死神に出会う
気が付いた時には、私は空中散歩をしていた。
これは夢、だろうか?そう考えた時、目の前に突如黒い影が現れた。
実家の職業柄か“それ”が何なのかわかってしまった私は、とっさに身を翻し、その影から逃げた。
“それ”は死神と呼ばれるもの。死神が迎えに来た、ということは・・・私は先程の3人に殺されてしまったのだろうか?それにしては、痛くもかゆくも無かった気がするが。
とにかく目を合わせてしまえば終わりだ。私はひたすら逃げ回る。
『里乃・・・里乃・・・』
逃げても逃げても、死神の声は追ってくる。
――― 怖い・・・怖いっ怖いっっ!!
恐怖が頭の中を占めて、それだけしか考えられない。
「チッ・・・里乃っ!逃げんなてめぇ!!」
と、死神の口調ががらりと変わり、その怒声に身がすくんでしまい、死神に腕を掴まれてしまった。
「・・・ぃやっ!」
私は反射的に振り払おうとして振り返り、死神と目を合わせてしまう。
彼への第一印象は“若い”だった。黒髪に切れ長の目の同年代の少年(に見える)。黒ずくめなのは死神だからか。
「捕まえたぞ・・・、死神と目を合わせたら、それで“オシマイ”ってのは知ってんだろ?」
彼は私に言い聞かせるように告げた。
「・・・」
確かに知っていた。知っていたから逃げたのだ。そして、目が合った瞬間に私は諦めた。もう逃げても意味がない、と。
彼は諦めた様子の私に気遣わしげな視線を向け、それでも、自分の役目を果たさんと私の腕を掴んでいた手を手首の方まで下げ、グイ、と引く。
「よし!じゃあ、行くぞ」
「――ま、待って!!い、行くって・・・あ、あの世に?」
と、私は焦って聞かなくても解ることを聞いてしまったのだが、彼は嫌がる素振りも見せずに答えてくれた。
「ああ、あの世、天界、天国、霊界、いろいろ言い方はあるが、そこだ。・・・まぁ、フツーは直行するんだが、里乃達みたいな若い連中は特別、そこに行く前に“調査”される」
「調査?」
私は思わず聞き返していた。
「・・・何で鬼籍に載っちまったのか、調べんだよ」
死神は天を仰ぎながらぽりぽりと鼻の頭を掻く。あまりにも人間らしい仕草に、私はこの死神に親近感を覚える。
「でも・・・結局はあの世行きでしょ?」
そこは変わりようのない事実ではないだろうか。いくら調べたって、死んだ者は生き返らない。
「――いや、場合によっては死神になって、実働部隊か調査部に配属されることもある」
そう答えた死神に私は驚いた。
「じゃあ、死神、あなたも?」
死神は眉をひそめて不快げに私を見る。
「死神って呼ぶな!俺にだって名前くらいある。和幸って呼べ。・・・俺も、18で死んで調査の結果によって死神の実働部隊になった」
彼も若くして死んだのか・・・ますます私は彼に親近感を覚えた。と同時にその言葉に疑問を持つ。
「調査の結果って?どんな結果が出ると死神になるの?」
「簡単に言うとだな・・・呪殺や生け贄、身代わりで死んだ場合だな」
呪殺や生け贄・・・物騒な言葉が並ぶが、実家が実家だけにそれは私にとっては聞き慣れた言葉だった。
「・・・それって、人外の力によって殺された人ってこと?」
「ああ、そうさ。こうして半死半生みたいな生活してんのは、生き返れるわけじゃねぇからだが・・・。
ちなみに、実働部隊の仕事は鬼籍に載ったやつの迎えで、調査部はこういった事例の調査や鬼籍の管理だな。
で、どっちも復讐が可能、っていうのがちょっとしたご褒美だな」
死神―――いや、“和幸”はそう言ってニヤリと笑う。まるで、それが目的で死神になった、とでも言うように・・・。
「私はどうなるの?」
「きちんとした理由があっての死亡ならソッコーあの世行き。けど、俺にはどーもおまえがフツーに死んだとは思えねぇ。多分、死神になるのは間違いねぇな」
和幸はそう言うと、私の頭を軽くこづく。
「無駄話はここまでだ。行くぞ」
「う、うん」
私はあの世に連れて行かれることは変わらないというのに、さっきまでの恐怖が嘘のようになくなっているのに気がついた。
それは死神とは思えない“和幸”のおかげかもしれない。




