ガチャ706回目:マタドール
『ブルルルッ!』
『ヴオオッ!』
「よっ、ほっ」
2本角のダブルホーンを闘牛士のようにひらりと躱して後方のテレサがいる方へと受け流し、1本角のホーンブルは角を掴んだらそのままぐるんと首の骨をへし折る。
『パシュンッ、パシュンッ!』
ケルベロスにサイレンサーを装備させたミスティが、闘牛の群れの近くを撃ち抜きヘイトを買う。そうしてやって来た闘牛は俺が対応し、受け流したり捻じ切ったりへし折ったりしてどんどん処理して行く。
背後では、モンスターの神経を逆なでする謎の光を纏ったテレサに、ダブルホーンが群がっていた。戦意を剥き出しにしてブチ切れるダブルホーンだが、その数は明らかに少ない。それもそのはず。テレサの背後では、無数のダブルホーンの群れが昏睡状態へと陥っていたのだ。
『ブルルルッ!』
『ヴルルルッ!』
そしてつい先ほど俺が受け流した連中も、1匹、また1匹と、突然やってきた睡魔には抗えず、ぐったりと倒れ伏し、眠りに落ちたダブルホーンが積み重なって行く。
ダブルホーンはレベルは低いが、一般的に闘牛と言われる存在と遜色のない体格をしている。そんな連中の群れを相手取っているはずなのに、テレサは微塵も怯む様子が無く、怪我どころか汗一つとして流さず涼しい顔をしていた。
「流石だなテレサ」
「この程度、造作もありません」
「昨日の夜とは大違いだ」
「あ、主様っ!?」
「勇者様、私も褒めてくださ~い」
「ああ、マリーも頑張ってるな」
「はいっ!」
正直何をどうしてるのかはよくわからないが、昏睡は恐らくマリーの能力かな。テレサがヘイトを集め、その隙にマリーが相手を微睡に落としていく。 多分それだけじゃなくて、2人とも状態異常を浸透させやすくするために何らかのスキルを使っている感じがするかな。
さすが、以前から組んで行動を共にしているだけあって、息ぴったりだ。
「ん。ショウタ、そろそろ100体になるはず」
「そうだね、あと3体だからあの群れで達成できるんじゃないかな」
「おう!」
そうして言われるがまま100体目のホーンブルを撃破すると、牛のマークが刻印された宝箱が出現した。アイテムドロップよりも先にだ。
「今、なにかおかしかったね」
「ん、違和感があった。倒した瞬間にはもう出てきてた。見た目も違和感しかないけど……」
「レアモンスターが出現するのとはまた別の挙動だったな。こういう時は、直接視るに限る」
名前:金の宝箱
品格:≪最高≫エピック
種別:モンスタードロップ
説明:ホーンブルの刻印が施された特殊な宝箱。
★特殊条件下で特定数のモンスターを撃破し、一定の条件を満たした者でなければ獲得不可能な報酬。
「なるほど。特殊条件ってことは、一定時間内にとかそんな感じかな。一定の条件は……なんだろ。ステータスとかかな」
「もしくは100体同種も条件に含まれてるかもね」
「あー、じゃあダブルホーンの方が終わったら、ごちゃ混ぜで100体討伐もしてみるか。レアはこの方法だと湧かないみたいだし」
「ん。了解」
「テレサ、マリー。そこで寝てるのは何体だ?」
「97体です、主様」
「勇者様、あちらの方角に、5体ほどダブルホーンだけの群れがいるようですっ」
「そうか、ありがとう。エス、釣ってきてくれるか」
「了解した」
そうして起きてる5体と寝てる97体を同時に討伐しても、やっぱり同じようにアイテムドロップする前に宝箱が出現。
名前:金の宝箱
品格:≪最高≫エピック
種別:モンスタードロップ
説明:ダブルホーンの刻印が施された特殊な宝箱。
★特殊条件下で特定数のモンスターを撃破し、一定の条件を満たした者でなければ獲得不可能な報酬。
そのまま無差別に闘牛を呼び寄せ、全員で蹴散らした結果討伐数は300体を越えたのだった。そして宝箱は……ちゃっかり3つも出てきていた。だが、それは『金の宝箱』ではなく……。
名前:銀の宝箱
品格:≪最高≫エピック
種別:モンスタードロップ
説明:牛の刻印が施された特殊な宝箱。
★特殊条件下で特定数のモンスターを撃破することで獲得可能な報酬。
「質が落ちたな。条件も緩い」
「ん。となると、正解は個別100体撃破?」
「兄さんにかかれば、正解を引くのもわけないね」
「正解かどうかは、この『銀の宝箱』の中身次第だな」
「これが主様が普段見ている光景……」
「ああ、勇者様。とってもカッコイイです……!」
テレサとマリーは、俺のドロップ率と謎を攻略していく過程を目撃するのは初めてだからか、興奮しつつもうっとりしている。器用だなぁ。
「しっかし、コイツらリスポーンが早いな。もしかして今まであまり討伐されてなかったのか?」
「確か、鍵が1つだとスタンピードの抑制はできても出現の増加は止められないんだっけ。だとすると、市場に肉とか降ろすのにちょっと狩るくらいで、大規模な掃討はされていないんだろうね」
「ん。このダンジョンの目玉は、やっぱりブーストアイテムの存在。完全封鎖している第六層と最下層がそれの農場だと思う。だからそれ以外は、奴にとってどうでもいいのかも」
まあ、わざわざ食品を回収しなくても、ブーストアイテムの存在だけで悠々自適な暮らしができるもんな。んで、ブーストアイテムとダンジョンを攻略した実績を盾に、他の地域を脅して搾取し続けてきた訳だ。
「そしてかの者にとって、他者は全て自身によって搾取されるか弱い存在であり、周りにいるのはハイエナのような部下だけ。ダンジョン近郊やこのダンジョン内を見ても、かの者が信頼している存在は一人たりともおらず、周囲から集まる感情も恐怖だけのようです」
「勇者様に討たれる魔王としては、あまりにも哀れなくらい、独りぼっちですね」
「奴が権力も、『幻想』も喪ったらどんな末路を辿るやら」
「……ん。裸の王様が王じゃなくなったら、ただの裸のおっさんになる」
「ははっ、違いない」
「兄さんがダンジョンコアから聞いたように、勝負に負けてスキルを喪ったとしても、奴のレベルやステータスはそのままだろうから、それではいおしまいとはいかなさそうだけどね」
「気を付けるに越したことはないか。ま、それは置いといてだ。早速宝箱を開けて行こう」
この宝箱の中身次第で、ここからの行動が大きく変わる訳だからな。
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