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学校では怖いと有名なJKヤンキーのアマガミさん。家ではめっちゃ可愛い。  作者: 結乃拓也/ゆのや
第1章 【 ヤンキーとあだ名で呼び合うまで 】
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第9話 『 アマガミさんと嫉妬 』

「おい、さっき廊下で一緒にいた女誰だ」

「……え?」


 授業中。くいくい、と隣の席に袖を引っ張られて振り返ると、アマガミさんが剣呑な表情で僕に問いかけてきた。


「誰って、同じクラスの白縫しらぬいさんだよ」

「名前言われても分かんねぇ。指させ」

「それは同じクラスの人としてどうかと思うよ」


 真顔で答えたアマガミさんにドン引きしつつ、僕はこっそりと白縫さんを指さした。


「ほら、一番前の席の子」

「あの黒髪ロングか?」

「そう。彼女が白縫萌佳さん」

「へぇ。随分とまぁ可愛らしい名前してんじゃねえか」

「アマガミさんだって名前可愛いでしょ」

「~~っ! そういうこと今言うんじゃねえ!」

「いっづ⁉ ……ごふぅ」


 アマガミさんに腕を思いっ切り殴られた。凄まじい打撃に一瞬声を上げそうになったが、授業中なので先生にバレるわけにもいかず、必死に声を抑える。

 女子の一撃とは到底思えない拳打にもだえながら、僕は顔を赤くするアマガミさんに言った。


「そ、それで、僕と白縫さんが一緒にいたことに何か問題でもあった?」

「べ、べつになんもねえし。ただ、ボッチは女をとっかえひっかえしては遊ぶプレイボーイなんなだって」

「一体全体どこで僕がプレイボーイだって感じたのさ」


 ついさっき白縫さんに「人畜無害だから一緒にいて気楽」と言われたばっかなんだけど。

 僕が怪訝に眉を寄せると、アマガミさんはむっとした表情で言った。


「だってそうだろ。あたしと一緒にいるのが楽しいとか言っておきながら、他の女と楽しそうに話してたじゃねえか」

「そりゃ友達なんだし話くらいするよ」

「あたしと話てる時より楽しそうだった」


 アマガミさんがねたように呟く。しかし、それは圧倒的に間違いだ。


「何言ってるのさ。アマガミさんと話してる時の方が楽しいよ」

「ふんだっ。お前のいう事なんて信じないね」

「えぇ。嘘吐いてないのに」


 そっぽを向いてしまうアマガミさん。

 どうにかして誤解を解こうとしても、僕と対話拒否の姿勢を取っているのでどうすることもできない。

 何か解決方法はないかと思惟すること数十秒。僕は不意にノートに視線を落とすと、ある妙案を思いつく。そして、そのままシャーペンを走らせた。


「うん。これでよし」


 書き終えて、ちょんちょん、とアマガミさんの肩を叩く。

 なんだよ、とわずらわしそうに振り向いたアマガミさんに、今度は自分のノートを爪で叩いた。


「……『嘘じゃないよ』」


 アマガミさんはノートに書かれた文字を声にして読むと、僕の意図が伝わったのか一つ息を吐くと自分のノートにペンを走らせた。


『嘘だね』


 ノートの文字とジト目を向けてくるアマガミさん。

 それに思わず笑ってしまいながら、


『楽しくなかったら今こうして話してないよ』


 僕は口許を緩めながら、アマガミさんと無言の会話を始めた。


『話してるっつーより文通だろこれ』

『そうだね。やっぱりこういうのは言葉にして伝えた方がいいと思って』

『それだとあたしの心臓がもたねぇ』

『どういうこと?』

『知らなくていいんだよ!』 


 気づけばお互いのノートの半分が会話で埋まっていた。


「……ね、アマガミさん」

「……んだよ」

「僕がこういうことするの、アマガミさんとだけだよ」

「――っ!」


 小さな声で言えば、アマガミさんは照れたように顔を赤くして、そして何かを噛みしめたように「あっそ」とそっぽを向いた。


「機嫌、直してくれた?」

「元から不機嫌じゃねえし」

「ほんと? 尋問してきた時のアマガミさんの顔、すごかったよ。獲物を見つけた狼みたいな顔してた」

「あぁ?」

「嘘嘘。アマガミさんは超可愛い顔です」

「ぜったい嘘ついてるじゃねえか」


 怯えながら言うじゃねえよ、とアマガミさんが僕の額にデコピンを入れてきた。

 そんな一撃に「あうっ」と呻く僕に、彼女は可笑しそうにくすくすと笑って、


「ま、最初からお前のこと信じてただけどな。どうせ、友達が困ってるから助けないと、って体が勝手に動いてたんだろ?」

「……うっ」

「やっぱ図星かよ」


 アマガミさんはカラカラと笑ったあと、でも、と継いで、


「お前のそういうところがあたしは気に入ってるんだ」

「――――」


 ――窓辺から差し込む陽光が、アマガミさんの微笑みをより一層美しく魅せた。

 その微笑みに魅せられた僕は、無意識のうちに手が伸びていて――


「……ハッ⁉」

「? どうしたボッチ?」

「な、なんでもないよ。なんでも」

「そうか。ならいいけど」


 我に返って、慌てて手を引っ込める僕。そんな僕にアマガミさんは一瞬だけ怪訝そうに眉を寄せたものの、追求はせずに授業へと戻った。

 そしてすぐに退屈そうに欠伸をかく彼女の隣で、僕は無意識に伸ばしていた手を見つめた。


「(僕はいったい何を……)」


 理由は分からないけど、意味は分かった気がした。

 アマガミさんが僕に微笑んだあの時、僕は、彼女に触れようとした。

 それは今までと違って、明確な好意を持って。

 しかし、だからこそ、解せなかった。

 どうしてアマガミさんに触れようと思ったのか。どうして、触れたいと思ったのか。

 僕らはまだ友達という定義にすら当てはまっているかすら曖昧な関係なのに、それ以上を求めようとした。


 ――分からない。


 僕の中に渦巻くこの感情の正体。それが、アマガミさんを見る度に激しく揺らいだ。


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