第二話 頭でっかちで融通利かないにもほどがあるでしょ!?――でも、物腰柔らかなイケメンだから正直気になります……♡
声のした方を見れば、そこには白を基調とした正装に身を包んだ眉目秀麗な男性が佇んでいた。
……絶望的な状況であるにも関わらず、私は思わず見惚れてしまう。
忍者達の反応は、そんな私とは対象的なものだった。
彼等は忌々しげに男性を睨みつけたかと思うと、瞬時に飛び去っていく――。
一連の流れを前に私が呆然とする中、私の危機を助けてくれた(?)イケメンがこちらへと近づいてきた。
「そこの君、大丈夫かい?……怖い想いをしただろうけど、もう大丈夫だよ」
私を安堵させるかのような口調で男性が語りかけてくる。
そんな彼にまたしてもドキリ、としつつ私は答える。
「あ、あの……危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます!……だけど、あの忍者達は一体……?」
そんな私の疑問に対して、男性が翳りのある表情で答える。
「あぁ……あの忍者達は、この創作界隈における"和姦を廃した新時代の夜明け"を信じる派閥の者達なんだ」
「えっ!?和姦を廃した新時代の夜明けを信じる派閥……ですって!そんなヤバい奴等がこの町にいるの!?」
もしも彼の言葉が本当なら、あの忍者達がこの町に来てまだ間もない私に対して、何をしようとしていたのか……容易に想像がつく。
あのおじさんは、それが分かっていたから、私を危険な目に遭わせないようにあんな態度を取っていたんだ。
そんな事も分からなかったなんて……あまりにも不甲斐ない。
そんな私の鬱屈した気持ちを晴らすかのように男性が明るく語りかける。
「名乗るのが遅れてしまったね。私の名はラルク。――この創作界隈の中原において、イチャラブ♡を奉じる者達……通称:"エッチ"派である”聖牛の実り”の団長を務めている者だ」
ラルクさんの話によると、"エッチ"派は互いの心を通わせる純愛を旨としており、その特性もあってか全年齢向けの恩恵とも非常に相性が良いらしい。
それもあってか、"エッチ"派は創作界隈における最大派閥であり、それをまとめるのがラルクさん率いる”聖牛の実り”という自警団との事だった。
「す、凄い……!!創作界隈には絶望しかないと思っていたけどラルクさんみたいな人がいるなら、あの襲ってきた忍者達もなんとか出来るよね!?」
――そうすれば、私を庇って命を落としたおじさんも少しは浮かばれるはず。
けれど、そんな私の問いかけに対して、ラルクさんが残念そうに首を横に振る。
「……いや、残念ながらあの忍者達の行為は"規約違反"じゃないから、私には裁く事が出来ないんだ……」
彼の口から告げられたのは、予想だにしていなかったものだった。
呆気に取られた私だったが、即座に反論する。
「規約違反って……何言ってんのよ!?アイツ等は、おじさんを……!!」
「……わかってくれ、とは言わない。……だが私は全年齢向け最大派閥の長として、例え相手が異なる派閥の者であっても、強権で不当に弾圧するわけにはいかないんだ……!!」
「な、によ……それ!」
――頼もしく思えていた彼のイメージが、一瞬で私の中から崩れ去っていく……。
幻滅した私に背を向けながら、ラルクさんが後からやってきた団員達に指示を飛ばしていく。
散らばったおじさんの肉片を回収してから、ラルクさんを筆頭にメンバーは丁寧に遺体の埋葬を行う。
「――この者の魂に、全年齢向けの加護のもと、運営神群の導きがあらんことを」
部外者の私にもわかる荘厳な響きに満ちた祈りの聖句が、ラルクさんの口から紡がれていく。
……正直言うと、ラルクさんの発言には全く納得出来ていない。
(だけど、そんなに悪い人じゃないのかもしれない)と、私が思いはじめていた――まさに、そのときだった。
「きゃあァァァァァァァッ!?……だ、誰か、助けて〜〜〜!!」
「奇襲だ!!――新着短編広場の方に、アイツ等が来やがった!」
突然、遠くの方から私達がいる場所にまで響くほどの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
アイツ等……って、まさか私を襲ったような忍者達!?
気がつくと、私はラルクさんの静止する声も聞かずに駆け出していた。
――もしも本当にアイツ等なら、規約うんぬん以前にアタシが絶対許さない!
そんな決意を胸に疾走しているうちに、とうとうアタシは新着短編広場へと到着した。