ガチャ698回目:作戦通達
転移が完了し、景色が変わった事を確認し、周囲の安全を確保する。といっても、ここには関係者以外誰もやってこれないはずだし、モンスターも湧く心配もない。実に平和なところだった。
話には聞いていただろうし、実際に転移してくる場面を見た事があっても、自分で体験するのとでは感覚が違うんだろう。テレサとマリーが落ち着きなくキョロキョロとしていた。
「テレサ、マリー」
「は、はいっ。勇者様」
「も、申し訳ありません」
「別に怒ってないって。リラックスリラックス、とりあえず座って深呼吸して」
その場に座ると、ミスティが膝の上に乗って甘えてくる。ここはダンジョンだけど、一応の安全地帯ではあるからな。エスは……連絡のために入り口の方に飛んで行ったな。
「2人とも、ここがどこだかは聞いてるよね?」
「はい。主様が攻略した、忌まわしき『696ダンジョン』の最下層ですね」
「勇者様が攻略して以降、この地にはモンスターが出現しなくなったと聞いてます」
「ん。そして今は、パーティーグッズが無限に取れる特殊な農地。協会の関係者以外入場ができない、特別な場所。待ち合わせにはピッタリ」
そう、奴の本拠地を叩くための足場として、ここが使用されることとなったのだ。今回の件、シルヴィの親族こと、ベンおじさんにはガッツリと関わってもらっている。
というか、結婚式のあと数日家で待機して準備を整えていたのも、ベンおじさん側の受け入れ態勢が整うのを待ってたってのもあるんだよね。もう1つは、マキに頼んでいたアレの用意のためだ。
征服王はミスティだけでなく、シルヴィにも手を伸ばそうとしてたくらいだからな。それを承知のおじさんは、奴を誅伐するための協力を、喜んで参加表明してくれたのだ。
「んじゃ次に、コレからの任務は把握してる?」
「悪しき征服王の支配ダンジョンに赴き、内部から制圧することです」
「そして勇者様は暴虐の王を成敗し、無辜の民を圧政から解放するんですよね!」
「まあ大体あってるな」
大体だけど。
「ただ、正面から堂々と行くわけにはいかない。奴らは『裏決闘』なんて外道スキルや、スタンピードを誘発して指向性すら操作する特殊アイテムなんかも隠し持っているんだ。妙なことをされたくは無いから、できるだけコッソリと行動する。いいね?」
「「はいっ!」」
「お、あっさり」
2人は真面目だし、使徒だの勇者だの神聖視してくるから、こっそりする真似は嫌いそうな気もしてたんだが、融通が効くんだな。
「ん。心情やスタンスよりも、ショウタの意思が最優先なだけだと思う」
「そうなのか」
「はい。主様の行いこそが正義です」
「私たちはそれに従うまでです」
うーん、今日も今日とて信者してるなぁ。マリーはお酒を飲ませれば崩せるだろうけど、テレサはちょっと手強いかも。エスは戻ってくるまでまだ時間がかかりそうだし、雑談に華を咲かせるか。
「そういえば、2人は今回の作戦どこまで聞いてるの?」
そう聞くと、2人は顔を見合わせた。そして堂々と胸を張って言ってのけた。
「何も聞いておりません!」
「マジか」
詳細も知らずによく付いてくる気になったな。まあ、俺の行いは2人からしてみれば正義なんだろうけど。
「今回の冒険の目的はお伺いしましたが、詳細は現地で聞くようにと。それに、アイラさんに勇者様の力になって欲しいと言われましたので、私としてはそれだけで十分でした」
「ん。実は私もよく知らない。ショウタのやりたいようにやれるよう、サポートするだけで良いって言われたから」
「え、ミスティもなの? 作戦の立案中にエスと一緒にいた気がするんだが、記憶違いだったか?」
「ん。その時寝てた」
そういえばそうだった気がする。まあ『眠り姫』のミスティだしな。ドヤ顔ダブルピースをする姿がまたウザ可愛い。
「……それなら仕方ないな」
「ん。この通りショウタはちょっとの事じゃ怒らない。だから気を張り続けても疲れるだけ。それと、もっと積極的にならないと、手は出してもらえない」
「「……!!」」
2人は雷に打たれたような反応をし、おずおずと遠慮がちに近付いて来た。
「ゆ、勇者様。お傍に寄っても構いませんか?」
「いいぞー」
「主様、私もよろしいでしょうか」
「いいぞー」
うん、彼女達との距離が1メートルから10センチくらいになったな。ミスティはゼロ距離のままだが。
「それじゃ、改めて作戦の概要を説明するな」
「ん!」
「「よろしくお願いします」」
「まず、征服王が支配しているダンジョンを制圧するには、俺も直接中に入る必要がある。そして、各階層にある鍵をゲットする事でダンジョンボスに挑戦する権利が発生する訳だが、最悪、1個でもあれば挑戦はできるんだ。ボスの強さが天井知らずになる代償はあるがな」
パンドラ級の化け物が強化されたら手も足も出ないだろうけど、奴の支配したダンジョンは、難易度で言えば中程度の物だという話を聞いている。だから、多少トロフィーや鍵をスキップしたとしても、問題になる相手が出るとは思えないんだよな。
それに、こっちはSランク5人のドリームチームだ。テレサとマリーの実力はまだ見極めきれていないが、アイラが認めた以上半端なものだとは思えないし、それを抜きにしても火力面で言えば俺とエスとミスティだけで、過剰戦力も良いところだ。
そこに盾役と回復役が加われば、負ける要素など万に一つもないだろう。
それを思えば、鍵の欠片を1個入手した段階で、とっとと攻略してしまうのも手ではあるんだよな。
「ん。あんまり長く攻略に時間をかけすぎると、バレる危険性もあるし、何よりショウタがホームシックになりかねない」
「それは危険です……! 主様、どんな難敵が相手でも、私が守ってみせますっ」
「スピード重視ですね。アンデッド系統が出たら、私にお任せください。一撃で葬ってみせますから」
マリーの手に掛れば、ここの第三層で遭遇したユニークボス『コラプショングリフォン』もワンパンできるんじゃないかという謎の信頼感があるよな。聖女様だもんな。
「で、相手のダンジョンに潜入するにも、この姿のままじゃ絶対に通してもらえないだろう。正面切って喧嘩を売った以上、俺達の顔が知られてないわけないからな」
「ん。なんなら、アメリカ内で移動するだけで、情報が出回る可能性がある」
「ああ。だから、変装するんだ。ここで手にしたアイテムを使ってな」
俺はとあるアイテムを皆に見せるのだった。
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