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豪華な宿舎

2話連続投稿しています。


4話目『閻魔補佐』からお読みください。

 照査室の奥に案内されて進むと宿舎へと向かう長い廊下が続いていた。


 その廊下にずらっと並ぶ扉すべてが他の照査室に繋がっているのだと和幸が教えてくれる。


「―――ねぇ、志貴さんってどれくらい偉いの?」


 私は沈黙を嫌い和幸に質問をぶつける。和幸は志貴さんの名前にわずかに顔を顰めるが、質問には答えてくれた。


「偉いも何も、志貴の言葉は閻魔の言葉ってくらいに・・・」


 和幸はそう言ってから、肩を竦めた。


「実際、志貴と閻魔直属の部下以外に今の閻魔の姿を見たヤツはいねぇ。あいつが閻魔じゃねぇかって言うヤツもいるくらいだ。まぁ、古参の連中が絶対に有り得ないって言って聞かせてるけどな」


「・・・どうして?」


「閻魔っていうのは、閻魔族と呼ばれる“この世界”に元から住んでる別の存在から選ばれるのを知ってるからだよ」


「別の存在って?」


「先住民みたいなもんだ。人間じゃねぇから存在って言ったけど、人の形はしてるぜ?―――最近入って来た連中は閻魔族を見たことが無いから志貴が閻魔じゃないか、なんて噂するんだろ」


 和幸の言い様だと自分は最近入って来たわけではないというふうに聞こえて、私は不意に彼等の年齢が気になった。


「一体いくつなの?和幸と志貴さんって」


「あー、そうだなぁ・・・。死んでからの年もプラスすると、俺が生まれたのが、1800年代だから―――」


「嘘!?今、2000年代だよ?すっごいお爺さんじゃない!!・・・っと」


 私は思わず叫んでから、慌てて手で口をふさいだ。


「へいへい、どーせ俺等はジジィですよー・・・。この機関でもかなりの古株にあたりますよー・・・」


 拗ねたようにブチブチと文句をたれつつ、和幸は私をうらめしそうに見やった。


「ご、ごめん。・・・つい」


 私は恐縮しきりで謝った。和幸は肩をすくめ、苦笑する。


「良いさ、慣れてるからな。・・・今、この機関にいる連中の半分くらいは、志貴が“死神だった”ときに連れてきた連中だ。俺もその一人」


「え、じゃあ、志貴さんっていくつで死んだの?」


「4つ上でさ、俺と同じで、18の時に死んだんだ。それだけでも作為的だと感じるだろ?」


 私は頷き、和幸の顔を見上げる。


「・・・死因って、聞いても良いもの?」


「――部屋に入ったら、教えてやるよ」


 私が遠慮気味に問いかければ、和幸は苦笑する。そして、【B・556】というプレートがかかっている部屋の前で止まる。


「ここがおまえの部屋だ」


 和幸が懐からカードのようなものを取り出してドアの脇のセンサーに通す。すると、機械音が鳴り自動扉が開いた。


 随分と先進的な作りになっているので軽くショックを受ける。


 自分の中にある死後の世界のイメージとのギャップに呆然としていると、和幸がポンと私の肩を叩いた。


「ほら、ぼさっとしてないで、入れよ」


「う、うん・・・」


 私は促されて、部屋の中に足を踏み入れる。


 部屋の中に入ったら、取りあえず周りを見回す。―――かなり広い部屋だ。


「ま、いつも清掃班が回ってくるからな。綺麗なもんだろ。今日からはおまえが掃除すんだぞ。当たり前だけどな」


「うん」


「食事は食堂でとる。メニューはいろいろあるぞ。・・・ここでは金の役目を果たすのはこのルームキーだ。これで食事の代金を払うって形になる。・・・無くすなよ?」


 和幸はそう言って、さっきのカードのようなものを私に渡してくれる。


「・・・食事、するの?」


 思わず訊ねた私に、和幸は肩をすくめた。


「あー、死んでるって言っても俺達は中間の者だからな。死んでもねぇし生きてもねぇ。一応、動力源は食べ物ってコトになってるが・・・実際、ここの食べ物が何で出来てるかは誰も知らない。知ってるとしたら、この世界の元からの住人である閻魔族くらいだな」


「古くからいる和幸も知らないことってあるんだ・・・」


 素直な感想を口にすれば、和幸はひょい、と肩を竦める。


「閻魔族だけが知るこの世界の事情ってヤツだな。ま、気にしだしたらキリがねぇから、そういうもんだと思っておけばいい。―――他にも必要なもんが出てくるだろうが、それも全部このルームキーで手に入れられる。趣味のものとかな」


「へえ、そうなんだ。・・・それにしても、家具も家電も全部そろってるのね」


「そりゃ、誰だって、少しでも快適に暮らしたいだろうが。そういう配慮くらいねぇと、やる気が失せんだろ」


「ん~、確かに。それでなくても、人外の力で殺されたってことで落ち込んでるんだもんね」


 私はそう言うと、続き部屋の奥の方をのぞき込む。まるで、高級ホテルのスイートルームのような内装だ。


「豪華~、一人で住むには広すぎるくらい」


「そうだな。でも、それに見合う仕事をするからな」


「そっか」


 和幸は私の“なぜなに攻撃”に苦笑をしながら、ここで暮らすための注意点などを教えてくれた。


 その中で私が一番驚いたことは、ここでは、望んだものすべてが手に入るということだった。


 和幸が例えたのは、高級なバッグや宝石類だったが、他にも思い出の品や無くしてしまった宝物でさえも手に入るというのだ。


 どういう仕組みになっているのかはわからないが、どうも、この世界を形成するものが影響しているらしいとだけ和幸は教えてくれた。


 こうして一通りの説明を受け終わり、私はリビング(といえる部屋)のソファーに深く腰掛けた。

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