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SF忠臣蔵 ─ 四十七人の精鋭隊員と一人の人畜無害な整備員と反乱戦艦〈ヤマガ・リュウ〉と  作者: 真野真名


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10/10

後日談 世界は広く、人の反応は静かで不揃いで、けれどどれも尊い




──奪還成功を聞いた人々──


【アコウ・リング/清掃課の同僚たち】


 リングの清掃課ブロック。

 ユウマが“昔いた場所”だ。


 昼休憩のテーブルで、二人の同僚が携帯端末の速報を見ていた。


「……本当に取り返したんだってさ、リング」

「まじで? 弱っちいけど正規軍が防衛してただろ」


「艦隊戦とかなら、もっと騒ぎ大きくねぇ?」


「艦隊っていうか……なんか“謎のジャンク船”単艦で突っ込んだって」

「は! 誰そんな無茶なこと……ああ、そうか……ユウマか……」


 二人は同時にため息をついた。


「……あいつ、整備してても自信なさげなのにさ」

「変なとこだけ思い切りいいんだよなぁ。昔から」


「でも……良かったな。無事で」

「うん。なんだかんだで、あいつが戻ってくると働きやすいんだよな」


 誰もそれ以上は言わなかった。


 ただ静かに、コーヒーの香りが漂った。




【アコウ・リング/市場の一般住民たち】


 昼市の屋台で、客の一人がニュースを掲げて叫んだ。


「奪還成功だってよ!」


「まじで!? 中央庁追い出せたのか!」

「よくやったなぁ……誰がやったんだ?」


 屋台の店主が言った。


「俺の聞いた話じゃ……なんか、ジャンク船で突っ込んでいったんだとよ」


「いや無理だろそんなの!」

「え、成功したんだって?」

「成功したら伝説じゃん……」


 笑い声が広がっていく。


 ただの雑談の中に、静かな誇りのような温度が流れていた。




【宗教衛星ミズナギ/少女】


 ミズナギの巡礼路。

 乾いた風が砂を揺らしていく。


 少女は石碑の陰で水袋を抱きしめ、ニュースの文字を何度も読み返した。


「……ユウマさん……無事で、良かった」


 彼が去った後、ミナモは時々空を見上げる自分に気づいていた。


 宇宙に憧れているというより……"あの人が今、どこにいるんだろう"

 そんな気持ち。


 教主が背後から声をかける。


「良きことじゃな。あやつ、倒れ方が見事で気に入っておった」


「倒れ方で褒めないでください……」


 ミナモは笑った。

 胸の奥がぽっと温かくなるのを感じていた。


「また来るかな……」


 その呟きは、乾いた空気に溶けていく。


 だが、その言葉には、小さな湿度が宿っていた。




【宗教衛星ミズナギ/教主】


 教主は石窟の奥で慎重に頷いた。


「ふむ……水の導きは正しかったな……」


 側で控える僧侶が尋ねた。


「教主さま……本当に“導き”だと思われますか?」


「うむ。あやつは見事な脱水で倒れ、倒れた後も誠実だった。そういう人間は強い」


「……基準が独特ですね」


「独特こそ信仰よ」


 教主は、遠い空を見上げた。

 その目は厳しく見えて、どこか慈しみに満ちていた。




【AIステーション〈サフィール〉/レクター009】


 レクター009は静かな応接室で、

一人静かにモニターを見つめていた。


《アコウ・リング奪還成功》


 機械仕草で首を傾げると、小さく呟いた。


「……人間はやはり、予測不能だ」


 しかしその声には、微細な“喜びの波形”が混ざっていた。

 感情エミュレーションのノイズではなく、純粋な反応に近い。


「ユウマさん……曖昧な勇気が、また成果を出しましたね」


 隣のポッドで休眠中のAI同僚が問うた。


《あなたは彼と再会したいのですか?》


「ぜひ」


 即答だった。


《……なぜ?》


「私は引退AIです。役割を失い、孤独を感じていました」


 レクター009の光学センサーが、柔らかく明滅する。


「でも、彼と話すと、データの整理が整うのです。不思議なことに……。これが、友情というものなのかもしれませんね」


 機械である彼にとっての"友好"は──こういう形を取るらしい。




【反重力マフィア〈フワリ一家〉】


 フワリは酒を片手にニュースを見ていた。


「おっ、あいつ……やったじゃねえか!」


 副長マオが肩を揺らして笑う。


「ったく、あの顔してやる時ゃやるな。あいつにはまた世話してもらわねえと」


「いやいや、逆だ逆! 今度は俺らが世話してやる番だ」


 マオが笑う。


「おお、ボスが珍しく善行を……?」


「やかましいわ!」


 フワリが拳を振り上げる。


「借りっぱなしは性に合わねえんだよ! だからアイツ、ぜひ困れ!」


「どんな善意だよそれ……」


 その後ろで、宇宙熊がゆったりと手を振っていた。


「グルゥ……」


 低い声。

 でも──優しい響き。


 熊に何が分かるのかは謎だが──彼らの輪に"良い風"が吹いたことだけは、確かだった。




【中央庁・末端兵士たち】


 中央庁の兵舎。

 末端の兵士二人が休憩室でニュースを見ていた。


「リング奪還されたってよ」

「マジか。あんなジャンク船にやられたんだろ?」


「ジャンクって言うな! 整備士の人たち怒るぞ……」


「でもさ……なんか、夢あるよな」

「は?」


「あんなジャンク船に負けたって、逆にさ」

「お前、怒られるぞそれ」


「いやさ……」

 兵士は少し考えてから言った。


「強い奴だけが勝つ世界って、息苦しいじゃん。たまには──わけ分かんねぇ奴が勝ってもいいだろ」


 その言葉に、もう一人もふっと頷いた。


「……まあ、確かにな」


 二人は黙って、コーヒーを飲んだ。




【地球圏コロニー/まったく関係ない一般人】


 地球圏コロニー・カフェテリア。

 二人の学生がニュースを見ながら話していた。


「アコウ・リング……どこだっけ?」

「えっと……宙図でいうと、この辺?」


「へぇー……知らない場所でも、誰かが頑張ってるんだな」

「そうだね。なんか、すごいよね。知らない誰かが、知らない誰かを救ってるんだ」


 その「知らない誰か」は、彼らが思う以上に近くて遠い存在だった。




【少女の小さな祈り(もう一度)】


 夜、ミズナギの空。

 少女は星を見上げて祈った。


「……どうか」


 ミナモは小さく呟いた。


「ユウマさんに、水の恵みがありますように」


 祈りの言葉は、空気に吸われていく。

 乾いた世界に、そっと溶けていく。


 遠くの宇宙で、誰かが静かに舵を握っている。

 その人が、また笑って戻ってくる。


 ミナモはそう信じていた。




【アコウ・リング/四十七人】


 ヴァルゴは、勝利の詩を詠んでいた。

「星々よ、我らの義を見届けよ……!」


 リューネが「ピギャ!」と喜びの声を上げる。


 サレは相変わらず眠っているが、その顔は、穏やかだった。


 トウマが深々と礼をする。

「皆さま……誠にありがとうございました……」


 カゲロウが水を飲みながら呟く。

「……終わった……な……」


 四十七人はそれぞれの形で、勝利を噛みしめていた。


 壊れているが──

 それでも、誇り高かった。






12月14日討ち入りまでになんとか完結しました。

少し飛ばした感はありましたが、逆にそれが良かったかもしれません。


──47人全員のエピソードを書き分ける技量はありませんし……。


来年は47人すべてのエピソードを深掘りした──水滸伝のような、シン・忠臣蔵を……


書きません! 





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