サーチオーロラ
和幸は私を魂を調査するための施設“照査室”へと連れて来た。
そこでバリアーのような光の幕をくぐると、次の瞬間にはまるで病室のような白を基調とした広い部屋の真ん中に私は立っていた。
「秋波里乃さん、前に進んでください」
「――あ、はいっ」
呆然と部屋を見回していた私は、目の前にある事務机に座るショートカットの女性に呼ばれ、ハッとして前に進む。
「私はあなたの調査の担当になった沙希といいます。調査を行う意味については、そこにいる和幸からお聞きになりましたか?」
「はい」
頷いた私を確認し、沙希さん(見た目が大人の女性なのでそう呼ぶことにする)は、事務机の方へ視線を落とす。
事務机には何やらモニターのようなものがはめ込んであり、それを見ているのだろう。
「まずは結果報告ですが、単刀直入に申しますと、貴女の寿命はもっと先に設定されていて、魂には何らかの術の痕跡が認められました」
沙希さんは慣れた様子で淡々と言う。
あまりにもあっさりと言われた内容に、思わず隣に立つ和幸に視線を向ける。
「えっと、調査するんじゃなかったの?」
「さっき光の幕をくぐったろ?あれで全部調査できるんだ。あー、なんつったっけか?」
「・・・“サーチオーロラ”よ」
和幸が聞くと、もう何回も聞かれているらしく、ウンザリとした様子で沙希さんは溜め息混じりに答える。
和幸はそう、それそれ。と言いながら私の方に向き直る。
「そのサーキンなんとかってのが、ぜーんぶ調べてくれるわけだ」
「サーチオーロラ!!!!」
ガタン、と立ち上がった沙希さんはギロリと和幸を睨みながら噛み付くように叫ぶ。
「わかってるって~、サーモンチキンだろ?」
「かぁ~ずぅ~ゆぅ~きぃいいいッ!!」
「へいへい。そんなに怒んなよ、沙希。サーチオーロラな?冗談も通じねえヤツは嫌われるぞ?」
「冗談も過ぎれば腹立たしいだけなのよ。程度ってものを知りなさい」
そう厳しい調子で言われたのだが和幸はひょいと肩を竦めるだけで、沙希さんの方に私を押しやる。
「で、こいつは死神になるってコトで良いんだろ?」
「ええ。でも・・・おかしいのよ」
そう言った沙希さんの眉間にしわが寄っていて、モニターをしきりに操作している。
「何がおかしいんだ?」
「里乃さんの魂魄データに不備はないはずなのに、死因が不明と出るの」
「は?」
「不明?・・・あの、サーチオーロラって、死因とかも調べられるんですよね?」
少なくとも、そうじゃないと死神にするかどうか、この場で決められないだろうし。
「ええ、調べられるわ。死神にするかどうかを決めるために必要だから」
案の定、そう答えてくれた沙希さんは不安そうな表情をする。死因がわからないなんて、初めてのことだからだろうか。
「サーチオーロラの故障ってわけじゃないよな?」
和幸が首を傾げる。
「和幸の魂魄データはいつも通りスキャンしているから・・・故障ではないと思うのだけど」
「そうか・・・」
2人が深刻な表情をうかべることに不安を感じる。
私の魂には何らかの術の痕跡があるのに、死因が“術によるもの”と出ないのはおかしい。
「里乃さん、私達もこんなことは初めてで説明が難しいので・・・上司を呼びますね」
「上司?・・・なんか、会社みたい」
「そうだな、閻魔を頂点として補佐という名の直属の部下がいて、その下に死神長、ヒラの死神っていう形だな」
単純ではあるが、会社のような組織体系だ。
だが、組織である以上、そういう形は必要なんだと思う。じゃないと皆がバラバラに動いて、滅茶苦茶になっちゃうだろうし。
「それで、これから来る上司っていうのは、その死神長さん?」
ニュアンス的には直属の上司っていう感じだったのでそう訊ねれば、沙希さんは苦笑いした。
「確かに直属の上司を呼ぶなら死神長なのだけれど、こと、サーチオーロラに関しては閻魔補佐の管轄なんです」
ということは、上から2番目に偉い人が来るってことで・・・。
「なんていうか、コレって、大事ですか?」
「大事、ですね」
「・・・大事だな」
ものすごく面倒なことになっている気がする。
ああ、コレがすべて夢であったなら、どんなに良かったか―――。




