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10.花咲く女子会

「ところで、地獄の神とテラスってどんな関係なの?」


「ん? 普通の上司と部下だよ?」


「向こうは絶対テラスのこと想ってるよね?」


「気に入ったおもちゃみたいな感じなんじゃないかな? あと、仕事の負担は軽くなるし、浄化できる人材はありがたいって喜んでらっしゃったよ!」


 だめだ、こいつ。鈍感だわ、とミコがため息をつきながら嘆く。



「じゃあ、」


「テラス。夕食の時間だが、食堂でいいか?」


「あ、はい。ありがとうございます! ミコ、行こっか?」


「はーい」


 ミコがテラスに何かを聞こうとしたタイミングで、ディランが夕食の時間を知らせにきた。







「ちょっと待って、何これ!? 神の使い人ってテラスだけでしょ? テラスのためだけにこの料理!?」


 テラスに連れられて食堂に現れたミコは、並べられていく料理たちを目の前にして、パニックに陥った。



「ディラン様もお食べになるよ?」


「いや、神は普通は食事なんていらないからね!? というか、このレベルのシェフってどこから捕まえてきたんですか?」


「ん? 私だが?」


 なんともないことをいうように、ディランが爆弾発言を落とした。今度は、テラスが大騒ぎになる番だった。


「え!? シェフを雇ってるんじゃないんですか!? ディラン様は今日、ミコをもてなすために、作ってくださったんですか? 突然地獄に来てくれることになったから……」


「いつも、テラスのために作っているぞ」


「もしかして、私が牛を食べたいとか言うから、予算が足りなくなって、ディラン様のご負担に……?」


 あたふたしながら、テラスがディランに問いかける。上司に負担をかけていると知ったテラスの顔は真っ青だ。


「負担なんかじゃない。テラスのために何かしたいんだ。予算も潤沢だし、テラスが地獄を浄化してくれているおかげで皆の業務負担も減って、効率も上がってさらに収益が出ているところだ」


「ちょ、待ってください。じゃあ、毎朝、私の部屋に運んできていただいてる豪華な朝食をお作りくださったのは……」


「あぁ、それか。私だ。口にあってたら、嬉しいんだが」


「もちろん、おいしくて毎朝感動してるんですけど、上司が部下のために毎日料理してくれる職場ってなんなんですか? いいんですか? あるんですか? あ、ここにあった」


 毎朝、朝に弱いテラスの部屋に運んでこられていた豪華な朝食は、ディランが使っていたことが判明した。そのせいでテラスは完全にパニックに陥っているようだ。


「落ち着け、テラス。大丈夫だ。私はテラスにいつか食べて欲しいと思って、ずっと料理の練習をしていたんだ。意外と簡単だから、気にするな」


「ディラン様……!」


 ディランとテラスが感動しあっている横で、ミコがそっと首を傾げる。


「ずっと……ストーカー……?」




 食堂の入り口でそのやりとりを見ていたクロウが、突然現れてぼそりとバラす。


「ディラン様は、テラスと天界でぶつかってから、一日も欠かさず、料理洗濯掃除等練習されていたんだぞ! 持ち前の優秀さですぐに習得なさったんだ! あ、テラス。今日の洗濯物、早く出しておいてくれ。ディラン様はお忙しいんだ」


「せん……たくもの?」


 自分の服が全てディランの手によって洗われていると理解したテラスの顔が一気に真っ赤に染まる。


「いや、違うんだ、テラス。君が地獄に来たら、生きるのに必死になると思って、とりあえず、生活面は支えられるように、と思って、あの、その、下着はなるべく見ずに魔法で洗っているから、安心してくれ!」


「ディラン様は、テラスの存在を噛み締めるだけで、特に変なことはなさってないぞ!」


 クロウのフォローが虚しく響く。


「テラス、天界に戻れるように手配してもらいたくなったら、どこまでも掛け合うから言ってね?」


 ミコがテラスの手を握って慰める。


「ありがとう。ミコ。でも、私、地獄で幸せだよ?」


「あれ? でも、私が地獄に堕とされた時、ディラン様はものすごく驚いていらっしゃいましたよね?」


「あ、あぁ……その、もしもテラスがここにいたらと妄想していただけなんだ。気にしないでくれ」


 厄でも背負っているかのような悲痛な表情で、ディランが言葉を重ねた。


「ディラン様、大丈夫です。私は地獄に来れて幸せです」


 テラスがそう伝えることで、やっとディランに微笑みが戻った。力無いものであったが。


「テラスのことを全て私が支えたいんだ」


 飼い主に捨てられそうになっている子犬のように、しょぼんとしたディランの姿に、誰も何も言えなくなった。

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