第一話 なんでいきなり屋台のオッサンに怒鳴られなきゃなんないのよ!
「へぇ、ここが創作界隈か……どことなくサイケデリックな街並みじゃないの」
「――ッ!?オイ、そこのお嬢ちゃん!……悪い事は言わねぇ。アンタが創作者じゃないってんなら、今すぐ来た道を引き返しな!」
創作界隈に着いて早々、アタシはいきなり屋台のおじさんに怒鳴りつけられてしまった。
あまりにも不躾なオッサンの物言いに、アタシはムッ、とした表情を隠そうともせずに言い返す。
「ちょっと、オッサン!!……アタシはせっかく失恋を癒やすための傷心旅行に来てるのに、いきなり何なのそれ!いくらなんでも観光客に対する態度じゃないでしょ!?」
そんなアタシの剣幕に圧されたかのように、おじさんは打って変わってしどろもどろになりながら答える。
「ち、違っ……俺はただ、アンタの事を思って忠告をしてやろうと……って、は、はぅあ!?」
そう叫ぶや否や、オッサンが驚愕に目を見開いたまま固まっていた。
どうやらオッサンの視線は、アタシの背後に向けられているようだった。
釣られるかのように、アタシもすぐさま背後に振り向くと――そこには、信じられないものが視界に映っていた。
振り返るとそこには、木々の茂みの陰からこちらを見つめる複数の男達がいた。
背中に刀を背負った、黒装束に身を包んだ怪しげな集団。
そして、額当てに彫り込まれた"忍"の一文字。
……間違いない、コイツ等は忍者だ!
忍者達はアタシの反応に気づくや否や、すぐさま両手に持った手裏剣を飛ばしてきた――ッ!!
こちらに向けて、勢いよく飛来してくる手裏剣。
……こんな訳のわからない状態で死ぬなんて、絶対にイヤッ!!
そう感じていた――まさにそのときだった。
命の危機が迫る最中、突如横合いからドンッ!と身体を突き飛ばされた。
私は思わず尻もちをついてしまう。
「キャッ!――ちょっと、一体なにすん、の……」
そこで思わず言葉が途切れてしまう。
何故なら、視線を向けた先――私が直前までいたはずの場所に、あの屋台のオッサンが立っていたからだ。
「へ、へへっ……大丈夫だったかい?……お嬢ちゃん」
そう弱々しい笑みを浮かべながら、オッサン――いや、おじさんが語りかけてくる。
言うまでもなく、おじさんが身を挺してアタシを庇ってくれた事は明らかだった。
「お、おじさん……!!」
御礼?謝罪?……とにかくなんでもいいから何かを言わないと……!!
そんな事を思考しているのに、続く言葉が全く出てこない。
にも関わらずおじさんは、そんなアタシを逆に気遣うかのようにニカッ!と満面の笑みを浮かべる。
そして――。
「……ッ!!か、グハッ!?」
苦悶の形相になったおじさんが、口から盛大に吐血する。
それとほぼ同時に顔に――いや、全身に赤い線が浮かんだかと思うと、おじさんの身体はバラバラになりながら瞬時に弾け飛んでいた。
細切れになるおじさんの肉片と、盛大に上がる血しぶき。
……そして、その向こうから飛来するいくつもの手裏剣。
おじさんは私を庇ったことで、代わりに忍者達の手裏剣でバラバラにされてしまったのだ――。
「……イ、嫌ァァァァァァァァッ!?」
突然の惨状を前に、我を忘れた私は悲鳴を上げていた。
……だけど、そんなもので事態は変わらない。
それどころか、下卑た笑みを漏らしながら、手裏剣を構えた忍者達がこちらへとにじり寄ってくる――。
「あ、あぁ……ッ!?」
……絶望感に覆われ、諦めかけていた――そのときだった。
「――お前達、そこで何をしているッ!?」
そんな凛々しい男性の呼びかけが、辺り一面に響き渡る。
アタイと勝負しろ、このタコッ!(byアカシック♡ラブパレード)