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月曜日7 ・ 火曜日

 ティムはもう逃げようなどとは考えていない。目的は決まっている。自分をコケにしたインディアンを殺すこと。あの女の目の前で。頭にあるのはそれだけだ。


 狂気に光るティムの目と目が合った洋子は叫んだ。

「やめて……やめて!」

薄笑いを浮かべティムは引き金を引く。しかし、カチッと音がしただけだった。その直後、別の捜査官の撃った弾がティムの腹を捉えた。ティムは壁に背中を付けたまま、ストンと床に座り込んだ。

 ティムの銃から弾丸が発射されなかったことで、洋子は止めていた息を吐き出し、ルークを抱えたままその場にへたり込んだ。その時、自分にもたれかかっているルークの目が虚ろに閉じようとしているのに気付いた。出血も酷い。洋子の心臓が跳ね上がるような音を立て始め、慌ててルークに呼びかけた。

「ルーク! ダメよ!」


 ティムは痛みを感じなかったが、体が思うように動かない。自分が撃たれた事を知り、血と共に呪いの言葉を吐き出した。震える手をジャケットのポケットにゆっくりと差し入れ、中を探る。


 自分を呼んでいる洋子の声が聞こえ、ルークはハッとして目を開けた。洋子が泣いていた。涙が流れている頬が赤く腫れている。さっきは気付かなかった。唇の端に血が滲んでいる。銃を持ったままの右手を伸ばそうとするが、ひどく重い。それでも何とか辿り着いた親指でその頬に触れる。洋子は頬が痛くて泣いているのか、それとも違う理由なのか。よくは分からないが、無性に怒りが込み上げてくる。ルークは咳き込みながら声を絞り出した。

「またか……あのくそジャンキー……調子に乗りやがって……」

「ルーク、喋らないで……お願い……」

洋子が泣きながら懇願してくる。ルークはその声にうんざりした。泣かれるくらいなら、怒られた方がマシだ。

「うるせえな、いちいち泣くな……」

 

 口から喉、胸元まで流れる血を拭こうともせずにティムは薄笑いを浮かべた。ポケットの中の指が銃弾を探り当てたのだ。一人で死ぬわけにはいかない。道連れが必要だ。急速に冷たくなっていく指が、さらに冷たい銃弾をつまんで取り出した。


 ルークは右手を洋子の頬から離した。

「ヨーコ……俺の背中を、支えてろ……」

ルークは呻きながら上体をひねると、ティムに銃口を向けた。洋子は背後からルークを抱きしめ、その背中に額を預けた。ルークの浅い呼吸を感じ、洋子の目からさらに涙が溢れた。さっきまで逃れたがっていたミランダは、今では洋子にしがみ付いている。

 ティムは弾を装填し終え、ルークに銃口を向けている。次第に狭くなる視界に目を細め、憎いインディアンに照準を定める。ルークが二回引き金を引き、同時にティムが一発撃った。

 ルークが撃った弾は二発ともティムの胸に当たった。ティムは壁に釘付けとなり、目から狂気の光が消え失せると共にそのまま動かなくなった。

 ティムの撃った弾は、ルークの立てていた右の太腿に当たった。体が弾かれ短く呻き声を上げたルークは洋子の腕から滑り落ち、体の左側を下にして床に倒れた。ヘルメットが大理石の床にぶつかる鈍い音がした。


 リンジーは店の出口に辿り着いた所で、突入してきた捜査官に後ろから銃を取り上げられ、そのまま取り押さえられた。


「ルーク! ルーク!」

 洋子は何度も呼び掛けたが、ルークはもう返事をしない。目を閉じたまま動かない。撃たれた右脚の膝の辺りが、見る見る赤い血で染まっていく。それは床にも流れ落ちていた。

「ど、どうしよう……」

泣きながら洋子は呟き、コットンのカーディガンを脱いだ。床に伸びたルークの膝を両手で抱えて引き寄せると、傷口の少し上にカーディガンを巻いた。こんなことをして意味があるのか分からなかったが、洋子は無我夢中だった。カーディガンの端と端を結わくと思い切り引っ張った。それでもルークは動きもしなければ声も上げない。湧き上がる焦燥に心臓が跳ね回る。何とかしたいのに、どうすればいいのかが分からない。

 洋子はカーディガンから手を離し、嗚咽を漏らしながらルークの顔を覗き込んだ。血で染まり真っ赤になった両手で蒼ざめたルークの頬に触れる。名前を呼びながら「プリーズ、プリーズ」と繰り返した。指を滑らせると、ルークの両頬に赤い条が残った。

「ルーク……お願い……約束したでしょ……」

洋子は泣きながら呼びかけた。

「……約束はどうなるの……?」

そして家を出る時のルークの姿が浮かび、口にした言葉を思い出した。

「後で……」

「後で……何だったの? ルークお願い、答えて……」

 誰かが洋子の肩を摑んだ。驚いて弾かれたように振り向くと、洋子を見て驚いた顔の女性捜査官が立っている。

「あなた……怪我してるの?」

洋子は大きく首を振った。

「私じゃないわ……」

女性捜査官は安堵した様子で洋子の肩を叩いた。

「さあ、ここを出るわよ」

洋子はルークに覆い被さったまま離れようとしない。流れる涙を拭おうともせず、女性捜査官に懇願した。

「ルークを先に……撃たれたの……お願い! 彼を先に……」

「ダメよ! あなたが先。その子を連れて早く!」

洋子にしがみ付いたままのミランダを指差し、女性捜査官が言った。洋子は首を振ってなおも食い下がった。

「お願い! 彼を先に助けて……」

「助けたいなら、その子を連れて早く出なさい!」

女性捜査官は断固とした口調で命令した。その厳然な態度にはまったく取り付く島が無い。自分がしている事は結局、彼らの仕事の妨げに他ならない。そう思い知らされた洋子は力無く立ち上がり、しがみ付くミランダの肩に手を置いて女性捜査官に促されながら出口へ向かった。途中何度も振り返ったが、ルークは倒れたまま動くことは無かった。


 店の外は騒然としていた。路地の両脇に車が何台も停まり、救急車の姿もある。捜査官や店から出された女達が行き交い、回転するランプの光で余計に混乱して見えた。一台の車の前にビルが立っている。女性捜査官は洋子とミランダをビルに引き渡すと、また店の中へ戻って行った。ストレッチャーを抱えた救急隊員も店の中へ入っていく。

 洋子は目の前にいる背広姿の中年男性をどこかで見たことがあると思った。でも、それがどこだったか思い出せないし、そんな事はどうでも良かった。

 ビルは血だらけの洋子に驚き、声を掛けた。

「怪我してるのか?」

洋子は黙って首を振った。その薄汚れた顔は呆然としているのか無表情だが、目から頬にかけて縦に何本もの筋がある。激しく泣いていたことが分かる。何も喋らない洋子にビルは怪訝そうな顔で頷くと、隣にいるミランダに声を掛けた。しかしミランダは男の人が怖いのか、洋子にさらに強くしがみ付き後ろに隠れようとする。洋子はミランダに向かって、ぎこちない笑顔を見せて頷いた。暫く不安げに洋子の顔を見上げていたミランダは、納得した様子で頷きビルの前に進み出た。

「おーい! この子を頼む」

ビルが近くの捜査官に声を掛けた。小走りでやって来た捜査官は手に持ったブランケットの一枚を洋子の肩に掛け、もう一枚でミランダを包むとどこかへ連れて行った。

 ミランダが行ってしまうと、洋子は店の入り口を振り返った。まだ救急隊員や捜査官達が慌ただしく出入りしている。怪我人も運び出されているが、ルークは出てこない。階段の手摺にルークのポンチョが掛けられているのが見えた。

「ミヤタヨーコさんだね?」

その質問に洋子は振り向いて頷いたが、また店の入り口に目を向けた。その後もビルは喋っていたが、何を言っているのかはよく分からなかった。「こんな事になってしまって申し訳ない」と詫びているようだった。洋子はただ、まだ出てこないルークのことばかり考えていた。不安と焦りが募る。いてもたってもいられなくなり「どうしてルークは出てこないの!」と、ヒステリックに叫び出しそうになった時、ルークを乗せたストレッチャーが出てきた。

 ヘルメットは外され、酸素マスクを付けられていた。横にいる救急隊員がプラスティックで出来た風船のような物を押して空気を送り込んでいる。洋子の指が付けた血の条が頬に残ったままだ。そのまま待機していた救急車に運び込まれると、洋子も無意識に歩き出した。途中、肩を摑まれブランケットが落ちたが気にしなかった。開いた救急車の扉の前で、自分に足を向けているルークに呼びかける。

「ルーク……」

叫んだつもりだったが声は擦れ、囁いただけだった。それでも名前を呼び続けた。そうしていれば「何だ?」といつものように無愛想で面倒くさそうな返事をしてくれる気がした。

 狭い救急車の中で忙しく動き回る救急隊員達。その中でルークだけが動かない。洋子は名前を呼び続けた。かろうじて出ていた囁き声は、いつしか白い息だけに変わった。

 もうこの声が届く事はないのだろうか。洋子は自分の問いに首を振った。地獄耳のルークの事だから、きっと聞こえているはずだ。頷いた洋子の目にルークの右手の指が微かに動いたように見えた時、救急車の扉が閉められた。直後にけたたましいサイレンを鳴らして大通りへ走り去ってしまった。

 呆然と立ち尽くす洋子の肩にブランケットが掛けられ、肩を強く摑まれた。その手は「もう逃がさない」と言っているようだ。振り向くと、厳しい顔をしたビルが立っている。ビルの肩越しに店の階段の手摺が見えたが、もうそこにルークのポンチョは無かった。

 ビルが洋子の肩を摑んだまま口を開いた。

「君に訊きたい事がある」




   火曜日


 洋子が再びビルと会ったのは夕方過ぎだった。それまでソファのある小さな個室に通され、一人そこで過ごした。着替えも用意してくれ、シャワーも浴びることが出来た。皆親切で、とても忙しそうだったが代わる代わる様子を見に来ては「必要なものは無いか」と気遣ってくれる。しかし洋子がルークの事を尋ねても、誰も答えてはくれなかった。

 洋子とミランダを店から連れ出した女性捜査官に促され小部屋に通された。白い天板のテーブルと簡素な椅子が二脚あるだけだ。ドアから遠い方の椅子に洋子は座らされた。女性捜査官は広いオフィスに面したガラス窓のブラインドを閉めるとその前に腕を組んで立ち、無表情で下を向いている洋子と同じように俯いた。

 暫くしてビルが部屋に入ると、洋子の向かいに座った。

「ウィリアム・ワトソンだ」

俯いたままの洋子に告げる。

「ウィリアム……ウィル……ビル」

口の中で呟いた洋子は顔を上げ、真正面からビルを見据えた。

「あなたを知ってるわ、ビル。ルークのボス」

洋子は堰を切ったようにビルに質問を浴びせ始めた。

「あなたなら知ってるはずよね? ルークはどうなったの? 今どこにいるの? お願い。一度会わせてほしいの」

ビルは洋子の質問には答えない。無表情のまま腕を組み、洋子を見つめると口を開いた。

「まず、こっちの質問に答えてもらう。君の質問はその後だ」

それは有無を言わせぬ口調だった。

 ビルはメモも取らずに住所や日本での職業など、基本的な質問を洋子に繰り返した。洋子はその全てに素直に答えた。これが終われば約束どおり、ビルがルークの事を教えてくれると信じて。

「渡航の目的は?」

「観光……」

形式通りの答えにビルはこれ見よがしの溜息をついた。

「お嬢さん。これは入国審査じゃないんだ。こっちが訊きたいのは、君が何をする為にあの町に行ったかという事だ」

「えっ?」

不意に浴びせられた咎めるような口調に洋子は困ったような顔をした。自分がシルバーレイク・タウンへ行った理由。一体何がしたかったのか。

「……分からないわ……」

洋子は俯き呟いた。前にルークにも同じ質問をされた事を思い出した。答えることが出来なくてごまかした事も。洋子は膝の上で組み合わせた両手の指を見つめた。


 自分の目的すら分からないでいる様子の洋子を見て、ビルは困惑に眉根を寄せた。どういう事なのか。ビルはバンの中での会話を思い出していた。あの時既に、全て分かっているような感じを受けたのだ。ビルは質問を変えた。

「君がアキラ・ゴトーの婚約者だったというのは本当か?」


 朗の名前を聞いた瞬間、棘の刺さった皮膚の上を撫でられるような痛みが胸に走った。洋子は頷いた。ビルがその事を知っているのは不思議ではない。ルークがビルに報告したのも当然だろう。きっとそれ以外にもルークは自分の事を色々調べていたに違いない。仕方の無い事だと自分に言い聞かせながらも、裏切られたような気分が拭えない。洋子は下を向いたまま、顔を上げられずにいた。

 ビルは少し前から気になっていて、どうしても頭から離れなかったことを訊いた。

「あそこで死ぬつもりだったのか?」

洋子は驚いて頭を上げ、大きく首を振った。

「ルークが言ったの? そんな事……信じられない……」

実際に自殺など考えたことも無かった。ルークにも分かっていたはずだろうが、そんな風に見られていたのかと思うと情けなくなってきた。婚約者に裏切られ、生きる気力を無くした女。シルバーレイク・タウンの皆も、そんな目で自分を見ていたのだろうか。そんな事は信じたくなかった。


 洋子の反応を見てビルは頷いた。バンの中で奴が否定した事を確認したかったのだ。しかし洋子には何も答えず、質問を続ける。

「事件を調べてたのか?」

洋子はその質問にも首を振った。

「そんなつもりじゃ……無かった……」

要領を得ない洋子を厳しい顔で見つめた。


 洋子は俯き、震える声でここ半年の自分の気持ちについて話し始めた。話しているうちに、あの町に行った目的が見付かるかも知れないと思って。

「朗が死んだって聞かされてから……どうしたらいいのか分からなくて。……頭では分かってるのに、いつか朗が帰ってくるような気がしてて。もうとっくにお墓に入ってるのに……。でも、それは朗に似た別の誰かで、間違えてるだけだって。空港で見送って、それきりだったから……朗は長い旅行に出てるだけだって……」

ビルは辛抱強く待った。女性捜査官は伏目がちに哀れむような視線を洋子に送っている。洋子の目から涙がこぼれた。

「……そんな風に思ってる自分が嫌で……どうしてもあの町に行かなきゃいけない気がして……。どうして朗があんなことになったのか……」

そう口にした洋子はやっと思い至った。頭を上げたが表情はうろたえている。顔を向けているビルの方は見ていない。その目は朗が泊まっていたレイクサイド・インの荒らされた客室の中にある。

「……ルークの言った通りなのかも知れない……本当に朗が悪いことをしたのなら……悪い人間なんだって、死んでも仕方の無い人間なんだって……思いたかったのかも知れない……。そうすれば、諦められると思ったのかも知れない……」

ビルは口元を引き結んで洋子を見た。女性捜査官は溜息をつき、目を閉じてゆっくりと首を振った。

 朗がこうなったのは自業自得なのだという事にしたかった。あの町へ行ったのは、それを確信するためだ。朗を憎む事が出来れば、自分はあの男に騙されていた被害者だと胸を張って言う事が出来る。しかし実際は、そんなに簡単に割り切れるはずも無かった。自分の思考と行動がどんなに浅はかだったかを洋子は思い知った。そして同時にルークの言葉に胸を抉られた。

『間違えるな』

洋子はテーブルに肘をついた手で頭を支え、首を振った。

「そんなの間違いだった……私は間違えてた……。どうして私は、朗を信じることが出来なかったの……」

ビルは静かに大きく息をつくと、腕を組んで椅子の背にもたれた。暫くは誰も口を聞かなかった。


 ビルがおもむろに背広の胸ポケットからタバコを出してテーブルに置いた。洋子は無意識にそのタバコが取り出されるのを目で追った。ルークが吸っているのと同じ銘柄のタバコだ。ビルは洋子がタバコを見ているのに気付き、目の前に差し出した。

「吸うか?」

洋子が一本取り、火を点けるとビルが言った。

「但し、酒はダメだぞ」

洋子は煙を吐き出しながら苦笑いをした。

「全部聞いてるのね……」

ビルは黙ったままだ。洋子は指の間に挟んだタバコを、プラスティックで出来た深緑色の丸い灰皿の縁に当て灰を落とした後、目線だけを上げてビルを見据えた。

「質問は終わり? それじゃあ答えて。ルークのことを……」

ビルは腕を組んだまま答えた。

「ここにルークなんて名前の捜査官はいない」

「名前なんかどうだっていいわ!」

洋子は激昂して叫んだ。どうしても、もう一度ルークに会いたい。会ってあの男の嘘を全て暴いてやりたい。そして、あの男の言葉のどれが嘘でどれが真実なのかを確かめたい。ルークの本当の姿を。

 洋子は大きく深呼吸すると、震える声でビルに懇願した。

「お願い。一度だけでいいの。一度会ったらそれで日本に帰るわ。お願いだから……」

「君は予定通り、明日の飛行機で日本に帰るんだ」

ビルに断固とした口調で告げられた洋子は落胆して俯いた。

「このまま? こんな気持ちで帰って……私はどうすればいいの?」

「ちゃんと仕事もしてるんだろう。こんな怖い目に遭ったんだ。家に帰って、家族に会って……」

「家族?」

洋子は自嘲を含んだ声で呟き、短く笑った。ビルが鋭い視線を洋子に向けた。洋子もビルを見返す。洋子は肘をついた右手の指に挟んだタバコの火が点いた先端をビルに向け、震える唇を歪めた。

「それは聞いてない訳ね……。私に家族はいないわ……」

洋子はタバコの煙を吸い込むと、首を振りながら続けた。

「私と家族になろうとした男がいたけど……死んだわ……」

洋子は唇を噛んだ。悔しくてたまらない。

「朗は私と結婚するって言ったわ……ルークは私を迎えに来るって言った……。あなたは……」

洋子は独り言のように呟いた。

「どうして誰も約束を守らないの? 約束なんて……信じるほうがバカなの?」

ビルは立ち上がり、ドアへ向かった。

「待ちなさいよ! この嘘つき!」

洋子は泣き叫んだ。果たされない幾つもの約束。そして真実を知っていながら、長い間朗を犯罪者のままにしておいた怒りをこめて、ルークの口から聞いた思い出せる限りの罵りの言葉をビルに浴びせた。

 ビルが小部屋のドアを開けると、その先のオフィスにいる全員が何事かと顔を向けた。

「不当に命を奪われた人間を不当に扱っておいて、誰が責任を取るの?」

そう言ってやりたかった。でも言葉が見付からない。洋子は拳でテーブルを叩いた。


「あのバカ! つまらん言葉を教えやがって……」

女性捜査官を伴って部屋を出たビルは苦々しく吐き捨てた。

「あの二人、きっと恋に落ちたんだわ……」

女性捜査官が沈痛な顔で首を振った。ビルはそれを聞いて鼻で笑った。

「いい歳して何を言ってる? 仕事しろ! 仕事!」

女性捜査官はビルの暴言に顔をしかめた。ビルはオフィスにいる全員に聞こえるよう声を張り上げた。

「自傷の危険がある。交代で監視しろ!」


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