第77話 『 アマガミさんとお泊り会② 』
シャワーを浴び終えていくらか冷静さを取り戻した僕。
リビングに戻ると、スマホをイジっていたアマガミさんが僕に気付いた。
「おっ。戻ってきたか」
「うん」
こくりと頷いた僕に、アマガミさんは不思議そうに小首を傾げた。
「なんだ人の事ジッと見つめて。顔に何かついてるか?」
「ううん。今日も可愛いです」
「そ、そんなこと今聞いてねえよ!」
無意識に口からこぼれた言葉に顔を真っ赤にするアマガミさん。一方の僕はというと、眉根を寄せる。そして、狼狽する彼女にこんな質問を投げかけた。
「アマガミさん。つかぬ事をお聞きしますが、髪は乾かしましたか?」
「あぁ? してないけど」
「なんで⁉」
まだ湿っている髪を見て怪訝に感じたのだが、やはり乾かしてなかった。
驚く僕に、アマガミさんは「だって」と口を尖らせて、
「髪、ドライヤーで乾かすのなんてめんどくでたまにしかしねえもん」
「だからって。せっかく綺麗な髪なんだから、ちゃんとケアしないとダメでしょ」
「婆ちゃんみたいなこといいやがって」
口を尖らせるアマガミさんの元まで寄りつつ、僕はカーペットに指さすと、
「ほら、そこ座って。髪乾かしてあげるから」
「……いいのか?」
「? なんで驚くのさ」
「……や。べつに。なんでもねえ」
何故か急に狼狽え始めるアマガミさん。僕は分からず首を傾げるばかり。
それから彼女はそわそわしながらカーペットに胡坐をかいた。
「はぁ。ドライヤー、テーブルに置いといたのにな」
「あ、これあたしの為に置いといてくれたのか」
「それ意外にどんな理由があるのさ」
「ボッチが自分の髪乾かすのに使うのかなーって思ってた」
「使うけどね。でも、アマガミさんの方が先にお風呂から上がってるんだから、そこは気付こうよ」
「悪ぃ、悪ぃ」
全く悪びれなく、アマガミさんはにししと笑う。
僕はソファーに座るのと同時にため息を吐きながら、ドライヤーでアマガミさんの髪を乾かし始めた。
「ふはっ。誰かに髪乾かしてもらうのなんて何年ぶりだろうな」
「大人しくしてよね」
「犬じゃねえんだから暴れるか。ふふっ。にしてもボッチ。髪乾かすの上手いな。褒めてやるぞ」
「何様なのさ」
「アマガミ様だ」
はいはい、と僕は適当に流す。
髪を乾かしていると、アマガミさんがふぃ、と気の抜けた声を上げながら呟いた。
「やー。やっぱボッチは最高だな。メシも作ってくれてその上身の回りの世話までしてくれる。一家に一人は欲しい人材だ」
「もう。調子いいんだから。そんなこと言ってると自分で髪乾かしてもらうよ?」
「やーだー。ボッチに髪乾かしてほしいー」
駄々をこねるアマガミさん。僕は嘆息するも、結局はこの駄々っ子のワガママに付き合ってしまう。
「ずっと気になってんだけどさ、アマガミさんのこの金髪って地毛なの?」
「んぁ。おう。地毛だぞ」
「なるほど。どうりで艶がよくてサラサラしてて綺麗なわけだ」
「へへっ。だろ。この髪はあたしの数少ないあたしの自慢なんだ」
僕が賞賛を送ると、アマガミさんは心底嬉しそうに笑った。
「でもあたしの髪も体も触っていいのはあたしが認めた奴だけだからな」
「それじゃあ、僕はアマガミさんに認められてるってことだね」
「当たり前だろ。そうじゃなきゃ髪なんか乾かさせねえよ」
「自分でやるのが面倒だからやってもらおうとしたわけじゃなくて?」
「それは正解」
「あはは。正解なんだ」
「でも、ボッチにやって欲しかったってのも本音だぞ」
その不意打ちはずるい。
急に嬉しいことを言われたもんだから、思わず頬が緩んしまった。
僕は必死に平常心を保ちながら、なんとか「そう」と頷き返す。
「……僕も、こうしてアマガミさんのお世話するの、嫌いじゃないよ」
「そっか。ならもっと世話してもらおうかな。……なーんつってな」
僕の方に振り返って、アマガミさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
その笑みを見つめながら、僕は微笑を浮かべると、
「いいよ。もっとアマガミさんのお世話してあげる。アマガミさんが嫌じゃなければ、だけどね」
「――っ。……その不意打ちはずりぃ」
「ふふっ。さっきの仕返しです」
「さっきでいつだよ。くそっ。調子狂うな」
僕の言葉に面食らったアマガミさんは、顔を赤くすると逃げるように顔を背けた。
それでも耳まで真っ赤だから、彼女が照れていると僕には分かってしまう。
「ふふっ。それでどうしますか。もっとお世話しましょうか?」
「だああああ! もうこれ以上はしなくていい! これ以上ボッチに世話されたら、マジでボッチ抜きじゃ生きられなくなっちまう!」
「それはそれで面白そうだね」
「悪魔かお前は⁉ くっそぉ。絶対これ以上世話なんかされてやれねえからな」
「その未来を回避できるといいね」
そう口ではいいつつも、結局は僕にお世話されているアマガミさんの未来が見えるのは僕だけだろうか。
それはそれで存外悪くないものだと、僕は彼女の髪を乾かしながらそう思うのだった。




