャードソン
「先進国の至る所に、S高校OBの姿ありってね。」
ジェンキンス
「それに、今回の“急性眠り病”のお陰で世界中の悪人が急速に激減している!」
一条
「だから、実験場となる日本国内で不要な騒動が勃発しないよう、世界の情勢からは隔絶させる。か?」
笹山
「世界中での現時点での犠牲者約8000人は、各国の首脳陣は承認している??」
下倉
「想定内なのか?」
■都内某所
PCを見つめる男性。
「チョット減速してしまったが、成果としてはまずまずだな。」
■渋谷界隈のゲーセン
北山
「おい、俺達の同年代の学生も死んだってよ。」
田口
「俺達も、やばいのかな??」
清水
「俺達は、気のいい体育会系学生だぜ!絶対っ大丈夫だよ!!」
■TV
昼のワイドショー
ベテラン司会者
「“急性眠り病”が“ゲノムβ”のお陰で若干の収まりを見せ始めた、と言うより発症する患者さんをほぼ特定できるようになってから、約1週間が経過しますが、全国での犠牲者は、4500人に登りました。」
「全国の医療機関では、毎日、発症を回避するべく必死の努力がなされていますが、ここに至って、年齢による発症回避は、無意味との政府筋からの発表がなされました。」
アシスタントの女性達にむかって。
「君達もこの番組が終了したら直ぐに病院に行きなさいね。」
ベテラン司会者
「全国の今、この番組を見ているあなた!“ゲノムβ”の接種・検査・カウンセリングでは、発症を100%防ぐ事は出来ませんが、現在のところ、約30%の方は、発症を回避出来ています。まだ、検診に行っていない方は、大至急!最寄の医療機関で検診して下さい。お願いします!!」
■渋谷警察署・刑事課
三村課長
「朝見と里山がお偉いさんの所へ出向していってから、もう2週間にもなるか。なんか寂しいな。」
婦人警官が笑って通り過ぎる。
■K大・細菌研究室
坂口
「金田~!お前も行ったのか?」
金田
「もう行きましたよ。だって磯田先生から最優先事項だっていわれたもの。ところで、坂口っちは??」
坂口
「まだ、行ってないけど。やばいかな?」
飯田
「やばいっすよ!早くいかないと!!坂口っちチョット悪人体質ありそうだから。」
金田
「確かに!やばいかな!!」
坂口
「...!行ってきます!!」
■内閣特別対策室
ジェンキンス
「うーんっ、いいねぇ!このまま居ついちゃおかな!本当!!いい環境だよ!」
磯田
「でも、こんな状況で最終形態に変容させるとは思ってもみなかったよ。」
工藤
「やっぱり、あの地味な研究室でやりたかった?」
磯田
「あくまでもライフワークだからね。何か科学者って自己中って感じに見られるけど、本当に自己中ではあるんだよ。それが実世界でどんな影響、効果が出るかより、経過が大事なんだな。」
朝見
「お前、どうして“急性眠り病”にならない??」
磯田
「・・・」
■日本海上空
戦闘機Aパイロット
「あれってやばくないか?」
戦闘機Bパイロット
「愚痴ってないで、もう一度呼びかけろよ。」
戦闘機Aナビ
「貴機は、日本領空を侵犯している・・・。」
戦闘機Bナビ
「おい、ロックオンされてるぞ!」
■第七艦隊キティホーク
オペレータ
「艦長、敵対行動及び不審行動をする艦船、航空機は全て排除しろとの連絡です!」
スミス艦長
「ああ、そのつもりで出港してきているよ。第三次大戦も辞さない覚悟だ!!」
■日本上空
戦闘機Aナビ
「おい!見ろよ墜落していくぞ!!」
戦闘機Aパイロット
「世界は“ゲノムβ”で廻ってる?!」
■内閣特別対策室
下倉
「“急性眠り病”発生以来、20日間で、奮闘むなしく、5000人か!」
リチャードソン
「世界レベルで約25000人です。」
菊地
「イタリアマフィア、中国マフィア、シンジケート、指定暴力団、いわゆる悪人系の面々が面白い事に消え去っていますよ。」
塩田
「菊地君、チョット今の発言は不謹慎ではないかな?!」
と言いつつ、まんざら不快そうではない。
一条
「私は神でも仏でも無い。だから今の菊地君の発言には賛同できる。先程ホットラインでオリバー大統領も刑務所及び街の不要物が優先的に消えていってくれて、心の中では喜びを隠せないとおっしゃていた。」
朝見 あまり面白そうな雰囲気ではないが。
「悪人にも人権はあるって、育てられたんだがな!?」
磯田、ジェンキンス、リチャードソン、工藤、里山等も同じく手放しでは喜べない体で壁一面のディスプレイ群を見ている。
■都内某所
男
「結構、騒がしくなっていますね!」
■内閣特別対策室
ジェンキンス
「やはり!そうか!!」
ジェンキンスを見やった磯田が。
「ジェンキンス、君も気がついたか?」
ジェンキンス
「ああ、危惧していた通りだよ。我々の“ゲノムβ”が、突然変異?いや、進化したとしか言いようがないね。」
磯田
「ここ数日、考えていたんだが、やはり行き着くところはそこしかないな。」
一同、二人の天才科学者の会話に耳をそばだてる。
磯田
「誰かは知らないが、我々の“ゲノムβ”を感染可能なウィルスに育て上げた。そして、それは自己進化、繁殖を繰り返しながら、目覚ましいスピードで、全世界に蔓延した。」
工藤
「じゃあ、私達が一縷の望みを託して手配した“ゲノムβ”は、一体何だったの??」
朝見
「如何にプラシーボ効果とはいえ、ある程度の効果は出てるんだろ?」
磯田
「ああ、それこそが、この世界規模のパンデミックを引き起こした原因さ!」
一同 えっと言う表情で見やる。
磯田
「我々以上の天才科学者、マッドサイエンティスト、神になりたい狂信者、が大量の“ゲノムβ”を入手する絶好の機会を与えてしまったんだからな。」
朝見
「それに、ひと味加えて、世にはなつ??」
ジェンキンス 無言のまま、大きく頷く。
工藤
「君たちの傑作品に手を加えてって言っても、致死に至らして尚、痕跡すら残さないって?」
磯田
「今の“ゲノムβ”だって、接種して、因子を特定して、分解されて、跡形も残さない。だろ。」
工藤 お手上げの仕草。
ジェンキンス
「それに、この繁殖、成長のロジックは、まさに、我々が最終テストとして、用意していたものだからね。」
里山
「と言う事は、お二方以上の天才ではなくて、盗人って言った方が、正しいんじゃないですか?!」
朝見
「ただ、素人やチョットした知識がある程度のものが、パクっても成功させる事が出来るとは限らない。ってんだろ。磯!」
磯田 ご明察!と言わんばかりに大きく頷く。
磯田
「我々の理論が正しい事は、実証されたが、我々が求めた結果は、その人の持つ「悪意の因子」を、「善意の因子」より小さくするための変容、進化であって、「悪意の因子」が大きい者を死に至らしめ、地球上から排除するものではない!」
ジェンキンス
「そう、我々は神ではないんですよ!」
工藤
「と言う事は、その何者かは研究成果をパクった上に、自分のエゴの為に、ねじ曲げた進化を、そこにインプットしたって訳ね。自分が考える理想郷のために。」
一条
「頭の悪い、私にも良く理解出来ました。ただ、この未曾有の災害「アルマゲドン」を終演させる事は可能ですか?」
磯田、ジェンキンス 深々とうなだれて。
「申し訳御座いません。我々の今の推論が正しければ、“ゲノムβ”は、この自然淘汰を遂行するまで、繁殖、進化を繰り返していき、それを止める術は、今のところ皆無です。」
■日本海上空
戦闘機Aパイロット
「こうやって、哨戒で飛んでるだけだと退屈だな。」
戦闘機Bパイロット
「馬鹿野郎!俺達の出番が少ないって事は、平和って事だろ!」
戦闘機A、Bナビ
「その通りだよ!」
■第七艦隊キティホーク
レーダー手
「領海内に不審船皆無です。」
スミス艦長
「俺達の凄腕に恐れをなしたか?」
グルード副官
「艦長、冗談が言える程、暇ってことですね。」
■渋谷界隈ゲーセン
北山
「ああ、このままアメフトが出来なかったら、俺死んじゃうよ!ひまだよーっ!!」
田口
「悪人は死に、善人は生きる。」
清水
「何っ!お前何時から哲学者になったの?」
■TV
何時もの昼のワイドショー
「各国の、報道管制も解け、世界中の情勢が、以前のようにリアルタイムで入手出来るようになりました。我が国では、“急性眠り病”発生以来、約1ヶ月が過ぎようとしていますが、未だに終息には至っておらず、政府の発表によれば、既に14500人の方が亡くなり、今後も多くの方の突然死が予測されるとの事です。この突然死“急性眠り病”の発症年齢も、発生当初の60才以上から、徐々に下降し、10才以上の“ゲノムβ”陽性因子保持者は、50%以上が発症する確立が高いとの見解も示しております。また、世界保険機構の発表では、全世界レベルで約80000人の犠牲者が確認されたとの事です。」
■私立S高校職員室
杉本 TVを見ながら。
「いよいよ、世紀末ですか?」
本田
「日本の人口が約1億28000万人、世界の人口は約64億4030万人。日本と世界の犠牲者の数が、この1ヶ月で約94500人。世紀末として人類が死に絶えるには、まだまだ、日があるよ。」
杉本
「本田先生は、何時も呑気で良いですよね。」
本田
「だから、こうして60才過ぎても生きていられる。」
■都内某所
男
「さて、そろそろ、勢いがつく頃合いか??」
■内閣特別対策室
鈴木
「“ゲノムβ”の進化は、「悪意の因子」と、「善意の因子」を比較してどれくらいの差があれば、死に至らしめるんです?」
磯田
「そこが判らないんです。残念ながら。」
ジェンキンス
「元々、我々が望んだ最終形態にしても、あくまでもバランス調整みたいなものだから。どちらかを増やすとか減らすとかの発想が違うんだよね。」
磯田
「そうなんですよ。別に「悪意の因子」が「善意の因子」より、多くっても構わないんですよ。だってそうじゃないですか。善人ばかりじゃ、朝見達の仕事がなくなるでしょ。」
工藤
「磯田君!こんな時の冗談にしては笑えないよ。」
朝見
「まあ、悪人になる素養のある人間を、厚生プログラムで更生させて、犯罪を未然に抑える事はできるよな。事実、今それが、“ゲノムβ”接種と、因子特定後のカウンセリングで、20〜30%の成功を収めている。」
里山
「あのぅ、どちらかが“ゼロ”になると、バランスが崩れて、死に至るって事、なんですか??」
磯田
「“ゼロ”??そういう事か!気がつかなかったよ!!」
鈴木
「死人には、“ゲノムβ”は接種していませんね!」
菊池
「死人に接種して効果はあるんですか?」
リチャードソン
「でも、やってみても損はないよね?!」
■T大付属病院
志村
「この方は、今朝突然死された方で、検査後、カウンセリングを受けてる最中に突然亡くなられました。“悪意の因子”は基準値として定められている数値の約10倍を示していました。」
鈴木
「では、もう一度、“ゲノムβ”を接種してみます。その後、“ゲノムα”も接種します。」
“ゲノムβ”の入った注射針をベッドに横たわる男性の右腕に刺し、試薬を注入する。
コンピュータを覗き込んでいた、木村と坂田が、脇の板倉をつつき、板倉も覗き込んで絶句しながら。
「ゼロです!!」
その声に、同じくコンピュータを覗き込んだ工藤が。
「本当ね、“悪意の因子”の数値がゼロ。」
鈴木
「じゃあ、“ゲノムα”を。」
そう言うと、“ゲノムα”の入った注射針をベッドに横たわる男性の右腕に刺し、試薬を注入する。
工藤
「こちらは、100。」
同じ部屋の別のベッドに向かっていた、磯田と朝見が。
「こっちも同じ結果だね。」
3つめのベッドのジェンキンスとリチャードソンが。
「こちらは、40と60。」
と同時にそのベッドの女性が起き上がる。
壁際で見ていた、菊池達がぎょっとして、一歩後ずさるが、リチャードソンが笑いながら。
「君達、失礼だな!こちらのレディは、最初から生きていますよ。」
里山
「えーっと。10倍と5倍以上が、駄目で。5倍未満は大丈夫。って事ですか?」
磯田
「うん、でもまだ即決にはいたらないし、それもまずい。」
鈴木
「取り敢えず、内の病院で、今日検査を受けて、生存されている方々と、亡くなった方々、全員に再接種して、再検査してみます。」
工藤
「牛田さん、全国の医療関係施設にも同じ検査を依頼願えますか?」
牛田
「判りました。早速手配します。」
と、足早に手術室を出て行く。
リチャードソンも出口に向かいながら。
「私も、本国に手配します。」
下倉
「塩田さん、マスコミにもう一度、検査を呼びかける旨、声明をお願いします。」
一条を見やる下倉と塩田。
「お願いします。もし必要であれば、私も出ますよ。」
朝見 里山の頭を撫でながら。
「里、お手柄!お手柄!」
里山 その手を払いのけながら。
「朝見さん、やめて下さいよ。子供じゃないんだから。」
工藤
「えっ!まだまだ、お子ちゃまじゃない?!」
磯田 笑いながら、真顔になり。
「ただ、これで“急性眠り病”の原因が、少し特定出来そうだな。」
ジェンキンスが微笑みながら里山に親指を立てる。
菊池 パッドを覗きながら。
「ただ、進化に歯止めは効かないみたいですね。」
一同、菊池を見やる
菊池
「40日で、20000人超え。年齢も7才児。いわゆる小学生は、発症対象者に含まれるみたいです。就学以前の幼児は、今のところ、対象外ですね。世界レベルでも・・。」
一条 手で菊池を制しながら、出口に向かいながら。
「塩田さん、下倉さん、やはり、私が国民の皆さんに声をかけさせて下さい。」
塩田
「はい、臨時ニュースを早速、手配しましょう。」
というと、急速に淘汰されつつある政府関係者の生き残りの面々は、足早に手術室を去って行った。
朝見
「各国の首脳陣も同様の放送を流すんだろうな。第三次世界大戦の勃発だよ!いや、アルマゲドン!!」
里山
「“最後の審判”ですか??」
磯田
「誰が?神を気取ってるんだ!!」
ジェンキンス
「Oh! my God!!」
■都内某所
男
「本当に良い子だ。予想以上の進化のスピードだ!!」
気狂いのような高笑いが、無音の部屋に鳴り響く。
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■2020年6月12日 北山順平の自宅(アパートの1室)
順平ベッドの中
朝目を覚ますと、死んだ様な静けさだった。
風の音と小鳥のさえずりだけが聞こえる世界。
生活音も騒音も何も無い世界。
昨日までの世界は終わり、今日から新しい世界が始まる。
そこには、ほんの一握りの人類が.....。