友に裏切られた俺は、奈落の底でLvカンストします! 謝っても、もう遅い! 今度は貴様が地獄を見る番だ!
「ざまあ」モノ短編です。
俺の名は、レオン。職業は剣士、冒険者のはしくれだ。
俺は今、未踏破ダンジョン地下10階層にいる。
この階層中央部に、ぽっかりと開いている『奈落』と呼ばれる大穴。
その縁に片手でぶら下がっているのだ。
なぜかって?
簡単な話だ。ペアを組んでる冒険者仲間であり、俺の友人……
いや、友人だと思っていた、ルジアンの野郎に突き落とされたのだ。
ルジアンは、奈落の縁に仁王立ちして、俺を見下ろしている。
ニタニタ笑いながら、俺の手を踏みつけている奴に問う。
「なぜだ、ルジアン!? なぜ俺を殺そうとする!?」
「君の恋人、リリヤ嬢を僕がいただくためさ!
町一番の美女の相手は、君みたいな地味な剣士じゃなく、この僕こそふさわしいと思わないかい?」
理由は横恋慕か……確かにリリヤは、男なら誰もが恋焦がれるほどの、清楚で麗しい美女だ。
ルジアンは彼女に脳を焼かれちまったらしい。
「リリヤ嬢には、君が魔獣との戦いの最中、奈落に落ちて死んだって報告する。
傷心のレディーは落としやすい。僕がたっぷり彼女を慰めてあげるよ」
ルジアンは長い金髪をキザにかき上げながら、碧眼を細めた。
「そうそう、君がリリヤ嬢と住むために、必死に貯めた金で買った新築の家も、僕がいただく。
君の家でリリヤ嬢を、たっぷりと可愛がってあげるよ!
ああっ! 想像するだけでギンギンになってきた!
君の代わりに、あの麗しい美女の穴という穴に、僕の節くれをぶち込み、空っぽになるまで毎晩、毎晩、毎晩、ヒイヒイヒイヒイよがらせてあげるんだ!」
踏んづけていた俺の手を、ルジアンの奴が踵で蹴り落とした。
「僕に感謝しながら、地獄でマスでもかくんだね! ギャハハハハハハーッ!」
奴の歪んだ笑顔と勝ち誇る笑い声が遠のいていき、俺は暗黒に包まれた――
意識が戻ると、俺は巨大な網の上に寝転がっていた。
網に引っ掛かり、奈落の底に激突せずに済んだらしい。
(助かったのか……)
安堵したが、視界に飛び込んだ光景に、そうではないとすぐにわかった。
牡牛ほどもある大蜘蛛の魔獣が、俺の身体を足元からせっせと糸で絡めている最中だったのだ。
視線を左右に動かすと、周囲には冒険者の骨や錆びた剣、破れた鞄がぶら下がっている。
俺が引っかかったのは、網ではなく大蜘蛛の巣だったのだ。
(くそうっ! ここまでか……)
と、
諦めかけた俺に、一筋の光明がさす。
(あれ!? 手が動くぞ……痺れてない……?)
普通、蜘蛛類は巣に引っかかった獲物に麻痺毒を注入し、仮死状態にして保存する。
だが、俺の身体は麻痺していなかった。
おそらく、気絶した俺がすでに麻痺していると勘違いし、毒を注入していないのだ。
大蜘蛛に気づかれないように、ソロリと腰の剣を抜き、両手で握り――
渾身の力を込めて、奴の複眼に突き立てた。
剣が根元までぶっ刺さる。
大蜘蛛が耳障りな悲鳴を上げて暴れ出す。
俺は激しく振り回されながらも、必死で剣をねじり込んだ。
胆汁に似た体液を、盛大にまき散らす大蜘蛛。
やがて動きを止め、長い脚をたたんで動かなくなった。
『ピローン。レベルが6から7に上がりました』
頭の中でベルが鳴り、神のお告げが聞こえた。
俺は数日前Lv6になったばかりだ。それが、魔獣を1匹倒しただけでLvが上がった。倒した大蜘蛛のLvが、それだけ高かったのだ。
奈落はダンジョン最深部に直結している、と予想はされていたが、事実のようだ。
「取り敢えず、命拾いはしたのか……」
一息つくと、今度は怒りが沸々と湧いてくる。
「あの、クソ野郎! 絶対許さねえ!」
いやが応にも、恋人のなまめかしい白い肌が、ルジアンに舐めまわされ、組み敷かれ、奴のモノで汚される姿を想像してしまう。
どす黒い感情が煮えたぎり、心を染めていく。
大蜘蛛から剣を引き抜き、宣言した。
「必ず生き延びて、奴のにやけ顔にこの剣を突き立ててやる!――」
奈落の底は、高レベルの魔獣が巣喰う巨大な迷路となっていた。
出会った数々の魔獣と死闘に及び、斬って、逃げて、また斬った。
ダンジョン壁から染み出る水をなめすすり、犬も食わない糞不味い魔獣の肉を食い、血を呑み、飢えと渇きを凌ぐ。
幾度、死線をくぐり抜けたかわからない。
ルジアンへの復讐心だけが、俺を支えていた。
*
「3650回……」
ダンジョン壁を所々覆っている光粘菌が、赤から青に変わり、夜を伝える。
俺は、魔獣の皮で作った帳面に印を書く。
光粘菌は昼と夜で色が変わる。日差しの届かないダンジョン内でも一日の経過が分かるのだ。
「10年、か……」
ルジアンに復讐を誓って10年。いまだに奈落の底をさまよっている。
ダンジョンは地下ピラミッド構造になっていて、深ければ深いほど広くなる。
奈落の底はとんでもなく広大な上、時折、壁や通路の構造が変わるのだ。
俺は迷い続け、ボス部屋はおろか、階段すら見つけられていない。
剣や防具、衣服は半年でボロボロになった。
今は、剣の代わりに巨大な魔獣の牙を背負い、魔獣の毛皮で作った簡素な服を纏っている。考古学者が唱えるところの原始人さながらである。
俺のLvは2年前からLv99で止まっている。多分、人類が到達できる最高レベルになってしまったのだ。
かつて魔王を討伐した、勇者パーティーの平均がLv50だったと聞く。
今の俺なら単独で魔王に勝ててしまうだろう。
「今日はこの辺で寝るか」
仰向けに寝転がると、視界にあるモノが映った。
そして、身体の芯から笑いがこみ上げてくる。
「ぶはっ、ぶぁははははははははーっ! これで、クソ野郎に復讐できるぞっ!!!」
見覚えのある光景だった。天井に延々と続く巨大な穴が開いている――
そう、奈落の穴だ。ここは俺が落ちた場所だったのだ。
10年かけて偶然にも戻ってきたのだ。
俺は立ちあがると、両足で思い切り、地面を蹴った。
Lv99の俺は軽く100メートル上に跳ぶ。
そこで壁を蹴り、さらに100メートル上昇する。壁を蹴る。また跳ぶ。
壁を蹴る。また跳ぶ。
それを繰り返すこと100回。俺は、ダンジョン10階の床に着地した。
ダンジョンから地上に出ると、夜のはずなのに異様に明るい。
「今日は三輪満月の日だったか……」
空に浮かぶ三つの月が満月となっていた。数十年に一度しか見られない天体現象だ。
「取り敢えず、俺の家に行ってみるか」
月明かりに照らされた赤い屋根の家は、漆喰の壁もまだ白く、手入れが行き届いていた。
俺とリリヤの愛の巣になるはずだったその家の前で、腕を組み思案する。
新居に引っ越す前に奈落に落とされたので、実は一度も住んでいない。
さて、どうしたもんか。ルジアンかリリヤが住んでいるとは限らない。
その時、玄関の扉がバタンと音を立て、勢いよく開いた。
「たっ、助けてくれぇ~~~っ!」
全裸の男が悲鳴を上げ、転がるように飛び出してきた。
骨と皮だけのやせ細った手足。肋骨の浮き上がった胸。
ミイラの様に落ちくぼんだ眼球。頭部には申し訳程度の髪が残っている。
「あんた、助けてくれ~~っ! に、女房に殺されるぅっ!」
俺の前で跪き、懇願する骨皮男。
そいつは、なんと、ルジアンだった。
金髪碧眼のキザ男の、あまりの変貌ぶりにわが目を疑ったが、紛れもなくクソ野郎のルジアンだ。
逆に奴は、目の前にいる男が俺だと気づいていない様子だった。
10年間サバイバル生活をしていた今の風体は、
ボサボサの髪と髭がドワーフ並みに伸び放題。魔獣の牙を背負い、毛皮を羽織った原始人である。たとえ母親でも俺だと分からないだろう。
ドス、ドス、ドス、ドス、と地面を揺らす音を立て、ルジアンが脅える元凶が現れた。
玄関から出てきたのは、奈落の魔獣だった。
(なに!? 馬鹿な! 何故こんな所にドドゴンが!?)
ドドゴンは、その見た目から俺が適当に名付けた、奈落の迷宮に住み着く魔獣だ。
分厚い皮下脂肪に守られ、防御力が突出している、最も厄介な敵である。
Lv99の俺をもってしても一撃では倒せない。
驚き身構える俺に、さらに衝撃が走る。
「あんた! 逃げんじゃないよ! 夜のお勤めがまだ済んじゃいないよ!」
(な、なにぃ!? 魔獣がしゃべった!?……いや、違う。まさか!)
ドドゴンは四足歩行の魔獣だが、それは二足歩行をしていた。
よくよく観察してみると、下着を付けている。垂れ下がった脂肪でまったく視認できないが、おそらくパンツもはいていると思われた。
(リ……リリヤ―― なのか!?)
そして、その声は、紛れもなく清楚で麗しいリリヤのものだった。
が、ピンク色の髪と鳶色の瞳以外は見る影もない。
「あたしを口説いた時、毎晩あたしを可愛がるって言ったのは、あんただろ!」
「勘弁してくれぇ。もうアレがおっ立たねえ!」
泣いて許しを請うルジアンに、リリヤは8段腹の間から軟膏の瓶を取り出すと、ゲヘラッと笑った。
「大枚をはたいて、錬金術師の婆さんに媚薬を調合してもらったんだよ! これさえ塗りゃあどんなフニャチンも、三日三晩ガチガチになるってしろものさ!」
「いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
リリヤがハムのような指を、絶望の表情で絶叫を放ったルジアンの鼻に強引にねじ込む。
俺には一瞥もくれずに、そのままルジアンを家の中に引きずり込んでいった。
扉が閉まり、程なくして、断末魔に似た男の悲鳴と、盛ったドドゴンの遠吠えに似た女の喘ぎが流れてくる。
俺は茫然としたまま暫くの間、その場で立ち尽くした。
やがて、心の整理を付ける為、非常に複雑な己の心境の言語化を試みる……
「ええ~と、その……なんだな。つまりだな……
俺と付き合っていた時より遥かに元気(凶暴)で、幸せそう(ふくよか)なリリヤを見て、
復讐に囚われている虚しさに気付いた……???
と、いうことに取り敢えずしておこう! うんっ、決定!」
俺はきびすを返し、その場を立ち去る。
もう二度とここに来ることはないであろう。
最後にルジアンに対しても、俺の偽らざる心境を言語化する……
「ざまあ…… そして感謝を……」
かくして、ひとつの復讐譚は終わり、新たな物語がようやく始まる。
三輪満月が行く手を照らす。
振り返らずに歩く俺の前で、三つの月が、俺自身の道を示すように輝いていた。
―― 完 ――
「異世界転移」モノの長編も投稿しています。
似たような感じで笑える冒険コメディです。
『草太くんのBIGり異世界冒険記』
https://ncode.syosetu.com/n8485mr/




