第三話 こんな酷い光景を作り出しておきながら、平気で人を口説こうとするなんてバカじゃないの!?――でも、ワイルドな細マッチョを前に、思わず見惚れてしまいます……♡
新着短編広場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「嫌ーッ!!離してッ!」
「ハイ、ダメで〜す!……お姉さんには大人しく、これを喰らってもらいまーす☆」
広場のいたるところで捕らえられた女性がチャラそうな男達によって強制的に、彼等による自作と思われる短編小説を読まされていく。
これだけならば、健全な交流のはずだが……どうにも様子がおかしい。
「ア、アヘェッ……♡この小説、しゅごしゅぎてダメになっちゃう……♡」
女性達は皆一様に、読み進めていくうちに頬を上気させながら、瞳にハートマークを浮かべ始めたのだ。
その様子を見ながら、男達が愉しげに笑う。
「どうよ!一行ごとに催眠アプリを組み込んだ特製短編小説の読後感は!?……サブリミナル効果で、吹っ飛べる事請け合いだぜ!」
「あ、あぁ……ッ!?」
あまりの光景に私が言葉を失っている間にも、彼氏や旦那への愛情や近所に住む少年との約束を上書きされてしまった女性達が、チャラ男達に連れられて次々とネオンの灯る街並みへと消えていく――。
……だが、悲劇はこれだけでは終わらなかった。
当たり前だが、コイツ等による被害は女性だけにとどまらない。
恋人や妻を卑劣な手段によって、眼前で寝取られた男性達――。
真っ先に動くべきはずの彼等すら例外ではなかった。
「クソッ!俺は今すぐ、アイツを助けるために追いかけなきゃなんねぇ――はずなのに……!?」
「うぅ……不甲斐ない私を許してくれ、しほぉ……ッ!!」
嗚咽とともに、後悔の言葉を口にする男性達。
にも関わらず、彼らはただひたすらにポップコーンを貪りながらコーラをガブ飲みしていた。
おそらくこれも、あのチャラ男達が自作小説の中に仕込んだサブリミナル効果によるものに違いない。
アイツ等は女性陣とは別に、男性陣には催眠アプリではなくポップコーンやコーラなどの飲食物の画像が差し込まれた自作短編を読ませることで無意識化にそれらの情報を刷り込ませていたんだ――!!
その結果、彼等の足止めと女性陣の幻滅という凶悪な相乗効果が生み出されていた。
……このままのペースで暴飲暴食を繰り返していけば、彼らがぽっちゃり体型になる事は確実。
そうなれば、クールビューティーな外見の影響で周囲から距離を置かれているものの、本当はプニプニしたものが大好きな面倒見の良い黒ギャル以外、誰も彼らのことを見向きもしなくなることは明らかだった。
「ゆ、許せない……!!いくらなんでも、こんなのってあんまりよッ!!」
アタシがそのように憤っていた――そのときだった。
「おやおや〜?俺んとこの部員達のサブリミナル小説にもひっかからないとは、なかなかリテラシーがしっかりしてるうえに肝っ玉のある姉ちゃんじゃねぇの!――それでこそ、燃えてくるってもんだけどさぁ!!」
突如、軽薄そうな男の声がアタシへと向けられる。
声のした方に向かって、アタシはキッ!と叫びながら問いかける――!!
「アンタがこの光景を生み出した親玉ね!!――一体、何奴ッ!!」
それに対して、全く動じることなく男が変わらぬ調子で答える。
「冷奴、ってね?――俺の名はリュージ。この創作界隈の"スケベ"派を束ねるヤリサー集団:"キュアなる遊び"の幹事マスターをやらせてもらってる者さ……!!」
「――ッ!!アンタが、"スケベ"派のトップ……ですって!?」
相手の発言に、思わず私は衝撃を受ける。
……確かに、この広場で暴れまわっていたヤリサー部員と思われる他の男達と比べても、浅黒い肌に細マッチョのイケメンと思わずときめきそうになり、私は相手が悪党の親玉である事を忘れそうになっていた。
そんなアタシに、ニカッと屈託のない笑みを浮かべながらリュージが近づいてくる。
「ウチんとこのヤリサー波状攻撃で部員どもにお持ち帰りもされずに、ここまで生き残ったのはアンタが初めてだ!!……単なる”運”の一言じゃ済ませられない隠された深奥の実力、俺がベッドの上で暴いてやるよ……!!」
そう言いながら、リュージが私の顎をクイッ、と指で持ち上げると、瞳を閉じた状態で唇をこちらへと伸ばしてくる。
――まるでタコみたい。
そう思いながらも、リュージの顔つきがワイルドなためアタシは思わずドキリ、とさせられてしまう。
――いけない、このままだとリュージに押し切られてしまう!
……だが助けを呼ぼうにも、女性陣はヤリサー部員達とネオン街に消え、男性陣はドカ喰いのし過ぎで血糖値が上がって気絶している。
この場で、ヤリサーのトップであるリュージの魔の手からアタシを助けられる者など皆無だった。
……このまま何も抵抗出来なければ、リュージと唇同士をくっつけ合いっ子してから、なし崩し的に手籠めにされるのは確実。
周囲に助けもおらず、打つ手もない。
――そのはずだったのに。
「……たすけて、ラルクさん――ッ!!」
気がつくとアタシは、無我夢中で彼の名前を叫んでいた――まさに、そのときだった。
「――その助平な手を、彼女から離せッ!!リュージ!」