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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第7話 『 アマガミさんと買い食い 』

 放課後。


「ふぃー。これで日直の仕事は終わりか?」

「うん。手伝ってくれてありがとう」

「なんで感謝すんだよ。あたしも日直なんだから仕事すんのは当たり前だろ」

「そうなんだけどね。でも、アマガミさん。日直の仕事頑張ってくれたから」

「あ、当たり前だつってんだろ。……お前一人でやらせるかよ」

「? 何か言った?」

「なんも言ってねーよ!」


 何故かキレられた。

 顔を赤くしながら睨んでくるアマガミさん。かたや僕は彼女がどうして唐突に不機嫌になったのか分からず首を捻る。女子って難しいや。


「……はぁ。仕事終わったならあたしはもう帰るぞ」

「うん。あ、そうだ。アマガミさん。今からすこしだけ時間ある?」

「あ? まぁ、あたしは基本暇だけど」


 ぎこちなく頷いたアマガミさん。


「そっか。ならこれからちょっとだけ付き合ってよ」

「――は?」

「先生に日誌渡してくるから、昇降口で待ってて」

「お、おい。行くってどこに……」

「それは秘密」


 唇に指を当てはにかむ僕はそう言って、ぱたぱたと職員室に向かった。

 その背後でアマガミさんが悶絶していたことを、僕は知るはずもなく――。


 ***


「おう! ボッチ! ……なんだぁ、今日はカノジョ連れてきたのか?」

「こんにちはジンさん。隣にいる子はカノジョじゃなくて友達だよ」


 そんな訳で帰り道。僕は何故か顔を俯かせているアマガミさんを連れてお肉屋に訪れていた。

 挨拶もほどほどに僕は店主であるジンさんに「牛肉コロッケ2つ」と注文する。


「……付き合うって、肉屋かよ」


 アマガミさんが何故か少しだけ残念そうに呟いていた。


「そうだよ。ここの牛肉コロッケ美味しいんだ。アマガミさんにも是非一度食べてみて欲しくて」

「いいこと言うじゃねえかボッチ。そんなお前さんには特別に揚げたてを用意してやろう」

「わぁ! ありがとジンさん」

「お前やっぱ天然人たらしじゃねえか」


 アマガミさんは鼻を(こす)るジンさんと無邪気な笑みを浮かべる僕を交互に見やりながら呆れたように嘆息した。


「つーか、お金」

「え。あぁ、いいよ。今日は僕の奢り」

「はあ? なんで?」

「なんでって言われても。今日、アマガミさん日直の仕事頑張ってくれたでしょ。だからそのお礼をしたくて」

「いや意味分かんねぇ。教室の時も言ったろ。日直だからやっただけって」

「あはは。そうなんだけどさ。でも、嬉しかったから」


 だからアマガミさんに奢りたくなったんだ。と言うと、アマガミさんが面食らったように目を瞬かせていた。


「善人がすぎやしないか、お前」

「善悪の物差しなんて人それぞれだよ。周りは皆アマガミさんから距離を置こうとするけど、僕はアマガミさんのこと好きだからね」

「~~~~っ⁉」

「? どうしたのアマガミさん? 急に顔を真っ赤にして?」

「やっぱ無自覚だよな⁉ お前のそういうところ本当によくないぞ⁉」

「僕のどこがよくないの? 言ってくれたら直すよ」

「そういうとこだよ!」


 両手をぶんぶんと振りながら猛抗議してくるアマガミさん。しかし僕は彼女の主張が分からず小首を傾げるばかりだった。


 そんな僕らの会話を聞いていたジンさんはなぜか豪快に笑っていて。


「お嬢ちゃんも苦労してんなぁ! 俺はてっきりボッチの方がお嬢ちゃんに惚れてんのかと思ったけど、まさか逆とはなぁ」

「はあ⁉ べつにそんなんじゃねえし!」

「そんな嬢ちゃんにアドバイスだ」

「人の話聞けよ⁉」


 揚げたてのコロッケを袋に詰めながら、ジンさんは言った。


「ここにいる一見人畜無害で恋愛なんて一度もしたことがないボッチだがよ。実はコイツ、学校だとわりと女子の評判高いんだよ」

「……そ、そうなのか?」


 さっきまで叫んでいたアマガミさんが急に神妙な顔になった。


「おう。ウチにはお前さんらと同じ高校の連中が小腹満たしによく来るんだけどよ、その時たまに聞こえてくるんだよ。「ボッチは隠れイケメン」とか「陰キャの中の陽キャ」だとか「聖人通りこして仏」とか」

「それって褒められてるの?」

「女子からしたら褒めてんじゃねえのか。おっさんは最近の若い子連中の恋愛事情は疎いから分かんねぇけど」

「それじゃあたぶん褒められてないと思うよ。そもそも、ボッチが本当に僕のことかも定かではないでしょ」


 コロッケを受け取りながらジト目を向ければ、ジンさんは「でもよ」と継いで、


「智景、ってお前のことだろ」

「……それはまぁ。でも同じ名前で別人とも否定しきれないでしょ」

「じゃあ、お前のクラスに同じ名前のヤツいんのかよ?」

「……いない」

「じゃあ決まりだな」


 渋々と答えるとジンさんがケラケラと笑った。


「つーわけでコイツは意外とモテるんだよ。だから嬢ちゃん。もしコイツを手元に置いておきたかったら、なるべく早いうちに告白しておいたほうがいいぜ。そうじゃなきゃ、この誰にでも優しい少年が他の女に取られちまうかもだぞ」

「何言ってるんだよ全く。アマガミさん、ジンさんの言葉なんか鵜呑みにしなくていいからね……アマガミさん?」


 熱々のコロッケを持ちながら硬直するアマガミさん。

 おーい、と何度か視界の前で手を振ると、ようやく我に返ったようにビクッと肩が震えた。


「――べ、べつにお前がどこの誰と付き合おうがあたしには関係ないし!」

「いや誰とも付き合わないよ。それに、そもそも僕モテないし」

「でも、今日女子に声掛けられてだろ」


 やっぱそうか、と飛んでくる野次馬の声を無視して、


「クラスメイトなんだから声掛けられるのは当たり前でしょ。それに、付き合ってる時間でいえば、アマガミさんといる時間の方が他の誰よりも長いよ」

「そ、そうなのか?」

「そうだよ」


 頷くと、アマガミさんはほんの少しだけ嬉しそうに口許を緩めた。


「そうかぁ。ボッチはそんなにあたしと一緒にいるのがそんなに楽しいのか」

「? う、うん。楽しいけど」


 アマガミさんがさらにニヤついて、上機嫌になっていく。


「そうかそうか。ボッチはあたしと一緒にいるのが一番楽しいのか」

「……なんか肥大化してる。けど、あながち間違いではないかも」


 たしかにアマガミさんといる時間は心地いい。まだ少しだけ緊張はするけども、それも心臓が圧迫するような息苦しさではない。この緊張は男女特有の距離間からくるとものといえばいいのか、或いはもっと別の、特別な感情が引き起こしているとでも言えばいいのか。

 いずれにせよ、アマガミさんと一緒にいるこの時間は僕にとって心地よかった。


「ふふん。ならもっと一緒にいてやってもいいぞ。冴えない陰キャのボッチに、このあたしが付き合ってやる」

「あはは。露骨に上機嫌になってるなぁ」


 でも、そんなアマガミさんも嫌いじゃない。むしろ可愛いと思う。

 上機嫌なアマガミさんはドヤ顔のままコロッケに噛みついて「うまあっ⁉」と目を輝かせた。


「(……誘ってよかったな)」


 美味しそうにコロッケを食べるアマガミさんの顔を眺めながら、僕もコロッケを頬張るのだった。


「……あふっ」


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