00 入学前の疑惑?
目指すは、純粋なライトノベル。某嘘つきゲームのような作品にしたいですが、数字に弱い自分はがどこまで矛盾なくできるだろうか…。
【生徒心得】
総則
本校は不純異性同性交遊を禁ずる。
なお、純粋異性交遊は積極的に推進するものとする。
※ 極堂学園 生徒手帳より抜粋
「入学おめでとぉう、受験生♪」
振り返ると、金髪のツインテールが俺の目の前を占領していた。
大きな瞳が、クリクリと俺の顔を見詰めている。
学園指定と思われるセーターをわざと着崩し、袖をぷらぷらと振って見せている。
やんわりと膨らんだ胸元に赤いリボン。これは今年度の一年生ということを表していた。
つまり、俺が入学した時、この人はすぐ上の先輩になるわけだ。
「ありがとうございます。先輩」
失礼にならないよう、儀礼的に頭を下げた。
今後お世話になるかもしれない相手だ、好印象を与えておいて損はないだろう。
「入学式はまだ早いよ。合格発表を見に来たわけじゃないだろうし。ああいうのは郵送で来るもんでしょ?」
「いえ、まあ、ちょっと野暮用がありまして……」
寒暖の差によって現れた薄いモヤに紛れながら、俺は学園の中をさ迷っていた。
春休みのまっただ中とはいえ、見慣れない中学生が校庭を歩いていれば、やはり目立ったのだろう。
先輩は、興味津々で、目を輝かせている。
来た理由をはっきりとしゃべることはできないし、かといってこう突然声をかけられる、適当にでっち上げた言い訳も頭っから出て来ない。
しかたなく俺は、頬を書いて目をうろつかせていた。
「ふぅ~ん。なるほど、やはり君はかなり優秀な人なんだ」
「へっ? いや、そんな訳では……」
こちらの理解を飛び越えて、目の前の美少女――いやいや先輩は妙な納得をしてしまった。
「謙そんする必要はないよ。君はかなりの有名人だもの。一橋一樹くん」
突然、名前を言い当てられ、俺は目を白黒させた。
どうやらこの先輩は、特徴的なその髪型から毒電波を受信し、人のフルネームを言い当てることができるらしい。
「どうして俺の名前を知ってるんですか?」
「だから言ったじゃない。在校生の間ではかなり有名なの。今年の【奇策試験で唯一生き残った男】としてね」
俺をたたえるように満面の笑顔で答えてくれる。
俺の頬まで緩みそうだ。
「ひとつの樹の橋ってことは、つまり……丸太ってこと?」
「その呼び方は、やめてください」
久しぶりの呼び方に俺は眉をひそめた。
毒電波よ。俺の裏のあだ名まで晒さないでくれ。
俺は、容赦なく睨みつける。
「あはは、ごめんごめん。マル太くん」
ダメだ。美少女には、効果がないようだ。
「で、どうなの? 最後まで【童貞】を守って生き残った感想は」
「いや、あれはたまたま運が良かっただけで――」
「たまたま? たまたまで合格できるほど、生やさしいものじゃなかったはずだけど?」
目を丸くした先輩が――これまた可愛い。
いや、あれはたまたま偶然。運が良かっただけだ。
奇策試験の内容が明かされた時点で、俺は敗北を覚悟した。
だが、奇跡が起きた。奇跡が俺をこの学園に招き入れた。つまりは、この学園の神様が俺に入れと告げたのだ。
先輩は俺の説明では納得できないと眉間にシワを寄せて顔を近づけてくる。
少々甘い香りをさせてくる。これはもう反則ものだと思う。
「いや~、あれで実際に童貞を喪失した奴はいなかったんですから、感想も何も――」
試験により童貞を喪失した不幸(?)な奴はいなかった。単純に受験生を苦しめただけだ。
俺も苦しんだわけだし、生き残ったからといって自慢できるもんでもなかった。
「ふ~ん、そう……なんかつまんない。もっと面白いコメントが聴けると思ったのになぁ……」
先輩の表情はものすごく暗い。ただならぬ同情を感じる。
いや、同情されているというよりも、むしろこっちの方がいたたまれない。
「この学校って酷いよね。多感な中学三年生の、それも受験を控えて悶々とした状態の学生にあれだけの仕打ちをしておいて詫びの一言もないんだよ。そんでもって、それを使って合否をはかるっていうんだから。人によってはトラウマになっても不思議じゃないよ。実際、この――」
「あ、あの先輩。――そろそろお暇してもよろしいでしょうか……?」
饒舌に語り始めた先輩に横槍を入れる。
不意に表情が元に戻った。
「ごめん、ごめん。マル太くんも忙しいよね」
「いや、だからその呼び方はやめてください」
俺が再度忠告しても、先輩は聞く耳を持たない。
美少女だから、仕方ない。
明るい表情に戻った先輩は、俺の手を握ってブンブンと振り回した。
「それじゃあ、マル太くん――4月からも頑張ってね!」
「ええ、まあ……。その、ありがとうございます」
「ちなみに、あたしの名前は、泉谷奏二郎っていうの。奏ちゃんて呼んでね」
「ソウチャン……ですか?」
普通、ソウジロウって男の名前だろう……。
俺の笑顔がけいれんしたように引きつっているのが分かった。
やめようとしても、押さえきれるもんでもない。
「男みたいな名前だと思った? そりゃあ、あたし男だもん!」
フリル付きスカートを翻し、俺の先輩は校舎へと駆けて行った。
これからの学園生活にただならぬ不安を残して……。