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閻魔補佐

 現実逃避のようなことを考えていたら、不意に肩を掴まれる。


「里乃、大丈夫か?」


 見れば、和幸が心配そうにこちらを見ていた。案外、優しいというか、心配性なんだな。


 しかも、死神となる人達は皆同じ境遇なわけだし、他人事のようには思えないのだろう。


「あ、うん。ちょっと現実逃避を」


「・・・まぁ、わからないでもないけどな。死んだってだけでもショックだろうに」


 ああ、やっぱり優しい。“同情”じゃなくて、自分も経験したからこその“共感”。担当する人全員にそんな風に感情移入していたら、自分が辛いだろうに。


「和幸、貴方、やけに里乃さんには親身になるのね」


 んん?私、には?


 他の人には違う、のだろうか?


「別に、里乃が特別ってわけじゃねぇよ。ただ、突然死んで、死んだ理由すら不明って出るなんていうのはあんまりだろうが」


「それはそうだけど・・・いつもなら死神になろうがなるまいが、担当した相手には一歩引いた態度をとってるのに」


 訝しげにしている沙希さんに反論するでもなく、和幸はしれっと返した。


「――そうだったか?」


 どうやら、私は傍目には和幸に特別親身になってもらっているらしい。


「はぁ・・・まぁ、いいわ。どちらにしても死因不明の件は口外できないんだから、里乃さんの世話役は和幸になるのでしょうし」


「世話役、ですか?」


「ええ、死神になりたての人達には全員、世話役という名の教官が付くことになっているんですよ。色々と現世とは違いますからね」


 ああ、納得。


 まったく知らない場所に1人放り込まれて、勝手にやれなんていわれたら困るものね。


「えっと・・・よろしく、でいいのかな?」


「ああ、元々そのつもりでいたからな。・・・よろしく」


 ニッと笑った和幸は、ポンポンと私の頭を撫でる。なぜか、まったく下心を感じない“年下の女の子”の扱いに慣れているような触れ方だった。


 その後は、閻魔補佐について説明を受けた。昔は死神として働いていたというその人は、なんと和幸の実のお兄さんだという。


「ってことは、お兄さんも」


「ああ・・・人外の力で、な」


 兄弟揃ってってことは、複雑な事情があるんだろう。


 “本物”の力を持っている人がいるってことは知っていたけれど、それが他人を害する方向に使われていたなんて、あまり知りたくなかった。


 和幸が口ごもったのとほぼ同時に、照査室の奥のドアが開いた。


「待たせたね」


「――兄貴」


「志貴様」


 閻魔補佐の彼は、見たところ年齢は和幸とさほど変わらないように思えるが、彼の持つ落ち着いた雰囲気が少年というには成熟していて、確かにお兄さんだ、と納得した。


 顔はあまり似ていないように思うけれど、兄弟で似ていない人なんてごまんといるし、気にはならない。


「さて、貴女が里乃さん、ですか?」


 彼は、私の目の前にやってくるとニッコリと笑いかけてきた。


「あ、はい。はじめまして。秋波里乃です」


「はい、はじめまして。閻魔補佐の志貴と申します。・・・ところで、和幸は何か失礼なことをしませんでしたか?」


「い、いいえ」


 さらりと何気なく聞かれたけれど、和幸ってそんなに心配されるようなことばっかりしてるのだろうか?


「・・・おい。沙希といい、兄貴といい、里乃が勘違いするだろうが」


「何を勘違いするというんだい?お前がぶっきらぼうで冷たいのは事実だろう?・・・現にいつも連れて来られた魂はお前に怯えてるじゃないか」


「違うっつーの!アレは、俺に怯えてるんじゃなくて、死んじまったことに対して怯えてんだよ!!」


「はいはい。そういうことにしておこうか」


「そういうこと、じゃなくて、そうなんだって!!」


 仲は悪くないんだろうなぁ、仲は。志貴さんが一枚も二枚も上手なだけで。からかわれてるの、和幸は気付いているんだろうか。


 私が生温かい目で見ていたら、志貴さんとバッチリ目が合って、パチリ、とウィンクされる。・・・うん、お茶目だ。


「で、里乃さんの死因の件だったね・・・沙希」


「はい。サーチオーロラで読み取れないというのは未だかつてなかったかと思うのですが」


「ああ、そうだね。故障ではないようだけれど」


 沙希さんが示したモニターを見つめて、首を傾げる。


 本当の本当に大事のようだ。・・・私の死因だけが読み取れないなんておかしいだろう。


「その・・・私が覚えてる限りのことなら、話せるんですけど」


 言わないよりかはマシかと思ってそう口にすれば、志貴さんは首を横に振った。


「いえ・・・今は、口にしない方が良いでしょう」


「兄貴、まさか・・・」


「うん、そのまさかかもしれないね」


「志貴様、和幸・・・それって」


 沙希さんもそのまさかに思い当たったのか、眉を顰める。


「――やっぱり、里乃の世話役は俺じゃないとダメだな。それでイイだろ?兄貴」


「ああ、和幸がその気になっていてくれて助かるよ。・・・里乃さん、ふつつかな弟ですが、よろしくお願いしますね」


「あ、はい」


「待て待て!よろしくすんのは里乃の方だろうが!・・・ったく」


 またからかわれている。一々和幸が反応するのが面白いんだろう。まぁ、志貴さんがからかいたくなる気持ちもわからなくもないけど。


「とりあえず、里乃さんの死因の件は保留としましょう。・・・和幸、里乃さんを宿舎に」


「ああ、わかったよ・・・里乃、こっちだ」


 私は和幸に促され、一度宿舎へと移動することになった。


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