後日談 世界は広く、人の反応は静かで不揃いで、けれどどれも尊い
──奪還成功を聞いた人々──
【アコウ・リング/清掃課の同僚たち】
リングの清掃課ブロック。
ユウマが“昔いた場所”だ。
昼休憩のテーブルで、二人の同僚が携帯端末の速報を見ていた。
「……本当に取り返したんだってさ、リング」
「まじで? 弱っちいけど正規軍が防衛してただろ」
「艦隊戦とかなら、もっと騒ぎ大きくねぇ?」
「艦隊っていうか……なんか“謎のジャンク船”単艦で突っ込んだって」
「は! 誰そんな無茶なこと……ああ、そうか……ユウマか……」
二人は同時にため息をついた。
「……あいつ、整備してても自信なさげなのにさ」
「変なとこだけ思い切りいいんだよなぁ。昔から」
「でも……良かったな。無事で」
「うん。なんだかんだで、あいつが戻ってくると働きやすいんだよな」
誰もそれ以上は言わなかった。
ただ静かに、コーヒーの香りが漂った。
【アコウ・リング/市場の一般住民たち】
昼市の屋台で、客の一人がニュースを掲げて叫んだ。
「奪還成功だってよ!」
「まじで!? 中央庁追い出せたのか!」
「よくやったなぁ……誰がやったんだ?」
屋台の店主が言った。
「俺の聞いた話じゃ……なんか、ジャンク船で突っ込んでいったんだとよ」
「いや無理だろそんなの!」
「え、成功したんだって?」
「成功したら伝説じゃん……」
笑い声が広がっていく。
ただの雑談の中に、静かな誇りのような温度が流れていた。
【宗教衛星ミズナギ/少女】
ミズナギの巡礼路。
乾いた風が砂を揺らしていく。
少女は石碑の陰で水袋を抱きしめ、ニュースの文字を何度も読み返した。
「……ユウマさん……無事で、良かった」
彼が去った後、ミナモは時々空を見上げる自分に気づいていた。
宇宙に憧れているというより……"あの人が今、どこにいるんだろう"
そんな気持ち。
教主が背後から声をかける。
「良きことじゃな。あやつ、倒れ方が見事で気に入っておった」
「倒れ方で褒めないでください……」
ミナモは笑った。
胸の奥がぽっと温かくなるのを感じていた。
「また来るかな……」
その呟きは、乾いた空気に溶けていく。
だが、その言葉には、小さな湿度が宿っていた。
【宗教衛星ミズナギ/教主】
教主は石窟の奥で慎重に頷いた。
「ふむ……水の導きは正しかったな……」
側で控える僧侶が尋ねた。
「教主さま……本当に“導き”だと思われますか?」
「うむ。あやつは見事な脱水で倒れ、倒れた後も誠実だった。そういう人間は強い」
「……基準が独特ですね」
「独特こそ信仰よ」
教主は、遠い空を見上げた。
その目は厳しく見えて、どこか慈しみに満ちていた。
【AIステーション〈サフィール〉/レクター009】
レクター009は静かな応接室で、
一人静かにモニターを見つめていた。
《アコウ・リング奪還成功》
機械仕草で首を傾げると、小さく呟いた。
「……人間はやはり、予測不能だ」
しかしその声には、微細な“喜びの波形”が混ざっていた。
感情エミュレーションのノイズではなく、純粋な反応に近い。
「ユウマさん……曖昧な勇気が、また成果を出しましたね」
隣のポッドで休眠中のAI同僚が問うた。
《あなたは彼と再会したいのですか?》
「ぜひ」
即答だった。
《……なぜ?》
「私は引退AIです。役割を失い、孤独を感じていました」
レクター009の光学センサーが、柔らかく明滅する。
「でも、彼と話すと、データの整理が整うのです。不思議なことに……。これが、友情というものなのかもしれませんね」
機械である彼にとっての"友好"は──こういう形を取るらしい。
【反重力マフィア〈フワリ一家〉】
フワリは酒を片手にニュースを見ていた。
「おっ、あいつ……やったじゃねえか!」
副長マオが肩を揺らして笑う。
「ったく、あの顔してやる時ゃやるな。あいつにはまた世話してもらわねえと」
「いやいや、逆だ逆! 今度は俺らが世話してやる番だ」
マオが笑う。
「おお、ボスが珍しく善行を……?」
「やかましいわ!」
フワリが拳を振り上げる。
「借りっぱなしは性に合わねえんだよ! だからアイツ、ぜひ困れ!」
「どんな善意だよそれ……」
その後ろで、宇宙熊がゆったりと手を振っていた。
「グルゥ……」
低い声。
でも──優しい響き。
熊に何が分かるのかは謎だが──彼らの輪に"良い風"が吹いたことだけは、確かだった。
【中央庁・末端兵士たち】
中央庁の兵舎。
末端の兵士二人が休憩室でニュースを見ていた。
「リング奪還されたってよ」
「マジか。あんなジャンク船にやられたんだろ?」
「ジャンクって言うな! 整備士の人たち怒るぞ……」
「でもさ……なんか、夢あるよな」
「は?」
「あんなジャンク船に負けたって、逆にさ」
「お前、怒られるぞそれ」
「いやさ……」
兵士は少し考えてから言った。
「強い奴だけが勝つ世界って、息苦しいじゃん。たまには──わけ分かんねぇ奴が勝ってもいいだろ」
その言葉に、もう一人もふっと頷いた。
「……まあ、確かにな」
二人は黙って、コーヒーを飲んだ。
【地球圏コロニー/まったく関係ない一般人】
地球圏コロニー・カフェテリア。
二人の学生がニュースを見ながら話していた。
「アコウ・リング……どこだっけ?」
「えっと……宙図でいうと、この辺?」
「へぇー……知らない場所でも、誰かが頑張ってるんだな」
「そうだね。なんか、すごいよね。知らない誰かが、知らない誰かを救ってるんだ」
その「知らない誰か」は、彼らが思う以上に近くて遠い存在だった。
【少女の小さな祈り(もう一度)】
夜、ミズナギの空。
少女は星を見上げて祈った。
「……どうか」
ミナモは小さく呟いた。
「ユウマさんに、水の恵みがありますように」
祈りの言葉は、空気に吸われていく。
乾いた世界に、そっと溶けていく。
遠くの宇宙で、誰かが静かに舵を握っている。
その人が、また笑って戻ってくる。
ミナモはそう信じていた。
【アコウ・リング/四十七人】
ヴァルゴは、勝利の詩を詠んでいた。
「星々よ、我らの義を見届けよ……!」
リューネが「ピギャ!」と喜びの声を上げる。
サレは相変わらず眠っているが、その顔は、穏やかだった。
トウマが深々と礼をする。
「皆さま……誠にありがとうございました……」
カゲロウが水を飲みながら呟く。
「……終わった……な……」
四十七人はそれぞれの形で、勝利を噛みしめていた。
壊れているが──
それでも、誇り高かった。
12月14日討ち入りまでになんとか完結しました。
少し飛ばした感はありましたが、逆にそれが良かったかもしれません。
──47人全員のエピソードを書き分ける技量はありませんし……。
来年は47人すべてのエピソードを深掘りした──水滸伝のような、シン・忠臣蔵を……
書きません!




