第88話 『 インターホンを鳴らして 』
照りつける太陽の下、俺、朝倉海斗は緊張していた。
「(最近久しぶりに話すようになったからって、いきなり家に来るのはキモすぎか⁉)」
俺が緊張している理由。それは、幼馴染である琉莉の自宅に特段理由もなくお邪魔しようとしていたからである。
いや待て。たしかに理由もなしに女子の家に行くのは自分でもキモイと思っている。しかし、完全にないといえば嘘にもなる。
「……夏休みの課題を一緒にやる過程でさらりとお出掛けに誘う。このプランでいいんだよな」
琉莉のことだ。きっとアイツはこの夏休み期間中はほとんど家に引きこもって過ごすに違いない。単純に暑いのが苦手というのもあるが、琉莉は好んで外に出るような性格じゃない。静かな場所で静かに読書に勤しむ、それが琉莉だ。
となるとこの夏は、琉莉は誰かが外出に誘わなければ、クーラーの効いた快適な環境下でずっと本を読んでいる本の虫と化してしまう。
ならば、ここは幼馴染である俺が幼馴染が引きこもってしまわないよう人肌脱いでやろうというわけ――つーのは建前だ。
本音は、
「……この夏休み中に、どうにか琉莉と距離を縮めたい!」
それが、俺の本音だった。
いや、これも少し違うか。
俺は、琉莉のことをもっと知りたい。
俺たちは幼馴染だ。けれど、果たしてそう呼べるほどお互いのことをよく知っているだろうか。
いや、知らない。
俺は琉莉のことを、何も知らない。
琉莉もきっと、俺の事を知らない。
だから、今更なのは、勝手だということは百も承知な上で、俺は琉莉の事をもっと知りたいと思った。その過程で琉莉も俺のことを知りたいと思ってくれれば嬉しい限りだが、たぶんそうはならない気がする。
だからこの夏休みは、少しでも琉莉と距離を縮める為に行動していく。その第一歩がこれというわけだ。
「ふぅ。いつまでも家の前でうろちょろしてると近所の人たちに不審者だと思われるからな」
まぁ、もう既に不審者だと思われてんだけど。背後から犬にめっちゃ吠えられてるんだけど。飼い主さーん! 早くその子連れてどっか行って!
俺は引きつらせた頬を戻すと、もう一度深呼吸した。
そして腹を括ると、ようやく琉莉の家のインターホンを押した。
――ピンポーン。
チャイムが鳴って数秒待つと、
『はい』
琉莉の声だった。
「よ、よぉ」
『? どちら様ですか』
まさかいきなり琉莉が対応してくるとは思わず、動揺してしまって変な声が出てしまった。
そして、琉莉はというとインターホンを鳴らしたのが俺だとは分かっていないようで、先の反応のせいで警戒心を強めてしまった。やばい。このままでは琉莉にまで不審者だと思われてしまう。
「お、俺だよ俺! 海斗だよ!」
『海斗?』
慌ててインターホンを鳴らしたのが自分だと伝えれば、『何故自分の家に海斗が?』とでも言いたげな声が返ってきた。
『何しに来たの?』
「ひ、暇かなーと思って、遊びに来た」
『はぁ?』
小学生か俺は。なんだその返答は。もう少しまともなの用意しろよ。
腹を括ってインターホンを鳴らしたくせに緊張でテンパる自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、インターホンから大きなため息が聞こえた。
「今玄関開けるから、少し待ってて」
『……え。い、いいのか?』
「来ちゃったものはしょうがないでしょ。でも今後は来る前に一本連絡入れてね」
「わ、分かった」
ぎこちなく頷くと、インターホンがぶつりと切れる。
てっきりこのまま帰れと言われるかと思った俺は、意外にもあっさり琉莉に会えることに拍子抜けてしまった。
そして、徐々に琉莉に会える嬉しさが込み上がってきて、
「うおっし」
そう、彼女の家の前で強くガッツポーズをせずにはいられなかった。




