ガチャ019回目:秘めた想いは
日間・週間ともに1位をキープしている為、宣言通り今日は4話投稿します(1/4)
『一等星』の人達と打ち解けあい、報告会の続きをしようとしたところで、マキさんの腕を掴む。
この人達は信用できそうだと判断したので、更に情報を公開する事にした。
「ショウタさん?」
「すいませんマキさん、ついでにもう1つ相談事が」
「なんでしょう」
そう言って手招きをして、今度はこちらから耳打ちをする。
「この場で『鑑定』レベルの数値を言ってもいいんですかね」
「えぇ……?」
それを聞いたマキさんは困り顔になり、ひとしきり悩んだ末に呆れ顔になった。
「仕方がないですね。まず私に教えてくれますか?」
「2です」
「それなら……はい。ショウタさんが良いのであれば、大丈夫ですよ」
優しく微笑んでくれたマキさんに背中を押されて、彼らの下へと戻る。
「すみません、お待たせしました」
「ああ、構わないよ。君たちとの逢瀬を邪魔してるのはこちらだからな!」
「シュ、シュウさんっ!」
「シュウ、余計な事言わないの」
「ははは!」
ん? 今逢瀬って言った?
聞き間違いかな……。
「えっと……俺は『鑑定Lv2』を持っています」
「おおっ? そうなのか!」
「ですがこれも」
「わかっているとも、約束は守ろう。それで、そのスキルがあるという事は敵のスキルも見れたんだね?」
シュウさんが興奮したように続きを促す。本当に新しい情報に目が無いんだな。
「はい。『マーダーラビット』のスキルは『迅速』でした」
「「「おお!」」」
「『迅速』って、あの?」
「そうですね。『怪力』に次ぐ、ステータス影響型の二次スキルですね」
「二次スキル?」
「はい。『ホブゴブリン』がドロップする『怪力』は『腕力』の影響を受けるスキルで、ランクは二次。その下位互換に一次スキルの『剛力』があります。同様に『俊敏』の影響を受けるのが『迅速』であり、こちらも同じく下位互換が存在しているのです」
『剛力』……。確か、ストーカー連中の1人が持っていたな。
それにしても、皆スキルの名前だけでどんな物なのかパっと浮かぶんだな。俺はどこまで行っても、スライムの事しか知らなかったからな。スライムの動きや生態についてなら、俺は誰よりも詳しく語れる自信があるが……。
それにしてもマキさん、特に何か資料を見るでも思い出す素振りもなく、スラスラとスキルの種類や特性を語ったよな。俺なんて足元にも及ばないくらいの知識量があるんだろう。やっぱり、人気なだけあって努力してるんだろうな。
「ショウタ君、今回はありがとう。君のお陰で実に楽しいひと時だったよ。ショウタ君は今後も第二層で活動するのかい?」
「はい。今日は行ったばかりですし、まだ全部は見て回れてないですから。しばらくはあそこで狩りをするつもりです」
「そうか! なら、また会った時面白そうな話があれば教えてくれ。次からは対価を払おう」
「またダンジョンで出会う事があるかもしれないけど、その時はよろしくね」
「はい、こちらこそ!」
そうして【一等星】の面々とはお別れをし、部屋には俺とマキさんだけが残った。
すると、マキさんは一際大きくため息を吐くと、それまでの愛らしい笑顔から一転。怒りを湛えた笑顔へと変貌した。足元から冷気が昇ってくるのを感じて震える思いをしていると、ジト目でこちらを見てきた。
「ショウタさん」
「あ、はい」
思わず背筋が伸び、顔が強張る。それを見た彼女は、ふっと顔を綻ばせた。
「色々言いたいことはありますが……。まずは無事に帰ってきて下さって何よりです。まずは先ほどの件の訂正からさせてもらいます。新種のレアモンスター【マーダーラビット】ですが、既に当協会である程度、その存在は把握していました」
「え、そうなんですか?」
「はい。ここのダンジョンでは一応未確認だったため新種とお伝えはしましたが、このモンスターは他のいくつかのダンジョンで、キラーラビットとセットになる形で、出現が確認されていました。ただし、キラーラビットとセットになっているレアモンスターは『マーダーラビット』だけでは無いので、確定まではしていませんでしたが、可能性が高いと判断していました。一冒険者では他のダンジョンの正確な情報を得る事はなかなか難しいですから、【一等星】の人達が知らなくても無理はありません」
「なるほど」
と、ここでマキさんは目を伏せた。
その表情は、まるで哀悼するかのように感じられた。
「そしてこのダンジョンに限らない話ですが、いくつかの階層では、冒険者の不可解な死体が発見されています」
「不可解な、死体……」
「不可解と言いますか、その階層で出現するモンスターでは、考えられない死に方をしている。と言った方が正しいでしょうか。第二層で亡くなられた方にも、そのような方が何人もいらっしゃいましたが……。今回、ショウタさんのおかげで1つ、原因不明とされていた内の1つが発見されました」
「それは、もしかして」
「はい。この、【マーダーラビットの捻じれた角】です。これの直撃を受けたのでしょう。身体が2つに分かたれていたり、大穴が開いていたり。……いずれも即死だったでしょうから、苦しむ間もなかったと思います」
マキさんの目から、一粒の涙が流れた。
「悲しい事ですが、冒険者は死と隣り合わせの職業です。モンスターを倒せば強くなっていきますが、それに合わせてモンスターの方も、階層を潜れば強くなっていきます。そしていずれは、どんな屈強な冒険者でも、治療しきれないほどの怪我を負って引退するか、亡くなってしまう。そんな中で、ほんの一握りの方達だけが生き残り、最高位の冒険者となるんです」
マキさんは、潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。
「ショウタさんは、他の方々の様に、死んでしまったりなんて……しないですよね?」
「……」
言葉が詰まった。そして察することが出来た。
恐らくマキさんは、これまで幾度となく、冒険者の死に立ち会ってきた。その度何度も頬を濡らして、耐え抜いてきたんだろう。マキさんほどの人気受付嬢が、専属を持てていないのには、やっぱり相応の理由があったんだ。一体、今まで何人、彼女は喪って来たのか。
確かに今日は、今までの冒険者生活の中で、一番身の危険を感じた。
明確な『死』が、頭をよぎった。
スライム狩りなんていう、命の危険もない狩りを、戦いと称して続けてきた。
『運』をひたすらに上げた事でドロップが増して、生活する分には困らない程度には、楽にお金を稼いで来れた。だから、命の危険を冒すほどの、苦労は無かった。
今までの俺は、ぬるま湯に浸かっていたんだろう。今日のアレこそが、本当の戦闘であり、冒険だったんだ。危険を冒して何かを求める者。それこそが冒険者だ。
俺は今日。初めて、冒険者として戦えたんだ。
「マキさん」
震える彼女の手を握る。
ここで彼女に伝えるべきは、取り繕った嘘でも、慰めでもない。俺は俺の思うがままの言葉を伝えたい。
「確かに俺は今日、死にそうになった。一歩間違えれば死ぬところだった。でもそれは、準備が甘かったからだ。今までこれで戦ってこれたんだから、今度もきっと大丈夫だろうって。でもそれは自惚れだった。剣は初っ端に折れて使い物にならなくなり、防具も意味をなさないほどモンスターのレベルは上だった。けど、勝てた。それでも俺は勝てた。なぜならそれは、俺の『運』が高かったからだ」
「……」
「だから今度は、徹底的に準備をする。それさえ整えば、俺は誰にも負けない。でも俺1人じゃ、何から準備をしていいのか分からない。だからマキさん、そのサポートをあなたにお願いしたい。今はまだ仮だとしても、あなたはいずれ俺の専属になる。いや、必ず専属にする。2週間なんて悠長なことは言わない。3日以内に約束の物を用意する。あなたのサポートと、俺の『運』があれば、乗り越えられない壁はない。だから、それを信じて欲しい」
「……ふふ、なんですか、それ。そんな口説き文句、初めて聞きましたよ」
彼女は涙を拭った手を、そっと俺の手に重ねた。
「わかりました。ショウタさんの事、信じます。信じさせてください。そして私の全力を以って、ショウタさんをサポートします。だから、これからも、必ず帰ってきてください。……約束ですよ」
「はい、約束です」
また1つ、ダンジョンに挑む理由が増えた。
ダンジョンに潜む謎や、誰も知らない秘密を暴くだけじゃない。ここで待ち続ける彼女に、心配させないくらい強くならなくちゃ。もっと、もっと強く!
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