02 ゲームってなんだ?
恋愛ゲーム。
俺たちが入学式に課せれられたこの学校の最初にして最大の課題だ。
『選択肢を選んで女の子を口説き落とし、最後は恋人になる』とか『自身のパラメーターを上昇させてデートにこぎつけ、最後は相手に告白させる』なんていうゲームの一ジャンルとはわけが違う。
まずは恋人を作る。
学園が定めた健全な交際のもと、学園が定めた健全な学園生活を営み、学園が定めた画期的な課題を二人で乗り越えていき、学園公認のベストカップルとして表彰されることでクリアとなる。
なんだ、ゲームと変わんねぇじゃねえか。
そう、変わんねぇよ。
実際の人間同士でやらされる以外はな。
生徒たちは入学式の校長の挨拶で初めて聞かされ、互いに顔を見合わせ、すぐに顔を背けた。
なんじゃそりゃぁぁぁあ!
一気に、男子と女子との間で温度差が生まれたのは言うまでもない。
校長は学校内で恋人を作ることを強要し、パートナーをいつまでも見つけない生徒は今後の学園生活に支障をきたすことになるだろうと脅しまで付け加えた。
普通の学校ならこんなふざけた方針を打ち出す校長およびその職員は即刻クビか、教育委員会に突き出されるのが落ちだろう。
だが、この学園ではそれが通用しない。
この学校は、市や県などの県庁所在地運営の学校法人ではない。
企業が運営する株式会社立高等学校という制度を利用した超巨大組織なのだ。
昨今、少子化により学校に通う生徒自体が減少した。度重なる経済状況の悪化により、学校自体の数も減少。政府は、規制緩和を行い大企業による学校誘致を推し進めた。
結果、ある世界的大企業が名乗りを上げた。
世界中のネットワークビジネスの頂点に立つその企業は、自由な発想と開放的な経営戦略で名を知らぬ者はいない知名度を誇り、革新的な事業展開で知られていた。
新たな戦略の一歩として学校経営に乗り出したその企業は、足がかりとして日本を選んだ。
学園卒業者には優先的に親会社への入社が優遇されるという触れ込みは世界中から入学申し込みが殺到し、当然日本の子を持つ親たちもその学園への入学を熱望した。
あまりの入学希望の多さに学園側は様々な規制を提案。
その規制は学園の内外にも渡り、もとより全寮制だった学校内部は独自の経済システムが動くまるで一個の小国と化した。
この学園内での決まりごとは絶対。
すこし行き過ぎと思える校則であっても、あの企業へ入社するための条件と考えれば仕方ない、という麻痺した思考が子を持つ親たちの間に浸透し、学園は変人と称される校長・二四三屋ハルバートンによる恋愛と経済の相互教育が実現した。
とばっちりを受けた生徒たちはいい迷惑――どころの話ではない。
まさに今後の人生を賭けた死活問題へと発展していった。
「話の続きをしてもいいかしら?」
ニコニコといい笑顔だ。
授業を終えた俺らは、一ノ瀬由紀恵に連れられ生徒用の自習室に流れ込んだ。
広い学園内は、いくつもの自習室が存在している。
鍵は電子ロック式で、生徒手帳を扉に向けると開くようになっている。
開けた生徒及び扉を通過した生徒はスマートフォンである生徒手帳のデータを読み取られ、誰が入って、誰が出たかを逐一記録される。
会議用に使うテーブルを囲み俺たちは三対三で向かい合うように座った。
「で、いったい何の話をするんだ?」
「なにって、恋愛ゲームの必勝法よ」
この女は見掛けによらず馬鹿なんだろうか。
恋愛ゲームの最も困難な問題。
それは【学校の定めた健全な交際】という項目だ。
学校側からは、なにが健全でなにが不健全か示されていない。
恋人を作っても、どのように接していいのかわからないのだ。
恋愛ゲームには、減点・加点の両方がある。
間違った交際をすれば減点され、純粋と称される交際をすれば加点される。
得られた点は、直接生活に反映される。
RMT(現金化)されるのだ。
GP(学園ポイント)と呼ばれる生徒達に与えれている学園内での生活資金は、授業を受けたり委員会や部活動、ボランティアに参加したりするなど学園に貢献することで自動的に付加される。
特にそのポイント率が高いのが恋愛ゲームによるポイントの付加だ。
恋人を作ればポイントが発生する。
だが、不純な交際が発覚すれば、当然減点される。
減点されるポイントが得れているポイントより上回ってしまった場合、恋人を作る前より悲惨な状況になってもおかしくない。
そんな状況が続き、GPが0になった場合、生徒は強制退学になる。
恋人を作るのは諸刃の剣。
作らなければいいじゃないかと思う奴もいるだろう。
校長が言った通り、パートナーを作らない生徒は今後の学園生活に支障をきたすことになる、というのは嘘じゃない。
この学校のイベント事はすべてパートナーとの共同活動がある。
パートナーがいなければ参加できないし、参加しない生徒はペナルティが発生する。
ペナルティは、他のマイナス項目と比べ物にならないほどデカイ。
2、3回ペナルティを喰らえば、退学は免れないほどだ。
だから、生徒たちは躍起になる。
パートナーを見つけだし、なんとしてもゲームに参加できる条件を揃えて置きたい。
でも、早過ぎるとどんな交際をしたらよいのかよくわからない。
だったら誰かが恋人を作ってから動き出そうか。
い~や待て、そんなの待っていたら、ちょっといいと思ってるあの子が他のヤツとくっついてしまうかもしれない。
でも、もし告白してフラれたら、もう目も当てられないじゃないか。
いやいや、待っていたら恋人がいないままでペナルティを免れられない。
うわぁぁぁあ、どうしたらいいんだぁぁぁああああ!!
――とクラスの空気は異常に重いまま、今の状況にたどり着くのだ。
書いていて気づいてのですが、この作品某嘘つきゲームというより、同じ漫画家さんの詐欺野球に近い感じになりそうです。規定されたルールに対し主人公がどのようにして裏をかくかを描いていきたいと思います。