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17.テラスの反省

「……はぁ」


 テラスが咎人に騙された事件からしばらく経った。しかし、テラスは、まだたまにため息をついているようだ。


「私、なんでこんなに何もできないんだろう」


 落ち込んでいるからか、仕事でのミスもポツポツと起こってしまっている。そのせいで、テラスはまた落ち込む。悪循環だ。



「どうした? テラス! お前、最近調子わりーな! よく面倒を見てやってる気がするぜ!」


 クロウが笑いながら、気軽に声をかける。


「……すみません」


「んぁ!? そんなに落ち込むなって! 元気出せよ! な?」


 クロウは慌ててフォローするも、より一層落ち込んでしまったテラスには届かないようだ。テラスは肩を落としながら、自室に帰っていく。






ーーーー


「仕事もディラン様のようにたくさんできるわけじゃないし、迷惑かけてばかりだなぁ……」


 自室に戻ったテラスは、そう呟く。ディランは、最上位神の一柱だ。比べるのも烏滸がましいことに気づかない程度には病んでいる。


「私なんて……」



 そう言ってベッドに倒れたテラスは、何もする気力が湧かずにそのままぼーっと天井を見ていた。







「……テラス? 夕食の時間だが……」


「すみません。今、行きます」


 忙しい中、自分のために作ってくれた食事を無駄にはできない、と、食欲がないながらもテラスは食堂に向かった。





ーーーー

「ディラン様。あの時の話、テラスに聞かせてやってくださいよ!」


「あの時……あぁ、あれか!」


 クロウとディランが昔話に盛り上がる中、テラスは微笑みを浮かべて、チビチビと食べ進めていた。


「……テラス?」


「……」


「テラス?」


「……あ、はい。どうなさいましたか? ディラン様」


「その、食事が進んでいないようだが、大丈夫か?」


「はい……」


「気分転換に散歩にでも行くか? ちょうどテラスに浄化してほしいところがあったんだ」


「私がお役に立つなら、行かせてください」



 自分の能力が使われること=自分の価値と思い込んでいる節のある、元社畜テラスだ。自分の力がみんなのために使えることに喜びを滲ませた。






ーーーー

「……」


「きょ、今日はきっと疲れているんだ。ゆっくり休め」


「はい……」


 テラスは澱みを十分に浄化ができなかった。一応、多少の浄化はできたものの、明らかに不十分な力になっていたのだ。


「私……浄化もできなくなっちゃった。使えないな」


 社畜ーーー神の使い人ーーーとして、洗脳されているテラスは、自分は仕事のできる方じゃないと思い込んでいる。その上、浄化魔法も使えなくなったなんて、価値なんてないんだと、テラスは落ち込んでしまった。元気を出してもらうために浄化魔法を使って必要とされていることを手っ取り早く思い出させようと思っていたディランは、テラスをさらに落ち込ませてしまって悲しんでいた。


「どうしようか、クロウ。テラスを慰めるつもりが傷つけてしまった」


「そもそも、なんでこんなに浄化力が落ちているんでしょうか?」


「……一応、天界の記録によると、テラスの浄化魔法は、当初の浄化力から徐々に下がっていったそうだ。最終的には、今くらいの力がテラスの浄化力だと記されている。もしかすると、地獄という環境の変化で一時的に上昇したのかもしれない」


「へー……それって、テラスの体調は関係ないんすか?」


「……体調か。可能性はあるな。テラスが落ち着いたら、確認してみよう」


「どうしたら、元気出るっすかね? 天界からなんか食い物盗ってきますか?」


「盗るな! そうか、食べ物か……何か作るか」


 ディランが“元気が出るように”と願いを込めて作ったシフォンケーキと共に、言葉を必死に紡ぐ。


「テラス……よければ、食べてくれないか? テラスがきてくれて、地獄は業務的にも環境的にも大きく変わったのだ」


「ありがとうございます……でも、私じゃなくても、同じような力を持った事務のできる人がいたら、同じことです」


「違うんだ、テラス! 君には、君にしかない力があるんだ。浄化とかそういうものではない。君の素直さ、それは他の人には持ち得ないものだ。最初に出会った時、“地獄の者”という偏見もなく話してくれた。君からしたら、なんてことのないことなのかもしれないが、迫害されてきた我々にとっては、得難いことだったんだよ」


 必死に紡ぎ続けられるディランの言葉が、テラスの心に少しずつ染み込んできた。


「それに、君ほど仕事をできる人は、天界でも地獄でも見たことがない。お世辞じゃないんだ。ただ、だから君にいてほしいわけじゃない。君だから、共に地獄にいてほしいんだ。これは、僕のわがままだよ」


「ディラン様……」




ーーーー

「ディラン様。こちら、分類順に並べておきました。未済の書類で私でも処理できるものは処理したので確認お願いします」


「ありがとう。助かるよ、テラス」


「いえ……」


 テラスは、ディランの言葉で少しずつ自信をつけていった。


「あ、テラス」


「ひ!? なんでしょう」


 ディランと手が触れ合ってしまい、叫んだテラスの顔は耳まで赤く染まっていた。

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