07 味方はいないのか?
俺の顔を見て、彼女はくすりと笑った。
「言いたいことは、何となく分かるかな」
朽原摩耶。
双子の姉の方だ。
すぐとなりに妹の沙耶もいる。
金曜日を迎え、一ノ瀬を危険性を再認識した俺は、なんとか協力者を探すことにした。
わかっていることは一つだけ。
妹の方が、ノノカと同じクラスということだ。
どうにか二人の協力を得ることが、今の状況を少しでも好転させることができる。
授業を終えて、学園内の公共広場でなにやら話している双子を見つけた。
幸い一ノ瀬もいない。
ゆっくり近づく俺に、先に気づいたのが姉の摩耶だった。
「なら話は早い。一ノ瀬をノノカから遠ざけて欲しいんだ。協力してくれ」
こいつらはいっつも一緒に行動している。
姉の方は、よく手入れされた長い髪を綺麗にまとめ、ツインテールにして垂らしている。
妹の方はというと、長い髪をそのままに、あまり手入れもせずざっくりと広げている。
双子で顔の形や背格好も同じなのに、シルエットはほとんど別人。後ろ姿だけでどちらが誰かすぐわかった。
アイドルをしているだけどちらも整った顔立ちをしているので、見栄えいい。
なのに妹の方は出会った途端にキツイ目つきで、俺を睨んできた。
カサネの奴は、こいつのどこが気に入ったんだ?
姉の方がまだ愛想がいいと思うのだが。
「私達もユキエの暴走についてはよく知ってるから、カズキくんが心配するのは仕方ないよね。いっつもあの子は行き過ぎたことしようとするもの……」
「やっぱり、あいつはなんかやらかしてんのか……?」
俺が眉根を上げると、「カズキくんが心配するようなことはしてないよ」と言って、摩耶は含み笑いをした。
「あの子だって、分別はあるもの。人前では醜態は見せることはないから」
いや、俺の前ではかなりドン引きな行動をしているのだが……。
俺のゲンナリとした表情を見て、摩耶はくすりとまた笑った。
人前に出ることをしているだけにどのような表情も様になっている。
もし、これが自然にできる演技だとしたら、確かに偽装パートナーとして十分通用するかもしれない。
普通の生徒だと偽装パートナーとしての演技に不安が残るところだが、見られることを意識できる人間とならば組んでもいいと思わせる。
ジュンの判断も間違いではないのかもしれない。
「どうしようかなぁ~私は協力してあげてもいいんだけど……」
摩耶は曖昧な返事をしながら、意味ありげに沙耶をチラリと見ていた。
当の妹は、腕を組んで相変わらず俺を睨みつけている。
んだよ、俺はあんたとはほとんど初対面なんだぞ。
んな、睨みつけんでもいいだろうに。
「あたしはイヤ。なんでこいつに協力しなきゃなんないの? 必要ないでしょ。自分だけでやりなさいよ」
むむむ……。これはキツイお言葉。
一番強力を得たいのは妹のほうなんだが、なぜか俺はすでに嫌われているらしい……。
「あたし、友達を裏切るような人だいっきらいなの。自分だけ得をしようとして嘘をついたんでしょ? そんな奴に協力なんてできない!」
ぷいっと顔を背けられた。
そうか、妹はカサネと繋がってるんだよな。
俺がノノカのことを黙っていたのを、自分のために嘘を吐いたってことになって伝わっているわけか。
まあ、あながち間違ってないけど……。
「まあまあ。――サヤだって、ユキエが暴走して他の人に迷惑を掛けるのは見たくないでしょ? ユキエが学園側に目をつけられて、退学にさせられたら可哀想じゃない」
「そりゃあ、そうだけど……」
「野々香ちゃんのこと、ユキエに伝えたのサヤなんだから。今回の暴走の責任はサヤにもあるんだよ」
「な、なによ……。あたしが悪いわけじゃないもん……」
摩耶に責められ、沙耶はどんどんしおれていく。
いいぞ、もっとやれ。
妹さんには悪いが、今の俺には少しでも協力者が必要なんだ。
罪悪感を煽って協力して貰えるなら、願ってもない。
あとひと押しってところだ。
ここで低い条件を提示すればきっと乗ってくれるはず。
「朽原さん。君たちには一ノ瀬とノノカが二人っきりになるような状況を作らないように注意してくれればいいんだ。とりあえず、それだけで大丈夫だから」
俺は優しく微笑みかけた。
しおれた花に優しく水を上げるのは紳士の心得。
これで妹さんも俺に心を開いてくれる。
俺には確信があった。
「なによ! 勝手に協力する前提で話を進めないでくれる! あんたの提案なんか、ぜんっぜん乗る気ないんだから!」
……あれ……ミスった?
噛み付きそうな表情で沙耶が唸る。
その隣では同じ顔を持つ摩耶が憐れむように苦笑している。
俺も同じように苦笑し、肩を落とした。
早まった。もっと引き寄せるべきだったか……。
「人に協力を頼むんだから、あなただって私達が困ったときには協力してくれるんでしょうね」
「そりゃ、もちろん! 協力してくれるならなんだってしてあげるよ!」
売り言葉に買い言葉。
気持ちが落とされていたもんだから、考えもなしに言葉が飛び出てしまった。
すると途端に双子の表情が揃った
さっきまであんなに別々の顔をしていた二人が、同じ表情を浮かべている。
「「そっか、それはいいことを訊いたわ」」
綺麗なステレオ音声が俺の耳に届いた。
一瞬のブレもない。
始めっから準備されていたような完全に一致した音声。
――あれ? そういえば、さっきの協力しろって言ったのどっちだ?
ん?
おや? あれ? これはもしかして、あれかな?
頼みごと以上にとっても厄介なことが待っているっていう、例のあれかな?
Σ(・∀・;)
頑張ります!