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SF忠臣蔵 ─ 四十七人の精鋭隊員と一人の人畜無害な整備員と反乱戦艦〈ヤマガ・リュウ〉と  作者: 真野真名


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7/10

第七章 初陣で死にそうになるのは、たいてい本人の未熟だけでなく、船の個性のせいでもある




 出航のとき、〈ヤマガ・リュウ〉の通路には、奇妙な緊張感が漂っていた。

 張りつめているのに、どこか頼りない。

 四十七人の気配が入り混じると、空気はこうなるらしい。


 僕は艦橋で操舵席に座り、周囲の計器をじっ……と見つめていた。


 古い計器は針の揺れ方が一定じゃない。

 揺れ方で“機嫌”が分かると技術局の誰かが言っていたけれど、残念ながら僕はまだ機嫌の読み方を知らない。


(頼むから、今日は機嫌よくしてくれ……)


 そんな祈りをこっそり捧げていると、オーボシが静かに言った。


「出るぞ」


 その声は氷のように冷たかったが、芯に燃えるものがひそんでいた。

 殿を取り戻すための炎かもしれない。


 僕は操舵桿を握り直し、深く息を吸った。





 リングの人工太陽が遠ざかり、黒い宇宙の中に規則的な光が浮かぶ。


 ──中央庁艦隊だ。


 最新鋭のアストリア級巡航艦が四隻並ぶと、それだけで宇宙の風景が変わる。

 “綺麗”ではなく“冷たい”。

 徹底された秩序の匂いがする。


 僕は喉をならした。


(……あんなの相手にするの? 〈ヤマガ・リュウ〉、大丈夫? 僕、大丈夫?)


 オーボシが僕の肩に手を置く。


「怖いか?」


「はい。即答で怖いです」


「……正直でよろしい」


 その言葉で、少しだけ呼吸が楽になった。

 オーボシは恐怖を否定しない。

 否定しないから、支えになる。




 敵艦から通信が届く。


《不明艦〈ヤマガ・リュウ〉。航行停止を要求する。従わなければ──》


 そこで通信が途切れ、敵艦の砲塔が光った。


「回避!!」


 僕の手が勝手に動いた。

 本当に“勝手に”だった。

 考えるより先に反応していた。


 〈ヤマガ・リュウ〉は、なぜか機体をひどく傾けながら、敵の砲撃をかすめるように回避した。


「なんで避けられるんだ……?」

 思わず口に出た。


 リューネが配線の束に埋もれながら叫ぶ。

「ピギャ!!(=重力制御、暴走中!!)」


 つまり、避けたんじゃない。

 暴走して勝手にズレたらしい。


 結果オーライと言えるのか分からないが、確かに当たってない。


サレは半分寝たまま観測している。

「……今の……良かった……(寝ぼけ声)」


ヴァルゴは胸を叩きながら謎に感動していた。

「宇宙が我らを祝福している……!」


 祝福じゃなくて誤作動だと思うよ。




 敵艦隊が動き始めた。

 あの巨体が一斉に向きを変える姿は、素直に言って恐ろしい。


 オーボシが落ち着いた声で命じる。


「ユウマ、左舵。ヴァルゴ、主砲準備」


「了解……っていうか、避けきれるかな……」


「避けろ。避けながら撃つ」


 できると思って言ってるんだろうか。

 オーボシはたまに“人じゃない何かの常識”で話す。


 でも、彼が本気なのは分かる。

 だから、僕も本気になれた。


「左舵ッ!」


 船体がギシリと悲鳴を上げた瞬間、主砲が光った。


 ヴァルゴが詩を絶叫する。


「星々よ、我が焔を見届けよォォォ!!」


 主砲が──閃光を放った。


 一瞬の静寂。


 そして──


 敵艦のセンサー塔が、白い光に包まれて吹き飛んだ。


「……当たった!?」


僕 は思わず椅子から立ち上がりそうになった。


「あれだけ揺れてたのに!?」


 サレがぼそっと言う。


「……揺れてたから……当たった……たぶん……」


 理屈が、まったく分からない。


 でも──


 四十七人の能力は"壊れつつ噛み合う"ことで、とんでもない結果を出すらしい。





 敵艦隊はすぐに再編成し、さらに緻密な砲撃を始めた。


 その砲撃は、ひとつひとつが“殺すための計算”でできている。


「ユウマ、下がれ!」


 オーボシの声に反応して舵を切るが──

 着弾の衝撃が艦全体を揺らし、視界が白く染まった。

 左舷装甲が派手に剥がれた警告が鳴り響く。


 僕の心臓も剥がれそうだ。


「やられた……!? 〈ヤマガ・リュウ〉、まだ持つ!?」


 リューネが必死に叫ぶ。

「ピギャギャ!!(=持つ!たぶん!いや多分だけど!)」


 “たぶん”に希望を託すしかない状況って、人生の中でも指折り数えるほど緊張する。


 オーボシの声が落ち着いている。

 その冷静さが逆に怖い。


「ユウマ。ここが突破口になる」


「突破口……?」


「敵の包囲がまだ締まりきっていない。そこに飛び込め」


 軽い言い方だが、内容は“死ぬほど怖い”。


 僕は喉を鳴らした。


「……分かりました。僕を信じてるってことですよね?」


「そうだ」


 迷いのない声に、背中を押された。



 トウマが通路で叫んでいる。


「皆さま! 揺れますのでご注意を……!」


 礼儀正しく警告しながら、損傷箇所に鉄板を溶接している。


 カゲロウが水を飲みながら走る。


「……エンジン、冷やす……!」


 脱水症状なのに、冷却作業を担当している。


 歌いながら板金を叩く整形担当が、損傷した外装を直している。


「♪ 戦いの歌を〜 宇宙に響かせ〜」


 冷却材を飲もうとする熱管理担当を、誰かが止めている。


「それ飲み物じゃないから!!」


 バラバラ。

 統率なし。


 でも──誰も諦めていない。



 僕は舵を握った。

 指先が汗で滑る。

 息が浅くなる。


 でも──やるしかない。


「いきますッ!」


 〈ヤマガ・リュウ〉は一瞬、宇宙の闇をえぐるように加速した。


 重力が体を押しつぶすようにかかり、視界の端が揺れる。


 砲撃の光がこちらに向かって一直線に伸びる。


(怖い怖い怖い!!)


 でも、不思議と“終わりだ”とは思わなかった。

 四十七人が後ろにいて、オーボシが隣にいる。


 だから──進める。


 艦体が、敵艦の死角に滑り込む。


 その瞬間──


 オーボシが叫んだ。


「ヴァルゴ、撃て!!」


 ヴァルゴの詩が響く。


「宇宙よ受け取れ! 我が魂の火花ァァァ!!」


 主砲が──閃光を放った。


 一瞬の静寂。


 敵艦が、白い光に包まれる。


 そして──


 巨体が、大きく傾いた。


《敵艦アストリア02――機関部損傷、推進力喪失》


 僕は気づいたら、大きく息を吐いていた。


「……やった……!」


 声が震えている。

 でも──嬉しかった。


 オーボシが静かに頷いた。

 表情は変わらないのに、その頷きは“確かな喜び”を含んでいた。


「ユウマ。よくやった」


 胸が熱くなる。

 操舵席に座っているだけなのに、

 なんだか自分が少しだけ強くなった気がした。




 敵艦隊が動揺し、隊列が一瞬乱れる。

 その隙を、リューネのジャミングとサレの狙撃が広げていく。


「ピギャァ!!(=通信妨害!)」

「……当たる……(寝ながら)」


 壊れているのに有能。

 有能なのに壊れている。


 四十七人は、矛盾の塊だ。


 でも、その矛盾が“義”の方向へ噛み合う瞬間、恐ろしいほどの力を生む。


 オーボシが静かに言った。


「このまま押し切る」


 僕は操舵桿を握り直す。


「押し切ります。みんな、死なせません」


 その言葉を言いながら、自分で驚いた。


(……いつの間に、こんな言葉を言えるようになったんだろう)


 怖いけど、後ろには四十七人とオーボシがいる。


 だから進める。

 もう迷わない。


 ──ここからが、本当の戦いだ。




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