ガチャ130回目:有名税
西側海岸に辿り着くと、確かに奥の方に人影が見える。マップにも2つの白い点が映っていた。
「旦那様、どうしましょう?」
「うーん。今までは他の目を気にしながら過ごしてきたけど、回避不可能となると悩ましいところだな」
「……とりあえず、反応を見てから決めましょう。少なくとも、ご主人様と同格やそれ以上であれば、協会の者も把握していたでしょうから、格下であることは間違いないでしょう」
「あ、もしかして強権発動の事を言ってる?」
高位の冒険者の狩りを、下位の冒険者が邪魔をしてはいけないという暗黙のルール。それを使えば確かに、退いてくれるかもしれないけど……。恨まれそうだしあんまり使いたくはないなぁ。
「他のダンジョンであればよく見られる光景ではありますが、ご主人様は権力の使い方に慣れていませんし、私も嫌な気分を味わわせたい訳ではありません。あくまでも、最終手段ですから」
「ご安心なさってください。わたくし、そういうことなら旦那様よりは慣れておりますわ!」
アヤネはまあ、生粋のお嬢様だし、使う場面もそれなりのありそうだけど……。
「アヤネに汚れ仕事をさせたくはないし……」
「旦那様、わたくしは大丈夫ですわ。だから、いざとなったら任せて下さいまし」
自信に満ち溢れた表情でアヤネが見上げてきた。
……彼女が珍しくそう言ってくるのだから、本当に慣れているんだろう。任せてみるのもアリかもしれない。心情としては嫌だけど。
「……わかった。もしもの時は、頼むな?」
「はいですわ!」
そのまま近づいて行くと、向こうも俺たちに気付いたらしい。距離も近いし、この男2人は同じチームなんだろうか。
そう思っていると、アイラが声をかけるより先に、相手の方が先に反応を示した。
「あ、アンタはもしかして、レアモンハンターさん!?」
「えっ!?」
その呼び名を知っている!?
その通名は、まだ掲示板だけのアングラなネーミングだとは思うし、一般化はしていないと思う。という事は、今目の前にいる冒険者は掲示板の常連という事だろうか。
「レアモンハンター? なんだそりゃ」
「最近ここやお隣の525の掲示板で話題の人だよ。メイドさんとお嬢様っぽい子を連れてるから間違いない」
「へー」
どうやら常連は1人だけらしく、もう片方はあまり興味がないらしい。まあそれでも、俺の事を知ってるなら話が早いかな?
「ご主人様をご存知であれば話は早いですね。これよりここで狩りをする予定ですので、申し訳ありませんが場所を変えていただければと」
「はぁ……? いくら有名だからってそんな横暴は」
「おい、待て待て! この人達はAランクなんだよ!」
「なんだって!? Aランクがこんなところに来るのか!?」
こんなところ……。
まあ、ランクと狩場が釣り合っていないのは俺も思うけど……。
でもランクはあくまでも、協会への貢献度であって強さじゃないからな。弱いままでは到達できないにしても、強さの保証にはなりえないんだよな。
「あ、あの……レアモンハンターさん。あなたが居らっしゃるって事は、やっぱりここにも?」
「え? あー……」
「上位者への詮索は、規約違反ですよ」
「あ。す、すみません」
アイラが咎めてくれたが……そうか。
俺はもう、レアモンスターを狩りまくっている事は一部の界隈にはほぼバレてるんだよな。あんなに沢山のスキルオーブを出品してるんだし。『初心者ダンジョン』での活躍もあるけど、『上級ダンジョン』の第一層での件でも、スレがお祭り騒ぎになっていたことも知られている。
そうなると、俺の事をよく知ってる人が、彼女達全員を連れて遊びに来た風でもなく、本気装備でモンスターのいる場所へとやってきた姿を見たらどう思うか……。
単純な話だ。
そこでレアモンスターを探している。もしくは、レアモンスターを見つけて狩っているのでは?
そんな考えに至るんじゃないだろうか。
下手すると、今までレアモンスターがいないと思われた場所でも、俺がいることで、実はいるのではという期待が高まり、憶測が走る可能性すらある訳だ。
これは盲点だったな。
『黄金蟲』に関しては、人目を避けた場所での狩りになるから、いましばらくは問題にならないにしろ、人目の付く場所で狩りをすれば、自然とこんな弊害が出てくるのか……。
今まで縁が無いと思っていたけど、これが有名税ってやつかな?
まあでも、ここがバレるのは時間の問題だというのなら、はぐらかさずにハッキリ伝えておこう。
「一応ここの事は調査中だけど、ちゃんとしたものが見つかったら、ここの支部長に連絡して、報告は上げる予定だよ。一応繊細な話題だから、あんまり騒がないで貰えるとありがたいかな」
「あ……そうですね。気をつけます! あの、頑張ってください!!」
嬉しそうに返事をした彼は、チームメイトを連れて北側海岸へと移動していった。
「ご主人様、宜しかったのですか?」
「第一層と違って、ここは完全に区分けされてるからね。公開したところで問題はないでしょ。それに、肉を売るにしても、モンスターの情報が非公開だとね……。色々と突っ込まれそうだ」
「どんなモンスターのお肉か分からないと、食べるのも勇気がいりますものね!」
アヤネは頭のカメラを指して言った。
……実物映像を見たら、余計に食欲失せるかもしれないけどな。
「ですが、公開してしまってはこの階層に少なからず人が来ることになるでしょう。そうしたら、例の騎士と戦う場面を見られかねません」
「いや、最悪レアⅡもいっそのこと公開しちゃおうかなって」
「そんなことをしてしまえば、ご主人様に異常な『運』があることも知れ渡ってしまいます」
「それは、今更じゃない?」
「……」
あと、公開するにしてもタイミングとしては、次のオークションの前日とかになるだろう。
なら、今日の内に『デスクラブ』のトロフィーを取ってしまえば、ここで戦う必要性もそんなに無い訳だ。騎士のスキルは確かに魅力的だが、きっとここ以外にもよさげなレアモンスターは居るはずだしな。
無理にここにこだわる必要はないだろう。
「もし、今後騎士関係で欲しいスキルがあったとしよう。東や西の砂浜に人がいたとしても、その頃には俺達ももっと強くなってるはずだろ? なら、人が寄り付かない南側の砂浜で狩りをすればいい。あそこなら、誰からも邪魔は入らないだろ?」
「確かに……。普通の冒険者なら、東や西の集団でさえ身動きが取れなくなるでしょうね。モンスターの再出現時間も短いですし、あの群れを無理やり通過してまで、人が来ることは滅多にないでしょう」
アイラも納得してくれたらしい。あとはこれを、アキとマキにも説明してみるか。
「わたくしは、旦那様が行くならどこにでもついて行きますわ」
そしてどうやら、アヤネは説得の必要すら要らなそうだった。
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