ガチャ702回目:意識汚染
その後、連中がよく行動しているスポットに赴くと、本当に『運良く』対象達が5人1組となって行動しているところを発見。事前調査時、追跡をすると警戒されかねないため、最低限の行動ルートだけ調べて貰っていたから、長丁場になるかもしれないと懸念していたのだが……。まさかこうも呆気なく見つかるとは。
しかも、他人の目がない場所にまで都合よく移動してくれるというオマケ付きだ。ここまでくると、本当に『運が良い』では済まされないレベルだよな。
「それじゃ、コイツら数日は目を覚さないと思いますけど、見張りよろしくお願いします。それと1日置きに栄養剤をぶち込んでくださいね。死なせるつもりはないんで」
「「「お任せください!!」」」
見張りをしてくれるのもまた、現地の協力者である協会員の皆様だ。彼らもまた、目に妙な輝きが垣間見えるが、見なかった事にする。
作戦準備を進める中で、サクヤさんから計画に役立ちそうなアイテムが送られてきたのだが、早速役に立って良かった。といっても、それだけだと物足りなかったから、俺の力で改良したわけだが。
元のアイテム名は『強力睡眠剤』というもので、効果は読んで字のごとくなのだが、これを錬金術の力を使って改良を加えたところ、とんでもなくヤバいものが出来上がった。
名前:真・強制睡眠剤
品格:≪固有≫ユニーク
種別:薬品
説明:注入した相手を強制的に深い眠りに誘う薬。意識のない相手にしか効果が発揮されないが、最大の効果が得られれば3日間昏睡し続ける。しかし、状態異常耐性が機能した場合、昏睡には至らない。その代わり、覚醒後しばらくの間、抗えない睡魔に襲われ続ける。
★注入方法:このアイテムを意識のない対象の肉体に押し付けることで経皮吸収される。
★錬金術の知識がある者にしか作成は不可能。
これが完成した時は本当に焦った。強力から強制に名前が変わったこともそうだが、あまりのヤバい性能に、慌てて『アイテム探知機』で検索したくらいだ。幸いにも、真が付く方は検索に引っ掛からなかったが、これはダンジョン内で素ドロップしないことを意味しているのか、それとも『素材』として認定されていないため表示されないだけなのか、判断に悩むところだが……。
俺としては前者の意味であって欲しいと願うばかりだ。
ちなみに元の『強力睡眠剤』は大きめの錠剤タイプで飲み込まないといけない上、逆に意識がある時でないと効果が無く、更には砕くと効果が失われるという特性があった。効果も真の半分以下だったので悪用はしにくいよう設計されていたようで、そこはちょっと安心した。
こいつらが目を覚ます頃には、大体の事は予定通り進行しきってるはずだろう。
トラブルさえなければだが。
「兄さん。連中が持っていた荷物の中に許可証があったよ。コレを見て何か思い出せることはないかい?」
「ああ、やってみる」
「ん。無理はしないでね」
この変身は、対象の記憶をさも自分のものであるかのように感じ取り、思い出すための小道具があれば紐付けられた記憶が蘇るようになっている。そのため、対象の知識や記憶だけでなく、その時の感情なども呼び覚ましてしまうため、変身対象が善性な人間ならまだしも、悪性の強い人間だった場合とてつもなく嫌な気分にさせられる。
特にこの、俺が変身した幹部の奴からは、思い出したくもないクソッタレな記憶が、まるで自分の記憶であるかのように浮かび上がってくるんだから割と辛い。
『精神耐性』が無かったら、早々に折れてたかもしれないな。もしくはその感情や感覚に呑まれていたか……。そしてそれは俺たち全員に言えることだ。彼らが変身した人物達もまた悪性の強い人間だっただけでなく、今俺が変身している幹部に対して、決して良いとは言えない感情を持っていたらしい。
そのため、変身中は全員俺と物理的な距離がある気がするし、あまり俺を視界に入れないよう頑張っている雰囲気がある。
……その辺は正直ちょっと悲しくなるし、やっぱこの変身は潜入したらさっさと解除するべきだな。
「……よし、把握した。俺が変身しているこいつなら、部下を引き連れていても顔パスで入れるみたいだ。だけど、5層にはちゃんとした理由がないと通れそうに無いのと、連中が把握しているレアモンスターの出現場所なんかには近付くだけで警告なしに攻撃されるらしい」
「なるほど。では兄さん、どうする? 今日は一旦やめておくかい?」
「いや、このまま行く。嫌な事はさっさと終わらせてしまいたい」
最初に変身した職員達は善良すぎて気付かなかったが、こうも変身先の質で疲労感が段違いになるとはな。変身維持もそうだけど、変身回数そのものも少ない方が良いだろうな。こうなってくると、さっさと突入してしまったほうが楽だろう。ダンジョン内なら、人目のない場所を探すくらい訳ないからな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ロサンゼルスからラスベガスまでは、単純距離で440キロほど。以前エスとエンリルの『風』を使って、第一エリアの自宅から第二エリアの実家に帰った時も、似たような距離を飛んだから、距離的には大したことなく思えてしまう。
けど、ここは日本と違ってアメリカだ。当然空に対しての警備や警戒度も段違いだろうし、迂闊に空を飛ぼうものなら撃ち落とされかねない。それに、今はエンリルはいないしこっちは5人もいるのだ。『浮遊術』があっても単純に推進力の問題で満足のいく飛行はできないだろう。なので、俺達は大人しく今の姿のまま空港に逆戻りし、飛行機で移動する事にした。
他にも移動する手段はあったが、車を借りても誰も免許なんて持ってないし、他者に運転してもらうのもあまりよろしくない。バスなら5、6時間はかかってしまうし、そんな長時間変身したままでは負担も大きいのでパス。結局、個室付きの飛行機をチャーターすることにしたのだった。
こいつの記憶を読み取る限りでは、昔から羽振りがよくて、移動ももっぱら個室有りの飛行機だったから、他所から見ても違和感はないだろう。
というわけで、個室に入った俺達は機器チェックをした上で一斉に飴玉を取り出し、大きく伸びをした。
「はぁー……思った以上に疲れるな。ミスティ、おいで」
「ん!」
ミスティを強く抱きしめ、自分を取り戻す事に集中する。耐性があろうと嫌な物は嫌だし、それは『銃器マスタリーLvEX』を持つミスティも同じだろう。
「……ん。落ち着いた? 私は落ち着いた」
「ああ、ありがとな。続きはまたあとで」
「ん」
そう言ってミスティは、エスの所へ向かっていった。
なら俺はと、深呼吸を繰り返して自分を認識している最中の2人に目を向けることにした。精神力の高そうな聖騎士と聖女であっても、あくどい事を普段から考えてる連中に変身して、その記憶や感情に晒され続ける環境に身を置いていては疲弊するのも当然だ。今の彼女達は俺のチームメンバーであると同時に、彼女候補でもある。
しっかりとケアをしてあげなければ。
「テレサ、マリー。抱きしめても良いか?」
「「……え!?」」
嫁が何人いようとも、俺が取れるケアの方法なんて限られている。飛行機が現地に到着するのだって、もう1時間もないのだ。のんびりと話を聞いてあげるような時間的余裕も無い。
「嫌か?」
ぶんぶんと頭を横に振る2人をまとめて抱きしめてあげた。そうしていると、次第に強張っていた身体から力が抜けていき、今度は別の緊張を感じ取れるようになったが……。まあ、嫌な感情が忘れられるなら、何だっていいさ。
ちらりと、エスの方を見てみれば、ミスティと話をすることである程度回復はしたみたいだ。この場にシルヴィがいたらすぐ回復できたんだろうけど、流石にそういう訳にもいかないしな。
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