第五話 暗黒の力で全てを蹂躙しようだなんて、そんなことが許されると本気で思ってるの!?――でも、アンタに圧倒的なカリスマとドキリとさせられるイケボがあることだけは認めてあげる……♡
……コイツが、”和姦を廃した新時代の夜明け”派のトップ!?
それを証明するかのように、瞬時におじさんの命を奪ったあの忍者達が、バックダンサーのようにゲルジスの背後に出現する――ッ!!
純愛の終焉を告げるが如き強大な名乗りと、観るものの目を惹きつけてやまない圧倒的なパフォーマンス。
それに衝撃を受けたのは、私や”聖牛の実り”の団員達だけではなかった。
「う、うわぁぁぁッ!?あ、あまりにも、カッコ良すぎる〜〜ッ!!」
「ハンバーガーはやっぱり、小僧バーガーでね♪」
ドカ喰い気絶から意識を取り戻したばかりの肥満男性達がゲルジスの格好良さを前に、悲鳴を上げたり地方TV局のローカルCMを真似しながら、盛大に後方へと吹き飛んでいく――ッ!!
「――ッ!?ちょっとアンタ!いきなり出てきてどういうつもりよ!!」
「……」
その隠しきれない気迫で突如無関係な人達を吹き飛ばしたゲルジスに向かって、アタシが睨みながら問いただす。
対するゲルジスはアタシの言葉に対してもなんら関心を示さずに、ただこちらを一瞥するのみだった。
……悔しい。
眼前のコイツは、アタシのことをなんら脅威として認識してないんだ。
アタシがそんな事を考えながらも歯噛みするしかない中、それでもまだ諦めない者達がいた。
「――へっ、”和姦を廃した新時代の夜明け”とやらを謳ってるわりに、やることが漁夫の利狙いとか意外とセコいじゃねぇか、大将さんよぉ?」
そう言いながら不敵に笑うリュージ。
……そして、この場にはもう一人。
「……そういう事だ、ゲルジス。例え僕達二人がどれだけ手負いであろうと、君がどれほどの過激な派閥を率いていようと――真っ向勝負から逃げ、このような不意打ちに頼る事しか出来ない者に、我々は決して屈したりはしないッ!!」
ラルクさんが、瞳に強い意志を宿しながら眼前を見据える――!!
”エッチ”派と”スケベ”派。
互いに信念は違えども、どちらも全力で正面から傷つく事も恐れずにぶつかり合う者達。
そんな派閥の垣根すら超え、この”創作界隈”に出現した未知なる脅威を前に、ラルクさんとリュージという最強のタッグが今ここに誕生する――ッ!!
――そうだ、どんなにボロボロだったとしても、この二人が組めばどんな相手にだって負けたりなんかしない!!
……けれど、そんな私の想いやラルクさん達の気迫とは裏腹に、対するゲルジスはどこまでも憮然とした表情のまま答える。
「……勘違いするな。ただ単に、邪魔な連中を一掃するのにちょうど良い機会に鉢合わせたから、それをアドリブで実行してやっただけに過ぎない」
なんせ、とゲルジスは続ける。
「俺にとっては、お前達の両派閥……いや、この創作界隈そのものが、単なる”通過点”に過ぎないのだからな」
――ラルクさん達ですら、単なる通過点に過ぎない……!?
手負いとはいえ、二大派閥のトップを相手にしているとは思えないほどのゲルジスの傲岸不遜に満ちた発言。
それを受けて場に緊張が一気に張り詰めていく――!!
そんな私達を相変わらずつまらなさそうに一瞥したまま、ゲルジスが告げる。
「……俺の言葉が真実かどうか、貴様等自身の命を持って確かめるが良い。――全年齢の加護と籠の中にいたままの者には至れぬ境地、存分に味わい尽くせッ!!」
――刹那、場に”暗黒瘴気”とでもいうものが満ちていく。
それに呼応するかのように、ゲルジスが詠唱を開始する――!!
「――暖簾の奥の向こう側。R18の理のもと、成人指定の闇に追いやられし怒りとパッケージとの睨み合いでムラムラした昂りを持って、偽りの秩序と生を貪るパリピ共に反逆の牙を突き立てんと欲すッ!!」
ラルクさんが皆との繋がりを誇る祈りの聖句、リュージが自身の衝動を爆発させた魂の咆哮だとすれば、これは紛れもなく世界そのものに対する宣戦布告。
まさにそんなゲルジスの意志を具現化したかのような闇が、彼の足元から急速に広がっていく――ッ!!
「……あ、あぁ……ッ!?」
「――ッ!?なんだ、コイツ等は……!!」
――広がる闇の中から、いくつもの人ならざる者達が出現する。
……オーク、ブルマを履いた半魚人、妖魔蟲。
数多の強大な”魔物”と呼ばれる者達が、奇声を発しながら街の方目掛けて雪崩れ込んでいく――!!
こちらに食い止める暇など全く与えずに、街へと押し寄せていく魔物達。
何が起きたのか分からずに町民達はパニックに陥っていた。
「な、何だよコイツ等はよ!?」
「ひぇ〜!創作界隈の灯火が、今まさに潰えそうでゴンス♡」
人々が悲鳴を上げる中、魔物達が容赦なく襲いかかる――!!
「魚ォォォォォォォッ!!洗練されたフォルムと過ぎ去った青春を想起させるこの紺色を、然とその目に焼きつけろッ!!」
「うわぁ〜〜〜ッ!?……や、やはりスパッツ派は邪道だったんだぁ〜〜〜!!」
ブルマを履いた半魚人の猛攻によって、町民達が悲鳴を上げながら次々と盛大に薙ぎ払われていく。
コンビニの中では、硬質な外殻に身を包んだ巨大な百足らしき姿をした妖魔蟲が、口から幾本もの触手を伸ばしながら女性店員に近寄っていた。
「い、嫌……ッ!?来な……カッ!?あ、グッ……!!」
……無惨にも店員は、耳からの触手の侵入を許してしまう。
グリン!と白目を剥くが、彼女の悪夢はこれで終わらない。
(――コミチキ、一つください)
(――コイツ、直接私の脳内に……!?)
突如自身の脳内に流れ込んでくる妖魔蟲のものと思われる要求。
抵抗を試みるも全くの無意味であり、蟲の忠実な傀儡と化したコンビニ店員は
「は、はひ……♡か、かしこまりまひた……♡」
と口にしながら、妖魔蟲から小銭を受け取り商品とおしぼりを袋の中へと詰め込んでいく――。
路地裏では、うら若き少女のものと思われる怒声と魔物らしき者による荒い鼻息が響き渡っていた。
その正体は、醜悪な豚の顔を持つ魔物である”オーク”。
そんなオークを前に、少し不良が入った感じの金髪メッシュの少女が臆する事なく、気丈にも再び声を荒げる――!!
「だから、アンタもしつこいな!!……第一、アタシみたいな可愛げのない女に、ア……アイドルなんて出来る訳ないだろ……」
「グフフッ……ソンナ事ハナイ!君ニハ間違イナク、才能ガアル!!――ソノ秘メタル可能性ヲ、共ニ咲カセテミナイカ……!?」
「〜〜〜ッ!?」
……少女の必死の抵抗もむなしく、オークの熱心な勧誘によって彼女はアイドルの道へと心動かされていく―――。
街を襲っているのは、魔物達だけではない。
ゲルジスのもとから離れた忍者達も、自身のもっとも得意とするやり方で、街を混乱に陥れようと画策していた。
くノ一衣装に身を包んだ女性を牢に縛りつけながら、それを囲む忍者達が下卑た笑みを浮かべながらにじり寄る。
「――オラァッ!!さっさとパンティーを脱いでから、拙者達にその豊満なヒップを叩かせるでござる!!忍、忍♪」
「〜〜〜ッ!?嫌ぁぁぁぁぁっ!!……コイツ、完全に時代考証を無視してる〜〜〜ッ!!」
――自分で『戦国時代を舞台にした囚われくノ一尋問シチュエーション』プレイオプションを頼んでおきながら、忍者が平然と横文字を乱用していく――!!