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2話 村での日常(昼・夕)

とりあえずは、週一投稿を守りつつ、調子が良い時はガンガン投稿します。


基本、休日は土日、祝なので、土日、祝の投稿になります。



昼になった。


孤児院では、村落の人間に食事を分けてもらう代わりに、彼らの手伝いをするのが慣わしとなっている。

まあ、働かざるもの食うべからずと言うやつで、実質、孤児院の仕事と称して良いものだ。


仕事は孤児院の年長(10歳以上)が行うもので、10人中4人が年長に該当する。

大体、いつも二人組を組んでシスターに仕事を振られる。


「今日は、マオちゃんとジュンで組んでね。お手伝いの場所は……酒場ね。日が暮れる頃に戻ってきてね」


「はいっ。ジュンくん、いこっ」


「ああ、よろしくな」


今日はマオと組むことになった。

嬉しそうに微笑む彼女の姿を見ると、こちらも嬉しくなってしまう。

手を差し出してきたので、彼女の手を取り、この村唯一の酒場へと向かう。


レウスはマオと手を繋いでいる私を少し羨ましそうに見た後、もう一人の少年と一緒に別の現場へ向かった。







「よぉーし、今日はマオとジュンの二人がきたのか。じゃあ、マオはウェイトレス、ジュンは修理だな」


「はいっ。じゃぁ、ジュンくん着替えてくるからまたあとね」


「ああ、ウェイトレス頑張ってこいよ」


この一年で酒場にも何度も手伝いに来ているため、この髭面のおっさんとも既に顔馴染みだ。

一見、怖そうに見えるが実は気立の良い人で、美人な奥さんを持つ妻帯者だ。


マオは可憐な見た目を買われてウェイトレス、私は錬成術を用いた物の修繕がメインの手伝いとなる。


店の裏手に行くと、そこには脚が取れた机やボロボロのエプロン、ひび割れたコップ等雑多なゴミ……失礼、備品が所狭しと並べられていた。


「店長……」


私がジト目で彼を睨むと、彼はばつが悪そうな顔で頭を掻いた。


「いやぁ、ジュンの野郎がまた来るかもなぁ、と思うと捨てるに捨てられなくてよぉ。ほら、備品って新品で買うとバカにならねえし……」


「まあ、気持ちは分かりますが……」


しかし、来る度にどんどんと物が増えているのは如何なものかとは思う。


元々、ここに来た当時は、男は皿洗い、その他力仕事を任されていたのだが、私が物を修繕する力があると知ると、すぐにこちらの仕事が優先となった。

最初は多くても3個ほどだったものが、私が難なくこなしているのを見て、どんどん追加するようになって……ご覧の有り様である。


こちらも錬成術の復習になるし、特に無駄とは感じてはいないが……。


目の前の備品の山を見、自分の手のひらを見つめる。

以前ならば、この程度の量、すぐに修繕してみせたが、今の自分にはかなりの負担である。

どうにもあの転移による消耗はかなりのものだったらしい。

私が目にルクスを集め、見てみれば消えかけの蝋燭の火ほどしか体内に感じられない。

前はそれこそ湖を思わせる膨大な量のルクスも、今やコップ一杯ほどといったところ。


お陰で物に対して一個ずつ錬成陣を描かなければならないし、便利な術のほとんどがガス欠で使えない。


「とりあえずは頑張りますけど……これ以上は無理ですからね?」


「おう!わかっているよ!ーーーっと、そういえば、そろそろうちの看板娘のお色直しが終わったみたいだぜ?」


そう言って、店長が後ろを振り返れば、可憐なウェイトレス姿をしたマオが裏口に立っていた。


「どう?ジュン、くん……」


「うん、凄く綺麗だよ、似合っている」


エプロンドレスの裾を持って、少し恥じらいながら自分のウェイトレス姿を見せつけてくるマオに対して、彼女に恥をかかせないように矢継ぎ早に褒める。

衣服に詳しくない私では、どの辺りが似合っているなど詳細な褒め言葉は出てこないが、こんな陳腐な褒め言葉で彼女は喜んでくれるみたいだ。


頬を桜色に染めてはにかむように笑った。


ふぅ、とりあえずは褒め言葉ノルマは達成した。

後は、物を直すだけだ。


山の一部となっていた脚が取れた机を地面に置き、そこら辺の木の棒で地面に錬成陣を描き始める。

マオはまだ仕事の時間じゃないのか、そんな私の錬成陣を描いている姿を隣で見ている。


少し、沈黙の時間が過ぎて、やがて間を持たせるためか、マオが口を開く。


「ジュンくんが使っている魔法ってなんだかヘンだよね。神様にいのりもささげないし、詠唱(祝詞)もとなえないし……ヘンなえもかいているし。それでどうやってものを直しているの?」


「んー、詠唱ね……」


寧ろ私からすれば神に祈っただけで物ができる方が変に感じるがね。

まあ、そこら辺の認識のずれは一生埋まることはないと理解している。

異世界人とのカルチャーギャップと言うやつだろう。


私は、陣の作成を続けながら、雑談混じりに言う。


「私が今書いているのは、錬成陣と呼ばれる術を発動させるための式だ。君達魔法使いが詠唱を必要とするように、私達錬成術師は術の行使に陣を必要としている」


「れんせいじゅつし……?」


マオが小さく呟いた疑問は無視する。


「この陣を作成することで行使する対象と発動する術を決定する。そして、この陣にルクスを流すことで術は起動する」


「ルクスって?」


「我々、生命体に宿る生命エネルギーのことさ」


「せいめいエネルギー?マナとは違うの?」


「さあな、それは私にも分からん」


マオの質問にそう返答する。


分からんなんて言ってみたが、十中八九別物であることは既に把握している。

彼ら魔法使いが魔法を行使した時、ルクスの片鱗は感じていない。

感じたのはマナと呼ばれる得体の知れないエネルギーの波動だけだ。

今の所、シスターの魔法講習を受けても全く発動の兆しがないが……私にもあの力が流れているのならば、ルクスとは別のエネルギーとして、魔法が発動するはず。


私がそう思案していると、マオから更に質問が来る。


「でも、やっていることは魔法といっしょだよね?ものを直す魔法、みたことあるし」


「まあ、結果は同じかも知れないが……とりあえずは、錬成術をみてもらうか」


丁度、陣が完成したので、発動する。

発動させるのは最も初歩的な錬成術、構成(メイクアップ)


「……『構成(メイクアップ)』」


「わぁっ……」


起きる現象は構築。


簡単に言えば、小麦でパンを作る術だ。


材料、この場合は取れた机の脚と本体を用意し、発動させれば、机としての形を取り戻すことができる。

ただ、再構築(リメイク)と違って、物を元の形に戻すことはできない。

あくまで私の想像する一般的な机の形に形成するだけの術だ。


修繕という依頼を受けている以上、本来であれば再構築(リメイク)を使うべきなのだが……。

今の心もとないルクス量では、発動は困難だろう。できたとしても一回か二回といったところか。


私は術の行使で若干乱れた息を調節しながら、マオに言葉を発する。


「一応、今のが錬成術というやつだ。見てわかったかも知れないが、机を直すのに錬成では材料が必要だ。だが、魔法には材料は要らないだろう?」


「たしかに……なにか用意しているの見たことないかも」


私も物を直している村人を見たことがあるが、材料を用意しているやつは見たことがない。


大体、錬成術について理解できたのか、マオは少し残念そうな顔で呟く。


「そっか……じゃぁ、れんせいって魔法のれっかばんなんだね」


「な、なにぃっ!?」


「ひっ……」


思わず呟かれたであろうマオの一言に、普段の冷静さを忘れて私は叫ぶ。

私の怒声に思わず彼女は悲鳴を上げるが、冷静ではいられない私には、そんなことはどうでも良かった。


わ、私の……否、我々の錬成術が魔法の劣化版だと!?

そんなバカな話があるか!!!


確かに奴らは行使に詠唱と己のマナだけと一見ローコストに見えるが、私は知っているぞ!

奴らは物一つ直すのに、とんでもない体力の消耗を強いられていることを!


結局のところ、物を直すというより一からマナによって生み出し、作り直すという工程を挟む以上、体への負担が大きくなってしまっているのだろう。

それに対して我々の錬成術はその場にあるものだけで構成を行うため、圧倒的ローコスト!

村の人間が一つか二つ直すだけでヒーヒー言っているが、今の私でも錬成術なら10や20は余裕!

故に、下位互換ではない!何ならあんな修繕一つにあれだけの力を割いているのは非効率の極みと言えるだろう!


そう言ったことを懇々とマオに話していると、彼女の声から嗚咽が聞こえてきた。


「ひっ、ひっ……」


「あっ、すまな……ごめん、悪かった。言い過ぎたな」


目の前で泣いている少女の姿を見て、カァーッと頭に血が昇っていたのが、急激に冷えるような感じを覚える。

全く、12歳の子どもに何をむきになっているんだか。

普段と違う環境下に置かれていることに、想像以上に精神的ストレスを覚えていたようだ。


私は頭を下げて、彼女に謝罪をする。

すると、彼女は涙を引っ込めて私に要求を出した。


「……ほんとにわるいとおもってる?」


「ああ、本当だとも」


「じゃぁ、こんやもあれやって……」


「あれか……分かった、それで気が済むなら」


「んっ、やくそくだよっ」


念入りに指切りまで求める彼女の姿に苦笑して、彼女の白く小さな小指に指を絡めた。







夕方になり、孤児院の仕事も終わりを迎えた。

夕食に向けて、シスターが皆の食事の支度をしている間、私達は自由時間となる。


マオは夜に向けて、体を念入りに拭いてくると言い井戸の方へ向かった。

レウスは日課の素振りだ。

私は特にすることがないので、レウスの素振りを見ていた。


ふっ、ふっ、と規則正しいリズムで素振りを行い、兵士上がりの村人に教わった剣術の型をなぞるようにして剣を振る。

練習用の木刀とはいえ、真剣に振っている様を見て、彼の有名な冒険者になりたいという真摯な気持ちが伝わってくる。


……ふむ、この年になると、若者のこういうまっすぐな気持ちには弱くなってしまうな。


レウスは少し無神経なところがあるが、根はまっすぐな少年だ。

人当たりも良く、快活な笑顔と合わさって人からはわりかし好かれるタイプだろう。

ただ、まだ人生経験があまりないこともあって好きな娘との距離感が掴めていない部分がある。

もう少し大人の男としての落ち着いた包容感があれば、マオも好きになってくれるとは思うが……。


まあ、そこは部外者の私が口を出すことではないか。


一通り型の復習を終え、息が切れた様子のレウスから、休憩がてらに話しかけてくる。


「なあ、ジュン……おまえ、おれたち人類をおいつめている魔王軍ってやつらしっているか?」


そう言って、語り始めたのは、ファンタジーお約束の人類の敵の存在。

古の勇者の手により、一時は壊滅の危機に陥っていたそうだが、最近奴らの活動がまた活発になり始めたらしい。


そんな魔王軍の中でも特に危険な連中と言われているのが、七魔将と呼ばれる連中らしい。

それぞれ単一の属性を司る魔族の将軍で、火、水、風、土、雷、光、闇の属性らしい。

そして、その中でも土を司る将軍がこの近辺にいるらしいが……。


「そいつは全身をアダマンタイトっていうかったいものできていて、伝説の勇者様ですらキズ一つつけることができなかった超つよいゴーレムなんだぜ!通常のゴーレムは茶色なんだけど、そのゴーレムはたいようのヒカリも吸収しちゃうまっくろなゴーレムなんだって!おれ、さ。この剣のうでをみがいて、いつかは勇者様がきれなかったゴーレムをーー」


……ふむ、まっくろなゴーレム、か。


何とはなしに、レウスの将来の夢を聞いていたが、異世界生活一年目の私にとっても、聞き馴染みのある、もとい見覚えのある風貌をしているな。ちなみに、ゴーレムとは表情のないデッサン人形のような見た目の生物のことだ。

ゴーレムは、魔法生物というものに該当する生き物で、主に魔力を吸って生活しているこの世界特有の生き物である。

私が転移時遭遇したルクスを感じる不思議な鉄人形もゴーレムと呼ばれるものだと、つい最近魔物図鑑(孤児院に寄贈された)を読んで知った。

読んだ当初は、色違いの野良のゴーレムに遭遇したんだな程度に捉えていたが……。

私は勝手に見た目と硬さから鋼鉄と判断していたが、この世界特有の鉱物については詳しくはない。あれがアダマンタイトと呼ばれる鉱物でできたゴーレムの可能性も十分ある。

そもそも通常のゴーレムは人語を解す知能はなく、スライムと同じ低級魔法生物に属している。

私に話しかける素振りを見せていた時点で、特殊なゴーレムであると感じてはいたが……。


まさか、魔族の将とはな……。


「だいちをくだくきょうれつなパンチにキック!じめんをあやつっておこすじしんに、めからビーム!うぉおおおおお!今からどうやってたおすか、考えるとたぎるぜぇええええ!」


「ふむ……相当、強力な魔族なようだな。レウスの活躍、期待しているぞ」


「おう!おうえんよろしく!」


ああ、と気のない返事をしつつ、思った以上に凶悪な性能に思わず顔が引き攣る。


もし、あの時目からビームや地震を喰らっていたら……というか、そもそも酸化が効かない鉱物だったらーー


つくづく今の自分があるのは運が良かったのだな、と思うと共に、今後はあまり無茶をしないようにしようと心に誓った。








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