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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第85話 『 さよならの切なさ 』

「ねぇ、アマガミさん。夏休みはどうする?」

「どうするって?」


 アマガミさんを駅まで送り届けるその道中、僕はアマガミさんにそう尋ねる。

 そして、アマガミさんは僕の問の意味を求めるように見つめてくる。


「ほら、明日から夏休みでしょ。そうなるといつもみたく学校から僕の家に気軽に来ることは出来ないわけで。僕もバイトがあるから、どうやって予定合わせようか相談しておこうと思って」

「あー。なるほど。そういうことか」

「ごめんね。こんなこと今更になって聞いて」


 ずっと聞こうと思ってたけど、どうしてか。聞くのが怖かった。

 その原因は自分でも理解している。いつかのお昼休み。アマガミさんが僕の肩を借りて眠ってしまった日のことだ。


 ――『ずっと、ボッチと一緒に居られればいいのにな』


 あの時の言葉が、僕の頭からずっと離れなかった。

 まるでいつかお別れするみたいな言い方で、それに踏み込んでしまえば本当にそれが現実になってしまうような気がして、だから怖くて聞けなかった。

 そしてようやく今になって、アマガミさんに尋ねる自分の臆病ぶり。


「夏休みも、アマガミさんに会えるよね?」


 赤瞳を真っ直ぐに見つめながら答えを求めれば、彼女は申し訳なさそうな視線を逸らして。


「あー。それなんだけどさ。悪い。夏休みはあたしも色々と忙しくて、気軽にボッチの家に行くのは無理そうだわ」

「――ぇ」


 聞きたくなかった答えだった。

 衝撃に穿たれながら、僕は声を震わせてその理由を追求する。


「えっと、それはあれかな。バイトとかでってことかな」

「だな。夏休みは、ちょっとガッツリ稼いでおきたくて」

「理由は、聞いてもいい?」

「……ごめん。ちょっと言えない。つか、ボッチには言いたくない」


 どうして僕には言えないのだろうか。アマガミさんの言葉に、そんな疑問が渦巻いて、不安でいっぱいになる。

 けれど、そんな感情を必死に堪えながら、僕は静かに頷く。


「分かった。それじゃあ、アマガミさんとこうして会えるのは今日が最後になるのかな」


 無意識に、彼女の握る手に力がこもった。

 まるで自分の心がアマガミさんから離れたくない、離したくないとでも訴えているかのように。

 そんな僕を見かねてなのか、アマガミさんは大仰に息を吐くと突然僕の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で始めた。


「んな顔するなぁ。べつに今生の別れってわけじゃねねぇんだぞ。夏休みの間は会いづらいって話なだけで、また学校が始まったらうんざりするほどお互いの顔見るし、ボッチの家にも遊びに行ってやる。だから、お前はなにも気にせずいつもみたくガキみてぇに笑ってろ」

「……アマガミさん」


 僕を元気づけようと、必死になって励ましてくれるアマガミさん。

 そうだ。夏休みは会えないだけで、また学校が始まればいつものように遊べるんだよね。


「ごめんね。ちょっとアマガミさんに会えなくなるかもしれないって思って寂しくなってた」

「バカだなボッチは。べつに直接会わなくたって、声が聞きたきゃ電話してくれて構わないし……その、どうしても顔が見たくなったら、ビデオ通話でもすればいいじゃねえか」

「あはは。そうだね。その手があったか。あぁ。でも、やっぱりアマガミさんの顔を見るなら直接がいいなぁ」

「うぐっ⁉ お前はそういうことを平気な顔で言いやがって」

「痛い痛い⁉ え、なんで僕、急に頭ぐりぐりされてるの⁉」

「うるせえ⁉ 黙ってあたしに頭ぐりぐりされてろ!」


 なぜか理不尽にキレられて、そして理不尽な暴力を振るわれる僕。

 それから数秒ほど頭をぐりぐりされて、ようやく解放されると痛みに呻く僕を横目にアマガミさんが何か言いたげに双眸を細めた。


「ボッチはこれだからダメなんだ。んなこと言われたら決心が揺らいじまうだろうが」


 アマガミさんが何の決心を固めたのかは分からない。

 けれど、僕は、


 ――『そんな決心揺らいじゃないなよ』


 そう言いたくて、けれど言葉にする直前でそれを飲み込んだ。

 例えどんな理由があっても、アマガミさんの決めたことを邪魔する権利は僕にはない。

 僕ができることはただ、彼女が人知れず固めた決心を見届けてあげるだけ。

 離れたくないという想いは、胸に秘める。それが、きっと正しいはずだから。


「……それじゃあ、またね」

「あぁ、またな」


 自分の胸中が彼女の決意を応援することを選んでいる間に、僕らは駅に着いてしまった。

 名残惜しさに胸が締め付けられながら、僕らは言葉少なく別れの挨拶をする。

 このままずるずると別れの時間を引き延ばしていると、お互いに離れたくなくなってしまいそうだったから。

 手を振る内側で、心が叫ぶ。まだ、キミと居たいと。

 それでも、離れなきゃいけないから。


「――――」

「――――」


 アマガミさんが駅のホームへ振り返る瞬間を見届けると、僕も来た道を戻るように踵を返した。

 振り返ってはいけない。

 振り返りたい。

 心が、葛藤する。

 衝動を理性で必死に押さえつけて、僕は歩く。


「――あぁくそ。会えなくなる前にもっといっぱい話せばよかったな」


 胸に広がる後悔という苦味。それを噛みしめながら、僕は街灯が灯る夜道を歩く。

 そうして、夏休みが訪れて――僕とアマガミさんの会えない時間が続いた。



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