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死にかけ令嬢の逆転  作者: ぽんぽこ狸


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15 取り巻く事情




 食事を終えると彼は、私を部屋まで送り届けたいと申し出た。


 具体的には車椅子を押してもう少し話がしたいと。私としても戻ってもやることがあるわけではないので、話をするのは問題がない。


 しかし、普段慣れていない人が後ろにいて車椅子を押しているのはとても不思議な感覚で、振り返って話をしようかそのまま話そうか迷ったけれど振り返って彼を見たら、きっと嬉しそうにしているのだろうと思う。


 嬉しそうにされると、妙に気持ちが浮ついてしまうので、そうならないように前に向かって話をしていた。


「君がたくさん食べてくれてよかった。食事は体をつくるのに何より大切だから、君が栄養を取っているの見ると俺すごく安心してしまって」

「そんなことを言われたのは初めてです」

「そう? たくさん食べてたくさん休んで、君の体がつらくならないようにしたいんだ」

「……」


 私はヴィンセントの言葉に黙り込んでそれにしてもと思う。


 そこから続く考えは、以前から考えている思惑についてで、けれども本気で心配して看病したいと望んでくれているように見えることがやっぱりちぐはぐに感じてうまく反応を返せない。


 私は結局死ぬというのに、そんなふうにしていたら私が解剖された後でヴィンセントは悲しんだりするのではないだろうかとすら思う。


 そう思われるだけの事を私は彼にしていないし、面識だって浅いのに逆に彼が少し心配になった。


「ウィンディ、どうかした?」


 車椅子が止まって彼がのぞき込んでくる。私も少し後ろを振り返っていつもより幾分近くで目が合った。


 その瞳の奥には何も思惑なんかなさそうで、逆に疑っている自分が何か後ろめたい事を隠しているような気分にすらなった。


 けれどもやっぱり状況的にひどく疑わしいのはヴィンセントの方だ。


 しかし指摘してはいけない気がして、私は話をごまかすように「いえ、少し心配事がありまして」とぽつりと言った。


「……どんなこと?」


 再度、車椅子は動き始める。彼の声音からして真剣に聞いてくれるつもりがあるらしいということがわかる。


 なので私も重苦しく言った。


「私が、ロットフォード公爵家で教育係を務めていたあの子の事が気になりまして」


 ロットフォード公爵家を出てから三日、もうその話はあの子に伝わっているだろう。


 私の言葉を聞くとヴィンセントも明確に人名を出さなくとも誰の事を言っているのかわかったらしい。


 それだけあの子の状況は異様なのだ。


「ああ……リオン王太子」

「はい」

「……というか、教育係だったんだ。俺はてっきり、ロットフォード公爵家の派閥の大人に任せているとばかり」


 誰の事かはわかったらしいが、私が彼とどういうつながり方をしていたかという点については知らなかったらしい。うまく話を逸らせたという気持ちとともに、この話をしてもいいのかという疑問も降って湧く。


 しかし、もうロットフォード公爵家にもどることはないのだ。言ってしまってもいいだろう。


「はい。本来ならそういうきちんとした人の時間を割いていただいて、やるべきです。仮にも”教育目的”でロットフォード公爵家が預かっているのですから」


 私は自身の問題が大きすぎてあまり重要視していなかったが、この国は今とても厄介な状況にある。


 その最たるものがレイベーク王族、唯一の王子であるリオンの事だ。


「しかしロットフォード公爵はとても警戒心の強い方ですから、まだ十歳やそこらの子供になら、私をあてがっておけばいいと基礎的な常識と勉強を教えるようにと仕事を与えられていました」

「それは……君がロットフォード公爵に信用されていたというふうにとってもいい?」

「おおむねそういう意味です。ただ信用していたのは、私の忠誠心ではなく、私が彼を逃がせないほど非力で、無力だという事を……ですが」

「……」


 彼は、教育を目的にロットフォード公爵家にあずかられている。稀にこう言ったことは国同士で起こったりするのだ。


 留学という体を取って、王族を交換したり、あとは戦争で負けた国が子息を差し出したり。


 そういう場合、大っぴらには誰も言わないが、つまるところ人質として扱われる。


 つまりロットフォード公爵家は王族のそれも一番の重要人物を人質に取っている。


 そして王族の派閥で、魔法協会とのつながりがあるベルガー辺境伯家は王族派閥の筆頭だ。言わずもがな、私は実家とも、元婚約者家とも敵対している派閥に貰われてきた。


 こうなるとリオンと会うのはもう望み薄だ。


「しかしああいう状況でもあの子はとてもいい子で、扱いは私よりもましでしたし……ただ、やっぱり小さな子だったので心配なんです」

「まぁ、よくない状況なのは確かだ」

「はい、一刻も早く両親の元へと帰れればいいのですが」


 そう言いつつも私は、また前を向いて少しうつむいた。


 せっかくとても聡明で良い子なのに、あんな目に遭うなんて不憫だった。そして私はそんな彼を助けてやることはできないし、その力もなかった。


 ……ただ、出来ることはやりましたけど。


 もちろん、とても勝率は低かった。ただ、私にとって予想外のことも起きた。


 それはリオノーラの降嫁が決まった事だ。もしかしたら、運よくリオンだけは解放されることがあるかもしれない。


 リオノーラは自ら望んでアレクシスと関係を持っているようにも見えたし、アレクシスは私を振るときには私とは違って美しい彼女に好意を向けている様子だった。


 となれば愛し合っている二人が何かしらうまく状況を変えてくれるかもしれない。


 ……ですがそううまくいくでしょうか、ロットフォード公爵家と王家の争いはもう十年続いていますし。


「……大丈夫、近いうちに決着がつくから、気に病まない方がいい、なんならそのうち会わせてあげる」


 あまり希望的な観測は出来ないなと私は思ったが、ヴィンセントは後ろから、断定的に言って、会わせてくれるとまで口にする。


 ……なんでしょう、天国とかで、でしょうか。


 そのころには私は人体実験ののちに天の国に上っている予定で、その後にリオンも送ってやるなんて言う意味の発言だろうか。そうとでも考えないととても妙な発言な気がして、しかし自分の発想もおかしいだろう。


「な、なるほど……」


 とりあえず、あたりさわりのない言葉を返して、私は部屋に送り届けられたのだった。




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