23 魔法石
翌日、向かい合って座った彼はとても困り果てて、俯いて私の瞳には黒くてさらりとした彼の頭が移っていた。
「受け取れない……ごめん」
重苦しくそういう彼のそばで、フェイビアンも困ったように私たちの事を見ていた。
昼食を共にした後、調子も良いので件の魔法を刻んだ魔法石をもって彼の元を訪れた。
ヴィンセントはニコニコしてすぐにお茶会の準備を整えたのだが、ローナにプレゼントを出してもらって受け取ってほしいと言うとそう返ってきたのだった。
声は震えて、目線は合わない、束になった重たいまつげが彼の金の瞳を隠していて、そこから感情を読み取ることはできなかった。
しかし、この様子から単純に素人が作った魔法道具など受け取りたくないという意味ではないだろうなとは思う。
「……それは何故でしょうか。私はただ、あなたに好意を寄せていてプレゼントを贈りたいと思っているから、こうして思いを伝えるべく用意したというわけです」
恩返しだというと確実に断られるだろうと考えたので、少し発想をひねって、彼が私に良くしてくれる理由としてあげている愛情を私も彼に向けているという部分を強調した。
「あなたが私を愛して、こうして生活の手助けをしてくれる。私はそれを享受していますから、あなたにも同じように、それを受け入れて欲しいのです」
「え、あ、愛しているとかそう君は簡単に言わない方がいい、俺はそんな男じゃない」
「では、私が同じようにしょうもない女なのだから捨て置いてほしいと言ったらそうするのですか」
「……しない。絶対に」
「そうでしょう。だから受け取ってほしいんです。あなたが思っているほど、大層なものではありません、これで暮らすことはできず捨てられてしまうような些末な技術ですから」
「そんなことないだろ、君が時間をかけてしっかり作っているのを俺は知ってる」
私が自分の技術を貶すと彼は、少し怒った様子でこちらを見て、さらに褒めた。
「それに見たところ、風の魔法道具だ。四元素の魔法の中でも一番、高値で取引されるたぐいのものだ」
「……よく手に取らずにわかりますね」
「これでもこの国で一番魔法に密接にかかわって生きてきてるから、そのぐらいはわかる」
彼は少しジトっとした声でそういって、私と目を合わせる。不服そうなその表情に困らせてしまったなと少し私の方も申し訳なくなる。
それに今更、思えば、魔法協会と深くつながっている彼らには魔法道具など貴重でもなんでもないのかもしれない。
私は、この病気で使えないけれど、風の属性魔法を持っている。
だからこそなんの元もなく、魔石さえあれば一から魔力効率のいい風の魔法道具を作ることができる。
だからこそ、本当はやってはいけないが魔法使いの名義を借りて売ることも簡単にできてお金になる。
いろいろと価値があるはずだと思ったから渡そうと思ったのだ。
「……でも、受け取っていただけないのでしたら、これはごみも同然です。私は魔法使いの称号を持っていませんから販売もできませんし、本当に無駄になるだけです」
「……」
「いえ、もちろんヴィンセントから見たらこの程度の魔法石など魔法道具としてアクセサリーに加工するだけの価値もないものなのかもしれません。そういったことまで頭が回らず、ロットフォード公爵家にいた時と同じように、作りさえすればいいと思った私が、間抜けでした」
「……」
「申し訳ありません、せっかく場を設けていただいたのに、気分の悪い話をしてしまって、これの事は気にしないでください。私の方で処理をしておきますから」
思い立ったままに口にして、ローナに下げさせようとすると、小さな箱をぱっと掴んで、ヴィンセントは少し怒ったように言った。
「もう、なんでそんなこと言うかな。まったく全然、しょうもないとか思ってるわけない、わかった。受け取る、受け取るけどお金は渡させて、俺だってこんなもの無償でもらえるわけない」
「お金など貰えません、趣味の範疇ですから」
「俺だって、無償ではもらえない、それこそ愛してるだとかプレゼントだとか言われても、君にとって俺は、この間会ったばかりの変な男でそんな感情持ってるわけないんだから」
「……」
「お金は……違法にならないように、贈答品としてもらってそのお返しに、物品を渡したっていう体にするから安心して」
「……」
「ウィンディ?」
少し考えて、魔法道具とお金を交換する手立てを考えて言う彼に、私は思った。
……あなたがそれを言うんですね。ついこの間会ったばかりなんだから愛してるだなんて信じられないと。
それは自分の事を棚上げしているような話で、それともヴィンセントは違うのかと前回会った時のことを思い出してみる。
しかし、たいして惚れられるようなことをしていないと思うが、深く追及して受け取ってもらえないのも困るので、小さく頷いて「わかりました、お金は材料費のみで十分ですから」と短く言ったのだった。




