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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第3話 『 アマガミさんと些細な心境の変化 』

 ――翌日。


「……おい」「まじかよ」「なに、今日台風でも来るの」「なにそれウケる」


 朝から教室にどよめきが走ったのは、普段ならこの時間には絶対登校しないであろう人物が教室に入って来たからだった。


「――チッ」


 彼女は不機嫌そうに後頭部を掻きながら自席へ向かう。そして、ガタリと音を立てて椅子を引くと、机に鞄を乱暴に置きながら席に着いた。


「おはよ。天刈あまがいさん」

「――――」


 昨日少しだけ仲良くなれた気がしたけど、どうやらそれは僕の勘違いだったみたいだ。

 いつも通り無視されて、ちょっぴり落ち込む。

 けれど、僕はめげずにいつものように会話と呼べるかは分からない一方的なキャッチボールを始めた。


「今日は始業前から登校してくるなんて珍しいね。何かいいことでもあった?」

「――――」


 アマガミさんはスマホに視線を注いだまま、僕が投げたボールを返してくることはない。

 けれど何故か、彼女は僕の話を聞いてくれている気がした。


「あ、そうだ。一限目の授業は英語だけど、今日は先生が出張で自習だよ。ラッキーだよね」

「――――」

「あはは。でも天刈さんからしたら最悪だったかもね。先に知ってたらゆっくり登校できたかもしれなかったし」

「……べつに」


 ぽつりと、呟かれた返答を、僕は決して聞き逃さなかった。

 ぇ、と驚きながらアマガミさんに振り返ると、彼女はチラッと僕に視線をくれて、


「お前、いつもこの時間にいんのか?」

「う、うん。だいたいこの時間にはもう登校してるかな」


 戸惑いつつ答えると、聞いてきた本人はふーん、と生返事。

 この質問はどういう意味なんだろうか。そう首を傾げていると、


「8時15分か……きつ」

「……ひょっとして、天刈さんて朝苦手なの?」

「超苦手」


 先の時刻の意味はよく分からないけれど、しかし一つ彼女について分かったことがあった。

 アマガミさんは朝が『超』がつく苦手。なるほど。だからいつも登校が遅いのか。

 てっきり授業が嫌いなんだろうとばかり思っていたのだが、どうやらそれは勘違いだったらしい。

 アマガミさんのことをまた一つ知れて、僕は嬉しくなる。


「あはは。なんだ、学校が嫌いなわけじゃないのか」

「なに突然笑ってんだお前。意味分かんねぇ。つか、学校は皆嫌いだろ」

「僕はわりと好きだよ」

「? 教室でいつも端っこにいる陰キャなのにか?」

「天刈さんて結構正直な人だよね」

「――?」


 さらっと傷つくようなセリフを平気で吐くなアマガミさん。


「教室の端っこにいるのは席順だからね。陰キャって部分は、まぁ認めるけど、でもちゃんと友達はいるよ」

「このクラスにもか?」

「さっきから言葉のナイフで容赦なく心を抉ってくるね。……うん。ちゃんとこのクラスにもいるよ」


 頷けば、アマガミさんは「見かけによらねぇな」と意外そうに息を吐く。


「そんなに意外だった?」

「あぁ。あたしはてっきりお前のことを冴えない陰キャ野郎ばかりだとばかり思ってた」

「冴えない陰キャ野郎……まぁ、大人しいって自覚はあるよ。実際、休日は家の中にいる時間が多いしね」

「どうせアニメとかゲームとかやってんだろ」

「うん。だって楽しいもん」

「正直に答えられるとイジリ甲斐がねえな」

「人の趣味をバカにするのはダメだよ」

「あぁ? んなことしねえよ。あたしだってアニメとかゲーム好きだしな」

「へぇ。どんなアニメ観るの?」


 露骨に食いついてきやがった、と若干嫌そうな顔をするアマガミさん。


「……最近はあれだ、僕アカにハマってる」

「あ、それ僕も視てるよ!」


 共通の話題を見つけて、僕は嬉しさのあまり思わず声を上げてしまう。

 そしてアマガミさんは、お前なら視てそうだな、と小さく笑った。


「誰推し? 僕はやっぱり主人公が好きなんだ」

「あたしはライバルが好きだな。勝気な性格が好きなんだよ」

「あははっ。確かにライバルキャラ、天刈さんにちょっと似てるよね」

「あっ? 誰がツンツン頭で喧嘩っ早いだコラ」

「そんなこと一言も言ってないよ⁉」


 ツンツン頭は違うけど、喧嘩っ早いのはたぶん同じだ。

 睨んでくるアマガミさんの圧に気圧されながらも、必死に弁明してどうにか機嫌を取り戻してもらう。

 ほっと安堵する僕に、アマガミさんは「あぁ」と何か思い出したように吐息した。


「そうだ。お前に言わなきゃいけないことがあるんだった」

「僕に言わなきゃいけないこと?」


 何の事だろうか、と小首を傾げていると、アマガミさんが徐にスマホを突き出してきた。


「昨日お前が見せてくれた動画のおかげで、このクエスト勝てたわ」

「――ぇ。あ! 本当だ!」


 アマガミさんが僕に見せてきたのはゲーム画面だった。そして、そこにはクエストクリアのマークが表記されていた。


「凄いね天刈さん! 本当に一人で勝っちゃったんだ!」

「ふん。こんなクエスト、本気になったあたしならお茶の子さいさいだっつの」


 ドヤ顔を決めるアマガミさん。不覚にも可愛いなと思ってしまいながら、しかしそれ以上に僕は感動に浸っていた。


「かっこいいな天刈さんは。一人で勝つ、って宣言して、本当に有言実行しちゃうんだもん」

「大袈裟だっつの。もとはと言えばお前がプレイ動画見せてくれたからで、あれがなかったら、たぶん一生勝てなかったと思う」

「ううん。そんなことないよ。天刈さんなら僕の手助けなんかなくても、きっと勝てたと思う」

「――――」

「? どうしたの?」


 急に静かになったアマガミさんに視線を移すと、彼女は意表を突かれたように目を瞬かせていた。


「……変なやつだなお前」

「あはは。僕って変かな?」


 友達には「お前って真面目だよな」とよく言われるのに。

 アマガミさんの僕に対する印象は、どうやら他の人たちとは違うみたいだ。


「あたしのこと大して知りもしないくせに、よく勝つっ自信満々に言い切れるな」

「だって天刈さんだもん」

「おい。それはどういう意味だコラ」


 睨んでくるアマガミさん。返答次第では腹に一発食らいそうな剣幕だ。けれど僕はその凄まじい圧に一切怯えることなく本心を告げた。


「天刈さんはカッコいい人だから、きっと最後までやり切るって思ってたんだ」

「――――」


 彼女は孤高だ。孤独ではなく、孤高。気高い一匹狼のような、強い鋼の意思を持って生きてる人だと僕は思う。

 何者にも懐柔かいじゅうせず、何処にも属さず、ただ我が道を行く人。

 そういう人は、己の中に揺るがぬ信念を持っていて、決して自分の言葉に嘘を吐くことはない。

 だから僕は、あの時「一人で勝つ」と宣言したアマガミさんを信じていた。そして、彼女は本当に実現してみせた。

 そこにある感情は〝尊敬〟以外の何もなくて。


「凄いね。天刈さんは」


 嘘偽りなく、ありのままの賞賛を彼女に送った。

 真正面からそれを受けたアマガミさんは暫く無言のまま、ぱちぱちと目を瞬かせて、


「……ほんと、変なやつ」

「あはは。確かに変なやつかもね」

「認めんな、ばか」


 ぷいっと視線を逸らして、アマガミさんは再びスマホに視線を戻してしまった。

 それからはまたいつもと同じように、話しかけても返答がくることはなかった。けれど時々、「そうだな」とか「ふはっ」とか小さな反応をもらえた。

 些細な変化だ――でも、僕はそれが堪らなく嬉しくて。

 今日もまた、一方的な会話を弾ませていくのだった。

 そして、


「……朝早く起きるのも、案外悪くねぇな」


 その日から、アマガミさんは時々早く学校に来るようになった。



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