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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第2話 『 アマガミさんと初めての会話 』

 ある日の放課後。

 帰る間際の僕は、アマガミさんがスマホと睨めっこしている光景を偶然見てしまった。


「あ、モンスタだ」

「――っ」


 思わず声が零れてしまった瞬間、アマガミさんの肩がびくっと震えた。


「……なに勝手にあたしのスマホ見てんだ」

「ごめん。たまたま見えちゃって」


 ドスの効いた声と赤瞳しゃくどう(にら)まれる。

 露骨に警戒心を強めるアマガミさんに、僕は距離感を測りながら対話を試みた。


「天刈さんもやってるんだね。モンスタ」

「……やってたら、なんか文句あんのかよ」

「あはは。まさか。ただちょっと意外だなって」

「――?」


 なんで? と怪訝に眉を寄せるアマガミさん。

 モンスタ、というゲームは僕ら10代や20代を中心として根強い人気を誇るソーシャルゲームだ。キャラクターを引っ張って敵を倒すというシンプルながらも奥深いゲームで、難易度が高いクエストほどプレイヤーに高度な技術を要求してくる。

 このゲームの人口層は女性よりも男性の方が圧倒的に多いので、そういう意味で僕は「意外」だと言った。


「面白いよね、モンスタ」

「……べつに。ただの暇つぶしだし」


 そういう割には本気でやってた気がする。


「今回のコラボクエスト、難しかったよね」

「…………」


 アマガミさんの反応を(うかが)いながら、僕は会話を続ける。


「僕の周りで勝てないって人が結構いてさ。「無理ゲー」って皆嘆いてたよ」

「…………」

「僕も友達とマルチしたけど、あれは一人で勝つにはちょっと難しかったな」

「――っ! お前、あれ一人で勝ったのか?」


 たぶん彼女とこれまで対話した中で最も顕著けんちょな反応だった。

 くるりと体を回転させて食い気味に訪ねてくるアマガミさんに、僕は内心の嬉しさを必死に隠しながら応じた。


「うん。ソロで勝ったよ」

「あれか。お助けアイテムなしとキャラ制限の限定ミッションの方だぞ?」

「うん。あ、ほらこれが証拠ね」


 僕はさっとモンスタ――ではなくトイッターを起動すると、投稿した動画をアマガミさんに見せた。


「……すげえ。本当にソロでクリアしてやがる!」


 僕からバッとスマホを奪うと、アマガミさんは画面を食い入るように見た。


「いいねも500以上ついてる。……お前、ひょっとしてあれか、プロゲーマーってやつなのか?」

「ううん。僕はただの一プレイヤーだよ」

「そのわりにはコメントで『ショットが上手すぎる』とか『参考になる』とか書かれってけど」

「このゲームを遊んでそれなりに時間が経つからね。技術はそれなりにあるほうだと思うよ。でも、到底プロには及ばない」


 ふーん、と関心したような、興味なさげに生半可な返事をするアマガミさん。

 そしてアマガミさんは、一分に収められた僕のプレイ動画を何度もリプレイしては感嘆の吐息を溢した。


「へぇ。ここはこうやるのか。……うおっすげえ! そこそうやってハマるのかよ⁉ 天才か⁉」

「天才ではないよ」


 間近で自分のプレイを褒められるとなんだか照れくさくなる。

 友達とマルチで遊ぶ時も褒められることはあるのだが、彼女に褒められるとそれ以上に嬉しさが込み上がってきて奇妙な感覚だった。


「はぁ。オタクってやっぱゲーム上手ぇんだな」

「オタクって決めつけられてる。いや実際オタクだからいいんだけど」


 偏見と一緒に僕の手元にスマホが戻ってきた。

 苦笑いを浮かべる僕に、アマガミさんは「でも」と継ぐと、


「お前のプレイ動画、めちゃくちゃ参考になったわ。ありがとな」

「お礼なんてとんでもない。僕はただ動画見せただけだよ」

「けどそのおかげで、もうちょいやれば勝てるような気がしてきた」


 ぐっと背筋を伸ばすアマガミさん。

 それから鞄に手を掛けようとした彼女に、僕は咄嗟(とっさ)に「待って!」と手を指し伸ばしていた。


「そのさ……天刈さんさえよければ、一緒にこのクエストやらない?」

「――――」


 直感的に、これをきっかけにアマガミさんと仲良くなれかもしれないと思った。

 緊張からか、ドクドクと心臓の音がやたら大きく聞こえる。


「ほら、このクエスト難しいけど、マルチならソロより楽になると思うし……」


 僕の突拍子もない提案に、アマガミさんはふっ、と笑うと――


「ありがてぇ提案だけど、悪いな。コイツは一人でぶっ飛ばしてぇ。ここまで散々あたしを手古摺らせたツケを、コイツに支払わせてやる」


 ニタリ、とアマガミさんは凶悪な笑みを咲かせた。

 およそ女の子とは思えない殺る気に満ちた表情。

 やはり彼女が誰もが恐れるヤンキーであることを改めて思い知らされるような凶悪な顔に僕は恐怖し――僕は、彼女のその笑みに思わず笑ってしまった。


「あははっ。そうだよね。難しいクエストを一人でクリアする時って、凄く快感だよね」

「フッ。よく分かってんじゃんか」


 やっぱり僕って変かもしれない。

 常人なら怯えてしまうであろう彼女の凶悪な笑みに対して、恐怖ではなく高揚を覚えたのだから。

 席を立ち、鞄を肩に掛けるアマガミさんに向かって僕はひらひらと手を振りながら、


「頑張ってね、天刈さん」

「ゲーム如きで応援されるのも変だが、まぁ有難く受け取っておくか」


 応援されるの珍しいし、と呟きながら踵を返すアマガミさん。

 そして教室を去ろうとしていくアマガミさんの背中を見届けていると、彼女は不意に足を止めた。

 どうしたんだろうと小首を傾げていると、振り返ったアマガミさんが僕を見つめて、


「……その、いつも悪いな。話しかけてくれてんのに、無視して。……今日も、声掛けてくれてありがとな」


 少し照れくさそうな顔で、アマガミさんはお礼をくれた。

 突然のことで、僕は目を瞬かせて硬直する。


「じゃ、じゃあ帰る!」

「あっ、うん! また明日!」


 逃げるように教室を出て行ったアマガミさんに、僕は反射的に立ち上がりながら声を上げた。

「また明日な」と返事は来ないと分かっていても、僕はそう言いたかった。

 言えばなんだか、明日もアマガミさんと話せる気がして。


「――やった」


 夕焼けに染まる教室で一人きりになった僕は、小さくガッツポーズするのだった。

 

~登場人物紹介~


ボッチ。本名は帆織智景。高校一年生で1年3組の学級委員長。大人しく朗らかな性格だが、誰ともでも分け隔てなく話せるコミュニケーション強者。ゲームが得意。


アマガミ。本名は天刈愛美。ボッチと同じクラスのヤンキー。ショートの金髪にピアス。赤瞳が特徴的な女の子。クラスでは浮いている。


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