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死にかけ令嬢の逆転  作者: ぽんぽこ狸


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54 その後






 彼らが捕らえられてから、私とヴィンセントはそれなりに忙しくなった。一人一人の罪を確定させるための聴取に参加したり、自分自身のその後の立場はどうなるのかという問題。


 いろいろと話し合ったりやるべきことが多かった。

 

 レイベーク王国自体も混乱していて、多くのロットフォード公爵家の派閥に属していた貴族が捕らえられ、新たに分けられる領地の采配に揉めだすところもあった。


 それにロットフォード公爵家が魔薬を仕入れていた国との調整に当たる必要があったりと国全体でも忙しない空気が漂っている。


 例年通りならば、ゆったりと家族で過ごす年の瀬の催しも忙しなく行われて国全体が魔薬の排除のために動いている。


 しかしそれも王家が着々と準備を進めていた甲斐があってか、落ち着きを見せ始めているのが現状だ。


 最終的にロットフォード公爵家の人々は、もれなく魔薬の密輸密売で国家転覆をはかったと判断されて極刑の判決が下った。


 それ以外の彼らから魔薬を受け取り販売していた貴族たちは爵位と領地を没収され投獄、子供世代……つまり私の兄のジャレッドやミリアムは親戚筋の下級貴族の元へと養子に入ることになった。


 父と母への魔法道具はきちんと届けられ、彼らはこれからの長い投獄生活で私と同じ思いをしながら生きていくことになる。


 そんなことで心の底から私の事をなんとも思っていない父と母が改心するなんて言う希望は考えていない、私はただ、仕返しをしたという事実があればそれでいいのだ。


 ジャレッドやミリアムもこれからは楽には生きられないだろうと思う。


 私が作った魔法道具は、魔力増強の効果が強すぎて魔力が成長する子供の間からずっとつけていると魔力がろくに育たないどころか、あまりにも使用割合が少ないせいで減退してしまうらしい。


 彼らはそろってその傾向が強く魔力が随分と少なくなってしまった。


 まさかあんなに趣味だ、使えない、意味がないと言っていた私の魔法道具をそんなにヘビーに使っていたとはまったく思いもよらない事だったが、楽をし続けた結果そうなったというのなら自業自得だ。


 その性質を背負って生きていってほしいと思う。


 そう結論づけつつも、私はふうっと息をついて投獄されている父や母の報告書へと視線を向ける。


 彼らは、私ならばこの状況から自分たちを救い出すはずだと思っている様子で、しきりに私にコンタクトを取りたがっているという内容の報告書だ。


 もちろん会いに行く気はない、ただ一応確認しているだけだ。


 私の今の状況は、ヴィンセントが初めてここに連れてきたときに手配してくれたように、ベルガー女辺境伯の養子ということになっていて、彼らとは産みの親だという以外はなんの関係もない。


 だからこそ私は罪に問われることはなかったし、唯一罪から逃れた私に彼らは一縷の希望を感じているが、あの人たちがしたように、私も彼らを助けられるけれど助けたりしない。


 そう考えつつも報告書を置いて顔をあげると丁度、部屋にフェイビアンがやってきて、彼は私の元までやってきて手にしていた書類つづりを私に差し出した。


「主様の確認が終わったのでロットフォード公爵家の聴取や報告についてお持ちいたしました」

「はい、ありがとうございます」


 今度は追加でロットフォード公爵家の人間の報告も届いたようだ。


 ヴィンセントは自分の執務室で忙しく仕事をしているが、私がこれを読みたがっているだろうと早く確認して回してくれたのかもしれない。


 最近は二人だけのゆっくりとした時間を設けられていないし、お互いに対処することが多く、そこうしてフェイビアンが書類を届けてくれることがままあった。


「では、わたくしはこれにて失礼します」


 いつもならそう言った彼にはヴィンセントの元に戻ってやるべきことがたくさんあるだろうからと声をかけないのだが私は、つい呼び止めた。


「フェイビアン……ヴィンセントは今日も忙しそうですか」


 それから少し恥ずかしいけれど彼の様子を聞く。


 彼はヴィンセントのそばを離れず、ずっと仕えているので彼に聞けば今日のこの後の仕事の様子がわかるだろう。


 本当は本人に確認することが好ましいのだが、私が彼の元に直接行くのは邪魔になってしまわないかという気持ちもある。


 なのでフェイビアンを見てつい聞きたくなってしまったのは仕方のない事だと思う。


「はい。主様は相変わらずです、もとより少なくない仕事量でしたから数週間は忙しない日々が続くと思っています」


 私の言葉に笑みを浮かべて丁寧に返してくれる彼は、ここに来た当初よりも随分と柔らかい表情を浮かべていて、私に対する忌避感はない。


 特定の出来事があってこうなったというよりは、少しずつ生活をしていく中で仲を深めることができた。ほかの従者たちも同様で、この屋敷にも随分住み慣れた。


 そのことが、好意的に接してくれるフェイビアンを見るとなんだか感慨深く感じる。


「けれど、少しでもウィンディ様との時間を作るために今も、努力されていますから、ぜひ、誘いがあった時には、応えてくださるとうれしいです」


 続けて言われた言葉に、私は少し驚くけれどそれはもちろんだと思う。


「もちろんです。教えてくださってありがとうございます」

「いえ……わたくしはただ、お二人が仲睦まじくあればいいなと思っているだけですから」


 そういってフェイビアンも仕事が立て込んでいるのか、私の返答を聞かずにそのまま小さくお辞儀をして去っていく。


 たしかに少しずつ気を許してもらっているとは思っていたが、そんなふうに彼が思ってくれていたとは思わなかった。


「フェイビアン様は良い事をおっしゃいますね。私も同じように思っていますよ、ウィンディ様、早くお誘いが来るといいですね」

「ウィンディ様も仕事は出来るだけ早く片付けて、いつでもヴィンセント様と会えるようになさってますもんね!」


 彼の言葉を聞いた侍女たちがうれしそうにそう言って、リビーの言葉にばれていたかと少し羞恥心が湧いてくる。


 ……いつでも……というか一応です、一応……そういうふうに心掛けているだけで……。


 心の中で言い訳をするけれど、事実そうなのだからそんなことをしてもあまり意味はない。


 特にそばにいてくれる彼女たち相手では取り繕う必要もないのだ。


 あきらめて笑みを浮かべ、私はリビーの言葉に頷いた。


「そう、はっきりと言われると羞恥心が勝ちますが、その通りです。早くいろいろなことが落ち着いて、二人の時間をもてるといいのですが……」


 ロットフォード公爵家をとらえても突然平和になって何もかも普段通りに、とはいかないものだと改めて思う。


 状況を変えるために動けば、それに付随して色々な事情が起こってくる。それに何とか対処をして行って、国はスローペースで良くなっていく。


 結局少しずつしか変わらないのだ。しかしその変化は着実で私がこの屋敷に慣れて自分の帰る場所だと思えたように少しずつ前進している。


 そのことを忘れずに日々を大切に生きていくことが大事なのだと思うのだった。





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