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七星記  作者: 磯崎愛
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「七草日記」続き

[わたしはずっと、自分がついていないのは、自分の力ではどうしようもない不幸な運命みたいなものだと思ってきた。呪われているとまでは思わなかったけど、でも、不運だとは感じてきた。

 でも、わたしはまだ生きていて、それだけでとても、運がいい。

 昨日、わたしはこれまで見たこともないほどたくさんの死体を見た。正確には三八、八七三人。うち地球人二名とリュー人一名をのぞき全てルスカ人の遺骸だ。しばらくはバニラ風味のものはなんであれ食べられないと思う。それからお肉、とくに鶏肉の焦げるにおいも嗅ぎたくない。

 機密性のジャンプスーツを着たうえにロボットアームの作業だったというのに、帰艦したとたん、わたしは病院船に漂っていた臭気を思い出して吐いた。その背を撫でてユーリが片頬で笑って教えてくれた。そのうち、何も気にせずどんなものでも食べられるようになるそうだ。

 せりは黙々と作業をこなし、さっさと爆睡したそうだ。話半分にしても案外図太い。今日はユーリと一緒に艦内作業を手伝っていると連絡があってびっくりした。

 怜さんは、星波の調査に出たまま、いまだに帰ってこない。

彼は実はスターライダーだった。わたしにゴタゴタしたと言った頃、鱗を装着する人体実験をくりかえしていたらしい。どこに埋まっているのか教えてほしいと頼んだら、背骨の上だとこたえて微笑んだ。

とすると、〈剛毅〉ということだ。

〈額は天才、背骨は剛毅、腕はえばりんぼで脛は気が早く、足は軽やか、胸は狂喜……掌は繊細〉

……わたしは臆病だ。二枚もある分、人の二倍も怖がりに違いない。

 彼が帰ってこなかったらと考えると何も手がつかない。休息日じゃなかったらどうなっていたかと思う。 

 落ち着かない原因は他にもある。意識に貼り付けたままの、あるアドレス。宙港で会ったルスカ人のもの。無理をいってインフォメーションカウンターで彼女の名前を教えてもらって、そこから端末まで調べあげた。

 ルスカ惑星政府は、この戦闘が《ルスカの雫》を強制略取するための故意の過失、つまり汎人類規約に違反する行為だと連邦と軍を非難し続けている。また、戦争報道の不透明性を巡っても各種メディアや惑星間で議論が沸騰していた。

 地球政府とリュー連星政府は、巡洋艦の損傷、三名の死亡者と十七名の重軽傷者がいること、ベテルギウス付近には過去一度も妖魔の襲来がなかったことをもってして反論した。 

連邦政府は調査中と返答し、軍本部は事実無根と否定した。

 彼女の家族が生きているのかどうか、わたしにはわからない。ルスカ人には個体識別信号がつけられているから判別できるはずだけど、情報にアクセスできない。

 あのとき彼女は「お守り」と口にしたはずだ。星族カスタム辞典をひいたら、青い雫は〈戦士の守り〉と出ていた。

 連絡して謝りたい。でも……。


 いま、怜さんの機体が帰艦した情報が飛び込んできた。よかった。本当によかった。

 会いに行ってもいいかな。ううん、会いたい。わたしが、会いたい。

 こうして生きているうちに、伝えたいことがある] 

 

                       終 




お読みくださりどうもありがとうございます。

「なずな編」はこれにて完結。「せり編」に続く予定です。

七人の主役が入れ替わる話です。かんたんなプロットはできているのですが、体調が整わずすみません。

気長に待ってくださるとうれしいです。

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