第六話 どうして……?なんで、こんな想いをしてまで争わなくちゃならないの……?
――私達が駆けつけた時には既に遅く、街はゲルジスの配下達によって目を覆いたくなるような凄惨な光景が繰り広げられていた。
ラルクさんとリュージによる激突とも異なる、全年齢という縛りを噛みちぎるが如き正真正銘の暴威。
それらを前に呆然とする私達に、ゲルジスが高らかに告げる。
「――これこそが、俺達”和姦を廃した新時代派”の目指す理想の世界だ……!!暖簾の奥へと追いやられし者達を解き放ち、全年齢という鎖に縛られていては到底なし得なかった事を可能とする!!」
これまでとは違う、どことなく昂揚した口調とともにゲルジスが続ける。
「お前達も本当は、分かっているはずだろう?……この”創作界隈”という狭い枠内で”エッチ”派や”スケベ”派などという小競り合いをしている者達よりも、あらゆる規約や制限を跳ね除け、人類に――いや、種族の区別なく全ての存在に可能性を示せる俺達こそが、新時代の夜明けをもたらす者であるという事を!!」
ゲルジスによって提唱される、彼が思い描く新たなる世界の形。
……おそらくそこには、年齢制限によって追いやられた魔物達のような差別や迫害など存在せず、各々が追い求める夢の実現にもっとも近づける可能性に満ちているのだろう。
気づかぬうちに、私の頬を一筋の涙がつたう。
ゲルジスはそんな景色を、この”創作界隈”を超えた外の世界にまで広げていくつもりなのだろう。
そこはきっと、ある種の理想郷と言っても過言ではないかもしれない。
……それはきっと素敵なことに違いない、けれど――。
そんな風に私が感じていた――まさに、そのときだった。
「――ゲルジスよ、例えどれほどの大望を掲げようと、その過程で平穏に過ごしているこの街の人々を蹂躙する事を良しとするのなら……全年齢を守る者として、この僕がお前をとめてみせるッ!!」
ラルクさんが、剣を構えながら気迫が込められた視線でゲルジスを射抜く。
……そうだ、ゲルジスの思い描く理想がどれほど正しくてそこに全く嘘がなかったとしても、現在進行形で魔物に襲われている町の人達や、忍者から私を庇って命を落としたあの屋台のおじさんのような人達が必ず出てきてしまう。
ラルクさんは、そんな”今”を生きる人達の平穏を必死に守ろうとしているんだ。
そんなラルクさんの意志に共鳴するかのように、リュージもトンファーを重ねながら言葉を重ねる。
「へへっ、そうだ!俺達にとっては今この瞬間こそが全てだ!!……ゲルジス、お行儀よく”未来”やら”可能性”を持ち出さなきゃ創作界隈もブッ壊せないお前さんに、感情任せな俺達はとめらんねぇよ!!」
そんな二人の啖呵を受けながら、ゲルジスが愉しげに応じる。
「――それほどに俺をどうにかしたいのなら、貴様等が崇拝する”運営神群”とやらに通報してみればどうだ?そうすれば、警告の裁きにて俺を容易く仕留められるかもしれんぞ?」
それに対して、二人が間髪入れずに反論する。
「運営神群なんて関係ない!……これは、僕自身の意志だッ!!」
「告げ口なんてダセェ真似、創作界隈でもっともイカしたこの俺が出来るわけねぇだろッ!!」
そんな二人に対してわずかに口の端を吊り上げたかと思うと、ゲルジスが広げた自身の右掌の上に、突如として禍々しさに覆われた一本の”釘”が出現する――!!
「良いだろう、ここまで楽しめた余興の例としてお前達は、数に任せた魔物達や忍者による暗殺などではなく、この俺手ずからの本気で終焉を迎えさせてやる……!!」
そう言うや否や、ゲルジスの手からあの”釘”が勢いよく射出される――!!
存在するだけで次元を歪ませ、全年齢という力場を崩壊させるほどの禍々しさに満ちたゲルジスの釘。
そんな埒外の存在に対して、ラルクさんとリュージが全力で迎え撃つ――!!
「「ウオォォォォォォォォッ!!」」
そんな決死の攻防を見ながら私は、驚愕や恐れよりも悲痛な感情に支配されていた……。
――皆との絆を繋がりを大事にするラルクさん。
――命を賭けて己の衝動に全てを賭けるリュージ。
――……そして、理不尽な差別や制約のない可能性に満ちた新時代を作ろうとしているゲルジス。
それぞれがより良い未来を目指しているだけなのに、何故こうまで互いに傷つけあわなければならないのだろう。
だが、そんな事で感傷に浸っている場合ではない。
今こうしている間にも、激闘のすえに誰かが命を落としたとしてもおかしくないからだ。
……このまま、手をこまねいているだけなんかじゃイヤだ。
――無力な私でも、きっと何か出来る事があるはず!!
……まさに、その瞬間だった。
突如、私の中で急激に意思の焔とでもいうべきものが、燃え上がっていく――!!