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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第16話 『 アマガミさんと平民の主張 』

 俺と天刈あまがいは教室を離れて屋上に移動した。


「で、話ってなんだ」


 天刈は面倒くさそうに訊ねてくる。

 俺もコイツと長時間二人きりは勘弁なので、さっさと要件を済ませたい気持ちは同感だった。


「……なら単刀直入に。これ以上智景(ちかげ)と関わるのはやめてくれ」


 本題を切り出した瞬間、天刈は不快気に眉尻を下げた。


「んだその言い方。まるであたしの方からアイツに関わってるみたいじゃねえか」

「お前の言い分も分かる。見た感じ、智景の方がお前と仲良くなろうとしてる」

「なら……」

「だからこそ、これ以上アイツの優しさに甘えるな」

「――っ」


 ぴしゃりと言い切ると、アマガミが頬を引きつらせた。


「べつに甘えてなんかねえよ! 全部アイツが勝手に……そうだよ。アイツがあたしに絡んできてるだけだ!」

「だから情けで付き合ってるって?」


 俺は追求を止めない。


「あぁ、そうだよ。アイツと付き合ってるのはただの情けだ。いつも教室の端っこで一人でいるから、可哀そうで見てられなくて……」

「それなら問題ない。智景にはちゃんと友達がいる。俺もその一人だし。クラスの連中も智景を仲間外れにする気はないよ」

「――っ」


 冷静に、淡々と言葉をつむぐ。

 天刈は何か言い返そうにも上手く言い返せず、ただ悔しそうに奥歯を噛んでいた。


「……そもそも、なんで外野のお前なんかにボッチと関わるなって言われなきゃいけないんだ」


 あぁそうだった。当然、そんな疑問が湧くよな。


「そんなの決まってる。智景は俺の大事な友達だからだ。中学からのな」

「ハッ! 大事な友達を奪われるのが嫌だからってか? お子様かよお前」

「べつにそういう訳じゃない。アイツに他の友達ができても喜んで祝福するよ」

「ならなんであたしはダメなんだよ!」


 なんで? 決まってるだろ。


「お前が不良だからだよ」

「――っ!」


 熱の籠っていない。凍てつく冷気のような声音で理由を告げると、天刈は声にもならない悲痛を上げた。


「昨日のこと、噂になってんの知ってんだろ」

「……てめぇらがこそこそ話してんのが癪に障るほどな」

「ならいい。昨日、たまたま俺もその現場に居合わせてな。でも先に言っておくけど、あの喧嘩を言いふらしたのは俺じゃない」

「ハッ。誰がてめぇの言葉なんか信じるか」


 天刈は俺なんか微塵も信じようとせず敵意をはらんだ瞳を向けてくる。コイツからの信用なんて興味ない俺にとっては、そんな懐疑心は問題じゃなかった。


「お前が俺の言葉を信じようが信じまいがどうでもいいけどな。……でも、昨日の喧嘩が事実ならもう言わなくても分かんだろ」

「――――」


 天刈は無言のまま、ただ悔しそうに強く拳を握りしめた。


「自分が危険な存在だって、自分でも分かってんだよな」

「――なら、なんだよ」

「智景を巻き込むな。お前と智景が友達なのかは知らないけど、少なくとも大事だと思ってんなら、これ以上アイツを危険に巻き込もうとしないでくれ」


 天刈。お前は危険分子なんだよ。

 そんな奴の隣に、優しい奴を置いちゃいけない。

 お前に危険はなくとも、いつか智景が危険な目に遭うかもしれない。

 お前には力があっても、俺たちにはない。

 凡人は、凡人の世界にいさせてくれ。


「――そうだよな。アイツは……ボッチは、あたしとは住む世界が違うもんな」

「……あぁ。智景と少しでも一緒にいたお前なら分かるだろ。智景は優しいやつだ。優しくて、皆から慕われるいいやつだ」

「ははっ。そうだな。ボッチは優しいやつで、かたやあたしは誰からも理解されない暴力女だ」


 天刈は泣きそうな、苦しそうな声で己を卑下ひげした。

 もしかしたら俺は、天刈のことを少しだけ勘違いしていなのかもしれない。

 智景の言う通り、案外悪いやつではないのかもしれない。現に今の天刈は、自分ではなく智景の事を優先しようとしている。


 ……でも、悪いな。


 これ以上、お前と智景を一緒にさせてやることはできない。

 何度でも言ってやる。お前は危険分子だ。他人に暴力を振るって平気なやつはまともじゃない。イカれてる。

 喧嘩なんて余所でやってくれ。智景を、俺たち凡人を巻き込むな。


「――分かったよ。これ以上、ボッチには関わらねぇ。それでいいんだろ」

「あぁ」

「あたしが関わらなきゃ、アイツはまた皆と楽しく過ごせるもんな」


 天刈は顔を俯かせて乾いた笑いをこぼした。それに俺は何も答えず、何か言葉を返すことさえなかった。

 顔を俯かせたまま、天刈は屋上から去ろうとする。その背中は、ただただ哀愁に満ちていて。


「――こんなことなら、さいっしょから仲良くなるんじゃなかった」


 か細く震える声で吐かれた悔悟かいごを、俺は聞き逃さなかった。それでも、俺は天刈に情けをかけることはない。

 孤独の背中が静かに屋上の扉を開けて、閉める。たぶん、彼女は教室には戻らないと思う。

 一人になった俺は、深く息を吐きながら顔を上げる。


「くそっ。こういう時は普通曇天だろ。なんで青空なんだよ」


 それまでは厚い雲に覆われていた太陽が、まるで俺の行動が正解だったとでも言いたげに顔を出して青空を見せた。


 俺だって、自分の行動が間違いだとは思ってない。


 でも。


 せめてお天道様にくらいは糾弾されたかった――。


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