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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第5話 『 アマガミさんとあだ名 』

「あ、奇遇だね。天刈(あまがい)さん」

「お前やっぱストーカーだろ」


 お昼時の屋上に行くと偶然アマガミさんを見つけた僕。

 心外だな、と苦笑しながらコンクリートに尻もちを着くと、


「おい待て。なんでさも当然のようにあたしの隣に座る」

「え、ダメかな」


 せっかくだからご飯を一緒に、と思い隣に座ってみたけれど、案の定おもいっきり警戒された。


「ダメに決まってんだろ。あたしは一人でメシ食うのが好きなんだよ」

「そっか。でもたまには誰かと食べるのも新鮮でいいかもしれないよ」


 ニコリ、と笑いながら言うと、アマガミさんはうぐ、と口ごもる。


「お前、見かけによらず手強いやつだな」

「あはは。そうかな。そんなこと今まで誰にも言われたことないや」


 運動も好きだけど苦手だし、男子のわりに筋力はない方だ。

 だからアマガミさんの言葉に思わず嬉しさを覚える自分がいた。


「……おい、だから一緒にメシ食うの許した覚えはねえって……」

「今日だけは特別に許してよ。最近仲良くなった者同士、もっと交流を深めよう」

「べつにお前と仲良くなった覚えはねぇ……チッ。そういえばお前には貸しが一つあったな」


 一瞬何のことかと首を傾げたが、すぐにこの間のことかと思い出す。


「そうだね。じゃあ、これはこの前の対価ってことで。どうかな?」

「だああああ! くっそ分かったよ! 一緒に昼飯食ってやるよ!」


 半ばやけくそ気味に承諾してくれたアマガミさん。そんな彼女に僕は「ありがとう」と微笑む。

 アマガミさんからの承諾も得たことで、僕は鼻歌をうたいながら弁当箱を開けていく。


「あれ、天刈さんお弁当は?」

「あぁ? メシならここにあんだろ」


 そう言ってアマガミさんは僕の目の前でコンビニのレジ袋をぶら下げた。


「え、それだけ?」

「こんぐらい食えば十分だろ」


 アマガミさんがぶら下げているレジ袋に入っているのは焼きそばパンが一つだけ。

視線を下げれば、太ももの隣にパックのレモンティーが置いてあった。

 胃袋の大きさなんて個人差だけれど、クラスメイトの女子ですらもう少し食べていた気がする。


「天刈さんは小食なの?」

「そんなことはねえと思うけど」


 それじゃあどうして焼きそばパン一つだけなのだろうか。


「もしかして体調悪い?」

「あぁ? 元気じゃなきゃ焼きそばパンなんて食わねえだろ」


 なんでさっきから眉間に皺よせてんだ、とアマガミさんは焼きそばパンの袋を開けてかぶりつきながら問いかけてくる。


「ちょっと意外だなって。天刈さん、いっぱい食べるイメージあったから」

「もぐもぐ……お前、あたしにどんなイメージ持ってたんだ。フードファイターじゃねえんだよ」

「そこまで誇張してはないんだけどね。でも、クラスの女子の方が食べてたから」


 だから意外だった、と答えると、アマガミさんは途端神妙な顔になった。

 何か言いたげで、けれど躊躇うような悶々とした表情を続けること数秒。やがてアマガミさんは諦観したように吐露した。


「……今はちょっと、その。あれだ、金欠なんだよ」

「そうなんだ」


 だから焼きそばパン一つだけなのか。

 別に買おうと思えば買えるけどな、と仏頂面で付け足すアマガミさん。

 まぁ、女の子には色々と買わなきゃいけないものがあるというのは知っているからそこは深堀しないでおくとして、


「なら、はい。どうぞ」

「……なにしてんだお前」

「なにって、天刈さんにお弁当のおかずをあげようと」


 アマガミさんの前に弁当箱を差し出すと、彼女は意味が分からんと眉尻を下げた。


「いや要らねえよ。お前の弁当だろそれ」

「遠慮しなくていいから。この卵焼き自信作なんだ。是非食べて」

「あたしの話を聞けよ⁉ ええいっ、弁当箱押し付けんな! 食べねえよ!」

「でも食べないと死んじゃうよ?」

「現在進行形で焼きそばパン食ってんだろうが!」


 歯型の付いた焼きそばパンを指さしながら叫ぶアマガミさん。

 しかし僕は彼女の抗議を無視して、一方的におかずを勧める。


「なら唐揚げは? これも自信作なんだ。それとも筑前煮にする?」

「お前あたしの話一切聞かねえな⁉ どんだけ自分の弁当食べて欲しいんだよ!」

「えへへ。実は僕の手作り弁当、他の人たちから結構評判良くてさ。皆が言うには卵焼きが一番美味しいんだって」

「孫に料理振る舞いたいばあちゃんみたいなテンションだな!」

「まぁまぁ、騙されたと思って食べてみてよ」


 弁当箱を押し付ける僕とそれを押し返すアマガミさん。

 数十秒にも及ぶ拮抗の末、


「……くそっ。一個だけだからな」

「ありがと」


 遂に根負けしたアマガミさんが、渋々といった顔で僕の弁当箱から卵焼きを一つ指でつまんで口に運んだ。 

 はむ、と一口で卵焼きを放り込んだアマガミさん。


「――っ! ……うまい」

「でしょ!」


 猫のように大きく目を見開きながら感想をこぼすマガミさんに、僕はぱぁと顔を明るくする。


「じゃあ次これ、唐揚げも食べてみて!」

「……いいのかよ」

「もちろん!」


 躊躇するアマガミさんに、僕は満面の笑みを浮かべながら頷く。


「なら、もらうわ」

「どーぞどーぞ」


 一度目とは違ってアマガミさんは好奇心をはらんだ手つきで唐揚げを掴んだ。そしてそのまま口に運び、


「唐揚げもうま⁉」

「ふふっ。これも自信作だったんだ」


 本当に美味しそうに食べてくれるアマガミさん。

 そんな彼女の驚き顔に、僕は途方もない嬉しさを噛みしめた。


「あ、はい。これで手拭いて」

「おっ。サンキュー。気が利くなお前」


 お礼を言いながら、アマガミさんは僕が差し出したポケットティッシュから紙を一枚引き抜いて手を拭く。


「なぁ、自信作とか言ってたけど、これ全部お前が作ったのか?」

「そうだよ」

「へぇ、器用なやつだな」


 アマガミさんが感心したように息を吐いて、それからまた焼きそばパンに噛りついていく。


「つーかお前、わざわざ弁当持って屋上に来たってことは誰かと食べる予定だったんじゃないのか?」

「鋭い指摘だね。うん。その通りだよ。でも一緒にお昼食べようとした友達が委員会の仕事で呼ばれちゃってね。仕方なく一人で昼食取ろうと場所を探してた所で天刈さんを見つけたんだ」

「ふーん。そんで、そのまま強引にあたしと一緒にメシを食ってるわけだ」

「迷惑だった?」

「おかず分けてもらった手前迷惑とか言うわけねえだろ」


 やっぱりアマガミさんて見た目に反して律儀だよな。

 僕の中でアマガミさんはヤンキーというより反抗期の女子という印象が更新されていく。

 たしかに口調の粗暴さや行動に荒っぽさは目立つものの、それも慣れればどうということはない。気性の荒い猫だと思えば、むしろそこが愛しいとさえ思えた。


「天刈さんはどうして屋上に?」

「あたしか? あたしは気分だ」


 さらに猫要素が追加された。まさにきまぐれな猫といった感じだ。


「あはは。天刈さんらしいね」

「天気がいいのに教室で食うのも釈然としなかったし、それにあそこはあまり好きな空間じゃねえからな」


 そう言った彼女は、どこか息苦しそうな、必死に寂寥を隠そうとする表情をしていた。

 たしかに教室は、アマガミさんの事を快く思っていない人たちが大勢いる。というより、僕以外は全員、アマガミさんに対して嫌悪感を抱いている。

 やはり不良には近づきたくない、という潜在意識が強く働いているのだろう。

 アマガミさんは意外と怖くない人で、しかも人情派なんだけどなぁ。

 しかし、それを知っているのも僕だけだった。


「……天刈さんはいい人なんだけどなぁ」

「ハッ。あたしのどこがいい人なんだよ」


 自嘲するように鼻で嗤ったアマガミさん。

 自信なさげに視線を落とす彼女に、しかし僕は「天刈さんはいい人だよ」と強く言い切った。


「天刈さんは優しい人だよ。僕が毎日しつこく絡んでるのに、なんだかんだ言っても付き合ってくれてる。それに、貰った恩を忘れない人だ」

「――――」

「それに、案外会話も弾むしね」

「――――」

「? どうしたの、天刈さん?」


 アマガミさんが僕のことをジッと見つめたまま、硬直していた。

 驚いたような、困ったような、嬉しそうな、泣きそうな……そんな顔をしていて。


「そんなこと、今まで誰にも言われたことねえ」

「そうなんだ。でもそうかもね。僕もそうだけど、人って、ちゃんと関わらないと外見や周囲からの評判だけでその人を判断しちゃうから」


 少なくとも、アマガミさんと関わった僕なら分かる。

 彼女は決して悪い人じゃない。

 周囲が思うような悪人じゃない。ただ少しだけ粗暴で、不器用で、人と関わることを遠ざけている、ごく普通の女の子だ。

 僕は、アマガミさんのことをそう思う。


「僕は天刈さんと一緒にいるの嫌いじゃないし、むしろ楽しいよ」

「~~~~っ!」


 正直な感情を吐露した瞬間、アマガミさんの顔が赤く染まった。


「直球過ぎんだよお前」

「天刈さんは正直に気持ちを伝えた方がいいと思って」


 嫌だったら止めるよ、と言うと、アマガミさんは「いいよ、べつに」と口許を隠しながら許しをくれた。


「やっぱお前、変だわ。――でも、嫌いじゃねえ」

「ふふ。恐縮だね」


 笑うと、アマガミさんは照れたようにそっぽを向いてしまった。


「――名前」

「ぇ?」


 一瞬何を言われたか理解できずに呆けると、アマガミさんは「だから」と継いで、


「お前、なんていう名前だよ」

「あはは。一応、僕ら席となり同士なんだけどな」

「う、うるせえ! いいからさっさと教えろ!」


 顔を真っ赤にしながら催促してくるアマガミさんに、僕は一拍置くと、


帆織智景ほしきちかげ。皆からは〝ボッチ〟って呼ばれてます」

「なんか可哀そうなあだ名だな」

「絶対言われると思った。でも小さい頃からずっとそう呼ばれてるから、もう慣れてるよ」


 ボッチじゃないのにボッチって矛盾してるよな、と男友達からはよく笑われているけど。

 けれど僕にとっては愛称の一つなので、このあだ名も大事にしてる。ゲームのアカウント名も大半が『ボッチ』だし。

 アマガミさんは「ボッチね」と復唱したあと、


「それじゃあボッチ。あたしのことはこれから〝アマガミ〟と呼べ」

「えーと、アマガミさん?」

「おう。あたしが気に入った相手にはそう呼ばせることにしてんだ」


 それはつまり、僕はアマガミさんに気に入られているということだろうか。

 それはとても光栄なことだな、と僕ははにかんだ。


「それじゃあ、これからよろしくね、アマガミさん」

「おう。こっちこそよろしくな、ボッチ」


 こうして僕とアマガミさんは、友達? とはまだ言い切れないかもしれないけど、あだ名で呼び合う関係となったのだった。



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