17 嫉妬
魔法使いたちが謎の刺客を撃退したのを目撃した次の日、案の定、私は風邪をひいた。
ここ数日は調子よく体調がよくなっていたが、急激に体が強くなったりするわけではない。もちろんそれは理解している、しかし自分の力で回避しようがない事だったのだから仕方ないだろう。
そう思って静かに寝台から動かず、また周りの人間にうつさないように人と接するときはタオルを口元に当てて対応する。
ヴィンセントは心配して会いたがっていた。
しかし彼はこんなに良くしてくれているのに風邪をひいてしまって、またフォクロワ大陸魔法協会支部に私を引き渡す時期が遅れてしまっただろうことが申し訳なくて合わせる顔がなかった。
体調を出来るだけよくしてから引き渡されるだろうという仮説があっているかどうかは定かではない、ただ純粋に彼の好意に報いたいという気持ちもある。
だからこそ、長引かせずに治すために、もくもくと食事をとり目をつむって時間を過ごす。
彼からもらった湯たんぽは魔力を込めてなくてもまだ温かく、私の体を優しく温めてくれていた。
しかしそこに、不穏な気配が近づいて、私はああ時間かと思う。
ローナが食事の為に下がる間、カミラと私は部屋で二人きりになる。
そして今日のカミラは一段と機嫌が悪そうだった。そう思考している間に、掛け布団をはがされて、彼女は私の腕をひっつかんだ。
「ほら、ウィンディ様、外気浴をしましょうね? こんなふうに引きこもっていては治るものも治りませんから!」
「ぅ……」
「なんですかみっともない声なんて漏らして、そうやって縮こまっていたら、誰かが助けに来てくれると思ってるんでしょう!」
突然引っ張られたら誰だって、こういう反応になるだろう。しかしそんな私の反応にカミラは自分自身で言った建前を忘れて、ヒステリックに怒り出す。
「最近のあなたを見ていると見苦しくてしょうがない。いいですか、いくら病人だからと言ってなんでも許されるわけではないんですよ!」
「な、何の、事ですか。っ、ごほっ、カミラ、私は……っ」
引きずられるようにして、ベッドから降ろされて車椅子に乗せられる。降りようとするとググッと力を入れて、肩を押さえつけられる。
ぎりぎりと指先が食い込むようだった。
病人だからと言って、何もせずとも許されるとは思っていない。現に病人だからという理由で婚約を破棄されて、家族にも捨てられたのをまじかで見ていたはずだろう。
だからこそ努力をしているつもりだ。
そして今回はどうしようもなくなったけれど、たまたま命をつなぐ術が見つかっただけで、何も思いあがってなどいない。
「若いというだけで男に助けてもらえる女はいつだってそうやって勘違いするんですからね? 特にあなたのような堕落した人間は、少しでもほら、こうして、世の中の厳しさを知ったらいいんですよ!」
「っゴホ、っま、まってください」
カミラは車椅子のロックを外して、乱暴に押し始める。行く先はあのバルコニーだ。
「あら? 嫌がるなんておかしいですよ。外気浴は体にいいんですから、寒いからなんて言って別に死にはしませんよ。ただ、いい男に拾われたからと言って思いあがるのはもうやめてくださいね? ウィンディ様」
まさか車椅子から転げ落ちて逃げるわけにもいかずに、私は咄嗟にバルコニーの窓枠を掴んで外に出ないようにぐっと力を込めた。
……ああ、でもやっとこの状況で分かりました。カミラ。あなたはずっと私みたいな出来損ないの面倒を見させられて腹が立っているのだと思ってました、でも。
「やめ、てください。思いあがっていません、っ、これ以上、風邪を酷くしたらっ、死んでしまいます……」
「そんなふうに言って! 私を脅している気ですか?! ほらっさっさとそとにっ、でなさいっ!」
乱暴に車椅子を押されて窓枠に置いた手を叩き落とされる。
私はバルコニーの柵に激突するように、外に締め出され、窓を閉められてきちんと鍵をかけられた。
中から私を見つめるカミラの瞳は、燃える様な嫉妬の炎に焼かれていて、私は、彼女の何がここまでの行動をさせるのかを考えた。
……この人はずっと、ただ、嫉妬していただけなんですね。若いという価値を持っている女に嫉妬して、苦労して苦しめばいいと……思っている。
ずっとそばにいても私の病気の事や辛さなど何も映っていない。
知ろうとすら思っていない。
側にいたのに。
「……ふっ、ふふ」
立ち上がって窓に手をかけて、彼女を見つめると窓越しに聞こえるはずのない、勝ち誇ったような笑い声が聞こえてくる。
間違いなくそれは彼女が上げている声で、私は、ぞっとして、悲しくなった。
……何故、誰も私の苦労や辛さをおもんばかってはくれないのでしょうか。
不幸な目には、この体質なのだからあって当たり前、むしろほんの少しの希望を望んだり与えられたりしたら誰もかれもが身の丈に合ってない権利を欲するなという。
責任を負えないのだから、普通を享受する権利はないのだと。
……せめて、私が一人だけでも生きることが出来たら。
そうしたら、許せないと憤って窓ガラスを突き破って彼女に解雇を言い渡すのに。
そう思ってもすでに手遅れで、拳でどんと小さく窓を叩くことしかできずに熱に浮かされた体は、力を失ってその場に座り込む。
息が切れて、酷く寒いはずなのに、変に熱くて汗が額から流れ落ちる。
咳き込んで胸が苦しくなって、そのまま私は目をつむったのだった。




