第四話 とめられない!?あまりにもカッコよすぎる二人の激突!!
……ッ!?
幻聴なんかじゃない。
この声は、紛れもなくラルクさんだ――!!
安堵する私とは対象的に、リュージはチィッ!と忌々し気に舌打ちしてからすぐに後方へと飛び退く。
入れ替わるように、ラルクさんが私のもとへと駆けつけてきた。
リュージから守る形で、私を背にラルクさんが佇む。
「〜〜〜ッ!!ラルクさん……本当に来てくれたんだ……!!」
感極まったように呟く私に、あの笑顔とともにコクリ、と無言で頷くラルクさん。
そして、彼に続くように部下である”聖牛の実り”の団員達もぞろぞろと集まってきた――。
「多勢に無勢、これ以上の闘争は無意味だ。……君も一派閥の長ならば、ここは大人しく退け。リュージ」
手にした剣をリュージに向けながら、そう告げるラルクさんと、同じように背後で構える”聖牛の実り”の団員達。
……けれど、対するリュージはどこまでも不敵に笑う。
「ラルク、お前はいっつもそうだよなぁ?……全年齢としての秩序だの、派閥のトップとしての思慮だの、堅苦しいったらありゃしねぇぜ!」
そう言いながら、いつの間にか両手に持っていたトンファーを構えるリュージ。
――次の瞬間、彼の姿が跡形もなく掻き消える。
「――ッ!?う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
構えていた団員が数人ほど、盛大に宙へと打ち上げられていく。
それを行ったのは、トンファーを振り上げているリュージだった。
彼は獰猛な笑みを浮かべると、今度は本命と言わんばかりに高速でラルクさんへと迫る――!!
周囲の団員達が突然の奇襲に慌てふためく中、ラルクさんはリュージのトンファーを捌きながら高速戦闘を繰り広げていた。
「――リュージ、何故わからない……!!例え規約を守っていてもこんなやり方で我を通していては、君は人との繋がりによる循環から弾かれてしまうんだぞ!!」
対するリュージはハッ!と吐き捨てるように告げる。
「そんなに仲良しごっこで相手のご機嫌伺いをして何になる!?俺達は高尚な頭脳戦ごっこをするためにこの街に来た訳じゃねぇだろ!!」
そこまで一気に捲し立てた瞬間、ガキン!という音とともに右のトンファーがラルクさんの剣を弾く――ッ!!
「――ッ!?クッ……!」
剣から手を離さなかったものの、ラルクさんの胴体がガラ空きになってしまった。
そこに容赦なくリュージの左トンファーが迫る――ッ!!
「……ラルク、テメェは忘れてるかもしんねぇが、ここは”創作界隈”だぜ?――ここにいる誰もが、自分の望む形を実現するために全力を出さずにはいられない、そんなしみったれた街だ」
だからこそ、とリュージは告げる。
「俺達”スケベ”派は、一切手を抜かずに自分達のやりたい事をやり尽くすッ!!――例えどんだけ数が多かろうが、そんなこの街の最初の願いに目を背けたお前等”エッチ”派如きじゃ、俺には勝てねぇんだよッッ!!!!」
「――ッ!?」
――刹那、リュージの一撃がラルクさんを盛大に吹き飛ばしていく。
「……ッ!?グハッ……!」
リュージの一撃を受けたラルクさんが、盛大に地面を転がっていく。
「ラルクさんッ!」
慌てて駆け寄ろうとした私だったが、吐血しながらも立ち上がった彼に片手で静止をかけられてしまう。
ラルクさんはこちらを向くことなく、再度眼前の相手と対峙する。
「……リュージよ、確かに”個"の力のぶつかり合いにおいては”スケベ”派である君の方が強い。それは間違いないだろう」
そんなラルクさんの発言に対して、リュージが訝しげな視線を向ける。
「この期に及んで何だ?……降伏勧告をした側が命乞いとか、ギャグだとしても笑えねぇよ」
リュージの挑発じみた物言いに対しても、ラルクさんはやんわりと返す。
「それこそまさかだよ。……君からすれば確かに俺達”エッチ”派のやり方は紛い物に見えるかもしれない」
だが、と彼は続ける。
「――互いに心を通じ合わせることによって確かな強さ。それを今から君に見せてやるッ!!」
――人々との絆を重んじるラルクさんの気高い意志。
それに呼応するかのように、彼の周囲を荘厳な空気が満たしていく。
それらを取り込むかのようにスゥ……っと深呼吸をしてから、ラルクさんが万物を祝福するかのように詠唱を行う――!!
「――"藤っ子、良い子、元気な子。万象の理のもとに、わんぱく感あふれる力よ、ここに集いたまえ”――!!」
人々との絆を宿した確かな聖句。
そこに宿ったラルクさんの願いに応えるかのように、彼を慕う”聖牛の実り”の団員達の力が彼のもとへと集まっていく――!
対するリュージは焦るでもなく、それどころか目を爛々と輝かせながらラルクさんを見据える。
「カカッ!これは実に良いねぇ〜!……だが、遅ぇッ!!」
そう言うや否や、トンファーを構えながらリュージも詠唱を仕掛ける――!!
「――”結婚生活三年目。団地妻の理のもとに、昼下がりの大学生との情事にて、たまたま早退した旦那の脳を壊したまえ”――ッ!!」」
剥き出しの獣性と、奥底の本能を滾らせる熱き渇望の叫び。
それにより、瞬時にリュージの体内を巡る”気”が爆発的に跳ね上がっていく――ッ!!
――全年齢という領域とは思えないほどの、あまりにもカッコいい詠唱による全力の応酬。
人の絆を確かめ合う強さに満ちた”エッチ”派と、己の衝動を極限まで高めた”スケベ”派としての力と信念が、激しくぶつかり合う――!!
「「ウオォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」
膨大な力の奔流による激突。
その先に立っていたのは――。
「ハッ、ハァ――ッ!!どうよ!これこそが、一夜限りに過ちを重ねられる奴だけが放てる一撃だぁッ!!」
ボロボロになりながらも、豪快な笑みとともにリュージが雄叫びを上げる。
「ハァ、ハァ……!!イ、”イチャラブ♡”とは日常の中で心と身体の繋がりを育む者が至る境地。――ゆえに、私が後先考えない”衝動任せ”などに屈する事はないッ!!」
『……だ、団長……!!』
「ラルクさん……ッ!!」
満身創痍になりながらもなお倒れないラルクさんの背中に、他の団員の人達と同じように私は呼びかける。
当初私は「この人はなんて頭でっかちで融通が利かないんだろう」と思っていた。
……けれど、それは違った。
彼はあまりにも目を背けたくなるような悲壮な責任感を胸に、この創作界隈で生きる全ての人達を守ろうとしていたんだ。
……それが例え、自分とは異なる忍者やリュージのような敵対する者であったとしても。
『人々との繋がり』を尊重する”エッチ”派の代表でありながら、その実誰よりもこの人は孤独だ。
なのに、文句の一つも言わず――それどころか、瀕死の深手を負いながらもただひたすらに皆を守るために立ち続けている。
そんな彼を前にして、何も出来ていない自分自身がはがゆくて仕方なかった。
互いに満身創痍であるにも関わらず、全く退く様子を見せないラルクさんとリュージ。
……このまま戦いを続ければ、確実にどちらかが命を落とすことになる。
そんな一触即発の空気が場を満たし始めてようとしていた――まさにそのときだった。
「「――ッ!!」」
対峙していたはずの二人がほぼ同時に、後方へと飛び退く。
刹那、彼らが立っていた場所に禍々しい紫の稲妻が直撃していた。
すんでのところで回避したラルクさんが、キッと広場の外を睨みつけながら叫ぶ。
「死闘の最中に横槍を入れるとは……貴様、一体何奴ッ!?」
――ラルクさんが視線を向けた先、そこにいたのは漆黒の衣装に身を包んだ一人の青年だった。
黒髪に端正な顔立ち……そして、冷酷さすら感じる表情とは裏腹に反して、どことなく愁いを帯びた瞳。
そんな”闇”そのものを体現したかのような青年から、恐るべき事実が告げられる――!!
「冷奴、とだけ答えよう。……俺はノクターン系男性アイドルユニット:“SUKEKIYO”のリーダー、ゲルジス。――この創作界隈に“和姦を廃した新時代の夜明け”をもたらす者だ……!!」




