月夜? それなら元の世界へ戻ろう!
月歩と庄太が陽菜の悲鳴を聞いて向かうと、森の中で陽菜を抱えて歩いている笠と蓑を羽織った何かが居た。
「あれが神様?」
「分からない」
陽菜は化け物に抱えられて必死に暴れているが、化け物はまるで離す気配が無い。
体の何処を蹴られても、耳を塞ぎたくなる様な悲痛な叫びにもまるで頓着する様子は無い。
心など持たない様に、陽菜を抱えて歩いている。
庄太は足が震えている事を自覚した。
無慈悲な怪物だとは思っていたが、想像していたのは何やら大きくおどろおどろしく如何にも化け物然とした怪物だった。
それが目の前に居るのは、一見人の姿でありながら、それでいて人の心などまるで無い様に、子供を攫うという狂気を孕んでいる。
人の様で、絶対に人じゃない化け物。
庄太が思い浮かべていた怪物などより余程恐ろしい怪物がそこに居た。
気が付くと月歩が化け物の後を追いながら、こちらを振り返り振り返りしていた。
庄太がその視線に気が付いて、震える足に鞭を打って、転げそうになりながらも、何とか音を立てない様に、注意しいしい月歩の後を追った。
化け物の歩みは酷く遅い。
山道に不慣れな月歩や足の震える庄太等よりも更に。
二人はあっさりと追いついたが、庄太はそれからどうすれば良いのか分からなかった。
化け物は大人位の体格をしていた。丁度、庄太の父親位の背丈で、虚弱な庄太が飛び掛かったところで怯ませる事すら出来なそうだ。
それに陽菜が幾ら暴れても取り落とさない力強さも備わっている。
闘っても勝ち目は見えない。
「庄太君、木に登れる?」
ふと月歩から声を掛けられてそちらを向くと、月歩は両手で持てる位の石を重そうに持ち上げながらこちらを見つめていた。
「あの神様の先に木があるからそれに登って、上から石をぶつけて。そしたら私が陽菜を取り返すから」
月歩の指した指の先には、神様の進行方向に立つ黒い木が見えた。
確かにその上から石を落とせば怯ませられるかもしれない。
どこまでも冷静に月歩は状況を把握していた。
何も考えられなかった庄太とは違い、月歩は陽菜を取り返せる方法を考えていた。
自分はただ震えている事しか出来ないのに、何でこんなに落ち着いていられるんだろうと疑問に思うが、聞いていられる状況ではないし、情けなさを感じる余裕も無い。
言葉も出ずにただ頷くと、月歩は石を抱えて、黒い木に向かった。
庄太もその後ろに付いて、化け物を追い抜かし、黒い木に登った。
登ってから、月歩の捧げる石を預かり、息を殺してじっと化け物を見つめた。
もしかしたら木に登るところを化け物に見られてしまったのではと恐れたが、化け物は相変わらず真っ直ぐに木を目指して歩いていた。
心臓を高鳴らせながら庄太は機会を窺った。
恐らく化け物は黒い木を目印にして歩いている。
だから途中で曲がる事は無い。
そして黒い木まで来たら、一旦立ち止まって別の目印を探すはずだ。
その止まった一瞬に石を落とせば当てられる。
月歩はその場から離れ、近くの藪に身を隠していた。
丁度、化け物の歩みに掠める位の場所で、化け物が一歩ぶれれば見つかってしまう様な場所だった。
月歩の大胆さにはらはらしていると、化け物は幸いな事にぶれる事無くこの黒い木を目指して歩いてくる。
抱えられた陽菜は尚も暴れているが、化け物は全く意に介さない。
がさりと陽菜の足が月歩の藪を蹴り飛ばした。
けれど月歩は動じずに、藪の中に屈みこんでいる。
何で、あんなに落ち着いていられるんだろう。
庄太の心は荒れ狂っているのに、その違いは何だろう。
言い知れぬ感動だか絶望だかによって月歩に目を奪われていると、ずっ、ずっと化け物が足を引きずって歩く音が聞こえてきた。
庄太が月歩に見惚れている間に、化け物はもう黒い木の手前までやって来ていた。
陽菜は暴れるのを止めて、黒い木を見つめている。
そろそろ化け物が止まる。
庄太はそう考えて身を固くしたが、化け物の方は一向に足を緩めない。
このままじゃぶつかる。
庄太が驚いて見つめている内に、化け物は段々と黒い木に近付いていって、そしてその脇に抱えられている陽菜の頭がゆっくりと黒い木に吸い込まれていった。
庄太が呆然としている間にも、陽菜の頭はどんどんと吸い込まれて、頭が完全に埋まってしまった。
その時、藪を鳴らす音が聞こえ、見ると月歩が飛び出して、化け物へと走り寄っていた。
咄嗟に自分の役目を思い出し、庄太は石を落とそうと下を見て、足を踏み外した。
ぞっとした時には化け物の笠が間近に迫り、目の前が真っ白になったのと、痛みの伴った鈍い衝撃が同時で、気が付くと吐き気のする痛みを額に感じて、地面の上に寝転がっていた。
隠れている藪が荒らされて、月歩は身を固くした。
月歩からでは神様と陽菜の姿が見えない。
まさか神様に見つかったかと思ったが、それっきり陽菜の暴れる音が過ぎ去っていった。
安堵して、月歩は何時でも飛び出せる様に身構えた。
陽菜を助ける。
月歩の心には今それだけしかなかった。
今まで陽菜には助けられてばかりだった。
どんな時でも陽菜は月歩の盾になってくれて、月歩はその陰に隠れていた。
嬉しかったけど、嫌だった。
助けられるばかりで、助けてあげる事の出来ない自分が情けなくて悲しかった。
陽菜が苦境に陥っても、月歩が助ける事が出来なかった。
陽菜はほとんどの苦境を乗り越えてしまうし、陽菜が乗り越えられない苦境を月歩が何とかする事なんて出来なかった。
先生に怒られても、喧嘩をしても、転んでも、テストで悪い点を取っても笑っている陽菜。
先生に刃向い、男子と闘い、傷を負い、親に怒られる陽菜を助けられない自分。
どんな時にでも月歩は陽菜に守られるだけの存在だった。
それが嫌だった。
陽菜を助けたい。
陽菜の為に何かをしたい。
許婚を嫌がって陽菜を見た時にも、何とか許婚を止めさせたいと思っていた。
けれどどんなに考えても、止める方法は浮かばない。
何時まで経っても月歩は何も出来なくて、ただ守られるだけの存在。
それが嫌だった。
何時か、自分に何か出来る事があったら、例え死んだって陽菜の為にやり遂げよう。
そう思っていた。
今がその機会だ。
藪から顔を出すと、神様と陽菜は黒い木の近くに居た。
あれなら庄太の石が当たるだろうと期待したが、何か様子がおかしい。
良く見てみれば、神様は止まる様子が無く、木へと突き進んでいる。
まさか、木にぶつけて陽菜を殺してしまおうとしているのだろうか。
そう思った時には、月歩は藪から飛び出していた。
何の勝算も無かったが、身体が勝手に動いていた。
何としても陽菜を取り返さなくちゃ。
もう滅法に神様を見据えて走っていると、凄い音がして突然神様の身体が崩れ落ちた。
驚いた拍子に止まると、何故か月歩の足元に庄太が転がってきた。
月歩は何も分からなかったが、目の前の木から陽菜の足だけ出ているのを見て、庄太を飛び越え、その足を引っ張った。
初めこそ何かに引っかかった様に動かなかったが、すぐに引っかかりが取れた様で、更に力を込めて引っ張ると、中から足を持ち上げられて手だけで身体を支える陽菜が飛び出してきた。
「陽菜!」
月歩が足を離して陽菜の顔を覗き込むと、陽菜は呆然とした面持ちで、月歩を見返してきた。
やがて陽菜はすぐに何があったかを悟った様で、月歩に抱きつく様にもたれかかって体を起こすと、近くにあった石を拾って、陽菜の背に縋っていた神様の手を叩き潰し、月歩を引っ張った。
「逃げよう!」
「うん」
途中、倒れている庄太を助け起こし三人で走っていると、後ろから地響きの様な唸り声が聞こえていた。
振り返ると風が迫っていた。
黒い闇の向こうからぼやけた塊が、草を押し退け木を払い、三人の元へと一直線に飛んできた。
初めに月歩が二人を庇って前に出た。
それを庇う形で陽菜が更に前に出て、庄太が二人の間に割って入ろうとした時に、突然横合いから白く煌めく光の粒が化け物めがけて舞いあがった。
「庄太! 何だぁ、こいつ!」
後を追う様に悪がき達が藪から飛び出して庄太達を守る様に化け物と対峙した。
「あんた達、何でここに居るの?」
陽菜が聞くと一番体格の良いのが、
「祭りを見ようとしてたんだよ。そしたら悲鳴が聞こえて。で、こいつがおったな様なのか?」
「多分、僕は、そうだと思うけど」
「良し!」
一番体格の良いのは頷くと、懐から袋を取り出して、中身を掴み、化け物に浴びせかけた。
月に照らされた光の粒が化け物に当たると、化け物はうめき声を上げて後ろに下がる。
「おったな様は塩に弱いんだとよ。勿体無いけどな」
悪がき四人はしばらく塩を振りかけ続け、やがて塩が無くなったと見えて手を止めて、蹲る化け物を見下ろした。
「死んだかな」
「あれだけ掛けたんだから」
突然、化け物が起き上がった。
唸る声が怒りと共に辺りに撒き散らされて、皆の身体が恐怖に固まり動けなくなった。
更に高く、強い吠え声が化け物から立ち上った。
その声だけで命が取られかねない位の強い恨みが犇めく様に満ちていく。
初めに正気付いたのは陽菜だった。
「みんな逃げて!」
その言葉に突き動かされて、皆が一斉に後ろへと駆け出した。
悪がき達が藪を掻き分ける後に続いて庄太と月歩と陽菜が森の中を走り抜ける。
ところが、陽菜が草履に引っかかって転んでしまった。
それに気が付いて月歩と庄太が立ち止まり、後ろの異変に気が付いた悪がき達が最後に躊躇いがちに振り返った。
化け物が藪を掻き分ける音が聞こえてくる。
「逃げて!」
倒れた陽菜が叫んだ時には、化け物が追い付いて来て、今にも陽菜に飛び掛からんとしていた。
陽菜が再び逃げてと懇願したが、聞かずに月歩が化け物へと駆けた。
「陽菜は私が守るから」
そう呟いて走っていく月歩を見て、庄太は近くの棒を拾い上げて、その背中を追った。
二人は陽菜を越えて、月歩は陽菜を守る為に化け物の胸元へと肩を突き出し、庄太は月歩を助ける為に棒を振り上げて化け物へと躍りかかった。
月歩の渾身の突進も、庄太の我武者羅な振り下ろしも、化け物の速度を緩める事無く、化け物が虫を払う様に振るった手が二人を易々と吹き飛ばした。
陽菜がその光景を見て悲鳴を上げた時、その横を悪がき達が通り過ぎて、化け物の元へと走った。
一番体格の良いのがまずぶつかって化け物を揺るがす事無くあっけなく倒された後から、化け物の肩口に一番ひょろ長いのが鎌を思いっきり振り下ろした。
さすがに堪えたと見えてうめき声を上げた化け物へ、残りの二人が体当たりを加え、体制を崩した化け物の胸にひょろ長いのがもう一度鎌を振り下ろして、化け物は空気の抜ける様な呻きを発して倒れ伏した。
「死んじゃったの?」
月歩の言葉に誰かが答えようとした時に、化け物の身体が僅かに震えた。
「いや、まだだ!」
慌てて振り下ろされた鎌を化け物がしっかりと掴み、奪い取って立ち上がろうとするも体が傾げて倒れた化け物を見て、皆は再び逃げ出した。
倒れて起き上がれず追ってくる気配は無いが、何時再び起き上がって襲ってくるか分からない。
「どうしよう」
「俺の鎌は効いてたよ。何も効かない訳じゃない」
「でも、他に武器なんて」
「冷蔵庫は何処?」
陽菜の言葉に全員の視線が集中した。
「冷蔵庫って何だ?」
「庄太君が昨日言ってた場所。この山には冷蔵庫の洞窟があって、おっきな氷柱があるって」
「お冷の穴の事か? 確かにあの氷柱なら」
「何処?」
悪がき達が進路を変えた。
ほどなくして、木の生えていない空き地の中央に木の柵で囲われた穴倉が見つかり、陽菜が真っ先に入って梯子を降りると空洞が広がっていて、確かに昼間に見た氷柱とは比べ物にならない大きさのものが天井から垂れ下がっていた。
陽菜は手ごろなのを見付けて、続いて降りてきた悪がき達に伝えると、一番体格の良いのが鎌を使って切り出しにかかった。
陽菜は落ちていた棒とロープを探し当てて、丁度切り終えたところへ持って行くと、一番体格の良いのが氷柱をロープで棒に巻き付けて、更に持っていた手拭いで縛り滑らない様にして、簡単な槍を作り上げた。
氷で出来た透明な殺意がその切っ先を尖らせて獲物を待ち望んでいる。
殺す事だけを考えた道具に、陽菜は一瞬身震いしたが、すぐに寒さの所為だと言い訳を付けて、槍を奪い取って梯子を登った。
悪がき達も続いて外に出ると、しんとしていた闇の中に何処からか唸り声が聞こえ、風にささめいていた草の音が、段々と強く、子供達が睨みつける森の先から近付いてきた。
「私が刺すから、抑えてて」
陽菜が藪を睨みながら言うと、悪がき達は気圧されて頷いた。
月歩と庄太も力を込めて待ち構えたが、自分達が何をすべきなのかは分かっていなかった。
草の音は更に強く、近くなってくる。
何かが来る事を知らせる警報が刻一刻と高まっていく。
音を聞いている内に、子供達の頭の中に憤怒を纏いながら森を駆け抜ける蓑と笠の化け物が映像化されていった。
それは草を掻き分けながら、ただ一心に迷う事無く、自分達の所へと迫っている。
皆、緊張していた。
だが、逃げようとは誰も思っていなかった。
やがて睨む先の一際近い木が揺れたかと思うと、まるで獣の様に四足になった化け物が藪を飛び越え、空き地に入り込み、そのまま速さを殺さず、猛然と向かってきた。
悪がき達の中で一番小さいのがまだ微かに残っていた塩を掌に載せて、果敢に立ち向かった。
それに僅かに遅れて三人も続き、塩の幕に怯んで止まった化け物へぶつかっていった。
ぶつかった悪がき達は弾き飛ばされたが、化け物もまた転び、起き上がろうとしたところへ、陽菜が大きな槍を持って重そうに小走りで近寄った。
月歩と庄太が後から追いつき、三人で持ち上げると、そのまま勢いを付けて化け物の腹に突き刺した。
三人で思いっきり力を込めて押しているところへ、一番体格の大きいのがやって来て、更に力が加わった。
氷の槍が化け物の背から飛び出した。
化け物は悲痛な叫び声を上げると、槍の刺さったまま四人を払い飛ばして、そのまま森の奥へと逃げ去っていった。
丁度、その時朝日が辺りを薄らと照らし始めていた。
その光が森へと向かう血の筋を浮き上がらせた。
「あのままじゃ逃げちまう。追おう」
「うん」
体格の良いのと陽菜が化け物を追って森に向かうので、それを追って他の四人も立ち上がり、今度は子供達が化け物を追う番になった。
追うのは簡単だった。
強い血の匂いを目印に薄暗がりの中、化け物の血筋を辿っていくと、やがて化け物が居た藁葺屋根の小屋へと着いた。
中には笠と血に塗れた蓑が置いてあるだけで、辺りに化け物の姿は見えない。
「何処に行ったんだ?」
「分からないけど」
皆が探している中に最後に入って来た月歩が、笠と蓑が残されているだけで化け物の姿が見えない小屋の中を見て、ぽつりと言った。
「もしかして、光に当たって消えちゃったの?」
他の五人はそう言われてみるとそんな気もした。
朝日に照らされて、化け物が消えていく様は如何にも想像できた。
「じゃあ、もう退治したって事か」
「多分」
皆一様にほっと息を吐き、一番小さいのに至ってはへたり込んでしまった。
やがて、悪がきの一人が驚いた様に声を上げた。
「やべぇぞ。夜が明けたら、父ちゃん達が帰ってきちまう」
「どやされる前に帰ろう」
そう言って、悪がき達は小屋を出た。
「おい、お前等も行くぞ!」
「私達はもう家に帰るから!」
小屋の外から聞こえた声に陽菜が答えた。
月歩と庄太が驚いて陽菜を見ると、陽菜は笑った。
「あたしがあの変なのに連れ込まれそうになった時に、木の向こうに旅館が見えたんだ」
「そっか」
月歩は心得た様で、それだけ言うと庄太に向き直った。
「それじゃあ、お別れだね」
「あ」
庄太が言葉に詰まっていると、月歩と陽菜は外に出た。
庄太もまた外に出ると、悪がき達が待っていた。
「もう帰っちまうのか?」
「うん、帰れるみたいだから」
「友達になれそうだったのになぁ」
「もう友達だよ」
月歩がそう言うと、悪がき達と陽菜は笑った。
そして笑いながら顔をしかめた一番体格の良いのが、急に背を向けて歩き出した。
「じゃあな」
それに続いて、他の悪がき達も口々に別れを言って、その後を追った。
「おい、庄太も帰るぞ!」
幾分震えた怒鳴り声を聞いて、庄太の身も震えたが、庄太もまた怒鳴り返した。
「俺はもうちょっと」
そこで言葉は止まったが、悪がき達は続く言葉を悟って村へと帰っていった。
「どうしたの? 庄太君」
「うん」
月歩の疑問に庄太は少し言葉に詰まってから、赤くなって俯いてしまった。
陽菜はそれで全てを悟り、にやにやと笑いながら陽菜の肩に手を置いた。
「あたしが連れ込まれそうになった木、分かるよね」
「え、うん」
「庄太君は何か月歩に話があるみたいだから、あたしは先に行ってるね。それじゃあ、庄太君またね」
そう言うと本当に行ってしまって、後には月歩と庄太が残された。
月歩が陽菜を見送ってから、庄太に向き直ると相変わらず俯いている。
「私に話があるって本当?」
そう聞いても頷くばかりで、要領を得ない。
どういう事だろう。何かしてしまったのだろうか。
不安に思って庄太を見ていると、突然顔を当てたかと思うと、素っ頓狂な声を出し始めた。
「あ、あの!」
「うん」
「そ、その」
「うん」
「え、えっと」
やっぱり要領を得ない。
何が言いたいのか分からず困惑していると、ようやく落ち着いて来たのか、混乱の極みにあった庄太の表情が顔の赤さはそのままに、落ち着いていった。
「俺は、じゃなくて、僕は、月歩さんと」
「うん」
「その、結婚したい」
「うん?」
首を傾げた月歩に庄太は尚を言い募った。
「その、月歩さんの事が好きで……一緒に、その、暮らしたい」
「へえ」
余りにも予想外の言葉に月歩もまた変な声を出してしまった。
告白されたのなんて初めてだ。
顔を赤くして憤死しかけている庄太を見ながら、ある程度遠まわしに言った方が良いかもと思いながら月歩は返答を出した。
「うーん、私はこっちの世界に住む気は無いんだけど」
「っ……それなら、俺が月歩さんの世界に行くよ」
月歩の返答に、一瞬庄太は言葉を詰まらせたが、流石に引き下がらず必死になって食い下がった。
それに追い打ちを掛ける様に月歩の返答は続く。
「後ね」
「うん」
「結婚ていうのは、男の人とするでしょ?」
「え? あ、うん」
「それでね、男の人っていうのは、強くて、カッコ良くて、お金持ちで、扱いやすくなくちゃいけないんだって」
「うっ……うん」
嫌な予感に身を強張らせた庄太に、月歩は一撃を加えた。
「庄太君は男らしくないから無理」
庄太は一瞬、眩暈を起こし、地獄の底へ突き落とされた様な気分を味わった。
今迄の庄太ならそこで圧し折れていたかもしれないが、化け物に追われた一夜を経て多少は強くなった庄太は踏ん張って、尚も食い下がった。
「それなら将来俺が男らしくなったら」
そうしたら結婚できるのだろうか。
それならどれだけだって男らしくなってやる。
そして月歩の世界へと乗り込んで改めて求婚するんだ。
そういった希望と僅かな不安を感じながら、意気込んで月歩に詰め寄ると、月歩は落ち着いて答えを返して、庄太に別れを告げて陽菜の元へと向かった。




